ゴールデンレトリバー11歳♀です。
先日の血液検査にて、「ALT」の値が正常値を上回る113でした。
3ヶ月前に行った検査での数値は85(こちらも正常値をややオーバー)。
徐々に上がってきていることから、この度、医師から肝臓の薬を服用することをすすめられました。
「ALT」の他にももう一つ、「総コレステロール」の値も441と正常値をオーバーしています。
その他の項目は
WBC,RBC,Hb,PCV,BUN,CRE,AST,ALP,GGT,TBIL,NH3,TP,ALB,GLU,CPK,TG,Ca,IP,Lip,Na,K,CL,LDH
ですが、これらは全て正常値でした。
「ALT」と「総コレステロール」が高くなる病気は何かあるのでしょうか?
今回、病院では「ALT」上昇に伴い、肝臓の薬を出されましたが、「総コレステロール」についてはほとんど触れられませんでした。
また、ここ数ヶ月で、ドッグフードを「ライト」から「成犬用」に変えたのですが、これが数値悪化の原因ということは考えられますでしょうか?
お忙しいところお手数ですが、ご回答をお待ちしております。
Re: ALT、総コレステロールに...
- 獣医師 山田
2013/12/18(Wed) 16:15
No.3356
いーたん 様
街路の並木の枝々も葉を落とし、すっかり冬景色にかわりましたが、
いーたん様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
この度はご相談をいただきまして、ありがとうございます。
さっそくお問い合わせについてご案内させて頂きますが、
実際のご様子を拝見していないため、一般的なご案内となりますことを
何卒ご了承ください。
いーたん様のゴールデンレトリバーちゃんは、
血液検査の結果「ALT」と「総コレステロール」が高かったのですね。
ALTに関しては、3か月前の血液検査の時に正常値より少しだけ数値が上昇
しており、徐々に上昇していることから、
この度、かかりつけの先生から肝臓のお薬が処方されたのですね。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は主に肝細胞に存在している酵素です。
肝臓の障害に伴い、肝細胞から酵素が血中に出る(逸脱する)と言われており、
肝障害が落ち着いても、しばらくはALT値は高いので、過去の一定期間の
肝障害の有無を推測することができます。
検査機器によって幅はありますが、一般的にALTの正常値は
おおよそ100 IU/lくらいまでと考え、
正常値から2〜3倍の上昇で軽度の肝細胞病変、5〜10倍で中等度の病変、
10倍以上は著しい肝細胞病変を示していると考えられます。
いーたん様のゴールデンレトリバーちゃんのALTは113 IU/lですので、
正常値よりほんの少し高いという事でございますね。
ALTは肝細胞の障害で上昇しますが、その原因は肝臓自体に問題がある場合と、
肝臓以外の要因から二次的に上昇する場合があります。
肝臓自体の問題としては、慢性肝炎や急性肝炎、薬物や毒素による肝障害などが
あげられます。
肝臓以外の二次的な要因としては、膵臓疾患(急性膵炎など)、胃腸疾患、
内分泌疾患(副腎皮質機能亢進症など)代謝性疾患(高脂血症など)、
うっ血性心不全などがあげられます。
コレステロールは体内にある脂質(脂肪)の一種で、
脂肪酸と結合したエステル型(エステルコレステロール)と、
脂肪酸と結合していない遊離型(遊離コレステロール)があり、
これら二つを合わせて総コレステロール(T-Cho)といいます。
検査機器によって幅はありますが、一般的にT-Choの正常値の上限は
おおよそ300 mg/dlくらいです。
コレステロールは細胞膜の材料となったり、血管の強化や維持にも重要な役割を
果たしています。また、副腎皮質ホルモンや性ホルモン、ビタミンなどは、
このコレステロールをもとに作られています。
脂肪の消化を助ける胆汁酸の主成分ともなっており、どうぶつの体には必要不可欠
なものです。
人間では高コレステロール血症が続くと動脈硬化のリスクが高くなることが有名
ですが、ワンちゃんでは高コレステロール血症でも、動脈硬化の発症頻度は
高くありません。しかし著しい高値が続けば、原因の追及や治療が必要になります。
ワンちゃんのコレステロールが高くなる場合に考えられる疾患は様々です。
主に内分泌疾患や肥満など基礎となる疾患が原因で起こる続発性(二次的)なものと、
このような基礎疾患がなくコレステロールが高くなる場合に大別されます。
続発性の代表的疾患を以下に挙げます。
・ 甲状腺機能低下症
・ 副腎皮質機能亢進症
これらの2つ疾患の70%のワンちゃんでは高コレステロール血症が見られる
という報告もございます。
・ 糖尿病
高頻度に高コレステロール血症が見られることがあります。
・ ネフローゼ症候群を代表とする腎臓疾患
また、ワンちゃんでは肥満と総コレステロール値の上昇に関係性があることが
知られており、痩せているワンちゃんに比べ、太っているワンちゃんの方が、
