昔から日本人に愛されてきた柿。栄養豊富なことで知られていて、「柿が赤くなると医者が青くなる」という有名なことわざもあるほどです。今回は犬に柿を与えても大丈夫か、与えるときの注意点などをご紹介したいと思います。

柿は食べても大丈夫

人の食べ物の中には、犬に与えると中毒を起こす可能性のある成分を含むものもありますが、柿には犬にとって毒性のある成分は含まれていません。熟した柿や、添加物の含まれていない干し柿であれば、基本的には犬に与えても大丈夫です。甘くておいしいので、食欲が落ちているときの栄養補給や疲労回復の目的で与えたり、特別なごほうびやおやつとして少量与えるのがおすすめです。ただし、体質によってアレルギーを起こしたり、食べ過ぎてしまったり、未熟で固い柿や皮、ヘタ、種などを食べてしまって消化不良を起こすこともあるので、与え方には注意が必要です。

柿の栄養素について

・カロリー
生の甘柿の83%は水分です。100gあたりのエネルギー量は63kcalで、フルーツの中では比較的高めです。一方、干し柿の水分は24%で、100gあたりのエネルギー量は274kcalとかなり高くなります。

・糖質
100gあたりに含まれる糖質は、生の甘柿は14.3g、干し柿は57.3gで、主に果糖が含まれます。これらの糖質は体内で吸収されてエネルギーになります。食欲が落ちているときなどのカロリー補給に適していますが、摂りすぎると肥満の原因になります。

・カリウム
カリウムが多い果物として知られるバナナほどではありませんが、柿にもカリウムが比較的多く含まれています。カリウムは余分なナトリウムを体外に排出し、体内の水分バランスを整える働きがあり、高血圧やむくみの予防に効果が期待できます。ただし、腎機能が落ちている犬ではカリウムを十分に尿中に排泄できず、高カリウム血症になる可能性があるので注意が必要です。

・β‐カロテン
生の甘柿、干し柿共に、β‐カロテンが多く含まれています。β‐カロテンは犬の体内でビタミンAに変換されます(*猫はこの変換酵素を持たないためβ‐カロテンをビタミンAに変換できません)。ビタミンAは目や皮膚、粘膜、被毛の健康に関与しています。また、抗酸化作用があり、身体を酸化から守ることで免疫力の強化や病気の予防効果が期待されます。

・ビタミンC
柿にはビタミンCも多く含まれていて、フルーツの中ではトップクラスの含有量です。ビタミンCには抗酸化作用があり、免疫力の強化や病気の予防効果が期待されます。犬はビタミンCを体内で合成することができますが、肝機能が低下している場合など、十分なビタミンCが合成できない場合には、食物から補うことが薦められます。

・食物繊維
生の甘柿、干し柿共に、食物繊維を豊富に含んでいます。食物繊維には水溶性の食物繊維と不溶性の食物繊維の2種類がありますが、柿は特に不溶性の食物繊維を多く含みます。不溶性の食物繊維は便のかさを増やし、腸を刺激して排便を促す作用がありますが、摂りすぎると便秘になることもあります。

・タンニン
タンニンはポリフェノールの一種で、柿の渋みのもとです。甘柿、渋柿ともにタンニンを含んでいますが、甘柿に含まれるタンニンは不溶性で、渋柿に含まれるタンニンは可溶性という違いがあります。可溶性のタンニンは口の中で溶けて渋みを感じるもとになりますが、不溶性のタンニンは溶けないので渋みの原因になりません。渋柿はアルコールに漬けたり干し柿にすることでタンニンが不溶性に変わるため、渋みが抜けて食べられるようになります。

タンニンには抗酸化作用があり、免疫力の強化や病気の予防に効果が期待されます。また、腸粘膜の収れん作用により下痢を緩和したり、高血圧や口臭を予防する作用もあります。ただし、摂りすぎは下痢を引き起こすこともあるため注意が必要です。

柿に含まれる栄養素(りんご、バナナと比較)

可食部100gあたり 生柿(甘柿) 干し柿 りんご バナナ
エネルギー(kcal) 63 274 56 93
水分(g) 83.1 24 83.1 75.4
たんぱく質(g) 0.4 1.5 0.2 1.1
脂質(g) 0.2 1.7 0.3 0.2
炭水化物(g) 15.9 71.3 16.2 22.5
食物繊維(g) 1.6 14 1.9 1.1
 糖質(g) 14.3 57.3 14.3 21.4
カリウム(mg) 170 670 120 360
カルシウム(mg) 9 27 4 6
ビタミンA(βカロテン当量)(μg) 420 1400 27 56
ビタミンC(mg) 70 2 6 16

