
「フィラリアの予防薬がいろいろあって選べない!」「結局わが子にはどの薬がいいの?」とお悩みの飼い主さんも多いのではないでしょうか。飲ませたつもりが吐きだしたり、初めて使った薬でいつもと違うしぐさが見られたときなど、心配になることもありますね。
本記事では、フィラリアの予防薬のタイプごとの特長と、副作用や使用中のトラブルについてご案内します。
犬のフィラリア症とは? どうして予防するの?

フィラリア症(犬糸状虫症)とは、蚊に刺されて感染する寄生虫の病気です。血管や心臓に寄生し、循環器や呼吸器障害などを起こします。命にかかわることもあるため、定期的に駆虫し、予防を行う必要があります。
予防薬の剤型の種類とメリット

フィラリアの予防薬にはさまざまな剤型があります。複数の製品を取り扱っている動物病院もあり、迷ってしまいますよね。 それぞれ長所が異なるので、犬の性格や体質、生活習慣にあわせて処方してもらいましょう。
錠剤
フィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)を駆除するシンプルな錠剤です。イベルメクチンやミルベマイシンなどの駆虫成分が含まれています。フードやおやつに包み込んで与えたり、喉の奥に押し込んで飲ませます。
食物アレルギーがある子や、皮膚がデリケートな子でも安心して使えるのが強みです。
また、工夫が凝らされた予防薬と比べると比較的安価な傾向にあります。必要な用量が多い超大型犬では、コスト差は大きなメリットになるでしょう。
一方、味覚に繊細でお薬を吐き出してしまう子では投薬が難しくなります。投与した当日は吐きだしていないか観察してあげるといいですね。
チュアブル錠
口の中で噛んでから飲み込む錠剤のことで、薬剤が練りこまれたおやつ状の製品です。錠剤のデメリットの飲ませづらさが解消されています。食べることが大好きな子にはぴったりなタイプです。
ほとんどの犬に使用可能ですが、食物アレルギーがある場合は注意が必要です。かかりつけ医にアレルギー体質を申告して、必ず相談するようにしましょう。
滴下薬(スポットタイプ)
駆虫成分が入った液体を首の後ろに塗布して使用するタイプです。有効成分としてはセラメクチンなどがあります。
錠剤やおやつを受けつけない犬や、食物アレルギーがある犬でも安心して使用でき、錠剤やおやつのように吐き出すことがないので、確実に投薬できるのが大きなメリットです。塗ったお薬は皮膚から吸収されて効果を発揮するので、塗布後一定時間が経てば予防期間中にシャンプーもできます。
本人がなめられない箇所に毛をかき分けてつける必要があるので、触られるのが苦手だったり、激しく動き回ってしまったりする子では塗布が難しい場合もあります。
注射
動物病院での皮下注射でもフィラリア予防が可能です。効果は12ヶ月間得られるものもあるため、1年に1回の注射で通年予防が可能となります。お薬の投与忘れのリスクを減らして、確実に予防できるのがメリットです。モキシデクチンを含む懸濁液が身体の中でゆっくりと広がるように工夫されている製剤が代表的です。
投与時の体重に基づいてお薬の量が決まるため、成長期の犬には向いていません。成犬になって体重が安定してからがよいでしょう。
コリー系の品種には使えない予防薬があるって本当?

コリー系品種(コリー、ボーダー・コリー、シェットランド・シープドッグ、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、オーストラリアン・シェパード、イングリッシュ・シェパード、ジャーマン・シェパード、ホワイト・スイス・シェパードなど)の中には、生まれつき「イベルメクチン」や「ミルベマイシン」という成分に弱い体質の犬がいます。原因は、MDR1(※)という遺伝子の変異だと考えられています。コリー系の品種ではMDR1遺伝子変異が多いことがわかっています。
この遺伝子は身体の中での薬の輸送のしくみに影響しているため、変異を起こしている犬では副作用が出やすくなります。
コリー系の品種でもすべての個体に遺伝子の変異があるわけではないので、遺伝子検査を行って確認する方法もありますが、検査を未実施の段階でもコリー系という時点で「イベルメクチン」や「ミルベマイシン」の投与には慎重になる場合もあります。
一方でフィラリア予防薬として使用するイベルメクチンの量は比較的少量で(体重1キログラムあたり6~12マイクログラム)、副作用の危険性が極めて低いので、コリー系の子でも安全という見解があります。
用量や獣医師の判断次第ではイベルメクチンやミルベマイシンなども使用できますが、もし処方薬について不安な点があれば、投与開始前にかかりつけ医に相談するとよいでしょう。
なぜ事前に検査が必要?

