骨折は、手術や入院を伴うこともあり治療費が高額となるため、飼い主さんにとって大きな負担となります。なにより、治療期間もかかるため、犬にとっても辛い思いを長くさせてしまうことになります。しかし骨折は、飼い主さんのほんの些細な工夫で防げる病気です。今回は、愛犬を骨折から守るための対策を解説します。

犬の骨折とは

骨折とは、何らかの衝撃で骨が折れてしまったり、ヒビが入った状態のことをいいます。骨折と聞くと、運動中に起きてしまう予期せぬアクシデント、というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。ところが、犬の骨折は日常生活のほんの些細なことで起こっているのです。

原因

ソファの上に立つ犬

ソファやベッドから飛び降りてしまった、着地に失敗した、抱っこ中に落としてしまったというケースが多く発生しています。他にも、フローリングの床を走っているときに滑って転んでしまった、飼い主さんが誤って踏んでしまった、ドアに挟んでしまったなど、家の中の些細なきっかけから発生することがほとんどです。

見分け方と症状について

  • キャン!と悲痛な声をあげ、足を地面につけないように歩く
  • 抱っこを嫌がる、また抱こうとすると怒る
  • 歩こうとしない
  • 骨折した箇所が熱を帯びている、腫れ上がる
排便排尿がうまくできないなどの症状が見られます。症状が疑われる場合はすぐに動物病院へ連れていきましょう。

骨折の発生部位は前足が56.1%!

アニコムの「家庭どうぶつ白書 2018」によると、骨折の発生部位の56.1%は前足です。犬は前足から着地をするので、前足に大きな負荷がかかります。犬の前足には骨が2本ありますが、小型犬の場合、その骨1本の太さは約2~5㎜ほどで鉛筆よりも細いため、衝撃に耐えきれず骨折してしまうのです。

骨折の治療

ソファで伏せる犬

治療は手術・入院が必要な場合も多く、期間は長期にわたります。犬にとって、痛みを伴うだけでなく、自由に動くことができない、お散歩に行けないなどの辛い思いを長くさせてしまうことになるのです。さらには、しつけや社会化するのに大事な子犬期に骨折してしまうと、十分に社会化ができず、将来の問題行動につながってしまう可能性もあります。また、治療には高額な費用もかかります。犬が辛い思いをするだけではなく、飼い主さんの金銭的にも大きな負担となります。

動物病院での治療

骨折の治療には、ギプスでの固定か手術があり、多くの場合は手術が必要となります。

外固定術(ギプス固定)
患部をギプスで巻き、固定する方法です。手術ができない箇所や、手術日までの間の固定としてする場合があります。軽度の骨折であればギプス固定だけで治せる場合もありますが、完全に元の形には戻らないため選択には注意が必要です。

内固定術
プレートとネジ、またはピン、ワイヤーを用いて骨を固定する手術です。骨折部位や犬の年齢や体調にあわせて選択していきます。完治してからプレートを取り出す再手術が必要な場合もありますが、しっかり固定できる点がメリットです。

創外固定
皮膚の外からピンをさして骨を固定する方法です。足が細い小型犬などで、内固定術を行うと血行障害が起きてしまう場合や、プレートでの固定が難しい部位の骨折で選択します。

治療期間

骨折の完治までは平均2~3ヶ月程度かかりますが、症状や骨折部位、また犬の年齢によっては半年以上かかる場合もあります。また、骨折箇所によっては治療後にリハビリが必要となる場合もあります。

治療費用はいくら?

アニコムの「家庭どうぶつ白書 2023」によると、骨折の診療には平均209,530円かかります。アニコム損保への請求では、入院や手術が伴って267,840円かかった例もあります。

会計画像

ちなみに、ペット保険に加入していた場合 (アニコムの「どうぶつ健保ふぁみりぃ70%プラン」) では、支払額は以下の通り80,352円となるので、安心です。

未加入の場合加入の場合(70%プラン)
入院料(7日)68,040円20,412円
手術費(1回)129,600円38,880円
その他費用(レントゲン代や
検査費用等)
70,200円21,880円
合計267,840円80,352円

骨折しやすい犬種・年齢

骨が細い小型犬は特に注意が必要です。「家庭どうぶつ白書 2018」によると、小型犬の中でも、イタリアン・グレーハウンド、次いでポメラニアントイ・プードルの骨折が多いことがわかっています(2016年度にアニコム損保の保険契約を開始した0 ~ 12歳の犬507,375頭を対象に、骨折の請求割合が高かった犬種)。

子犬に多い骨折

犬の骨折は1歳未満の子犬に多く発生しています。成長途中のため、骨が非常にもろく、ちょっとした衝撃で簡単に折れてしまいます。また、好奇心旺盛でとても活発なことも関係しています。

骨折を防ぐには? 飼い主ができる対策をご紹介!

「骨折なんて絶対にさせたくない」と、飼い主さんなら誰しもが願うはず。では、どうすれば愛犬を骨折から守れるのでしょうか。

■抱っこの仕方
抱っこ中に暴れて落下してしまった。そんな事故を防ぐためにも、普段から抱っこに慣れさせておきましょう。もし子どもに抱っこしてもらう場合は、座った状態で抱っこをしてもらうと安心です。
▶抱っこのトレーニング方法はこちら

■フローリングの対策
滑りやすいフローリングには、ペット用のフローリング対策のマットやシートなどを敷きましょう。また足裏の毛が伸びやすい子は、肉球が毛で隠れると滑りやすくなるので定期的に毛をカットしましょう。

■ベッドやソファなどの段差対策
ちょっとした段差でも、着地の際の衝撃や、つまずいて転んでしまい骨折をする可能性があります。ソファやベッドなどには、犬用のスロープ(階段)などを付けたり、カーペットを敷いたりして対策をしましょう。そもそも高い場所には登らないようにしつけておくことをおすすめします。

■食事や運動
丈夫な骨にするためには、バランスの良い食事と、筋肉をつけるための適度な運動を心がけましょう。また、太陽の光を浴びると骨を丈夫にするビタミンDが生成されます。運動も日光浴もできるお散歩はまさに一石二鳥といえます。ただし、夏場の暑い時期などは熱中症のおそれがあるので、散歩の時間帯に気をつけましょう。

■愛犬を守るしつけ
①「まて
「まて」を練習しましょう。犬が興奮したときなどに「まて」で落ち着かせることができるとよいでしょう。
▶まてのトレーニング方法はこちら

②「ハウス」
「ハウス」を練習しましょう。 お家の中で自由にさせていると、飼い主さんが見ていないところで骨折してしまうかもしれません。飼い主が見てあげられないときは、ハウス(ケージ)の中で静かにできるよう練習しておくと安心です。
▶ハウスのトレーニング方法はこちら

愛犬を骨折から守るために

抱っこされるフレンチブルドッグ

骨折は飼い主さんの少しの注意で防ぐことができます。人間にとってはほんのわずかな段差でも、犬にとっては骨折する原因となってしまうことがあるのです。大切な家族である愛犬を守るためにも、今一度、周りに危険がないか見直してみましょう! 愛犬と一緒に健康で元気な毎日をお過ごしください。

【関連リンク】
骨折 <犬>|みんなのどうぶつ病気大百科

監修獣医師

太田麻衣子

太田麻衣子

2012年麻布大学獣医学部を卒業後、都内の動物病院にて勤務、2018年アニコム損害保険株式会社に入社。 入社後は小動物臨床、電話健康相談、保険金査定業務などを担当している猫好き獣医です。写真は月一回”猫吸い”に会いに行く全くなついていない実家猫です。