犬を飼ったことがある方は「椎間板ヘルニア」という病気を一度は耳にしたことがあるかもしれません。人気のミニチュア・ダックスフンドなどでかかりやすい病気としても有名です。椎間板ヘルニアではどんな症状がみられるのか、どんな対処法があるのか解説します。

犬の椎間板ヘルニアとは?

ブルドッグ

椎間板ヘルニアを一言で表現すると、椎間板が脊髄という神経の束を押しつぶしてしまう神経の病気です。神経がダメージを受けることで痛みや、足の麻痺などさまざまな症状が表れます。

どんな症状?

椎間板が脊髄へ圧迫を起こす場所や程度によって症状は違います。動物病院では症状の重さによってグレードを分けて考えることが多いです。

痛みだけの場合(グレード1)

脊髄の圧迫が軽度の場合は麻痺の症状がなく、痛みだけがみられます。よく見られる症状としては抱っこしたときに痛みでキャンと鳴く、段差の上り下りを嫌がる、背中を丸めるなどがあります。

軽度の麻痺(グレード2)

足の力が弱くなり、足先の感覚が鈍くなりますがまだ自力で立ち上がり歩くことができる状態です。グレード1の症状に加えて、歩くときにふらつく、足先がひっくり返るなどの症状が見られるようになります。麻痺の症状は胸部や腰のヘルニアの場合は後足だけ、首のヘルニアの場合には前足にも表れます。

重度の麻痺(グレード3~5)

脊髄の圧迫が重度になると、麻痺が強くなり立ち上がることができなくなります。また、足だけでなく膀胱や肛門の機能にまで影響を及ぼし、おしっこが出せなくなったり、ウンチを漏らしてしまうこともあります。

原因は?

このような怖い症状を引き起こす椎間板ヘルニアはなぜ起こってしまうのでしょうか。

犬の椎間板と脊髄はどうなっているの?

犬の背骨は7個の頸椎(首の骨)、13個の胸椎(胸の背骨)、7個の腰椎の合計27個の脊椎で構成されています。頸椎の一部を除き各脊椎の間には椎間板と呼ばれる軟骨が挟まっていてクッションの役割を果たしています。また、脊椎の中には脊柱管という空洞があって脊髄と呼ばれる神経の束が通っています。この脊髄は脳からの命令を全身に伝えたり、全身からの情報を脳に伝える役割があります。

どのようにして「ヘルニア」は起こる?

「ヘルニア」とは臓器が正しい位置から外へ飛び出してしまうことを言います。椎間板ヘルニアでは椎間板が脊柱管内にヘルニアを起こしてしまうことが原因となります。

ヘルニアが起こる仕組みは不明な点も多いですが、椎間板の性質が変性することで脊柱管内に飛び出しやすくなると考えられています。また、激しい運動や無理な姿勢で背骨に負担がかかることがきっかけで症状が現れることも多いようです。

椎間板が「ヘルニア」を起こすことによって脊髄がダメージを受けると足や各種臓器が脳と正常に連絡を取れなくなり、麻痺などの症状がみられるようになります。

また、椎間板ヘルニアには大きく分けて2つのタイプがあります。

ハンセン1型椎間板ヘルニア

椎間板が何らかの原因で破裂してしまい、髄核(ずいかく)と呼ばれる椎間板の中身が脊柱管内に飛び出してしまう病気です。症状は突然表れることが多いです。「ハンセン1型椎間板ヘルニア」になりやすい犬種としてミニチュア・ダックスフンドが有名です。ミニチュア・ダックスフンドは軟骨異栄養性犬種と呼ばれる犬種の一つで、椎間板の変性が比較的速く進行し若いうちから発症がみられるのが特徴です。弾力性を失った軟骨は衝撃などでダメージを受けやすくなり「ハンセン1型の椎間板ヘルニア」を起こしやすくなると考えられています。実際にアニコムの「家庭どうぶつ白書2021」によると、ミニチュア・ダックスフンドの椎間板ヘルニア発症率はほかの犬種よりも高いことがわかっています。

