
犬の診断技術の進歩に伴って、犬でもがんと診断されることが増加し、犬の死亡原因としても多いことが知られています。がんで愛犬が苦しまないためにできること、万が一、がんになってしまった時はどうすればよいのか解説します。
犬のがんって? がんにはどんなものがあるの?

がん(悪性腫瘍)は身体の細胞が異常に増えすぎてしまう病気です。がん細胞が無秩序に増えていくことで周りの正常な組織を破壊し、さまざまな症状を引き起こします。また、がん細胞が血管やリンパ管の中に入り込んで流れていき、別の場所に転移して多様な悪影響を与えるようになります。進行するとさまざまな臓器が正常に機能しなくなり、死に至ることが多い病気です。人のがんと同じように身体のさまざまな場所でがんは発生します。犬で比較的多くみられるがんをいくつか解説します。
※本記事では、悪性腫瘍のことを「がん」と表記します。一般に、悪性腫瘍を「がん」とよぶ場合と、上皮細胞由来の悪性腫瘍だけを「がん」と呼ぶ場合もあります。
肥満細胞腫
肥満細胞という免疫にかかわる細胞が腫瘍化したもので、主に皮膚に発生します。肥満細胞という名前がついていますが、いわゆる太りすぎの肥満とは関係ありません。皮膚の一部が盛り上がって赤くなり、その周囲の毛が抜けることもあります。「しこり」として触れたり、見た目の変化で気づくことができます。肥満細胞が作り出すヒスタミンなどの物質が大量に放出されることで、ショックを起こすこともあります。
リンパ腫
リンパ球と呼ばれる血液中にある免疫を担っている細胞の腫瘍で、いわゆる血液のがんの一種です。発生する場所によって消化器型や縦隔(じゅうかく)型、多中心(たちゅうしん)型などいくつかの型に分けて呼ばれることがあります。首や脇、股などの身体の表面にあるリンパ節が腫れて盛り上がって見えたり、しこりとして触れたりすることで気づくことがあります。
血管肉腫
血管の細胞が腫瘍化したものです。血管は全身に隈なく張り巡らされているため、さまざまな犬種で全身のあらゆる場所で発生しますが、特に大型犬で脾臓や肝臓などの内臓に発生して問題になることが多くみられます。お腹の中で腫瘍ができると初期には気づかないことが多く、知らないうちに大きく成長し、お腹の中で破裂してしまい命にかかわることがあります。
膀胱腫瘍
おしっこを溜めている膀胱の内側にある粘膜の細胞(移行上皮細胞)が腫瘍化する、「移行上皮癌」が多くみられます。血尿や頻尿などの症状が見られ、膀胱炎として治療してもなかなか良くならない場合に再検査すると実は腫瘍だったということもよくみられるケースです。進行すると大きくなった腫瘍が尿道を詰まらせて、おしっこが出なくなることがあります。
骨肉腫
犬において骨の腫瘍で一番多いのが骨肉腫です。骨がある場所にはどこにでも発生しますが、前後足の骨や背骨に比較的多くみられます。腫瘍によって骨が破壊されてしまい、痛みや発熱が見られます。また、骨が破壊されることでもろくなり、強い衝撃がなくても突然骨折してしまうこともあります。
ここで紹介したがんはほんの一例です。これ以外にもさまざまな場所にがんは発生し、それに応じてさまざまな症状が現れます。がんを早く見つけるためにも定期的に健康診断を受け、気になることがあれば早めに動物病院で診察を受けて健康管理を行いましょう。
症状

