人と同じように、犬も目やにがついていること、ありますよね。寝起きに少し目の周りについているようであれば心配いりませんが、中には目の外傷や病気が原因で、注意が必要な目やにもあります。心配な目やにの見分け方や原因、目やにの取り方などを解説します。
目やにの原因は粘液と不要物
目やには医学用語で「眼脂(がんし)」と言います。涙の中にも含まれている「ムチン」という物質を主成分とする粘液に、代謝によってできた老廃物や脱落した細胞、目に入ったほこりや病原体など、目の表面の不要物が含まれたものです。
目やにには、正常な新陳代謝に伴った生理的な目やにと、病原体の感染や炎症に伴った病的な目やにの2種類あります。
心配しなくてもいい目やにの特徴
寝起きの目やに、白や黒の少ない目やには生理的なもの
目の細胞も皮膚などと同じように、常に新陳代謝を繰り返しています。結膜や角膜などの古くなった細胞は、皮膚の垢と同じような老廃物として脱落し、目に入ったほこりなどと一緒に粘液にからめとられ、目やにとなります。正常な新陳代謝による目やにの色は通常は白っぽいですが、ほこりやごみが混ざると茶色や黒っぽくなることもあります。量は少なく、目が開いているときは涙で流されるためあまり目にたまることはありませんが、寝ているときなど目をずっと閉じていると目頭や目じりにたまります。寝起きに見られる目やにの多くはこれで、目の症状を伴わない場合は心配いりません。
気を付けたい目やにの特徴

黄色や緑色、目やにの量が多い、他の症状を伴う目やに
生理的なものだけではなく、目の外傷や病気に伴う目やにもあります。次のような特徴の目やには、何らかの目のトラブルに伴うものである可能性があるので注意が必要です。
・量が多い
・片目だけに見られる
・黄色や、緑色っぽい
・においがきつい
・粘度が高くねばねばしている
・目が赤い、目が開きづらい、涙が多い、目を痒がったり気にしたりする
このような目やにを伴う目のトラブルの中には、急速に進行したり、悪化すると失明に至る可能性のあるものもあります。軽い症状に見えても、ひっかいたりこすったりして目を傷つけてしまい、重症になってしまうこともあります。いつもと違うように感じたときは、すぐに動物病院を受診しましょう。
考えられる病気
上記のような目やにの原因として考えられる病気には、次のようなものがあります。
結膜炎
結膜炎は、まぶたの裏側にある結膜が炎症を起こす病気です。ウイルスや細菌等の感染やアレルギー、外傷や異物が目に入ることなどが原因で起こります。他の目の病気や全身的な病気に続発して起こることもあります。結膜炎になると、結膜が赤く腫れ、涙や目やにが多くなります。特に、細菌感染を伴う場合は、黄色や緑色の目やに、においのきつい目やにが多く見られます。両目同時に発症することもあれば、片目のみのこともあります。痒みや違和感を伴うため、目をしばしばさせたり、気にしてこすりつけようとしたりすることもあります。
角膜炎
角膜炎は、黒目の表面を覆っている角膜が炎症を起こす病気です。結膜炎と同様に、感染やアレルギー、外傷や異物によって、角膜が刺激を受けることで発生します。結膜炎や緑内障、ドライアイなど他の目の病気に続いて起こることもあります。シー・ズーやフレンチ・ブルドッグ、パグなどの「短頭種」は、目をぶつけることを原因とする角膜炎が多く見られます。角膜炎が起こると涙や目やにが多くなり、痒みや痛みから目を気にする様子が見られます。重度になると角膜が白っぽく濁ったり、血管新生(通常の角膜にはない新しい血管が生じること)や色素沈着を起こして、視力の低下につながる場合もあります。
角膜潰瘍
外傷や感染、異物などが原因で、角膜の組織が欠けて傷ができてしまうのが角膜潰瘍です。流涙や目やに、充血、角膜の腫れや炎症などが見られます。角膜の傷は強い痛みを伴うため、目をしばしばさせたり気にしたりという症状も見られます。傷が深く角膜の深部の膜(デスメ膜)にまで達している場合、デスメ膜が傷からこぶのように突出した状態(デスメ膜瘤)になることもあります。重度の場合、角膜に穴が開き(角膜穿孔)、失明を起こすこともあります。
鼻涙管閉塞(びるいかんへいそく)
鼻涙管は、目から鼻に涙が抜ける通り道です。この鼻涙管が生まれつき狭かったり、炎症などに伴って閉塞してしまったりすると、涙が鼻に抜けなくなり、目から涙があふれ続けて涙焼けを起こしたり、目やにが増えてしまうことがあります。