軟骨異栄養性犬種はほかにトイ・プードルフレンチ・ブルドッグウェルシュ・コーギービーグルなどがあり、椎間板ヘルニアへの注意が必要です。

ハンセン2型椎間板ヘルニア

椎間板が変性する過程で盛り上がって大きくなることで脊柱管内にせり出してきて神経を圧迫します。柴犬ラブラドール・レトリーバーゴールデン・レトリーバーなどの非軟骨異栄養性犬種で起こりやすいといわれています。比較的高齢で大型の犬でみられることが多いタイプです。ハンセン2型の症状は比較的緩やかに進行することが多いです。

もしなってしまったら、、治療法は?

診察中のラブラドール・レトリーバー

ひとくちに椎間板ヘルニアといっても、症状によって治療の方法は異なります。

痛みだけの場合

痛みだけの場合は基本的には安静にすることとお薬での治療が中心になります。非ステロイド性消炎鎮痛薬やステロイドのお薬が使用されることが多いです。

軽度の麻痺

軽度の麻痺の場合はお薬で治療することで麻痺の症状が軽減することも多いです。麻痺が出ている場合にはプレドニゾロンなどのステロイドが使用されることが多いです。お薬の治療で十分に回復できない場合には手術を行うこともあります。

重度の麻痺

ステロイドで回復することもありますが、手術が必要になる場合が多くなります。手術では脊髄が圧迫を受けている部分の背骨を削って窓を作り、圧迫を取り除く処置を行います。手術をした直後は麻痺が残ってしまうことがあるので、リハビリを行って足の機能回復を図ることもあります。

他にも背骨を安定させるためのコルセットを装着したり、鍼治療を行うなどさまざまな治療法があります。病院によっても実施できる治療法は異なりますので、治療は動物病院でよく相談して行うようにしましょう。

予防方法は?

激しい運動は控えめにする、体重を適切に管理する、背中を丸めるような狭い場所に長時間入れないようにするなど背骨に負担をかけない生活を心がけるようにすることで、発症のきっかけを減らすことができます。運動については階段や椅子など、段差の上り下りは控えるようにしましょう。抱っこの仕方も注意したい点の一つです。犬の上半身だけ支えて腰を宙に浮かせるような姿勢で抱っこすると、腰に負担がかかることがあります。背骨が地面と水平になるように身体全体を支えるようにして抱えてあげると、腰への負担は少なく済みます。

しかし、残念ながら椎間板ヘルニアには絶対的な予防法はありません。特に軟骨異栄養性犬種では、安静にしていたとしても突然発症してしまうこともある病気です。万が一麻痺の症状が出てしまったらできるだけ早く動物病院へ連れていき、早めの処置で悪化を防ぎましょう。

マッサージは効果がある?

獣医師によってはヘルニアの子にマッサージを進める場合もあります。効果や方法は状態などによって異なるため、かかりつけの獣医に相談しましょう。一方で、普段からマッサージなどでわが子とスキンシップを取ることは、ヘルニアを含め様々な疾患や異常の早期発見にも役立ちます。

まとめ

なでられるダックス

椎間板ヘルニアは突然発症することも多く、びっくりしてどうしてよいか分からなくなってしまうこともあるかと思います。麻痺や強い痛みなどがみられる怖い病気ではありますが、早めに処置をすることで回復することも多い病気です。

背中に負担をかけないような生活を心がけながら、背中の痛みやふらつきなど症状が軽いうちに病気を見つけられるように普段から愛犬の様子をよく見てあげましょう。

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監修獣医師

別府雅彦

別府雅彦

北海道大学獣医学部を2009年に卒業。学生時代は野生動物学教室でクマのフェロモンに関する研究を行う。卒業後は神奈川県の地域中核病院に勤務。脊椎外科や整形外科を中心に、ワンちゃんとネコちゃんの医療に従事。アメリカ獣医内科学会など、学会での発表も行う。信念はどうぶつと飼い主さんが主人公の物語をお手伝いすること。2020年アニコムホールディングス株式会社に入社。信念を日本に、世界に広げるべく活動中。