犬は人間と比べて、よく吐くと言われます。体の構造上、人間よりも吐きやすいのです。そうは言っても、わが子が突然吐いたら不安になってしまいますよね。犬が吐く原因は自然現象から病的なものまでさまざまです。嘔吐の種類を把握しておき、いざという時には適切に対応しましょう。

犬が吐いたものや色を確認しよう

ゴールデン・レトリーバーの子犬

吐いたものや色を確認するようにしましょう。内容によっては、動物病院へ連れていくべきものもあります。

毛玉を吐いた時

換毛期などの毛の抜けやすい時期には、抜けた被毛を飲みこんでしまうことがあります。被毛は消化されないため便とともに排泄されるか吐き出すかのどちらかの方法で体外へ出さない限り、体内に残ってしまいます。

予防策として、まずは被毛の飲み込みを防ぐことが重要です。定期的にブラッシングをしてあげることで毛玉の予防につながります。そして、掃除も重要です。換毛期には、特にこまめに掃除機をかけることや雑巾で床を拭くなど被毛やほこりが落ちていない状態を保つよう心がけましょう。

黄色い液体を吐いた時

飼い主の知らない間に、いつの間にか黄色い液体を吐いてしまっていることがあります。この黄色い液体の正体は「胆汁」です。長時間、胃が空っぽになると胆汁が胃に逆流してしまうのです。これは「胆汁嘔吐症候群」と呼ばれ、明け方や夕方などの食事の時間が空いてしまう時に起きやすい症状です。

予防策は、空腹の時間を短くすることです。明け方に吐いてしまう場合には寝る前に軽くごはんを与えるなど、胃が空っぽになってしまうのを防ぎましょう。黄色い液体を時々少量吐く以外の心配な症状がなければ、食事の回数や時間帯を調整してみてください。吐く頻度や量が増えたら、すぐに病院に相談してください。

透明の液体や泡を吐いた時

透明な液体や泡の正体は、水か胃液、もしくは唾液の可能性が高いです。基礎疾患がなくても、これらによって胃が刺激されて吐いてしまうことがあります。

水を飲んで吐くことは、勢いよくたくさんの水を飲んでしまうことが原因のひとつです。夏場やお散歩の後は特に起こりやすいタイミングのため、一気飲みしないよう様子を見ながら水を与えましょう。

胃液を吐くことは、前述の「黄色い液体を吐いた時」と同じく空腹が原因であることが多いため、食事の回数を調整して様子を見てください。

緊張や興奮などの精神的な問題が吐き気の背景にある場合は、落ち着けるような状況を作ってあげましょう。乗り物酔いの場合は、こまめに休憩をとること、長距離移動で心配な場合には獣医師に相談して酔い止めを処方してもらうなどで、予防をしましょう。

茶色のものを吐いた時

まずは吐いたものを確認してください。ドロドロしていてフードのにおいがしていれば、食べたフードがうまく消化されなかった可能性があります。食欲があり元気な様子で、その後も吐く回数が増えなければ特に心配ないことも多いです。

しかし、フードが消化されていて、さらさらとした液状にも関わらず茶色い場合は「古い血液」が混ざっていることがあります。胃腸炎や胃潰瘍の場合など、胃腸から出血し、その血液が酸化することによって茶色くなります。この場合は、吐いたものを持って動物病院に行きましょう。現物があることで獣医師も古い血液か、フードか、それ以外かの判断がつきやすくなります。

赤色のものを吐いた時

重度の胃潰瘍や食道の病気の時には、鮮血を吐くことがあります。もしくは、口の中からの出血、例えば先のとがったものやおもちゃなどで口の中をケガしてしまうことで、血が混じることもあります。また、消化管だけでなく、肺や気管支などの呼吸器からの出血である可能性もあります。出血しているということは、何かしらの異常が起きていて危険な状態である可能性もあります。吐いたものを持って動物病院に行きましょう。

嘔吐物に異物が混じっている時

おもちゃの破片など、フードやおやつ以外のものが混入していたら要注意です。誤飲や誤食かもしれません。中毒症状や腸閉塞など、場合によっては命を落としてしまうこともあります。異物を吐き出した場合には様子見はせず、すぐに病院に連れて行ってあげてください。

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すぐに病院に連れて行くべき危険な嘔吐は?

動物病院で診察されているゴールデン・レトリーバー

どんなに吐きやすいとはいっても、なんらかの病気や体調不良から吐いてしまうこともあります。吐いたものや様子を見て危険なサインがないかをしっかり確認したうえで、適切かつ迅速な対応が必要となります。

何度も繰り返し吐く

繰り返し吐いてしまう場合には、消化器疾患だけでなく、内臓の病気や、全身のさまざまな病気が疑われます。そして、それらは命を落とす危険もあります。嘔吐による脱水も進行しますので、すぐに動物病院へ連れて行ってあげてください。

毎日吐いてしまう

1日に1~2回吐いてしまうが他に症状はなく、食欲もあって元気であれば緊急性は低い場合が多いです。ただ、胃酸が毎日食道を行き来するのもあまりよくないので、原因を取り除いてあげるためにも病院で相談してみましょう。

吐き出したものが未消化のフードで、またそれを食べようとする場合は「嘔吐」ではなく「吐き出し」といわれる行動です。消化不良、胃もたれを起こして吐いてしまうことは珍しくはありません。ただし、隠れた疾患がないか念のため一度検査を受けてもいいかもしれません。

1日に何度も吐いてしまう場合には飲み込むことが苦手な「嚥下障害」の可能性も含め、どこかに異常がある可能性がありますので、なるべく早く獣医師に相談してください。

吐こうとするのに吐き出せない

原因の1つとして考えられるのは「胃拡張・胃捻転症候群」です。胃が多量のガスで膨れ上がることを「胃拡張」、胃がねじれてしまうことを「胃捻転」といいます。食後数時間以内に発症することが多く、吐きそうで吐かないといった症状のほか、お腹がふくらんでいる、苦しそうといった症状がみられます。命にかかわることもある病気です。症状が見られる場合には、すぐに動物病院に連れて行ってください。

さいごに

犬にとって吐くことは、起こりやすいトラブルのひとつです。頻繁に吐くことが体への負担や脱水につながる可能性もゼロではありません。吐いてしまう原因は何か、飼い主は日頃から観察し、緊急性の判断に関する基本的な知識を持つことが重要です。

また、動物病院へ行く際は、吐いたものを持っていくと獣医師の判断の助けになります。難しい場合は写真や動画に残すだけでもかまいません。 加えて、緊急時に備え、かかりつけの動物病院の休診日や夜間に診察してもらえる救急病院を把握しておきましょう。

【関連リンク】
食べた後に吐いてしまう、吐こうとするのに何も出ない…犬が吐いているときに考えられること|みんなのどうぶつ病気大百科

監修獣医師

三宅史

三宅史

酪農学園大学卒。札幌市内の動物病院でホームドクターとして勤務する傍ら、母校に眼科研究生として通い、眼科専門診療を学ぶ。東京都内の大学病院での勤務を経て、2023年にアニコム損害保険株式会社入社。 子どもの頃からどうぶつが大好きで、いぬやねこ、セキセイインコやかめと暮らした日々が宝物。「犬派?猫派?」と聞かれると、両方好き過ぎて、決められずに困ってしまう。(写真は実家で共に育った先代猫)