犬から人へと感染する共通の感染症であるレプトスピラ。世界中で人への感染が確認されていて、発症すると黄疸、肺出血、腎不全などの障害が起こり、最悪の場合は死に至る怖い病気です。今回は犬におけるレプトスピラ症の症状や治療法、予防法についてご紹介します。

犬のレプトスピラ症とは?どんな病気?

レプトスピラ症は、レプトスピラという細菌の感染により引き起こされる病気です。感染すると体の各所で細菌が増え、炎症が起こります。犬では特に肝臓と腎臓での増殖が顕著で、急性あるいは慢性の肝炎および腎炎になります。

レプトスピラ症は感染が疑われないと、なかなか診断の付きにくい病気です。けれども、治療を受ければ治すことができ、またごく軽度の感染であれば、無治療で自然治癒する場合もあります(もちろん、症状が重ければ命に関わります)。

しかし、レプトスピラ症でもっとも重要なことは、人にも動物にも感染する人獣共通感染症だということです。レプトスピラの感染が疑われる場合は、飼い主も、愛犬のお世話には手袋を着用し、排泄物や食事の取り扱いに気を配る必要が出てきます。

原因は?

レプトスピラ症の原因は、レプトスピラというらせん菌(らせん状の形をした細菌)の一種です。

レプトスピラにはインフルエンザのようにさまざまな血清型が存在し、非病原性のものが感染した場合は、症状はなく、保菌者となって菌を排泄します。病原性のものが感染した場合のみ、症状が現れます。人ではワイル病が特に有名で、発熱と溶血性黄疸の症状が出ます。

犬のレプトスピラは、主に土と、媒介動物であるネズミの尿に接触することで感染します。皮膚の傷や粘膜から体内に侵入します。レプトスピラに感染した犬に咬まれたり、レプトスピラに汚染された食べ物や水を摂取することでも感染します。日本では関東以南の比較的暖かい地域での感染が主ですが、全国で毎年数件の犬への感染があります。

どんな症状?

感染が重度の場合、最初は発熱や食欲不振、粗い呼吸がみられます。その後、血液が壊されて、タール状の便や鼻出血などの溶血性の症状が出ます。最終的には多臓器不全となり、死に至ります。

感染が中等度の場合は、発熱や食欲不振、沈うつの状態が最初に見られ、血液検査などの身体検査で貧血やミネラルバランスの崩れ、肝不全や腎不全の徴候が認められます。症状が出た多くの犬では、最も症状の重い急性期を脱した後も、慢性間質性腎炎や慢性進行性肝炎に症状が進行してしまい、生涯に渡り治療が必要になります。

かかりやすい犬種・特徴などはある?

かかりやすさに犬種や年齢差、性差はありません。感染には飼育の環境が大きく関与します。アウトドアレジャーに同行し、ネズミやイノシシなどの媒介動物の排泄物に触れる機会の多い犬は、感染しやすいです。散歩中に過度にニオイ嗅ぎをしたり、舐めたりする癖がある子は注意が必要です。農村部など日常的にネズミがいる環境で過ごしている場合、都会部より感染の機会が多いので注意しましょう。

治療法は? 治療費の目安は?

犬のレプトスピラ症の治療法

 レプトスピラの排菌には、抗生物質が有効です。初期には血管からの投与が望ましいため、入院あるいは連日の通院が必要になります。症状が落ち着いた場合は、内服薬での治療が可能になります。内服薬は2週間程度続ける必要があります。

このほか、症状が重篤な場合と、腎炎や肝炎を併発した場合は、それぞれに対する治療が必要になります。どちらも点滴治療や消炎剤、肝庇護剤などの投与が注射治療で必要なため、入院による治療が選択されることがほとんどです。

抗生物質の注射のみで通院する場合は、診察料と注射で5,000円程度が目安となります。内服薬は2週間で5,000~10,000円程度です。いずれも、小型犬の目安です。入院治療になる場合は、1日あたり20,000~30,000円を目安としてください。少なくとも1週間の入院が必要となります。

予防法は?

一番の予防は、原因であるレプトスピラに接触させないようにすることです。ネズミが行き交う場所に、愛犬の寝床や食事を置かないようにしましょう。ただし、常在地では細菌自体との接触を完璧に防ぐことは難しいので、ワクチン接種が勧められます。

レプトスピラ症は、ワクチンによって重症化を防ぐことができます。ただし、レプトスピラ症は必ず受けるべきワクチンである「コアワクチン」には分類されません。3種混合ワクチンや5種・6種混合ワクチンには含まれないため、ワクチンによる予防を希望する場合は、必ず接種の際に何種のワクチンを打つのかを獣医師に相談しましょう。

まとめ

犬のレプトスピラ症に注意を

レプトスピラ症は、頻繁にかかる病気ではありませんが、日本にも常在する細菌が原因で、毎年犬の感染が報告される病気です。人にも感染する共通の感染症であり、万一愛犬が感染した場合は、飼い主の体調にも注意が必要になります。ワクチンが有効な病気ですので、感染の心配がある環境が身近な場合は、愛犬へのワクチン接種を心がけましょう。

監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーに。病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。