フィラリアの予防薬は、本質的には幼虫の駆虫薬です。蚊から刺されて感染した幼虫を定期的に駆虫し、血管や心臓内で成虫になるのを防ぎます。
蚊から入った数匹のフィラリア幼虫であれば安全に予防薬で駆除できますが、万が一すでに成虫が寄生していて、体内に大量のフィラリアがいると、ショック反応を起こして命にかかわる危険があります。
そのため、フィラリア予防薬を初めて使用する場合や休薬期間明けには、フィラリアの感染がないかの確認が推奨されます。
検査方法には、採血をして抗原検査を行う方法や、ミクロフィラリアの虫体を顕微鏡で確認する方法などがあります。必要な血液量は少量なので、小柄な犬にも実施可能です。
検査しないで薬を使用したことがあるけど大丈夫?
フィラリア検査をせずに予防薬を開始できる場合もあります。蚊が出ていない時期に生まれた仔犬が、初めての予防シーズンで薬を使用する場合です。
フィラリアは成虫になって幼虫を生むまでにおよそ6ヶ月を要します。そのため、蚊のいない冬季に生まれた犬であれば、初めての春の時点では、体内にフィラリアの成虫も大量の幼虫もいないと判断されます。
このような場合はフィラリア検査をせずに予防薬の投与が可能ですが、かならず獣医師の診察を受け、指示のもとに投薬を開始しましょう。
フィラリア予防薬の副作用は?
フィラリア予防薬の副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。
ミクロフィラリア反応(ショック反応)
フィラリア陽性時に予防薬を使用すると体内のフィラリアが一気に死滅し、ショック反応などで犬の身体に負担がかかってしまいます。
感染がない場合、この副作用の心配はありません。診察を受けてから指示どおりに予防を開始しましょう。
アナフィラキシーショック(急性アレルギー)
フィラリア予防薬に限らず、どんなお薬でもアレルギーやアナフィラキシーショックを起こす可能性があります。ぐったりする、興奮したと思ったら急に動けなくなるなど様子がおかしい、よだれをだらだら流す、けいれんするなどのサインが出た時は緊急の処置が必要です。すぐに動物病院を受診してください。
その他の副作用
代表的な副作用には、食欲不振や嘔吐、よだれが増える、下痢や軟便、元気がなくなるといった症状があります。また、塗布するスポットタイプでは垂らした部位の皮膚に刺激があることも。もしも赤みや脱毛が出てしまったら動物病院で診てもらいましょう。注射で打つタイプでは打った部位にしこりができることがあります。
フィラリア予防薬には、ノミ・マダニの予防成分や消化管寄生虫の虫下し成分も一緒に入っている製品があるので、含有成分に応じて気をつけたい体調変化も異なります。製品の説明書を確認し、不明な点があれば処方時にかかりつけ医に確認しておきましょう。
予防薬を初めて使用する場合は、投与後に犬の様子を観察できる日が安心です。万が一の体調不良に備えて、動物病院を受診可能な時間帯に使用するとよいでしょう。
※コリー系品種のMDR1遺伝子変異によるイベルメクチン高感受性について
コリー系品種に高用量のイベルメクチンを投与すると、神経に対する中毒症状が出て、運動失調や昏睡、けいれんなどが起こる場合があります。通常のフィラリア予防薬の用量では副作用の心配はほとんどないと考えられていますが、誤って過剰投与してしまったときは、すぐに動物病院へ連れて行くようにしましょう。
投薬時のトラブルとそれぞれの対処法