がんの発生初期には症状がほとんどみられないことが多いです。また、症状もがんが発生する場所によってさまざまですが、ここでは多くのがんに共通してみられる症状を解説します。
痛み(がん性疼痛)
がんが小さいうちは痛みがないことが多いですが、大きくなるにつれて徐々に痛みが出るようになります。痛みは成長したがんが周りの神経や臓器を圧迫したり、それらに浸潤したりすること(がん細胞が周りの組織に入り込んで増えること)で発生します。進行すると痛み止めが効かないほどの痛みになり、痛みのせいで食欲が出ない、動きたくない、眠れないなど生活の質を大きく落としてしまうことになります。
がん性悪液質
がん性悪液質とは、がんの進行によって食欲が低下するとともに、体内で栄養を利用するバランスが崩れてしまい、筋肉の減少を伴って痩せていってしまう状態のことを言います。まだまだ解明されていない点が多い症候群ですが、がん細胞やその周囲の細胞で作られるサイトカインと呼ばれる物質などによって引き起こされると考えられています。栄養状態の悪化によって体力が低下するだけでなく、治療への反応が鈍くなってしまいます。また、筋肉量が減ることで骨張った体格になり、褥創(床ずれ)ができやすくなります。
出血
がんが急速に成長するに伴ってがんの中に血管がたくさん作られます。これらの血管は通常の血管と比べて破れやすく、出血を起こすことが多くみられます。また、がんが大きくなると周囲の血管の中に入り込んで破れてしまい出血することもあります。
リンパ節の腫れ
がんが全身に転移して広がっていくとき、まずは近くのリンパ節に転移してリンパ節が腫れることが多いです。身体の中にあるリンパ節は見た目ではわかりませんが、身体の表面にあるリンパ節は腫れているのがわかるので、なでているときに腫れているのに気づくことがあります。首にある下顎リンパ節や浅頸リンパ節、脇にある腋窩リンパ節、内股にある鼠径(そけい)リンパ節などがわかりやすいです。
もしなってしまったら、、治療法は?
もしがんになってしまっても、早期発見できれば、すぐに治療を開始することで治せる場合があります。がんの3大治療と呼ばれるものに、手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)があります。
手術
発生したがんを外科手術で切り取る治療方法です。発生初期のがんであれば手術をすることで完治を目指せる場合もあります。手術では術後の再発、転移の可能性を減らすために肉眼的に確認できるがんの大きさよりも広範囲に切除を行うことが理想的といわれています。再発、転移の可能性をさらに減らすために、手術後に放射線治療や化学療法など他の治療法を追加して行うこともあります。
放射線療法
がんができてしまった部分に放射線をあてることでがんの細胞を殺し、がんを小さくする治療方法です。放射線治療だけで完治させることは難しく、手術の前にがんを小さくしたり、手術後に再発予防のために組み合わされるほか、手術ができない場合の緩和治療として行われることがあります。治療には特殊な装置が必要なため、実施できるのは、大学病院などの大きな病院に限られます。治療には麻酔をかける必要があります。また、放射線をがんだけにピンポイントで照射することが難しく、がんの周囲の正常な組織に放射線障害と呼ばれる副作用を引き起こすことがあります。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤を投与してがん細胞を殺し、がんを小さくする治療方法です。手術の後に再発を防止する目的で行われるほか、血液のがんなど手術ができない場合でも抗がん剤が良く効いてくれることがあります。抗がん剤は、がん細胞以外の全身の正常な細胞にもダメージを与えてしまうためさまざまな副作用が出ることがあります。嘔吐や食欲不振などの消化器症状や、白血球の数が少なくなり感染に弱くなってしまう骨髄抑制などの副作用がみられます。
がんの症状がつらい場合や、完治させることが難しい場合などに、犬の生活の質を落とさないためにがんの症状に応じた緩和治療を行います。痛みや発熱に対して鎮痛薬や解熱剤を使用したり、食欲がない場合には点滴をする、吐き気止めのお薬を投与するなどの対症療法のほか、犬が自分で動くのが難しい場合には、食事やトイレの介助を行うこともあります。
がんの症状がつらい場合や、完治させることが難しい場合などに、犬の生活の質を落とさないためにがんの症状に応じた緩和治療を行います。痛みや発熱に対して鎮痛薬や解熱剤を使用したり、食欲がない場合には点滴をする、吐き気止めのお薬を投与するなどの対症療法のほか、犬が自分で動くのが難しい場合には、食事やトイレの介助を行うこともあります。
また、上記の3大治療の他にも、分子標的薬などさまざまな治療法の研究がされていますが、がんの治療方法は日進月歩ですので、常に最善の治療法を選択していくことが大切です。
予防方法は?

一部のがんを除き、現在の獣医療では予防することが難しい病気です。そのため、早期発見、早期治療によって、全身への転移などのがんの悪影響を防ぐことが大切です。見た目でわかるほどまでに成長したがんはすでにかなり進行してしまっていることも多いです。定期的に健康診断を受けることはもちろん、体調の異常やしこりなどの変化に気づけるよう、日ごろからスキンシップをとって、犬の様子を観察してあげましょう。私たちにとっての1年は犬にとっての3年以上に相当するといわれますので年に1~2回くらいは動物病院で健康診断をしてもらうようにしましょう。おうちでは身体の表面にしこりがないか、お腹が張っていないか、痛がったり気にする場所はないか、見た目にいつもと違うところはないか等をチェックして、もし異常を見つけたときは早めに動物病院に相談して、できるだけ早いうちに病気が見つけられるようにしましょう。
なお、避妊手術や去勢手術をすると生殖器に関連したがんが発生しにくくなることがわかっています。賛否が分かれる問題ではありますが、犬の健康のためには、避妊手術や去勢手術を考えてあげるのもよいですね。
まとめ

がんは命にかかわることが多い怖い病気です。がんで苦しまないためには早期発見と早期治療がとても大切です。初期のがんでは症状がないことも多いので、特に高齢の犬は元気であっても定期的に健康診断をしっかりと受けさせてあげましょう。 もし、がんが見つかった場合は、その種類や進行の程度によって治療方法も変わります。愛犬の苦しみが少しでも小さくなるように、動物病院の先生とよく相談して治療方法を考えてあげましょう。