コレステロール値が高い傾向にあります。
その他に膵炎や胆汁うっ滞のような肝胆道疾患などが高コレステロール血症の
原因となることもあります。
上記のような基礎となる病気がなくコレステロールが高くなる場合もございます。
例えば、シェットランドシープドックちゃんなどのいくつかの犬種では、
家族性の高コレステロール血症が知られております。
何らかの遺伝的素因によると考えられていますが、原因となる遺伝子は未だ
明らかではありません。
どの程度の高コレステロール血症から治療の対象になるかについては、
先生によって意見が分かれるところですが、
コレステロール値が800mg/dl以上の場合には、治療の対象となることが多いかと
存じます。治療の基本は低脂肪食が基本となり、必要に応じてお薬を使用します。
または内分泌疾患などに伴い、二次的に高コレステロール血症が起こっている
場合には、原因となっている疾患の治療をすることで数値の改善が見られることが
あります。
いーたん様のゴールデンレトリバーちゃんのコレステロールは、441 mg/dlとの事
ですので、正常値は少しオーバーしていますが、お薬を使用した積極的な治療が早急に
必要な数値ではないかと思います。
いーたん様は、最近フードを「ライト」から「成犬用」に変更したことが、
コレステロール値に関与しているのではないかとお考えなのですね。
一般的にライトのフードに含まれる脂肪と成犬用のフードの脂肪の含有量は、
ライトの方が少なくなっています。
お食事を変更したことで、今回、コレステロール値が少し高くなっていた可能性
は十分あるかもしれません。
もし、今のゴールデンレトリバーちゃんが、ライトのフードを食べても問題が無い
ご様子であれば、一旦お食事をお戻しになられて、再度血液検査をしていただいても
よろしいかと存じます。
食後すぐはコレステロール値が上昇していることがありますので、
再検査の際には食前(できれば6〜12時間絶食している状態)に検査に行って頂く
ことをお勧めいたします。
今回、いーたん様は「ALT」と「総コレステロール」が高くなる病気にはどのようなもの
があるかのご質問ですね。
それぞれの検査項目で、共通して考えられる疾患は、胆管の疾患、膵臓疾患、
内分泌疾患、代謝性疾患(高脂血症など)、うっ血性心不全などでしょう。
ALTの上昇と総コレステロールの上昇の原因が同じ疾患な場合もあれば、
別々の原因があり、ALTと総コレステロールがそれぞれ上昇している可能性も
ありますので、血液検査結果だけで診断を行うのではなく、
ゴールデンレトリバーちゃんの全身状態や臨床症状など、全てを総合して判断していく
必要がございます。
かかりつけの先生は、ゴールデンレトリバーちゃんの全身状態や、前回と今回の
血液検査の結果を総合的に判断して、「肝臓のお薬」で数値の改善が見られるか経過を
みていこうとお考えなのではないでしょうか。
今後も経過を観察していただき、ゴールデンレトリバーちゃんのご様子に変化が出たり、
数値の悪化がみられるようであれば、再度かかりつけの先生と今後の治療方針について
ご相談していただけたらと思います。
さて、もう一つのご質問ですが、
最近、散歩中に左右どちらの前足もつまずくことがあるのですね。
その時は足先にがグーになっていることが多く、半年ほど前からは、後ろ足をひきずる
ご様子も見られるのですね。
高齢になったワンちゃんの足先がグーになっていたり、後ろ足をひきずるご様子が
見られる場合に考えられるご病気はたくさんございます。
中でも高齢期を迎えたときの発症率が比較的高い疾患をいくつか挙げますので、
ご参考にしていただけたらと存じます。
◇変形性関節症
変形性関節症は関節軟骨の変化により、痛みなどの症状があらわれる進行性の
関節疾患です。特に中高齢以上の大型犬に発生が多く、肘、肩、膝、股関節など
様々な関節に起こります。
関節周囲に、腫れや痛みなど見られ、四肢の関節に発生した場合は、痛がったり
肢を引きずる(跛行)仕草や散歩を嫌がったり、歩く様子に異常が
みられたりします。
◇変形性脊椎症
脊椎と呼ばれる背骨が変性する疾患です。
老齢のワンちゃんでは非常に多く、一種の老化現象とも言えます。
周囲の神経を圧迫することにより手足(特に後ろ足)のふるえ、ふらつき、麻痺、
痛み、歩行の異常が認められることがあります。
◇椎間板ヘルニア
背骨にある、椎間板の変性により、内容物が突出して神経を圧迫・障害する
病気です。過激な運動、強い外力が加わった場合や、老化が原因で起こります。
椎間板が突出した位置などにより、症状の程度は様々です。
ソファーや階段の登り降りを嫌がる、動くことを嫌がる、背中を丸めてじっと
している、後肢がふらつく、麻痺や運動失調などの症状がみられることがあります。
※馬尾症候群について
脊椎と呼ばれるワンちゃんの背骨は、頚椎(首の部分)、胸椎(背中の部分)、
腰椎(腰の部分)、仙椎(腰椎以降の部分)で構成されています。
この脊椎の中には中枢神経である脊髄神経が通っていますが、
この脊髄神経の末端は腰椎の部分で馬の尻尾のように細かく分かれています。