睫毛乱生症(しょうもうらんせいしょう)
まつ毛の方向や位置が本来とは異なる症状です。まつ毛が目の表面を刺激し、傷がついたり炎症を起こすことで目やにが増えることがあります。刺激による痛みや違和感から目を気にしたりこすったりして傷をつけてしまうこともあります。
眼瞼内反症(がんけんないはんしょう)
まぶたが通常よりも内側に入り込んでいることで目を刺激してしまう状態で、二次的に角膜炎や角膜潰瘍を起こして目やにの症状が見られることがあります。犬では遺伝による先天的な眼瞼内反症が多く見られます。
乾性角結膜炎(ドライアイ)
涙の量が少なかったり、涙の質に問題があったりして目の潤いが保てなくなる病気です。角膜が乾燥することで刺激を受けやすくなり、傷がついたり炎症を起こしやすくなります。目の光沢がなくなり濁って見えたりするほか、黄緑色の粘度の高い目やにが見られます。
目やにの取り方を解説!

目やにが目の周りについたままになっていると、固まって取りづらくなったり、目やにの下の皮膚が炎症を起こして痛みや痒みの原因になることがあります。生理的な目やに、病的な目やにに関わらず、目の周りに目やにがついているときは、気づいたらなるべく早くとることが大切です。
目やにの取り方
ぬるま湯に浸したコットンやガーゼなどで、やさしく拭き取るようにしましょう。目の周りをきれいにするための専用の清浄綿などを利用してもよいでしょう。目の周りの皮膚はデリケートなので、無理に取ろうとしてごしごしこすると、皮膚炎を起こしたり、目の表面を傷つけたりしてしまうことがあるので注意が必要です。
目やにが固まってしまって取りづらいときは?
目やにが固まってしまっているとき、無理に取ろうとすると毛が引っ張られて痛みが出たり、皮膚が炎症を起こしてしまうこともあります。固まっているまま取ろうとせず、ぬるま湯や蒸しタオル、目の周り専用のローションなどで十分にふやかして、柔らかくしてから少しずつ取りましょう。目の周りにも使用できる目の細かいコームなどを利用してもよいでしょう。その場合、コームが目の表面や皮膚を傷つけないよう十分注意しながら行ってください。
目やにを取ろうとすると嫌がるときは?
目のトラブルがあったり、過去に痛い思いをしたなどの理由で、犬が目の周囲を触られるのを嫌がることがあります。無理に抑えて目やにを取ろうとするとトラウマになってしまい、それ以降は触らせてくれなくなることもあります。好きなおもちゃで気をそらしながら行ったり、おやつをなめさせながら行う、一度に全部きれいにしようとせず少しずつ何度かに分けて行うなど、工夫してみてください。おとなしく目の周りのお手入れをさせてくれたときは、たくさんほめてあげましょう。目の周りを触られることをあまりに嫌がる場合は、無理をせず動物病院で相談してください。
目やにの予防法
生理的な目やにや、鼻涙管閉塞や逆さまつげなど生まれつきの目の問題に伴って起こる目やにを完全になくすことは難しいですが、目の病気に伴う目やにや二次的に生じる目やにの中には、気を付けることで予防できるものもあります。
小さいころから習慣に
生理的な目やにであっても、ずっとついたままになっていると、犬が気にしてひっかいたりこすったりして目を傷つける、目やにがつきっぱなしになっている部分の皮膚が炎症を起こすなど、目や目の周りの皮膚のトラブルにつながる場合があります。気づいたらこまめにふいてあげることが大事です。一度、目や目の周囲のトラブルを起こしてしまうと、触られることを嫌がって日ごろのお手入れも難しくなってしまうことがあります。小さいころから、目のトラブルが発生する前から、目の周りのお手入れを習慣化するようにしましょう。
目の周りの毛を短くカット
逆さまつげ以外にも、目の周りの毛が目に入り込み刺激になっていることがあります。こまめにチェックして、目に刺激を与えていそうな毛は定期的に短くカットしてあげるとよいでしょう。
いつもと違う目のトラブルに気づいたら早めに受診を
目の病気や外傷は、気づかないうちに急速に進行して重症化してしまうことが少なくありません。目の違和感や痒み、痛みなどがあると、目をひっかいたりこすりつけたりして、二次的に傷がついたり重症化してしまうこともあります。犬の挙動がいつもと違うな、と感じるときは、すぐに動物病院を受診しましょう。
目やにが気になる時の食事はどうすればいい?
