人だけでなく、犬にもすぐに対処しないと命の危機に繋がってしまう救急疾患があります。身近なケースから犬種によって発生しやすいケースまでさまざまです。日常生活でどんな事に注意すればよいのか、また、いくつか具体的な症状について解説していきます。

エマージェンシーって?

診察される犬

そもそも「犬のエマージェンシー」って?

そもそも「犬のエマージェンシー」の想像はつくでしょうか。
飼い主さんの中には、すでに夜間救急病院に駆け込んだ経験がある方もいらっしゃるかもしれません。

エマージェンシーとは、そのまま訳すと『緊急』です。
まさにそのままの意味ですが、いつもの様子と明らかに異なり、差し迫った状態を示します。これを医療に当てはめると、何が差し迫っているのか。
ここからは、『命』の危機がさしせまっている状態をエマージェンシーとしましょう。

犬にもエマージェンシー

エマージェンシーは決して他人ごとではありません。
少し前のデータによると飼い主さんの約30%が緊急病院を受診した経験があるそうです(2012年8月アニコム調べ)。これを多いとみるか少ないとみるか。

急変してしまう事も

体調を崩している原因によっては、少しの時間で急変してしまうことがあります。たとえば、心臓や肺に原因がある場合は、どんどん悪化していき、心臓や呼吸が止まってしまうことがあります。
また、貧血の場合もどんどん出血しているとショック状態に陥り、命の危険につながることがあります。

日常で気を付けるポイント

では、日常でどのような点に注意すればよいのでしょうか。

いくつわかるかチェックしてみましょう。

  • 日々の食事や水を飲む量
  • 一日の排泄の回数、内容
  • 安静時の呼吸の仕方、回数
  • 歩き方
  • 通常の歯ぐきの色
  • 現在の体格
  • 誤食したことがあるか
  • 犬種特有のかかりやすい病気
  • 部屋の室温管理をしているか

全てチェックしている方はすごいです。引き続き日常からの観察を続けましょう。
また、定期的な健康診断に行くことも大切です。
とくにシニアになったら間隔を短くして健診を実施することも病気の早期発見につながります。
残念ながらチェックしていない項目があった方も大丈夫です。これらの項目はエマージェンシーにいち早く対応するうえで大切なことなので、今日から意識してみましょう。

犬で注意したいエマ―ジェンシー

ソファにもたれる犬

ここからはエマージェンシーを具体的に見ていきましょう。

胃拡張捻転症候群

大型犬で夜間や緊急病院に運ばれてくる症状で有名なのが、『胃拡張・胃捻転』です。グレートデン、シェパード、レトリバーなど胸の深い犬種で起きやすいですが、どの犬種でも発生し、高齢になると発生率も増加します。
原因ははっきりとわかっていませんが、胃の機能に問題が起き、胃にガスが溜まり拡張したり、捻じれてしまいます。

一度にたくさん食べたうえで、その直後に激しい運動をすることも一因であると言われています。

拡張や捻転が起こると、胃の周囲にある血管が圧迫されたり、捻転に巻き込まれることで血管がつぶされて血液がうまく循環できなくなります。その結果、ショック状態に陥り、処置がおくれると死につながってしまいます。
症状としては、落ち着きなくウロウロしはじめ、吐こうとするけど吐けない、パンティング(浅くて速い呼吸)やよだれを流す、、お腹が膨れるなどの症状が見られ、最終的には立つことができなくなってしまいます。
これらの症状が食後や運動後に見られたときは要注意です。

脾臓腫瘍・肝臓腫瘍の破裂

もともと脾臓や肝臓に腫瘍があり、腫瘍が大きく成長し、何らかの原因(外部からの衝撃等)で破裂し、お腹の中で出血してしまうことで、ショック状態になり、命の危機につながってしまいます。
夕方のお散歩まで元気だったのに、急に立てなくなり、つらそう。何となく元気がない、落ち着かない、歯茎の色がいつもはピンクなのに白っぽいなどショックや貧血からくる症状が一般的です。
原因が脾臓や肝臓等の腫瘍なので、定期的な健診で超音波検査を実施すると、破裂するまで大きくなる前に摘出ができる、回避することが可能な場合があります。
腫瘍が小さいうちは、見た目や症状に変化がないことが多く、血液検査でもなかなか見つけられません。早期に発見して治療できるように、特に5歳以上の大型犬では健診に超音波検査を取り入れることをお勧めします。

誤飲誤食

大型犬に限らず多いのが誤飲誤食です。
飼い主さんの衣服や食べ物、薬や竹串など、食べてしまうものはさまざまです。


誤飲したものによって対処が異なりますが、気づいた場合にはすぐに動物病院へ連絡して指示を仰いでください。食べてから時間が経過していない場合は、吐き出させたり、内視鏡等で摘出することができる場合があります。

普段から備えておこう

女性に顎を撫でられる犬

今回はほんの一部の例を取り上げてみましたが、他にも呼吸状態がおかしい、吐き続ける、ぐったりしている、痛みを訴えているなど気をつけるポイントはあります。

なによりも大切なのは、わが子の普段の様子を観察し、日常から備える事です。

時間外・夜間病院

備えるという点では、万が一の際かかりつけの病院が休診日や時間外であることも珍しくありません。
いざエマージェンシーな事態になると必ず焦ってしまいます。
かかりつけ病院の休診日はどの病院に行くか、近くの夜間対応病院はどこになるのか、余裕があるときに調べておきましょう。
お近くの病院がわからない方はこちらもご参考にしていただければ幸いです。

【関連リンク】
アニコム動物病院検索

さいごに

犬の寿命が長くなってきている近年、わが子の特徴や普段の様子を把握し、日常からエマージェンシーに備えることで、より長い健康寿命を目指しましょう。

監修獣医師

三宅史

三宅史

酪農学園大学卒。札幌市内の動物病院でホームドクターとして勤務する傍ら、母校に眼科研究生として通い、眼科専門診療を学ぶ。東京都内の大学病院での勤務を経て、2023年にアニコム損害保険株式会社入社。 子どもの頃からどうぶつが大好きで、いぬやねこ、セキセイインコやかめと暮らした日々が宝物。「犬派?猫派?」と聞かれると、両方好き過ぎて、決められずに困ってしまう。(写真は実家で共に育った先代猫)