この部分を総称して馬尾神経と呼びます。
この馬尾神経が「椎間板ヘルニア」、「腫瘍」、「腰仙椎関節の不安定」、「外傷」など
により圧迫され、神経症状が引き起こされた状態を馬尾症候群と総称します。
一般的にジャーマンシェパードやゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー
などの大型犬に多くみられます。
尿失禁や糞便の失敗、尻尾の麻痺などがみられます。また、腰部や後肢の痛みや
後肢の筋肉の萎縮、ふらつきや跛行が見られることがあります。
尻尾や腰仙椎関節を触診し圧迫することによって痛みが確認できます。
◇ 甲状腺機能低下症
甲状腺は、代謝を活発にするホルモンを分泌する器官ですが、甲状腺機能低下症で、
甲状腺ホルモンの分泌が減少すると、「元気がなくなる」、「顔つきがぼんやりとしている」、
「脱毛」、「肥満」、「神経症状(発作や運動失調など)」などの症状がみられます。
この病気は高齢のワンちゃんで多いとされています。
ほかにも「活気が無い」「遊ばない」「走らない」とういうような症状を示す病気は
数多くございます。
◇ その他
・腫瘍疾患(脊髄腫瘍など)
・脳疾患、前庭疾患(初期に歩行にふらつきが出ることがまれにあります。)
いーたん様のゴールデンレトリバーちゃんは、
かかりつけの動物病院でレントゲンの検査をお受けいただいたが、
特に異常はなく「老化現象」と診断されたのですね。
高齢になってくると動きも若い時と比べ、活発性がなくなり、寝てばかりのこと
が多くなってきます。
動かなければ筋力も落ちてきますし、関節の動きも硬くなってきます。
そうすると、寝起きや歩きはじめに思うように足が動かずに、
つまずいたり、ふらついたり、転んでしまう事もあるでしょう。
かかりつけの先生がおっしゃる通り、「老化現象」の一つとして、
年齢に伴う筋力の低下や関節のこわばりがあり、
散歩の時に前肢のつまづきや、後ろ足をひきずるご様子がみられるのかも
しれませんね。
いーたん様がおっしゃる「足先がグーになっている」状態ですが、
この状態は、ワンちゃんの足先が裏返しになり、足の甲を床につけたような
状態でしょうか。
もしこのような状態であれば、これは「ナックリング」という状態になります。
ナックリングが起こる場合、固有位置感覚(固有受容感覚)*の低下があると
判断します。
通常は、ワンちゃんは裏返った足先の位置が正常ではないと感じ、
2秒以内に自分で正常な位置に足を戻すのですが、
何らかの原因で反射が鈍くなってくると、元の正しい位置に戻すのに、
2秒以上かかったり、元に戻せない事があります。
この様な反応は「姿勢反応」と言って、脳・脊髄神経系の疾患の診断の際に
よく用いるものです。
※ 固有位置感覚とは、自分の身体(特に手足などの各関節)がどこにあるかを
確認する感覚のことを言います。
もし、いーたん様のゴールデンレトリバーちゃんがこの様なナックリングが見られる
のであれば、年齢的なもの以外にも、脳・脊髄神経系の疾患などの可能性も
あるかもしれませんので、症状が進行したり、つまづいて転倒することが増えたり、
ご様子がいつもと異なるようであれば
再度かかりつけの先生に診察していただく事をお勧めいたします。
加齢とともに足腰が弱ってきた場合、ソファーへ上がろうとして失敗したり、
ケガをしたりすることもありますので、
なるべく段差のない環境を作ってあげる事が大切です。
例えば、スロープを取り付けたり、ソファーの前に踏み台などを用意して
階段状にしたりするなどの方法がございます。
また、視力が弱くなってきた場合、物にぶつかったりしてしまいますので、
ぶつけたら危ない部分には軟らかい素材の物で覆ったり、危険なものを片付けて
いただくとご安心です。
だんだん横になることを好む傾向がありますので、からだに当たる部分が柔らかく、
清潔を保てる素材の寝床を用意してあげることも良いでしょう。
体温の調節機能はシニアになると段々低下しますので、ワンちゃんも年齢を重ねる
毎にだんだん寒さに弱くなってきますが、ちょっと暑い、寒い、というときも
動くのが面倒でそのまま寝ているということもあるようですので、
快適な気温・湿度が保てそうな場所とスペースを確保していただけたらと思います。
これからもずっと、末長くいーたん様やご家族様と一緒に楽しく穏やかな
生活を過ごしていただくよう心から応援いたしております。
なお、アニコムでは下記の受付時間で、ご契約者様からのお電話での健康相談、
しつけ相談サービスを承っておりますので、ぜひご利用くださいませ。
お電話番号は、あんしんサービスセンター
0800-888-8256(携帯電話・PHSからは、03-6810-2314)です。
平日9:30〜17:30 / 土日・祝日9:30〜15:30 (年末年始を除く)
土日・祝日は予約のみ、実際のご相談は翌営業日以降となります。
朝夕冷え込む季節になりましたので、いーたん様もどうぞお身体に
気をつけてお過ごし下さい。
今後とも、アニコムをよろしくお願い申し上げます。