参考:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 文部科学省

柿をあげるメリット

柿は甘くておいしいので、愛犬が喜ぶ特別なごほうびになります。愛犬とのコミュニケーションを深めたい時などに、上手に利用しましょう。また、病気のときなど、体力や食欲が落ちているときでも食べてくれてカロリー補給ができる可能性があります。抗酸化作用を持つビタミンC、βカロテン、タンニンなどの栄養素を豊富に含むため、これらの健康効果も期待できます。

与えるのに適切な量

柿は犬にとっての主食ではなく、おやつに分類されます。おやつの量は1日の摂取カロリーの10%以内が目安ですが、生の柿は水分を多く含むため、たくさんあげると下痢をしたり、お腹がいっぱいになって主食のフードが食べられず、栄養バランスが崩れてしまう可能性もあります。甘くておいしいのでそればかり欲しがるようになってしまうこともありますので、特別何かよいことがあったときのごほうびなどに、主食のフードをきちんと食べたうえで、少量あげることをおすすめします。犬の大きさに合わせて小さくカットしたものを数個程度にするとよいでしょう。特に干し柿は糖質を多く含み少量でもカロリーが高いので注意しましょう。

与えるときの注意点

熟した甘柿を与えましょう

熟していない青い柿は固く消化に悪いため、与えないようにしましょう。特に丸呑みしてしまうと腸閉塞の危険もあります。お散歩中に落ちている青柿を誤飲する事故もありますので、気を付けてください。
熟した甘柿や渋抜きをした柿、干し柿など、人がおいしく食べられるものを与えるようにしましょう。

ヘタ、皮、種は与えないで

犬に柿を与えるときは、ヘタと皮、種を取り除き、果肉の部分だけをあげましょう。柿のヘタや皮・種は固く消化されにくいため、大きさによっては喉や消化管を傷つけたり、詰まったり、消化不良で下痢の原因になる可能性があります。皮や種もいい匂いがしますので、取り除いた後の皮や種を誤飲されないよう十分に気をつけて下さい。

小さくカットしてから

柿が大好きな犬は、与えられた柿を喜んで丸呑みしてしまうこともあります。大きいままだと詰まってしまうこともありますので、犬の大きさに合わせて小さくカットしてから与えましょう。

アレルギーに注意

柿は特別アレルギーを起こしやすい食物というわけではありませんが、体質によってはアレルギー反応が起こり、皮膚症状(痒み、赤み、発疹など)や消化器症状(下痢、嘔吐など)が出る場合があります。重症の場合は、血圧の低下や呼吸困難などのアナフィラキシーショックが起こる可能性もあります。初めて柿を与えるときはごく少量を様子を見ながら与え、症状が出ないかどうかよく確認しましょう。

大量に食べると胃石の原因になるかも?

人では、柿の食べ過ぎで胃石ができる「柿胃石症」という病気があります。柿に含まれるタンニンが胃酸と反応し、食物残渣を巻き込んで石のような塊となり、胃痛や胃炎、胃の通過障害や腸閉塞の原因になることがあります。現在のところ犬ではっきり柿胃石と診断された症例はないようですが、犬でも同様のことが起こる可能性は否定できませんので、与える量はごく少量にしておいた方がよいでしょう。なお、人の柿胃石はコーラで溶けることが知られていて、実際に治療で使われることもあるようですが、コーラには多量の糖分やカフェインなど犬にとって好ましくない成分が含まれていますので、犬が柿を食べた後お腹が痛そうだからと言って自己判断でコーラを飲ませるのは危険です。

柿の加工食品はNG

柿のジャムやゼリー、お菓子など、柿を使った加工食品は犬には過剰な糖分が含まれている場合がありますので、与えない方がよいでしょう。

まとめ

柿は少量であれば犬に与えても大丈夫です。量や与え方、アレルギー症状などに十分注意し、主食の栄養バランスを崩さないように与えるようにしましょう。ヘタや皮、種は取り除き、誤飲されないよう気をつけましょう。旬の果物を上手に使って、愛犬とのコミュニケーションを深められるとよいですね。

監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。