食物アレルギーによる結膜炎などが疑われる場合は、アレルゲンを除去した食事にすることで改善する場合もありますが、現在のところ、特定の食事で目やにや目の病気が予防できる、というようなメニューはありません。ただ、水分を十分にとることが目やにの予防につながる可能性はあります。身体の水分が不足すると、代謝が悪くなったり老廃物の排泄がうまくいかなくなり、涙の成分が変化して涙焼けや目やにが増える原因になる場合があります。普段ドライフード中心で水もあまり飲まない、という犬の場合は、飲水量を増やす工夫をするとともに、水分がたっぷりとれるウエットフードや手作り食などに変えてみるのも一つの方法でしょう。
気を付けてあげたい犬種、年齢
犬種
目やにはどの犬種であっても見られますが、特に目やにの原因となる目の外傷や病気のリスクが高い犬種もあるので、注意してあげましょう。
好発犬種 | |
アレルギー性結膜炎 | 柴犬、トイ・プードル、 ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど |
角膜潰瘍 | シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、 ボストンテリアなど(短頭種) |
先天性鼻涙管閉塞 | トイ・プードル、マルチーズなど |
睫毛乱生症(まつ毛の異常) | チワワ、ペキニーズ、 ポメラニアン、シー・ズー、パグなど |
先天性眼瞼内反症 | ブルドッグ、セント・バーナード、 ラブラドール・レトリーバー、コッカー・スパニエルなど |
乾性角結膜炎(ドライアイ) | シー・ズー、トイ・プードル、 ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、 コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザーなど |
年齢
・子犬の場合
子犬の目やには、鼻涙管閉塞や逆さまつげ、眼瞼の異常など先天的な目の問題が原因の場合も多いので、ワクチンなどの際に目の状態をよくチェックしてもらいましょう。早く発見できれば、不妊手術で全身麻酔をかける際に同時に処置を行って、改善が期待できる場合もあります。
目やにや流涙を伴う目の症状は、全身的な細菌やウイルス感染症の一症状として見られることもあります。抵抗力の弱い子犬では全身的な感染症は重症化しやすいので注意が必要です。食欲や元気など全身状態に気を付けて、心配な様子が見られる場合はすぐに受診しましょう。
また、好奇心旺盛な子犬の場合、散歩で草むらや狭いところに入る、兄弟やお友達の犬とじゃれ合うなど、目を傷つけてしまう機会も多いので、十分に注意してあげて下さい。
・老犬の場合
老犬になると、涙の分泌量が減り、目やにの粘度が増して取りづらくなることがあります。目やにが乾燥する前にこまめに取ってあげることが大事です。
抵抗力の低下に伴って、細菌性やウイルス性の結膜炎、角膜炎などにかかることも多くなります。いつもと違う目やにや症状に気づいたらすぐに受診しましょう。
また、視力の低下や認知機能の低下から、ものにぶつかったり狭いところに入り込んだりして、目を傷つける危険性も高まります。家の中の危険な場所を確認し、安全に過ごせる環境を作ってあげましょう。
まとめ

目やには特に心配のいらない生理的な目やにから、外傷や病気の症状として出てくる目やにまで、様々です。犬の目の外傷や病気は早急に対処しないと重症化するケースも多いので、普段からこまめに愛犬の目をチェックして、普段と違う病的な目やにや症状が見られる場合は、すぐに受診しましょう。