投薬時のトラブルとそれぞれの対処法を紹介します。
薬を吐きだしてしまった
■投与直後に吐きだした場合
投与直後に口の中から吐き出した場合は、出てきたものを再度飲ませてあげれば大丈夫です。薬が崩れてしまい1回分の全量を投与できなそうなときは、十分な予防効果が得られないことがあります。
再度処方してもらうか、違うタイプの予防薬をお願いしましょう。
■投与後3時間以内に嘔吐した場合
胃の中にあったお薬が出てきてしまっている可能性があります。予防に必要な用量が不足することも考えられるため、処方を受けた獣医師に追加投与の必要があるか相談しましょう。
■投与後3時間以上経過してから嘔吐した場合
一般的に健康な犬の場合、食後3時間以上経過すれば、フィラリア予防薬はほとんど吸収されていると推測されます。お薬の投与後に何か食べていて、あとから食べたフードが嘔吐で出てきていなければ、先に飲んだ薬は吸収されていると考えられるでしょう。
ただ、犬の体質や体調によっては、3時間以上経っていても嘔吐で出てしまうことがあります。吐物に薬のようなものがあったり、薬の投与前に与えたフードが嘔吐された場合は、動物病院へ相談しましょう。
とくに休薬期間直前は、フィラリアを成虫にさせないために確実に投薬したいときです。予防シーズンが終わる時期に投薬後の嘔吐があった場合は、かかりつけ医の確認をおすすめします。
薬を大量に食べてしまった
コリー系の品種は、過剰投与で重篤な神経症状が起こり命にかかわる可能性もあるので、すぐに動物病院へ連れていきましょう。
他の品種の犬でも、本来想定している処方量を超えた量だと、体調不良が起こる可能性も否定できません。フィラリア予防以外の目的が含まれる成分タイプだと、過剰投与が問題になる恐れもあります。
気づいた時点でなるべく早く動物病院へ連絡しましょう。
また、フィラリア予防薬のしくみ上、まとめて飲んでも翌月以降も予定どおりに薬が必要になります。次のお薬についても相談しましょう。
滴下薬を塗った部位を気にしている
液体でひんやりするので、ゴロゴロと転がりながら、床に背中や首をこすりつけるような場合があります。元気があり、ごはんやおやつに興味を示して食べてくれるようなら、塗布剤が乾いて落ち着くまで気を引いてあげるのもよいでしょう。
気を引くのも難しいぐらい気にする様子が続いたり、呼吸が荒い、ぐったりするといった場合は、お薬が体質に合わなかったことも考えられます。すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
太ってしまった
フィラリア予防薬の投与量には幅があるので、投与対象範囲内の体重変動であれば大丈夫です。
ただし、投与量当たりの上限体重を超えてしまうと、十分な予防効果が得られなくなるため、追加の薬が必要になります。少ない用量の薬を追加処方してもらい、すでに処方を受けた薬を無駄にせず使用できる場合もあります。手元に残っている分を持参し、動物病院で相談しましょう。
妊娠した
犬の妊娠期間は約63日。妊娠中の薬剤は危ないというイメージがあるかもしれませんが、自己判断でのフィラリア予防の中断は高リスクです。フィラリアは感染後50~70日経つと成長して予防薬が効かなくなるため、フィラリア症を起こす危険が高まります。
多くのフィラリア予防薬は妊娠中・授乳中の犬にも使用が可能とされていますが、体調が変化しやすい時期なので、妊娠の可能性に気づき次第、かかりつけ医に確認しましょう。
インターネットなどで予防薬は通販できる?

フィラリア予防薬は要指示医薬品に該当し、自由に購入、販売、譲渡できないと法律で規制されています。動物用の要指示医薬品の入手方法は、獣医師からの処方を受けるか、診察した獣医師が発行する処方箋や指示書に基づく場合のいずれかです。そのため、インターネット等で購入することはできません。
ところが、近年はインターネット上で、フィラリア予防薬が購入できることを謳っているWebサイトが散見されるようになりました。
海外の医薬品を個人使用の目的に限って輸入する場合は自己責任で購入・使用が可能という制度を利用して、個人輸入代行という形式で動物用医薬品を販売しているところがあるようです。
「病院での処方薬と同じ製品を通販すれば安く済むし、通院の手間も省ける?」と、魅力的に見えるかもしれません。
しかし、その輸入薬が本当に国内流通薬と同じ製品なのか・偽物ではないかの確認や、投与後に起こった体調不良についても、すべて購入者の自己責任となります。
いつも使う薬が自由に買えないのは不便かもしれません。しかし、薬の販売や譲渡が制限されているのは、使用者の健康と安全を守るためでもあります。「クスリ」は逆から読むと「リスク」。不適切に使用すると健康被害をおよぼしたり、病気が治りづらくなる可能性もあります。フィラリア予防薬も、使用方法を誤ると予防効果が得られなかったり、ショック反応で死亡する恐れもあります。
医薬品や化学物質の名前には類似しているものもあり、わずかな違いで使用目的や危険性が全く変わってしまう場合も少なくありません。
過去には歯科医院において、虫歯予防のフッ化ナトリウムと劇物のフッ化水素酸を取り違えて使用し、幼い女の子が死亡してしまった事故もありました。原因のひとつには、無資格の歯科助手が「フッ素」の発注の指示を受け、誤ってフッ化水素酸を注文した経緯があるとされています。
法律で一部の医薬品の販売が制限されているのは、このような悲しい事故を未然に防ぎ、国民やどうぶつの命を守るためだと思います。
安全で確実なお薬の使用のために、動物病院での診察と処方をおすすめいたします。
わが子のために、正しく予防を

犬の命を奪うこともあるフィラリア症は、予防薬の使用で未然に防ぐことができます。
毎年の定期的な予防薬はとても大切です。 動物病院でわが子にあったものを処方してもらい、安全、確実に犬の健康を守りましょう。
