犬のアトピー性皮膚炎とは?どんな病気?

犬のアトピー性皮膚炎は、何らかの刺激に体が過剰に反応し、皮膚がかゆくなる病気です。

犬において、体がかゆくなる原因はさまざまです。例えば食事が合わない、細菌・真菌感染により皮膚が炎症を起こす、ハウスダストや花粉に対し体が拒否反応を起こすなどがあります。原因が明確なものでは、蚊やノミに刺された、疥癬やダニの寄生によるかゆみもあります。

これらのうち、細菌や寄生虫などの感染がなく、ハウスダストや空気中のカビ、花粉など本来は無害であるはずの環境からの刺激に、過剰に反応してかゆみがでる皮膚炎を、アトピー性皮膚炎といいます。食事に対するアレルギーからかゆみが出る場合は、アトピー性皮膚炎とは定義されません。しかし、食事アレルギーは、アトピー性皮膚炎を悪化させることがわかっているため、また、アトピー性皮膚炎を発症する犬では、食物アレルギーを併発していることもあるため、アトピー性皮膚炎と診断された場合は、食事管理が必要になることもあります。

どんな症状?

ボストンテリア

初期は、湿疹や皮膚の赤みなどの皮膚症状はなく、かゆみだけがあります。掻くことで傷ができて、症状が悪化してしまうこともあります。環境からの刺激に対する反応であるため、症状は季節によって変化し、アトピーの原因物質が増える時期にかゆみが強くなる傾向があります。例えば花粉なら春先、カビなら梅雨のころに症状が強くなります。

かゆみの症状が進むと、目や口、肛門の周囲、足先などに発赤や脱毛が見られるようになります。また、最初に症状が出始めるのが、3歳以下の若い犬であるのも特徴です。6~7歳など、中高齢になってから急にかゆみが出る場合は、アトピー性皮膚炎ではなく、別の原因かもしれません。

原因は?

皮膚がかゆくなるのは、刺激に対し体が過剰に反応するからですが、これは根本的には、遺伝による体質が原因になります。本来、皮膚にはバリア機能があり、アレルギー物質を含むさまざまな刺激が入ってこないようになっています。ところが、アトピー性皮膚炎を患う犬の皮膚は、このバリア機能が低下しているため、アレルギー物質が体内に入りこんでしまい、かゆみを引き起こすのです。

アトピー性皮膚炎にかかりやすい犬種は?

遺伝的な素因により、アトピー性皮膚炎になりやすい犬種が存在します。 アニコム損保の調査によると、フレンチ・ブルドッグシー・ズーはアトピー性皮膚炎にかかりやすい傾向があることがわかっています。

※かかりやすさ:病気にかかった頭数 / 全体の頭数

また、犬種ごとにアトピー性皮膚炎の初診時年齢を見ると、フレンチ・ブルドッグポメラニアンは比較的若い年齢から通院が始まっており、特にフレンチ・ブルドッグはアトピー性皮膚炎にかかるリスクが高く、若い年齢から注意が必要だと言えます。

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種では、日頃から愛犬の様子をよく観察して、気になる症状が見られたら、早めに動物病院を受診することが大切です。

治療法は?

なでられるラブラドール・レトリーバー

治療には、症状を抑えることを目的とした対処療法と、体内の免疫機構を整える根本治療の二つがあります。アトピー性皮膚炎は、根本的な原因は体質によるものなので、完璧に正常に戻すことは、難しいです。そのため、対症療法を主に、二つの治療を組み合わせて行われることが多いです。

アトピー性皮膚炎にならないように予防する薬はありませんが、治療により、症状の悪化を防ぐことはできます。根本治療としては、減感作療法や再生医療という治療が行われます。

原因の除去

ジャックラッセルテリア

アトピー性皮膚炎は、環境からの刺激に対する反応のため、刺激となる原因物質の除去が、治療の第一になります。ハウスダストが原因であれば、こまめな掃除が大切です。愛犬が主に過ごす部屋を、カーペットや畳からフローリングに変えることも効果的です。カビや花粉が原因であれば、こまめな換気や空気清浄機の使用が勧められます。

また、真菌や細菌感染が、かゆみを悪化させる原因になるので、抗菌シャンプーで清潔を保つようにしましょう。普段のお手入れとしては、低刺激性または保湿作用の強いシャンプーを使うとともに、保湿剤を使用してスキンケアをすることで、皮膚バリア機能を助けてあげるようにしてください。これらは、治療としてだけでなく、症状を抑えるための予防措置としても効果的です。

かゆみのコントロールのための投薬

かゆみが強い場合は、ステロイド剤の使用が効果的です。かゆくて掻いてしまうと、皮膚はダメージを受け、外からの刺激に対する抵抗力がより失われてしまいます。そのため、かゆみを抑える治療はとても大事です。ただし、ステロイドは副作用が出やすいため、投薬が長期に渡る場合には、シクロスポリンなどの、副作用が出にくい免疫抑制剤が使われます。費用はステロイドの方が安価で数千円、免疫抑制剤は常用することも多く、1ヶ月の薬代が数万円にもなることもあります。

「再生医療」という選択肢

「アトピー性皮膚炎」の治療法のひとつとして、「再生医療」という選択肢もあります。「再生医療」とは「細胞」を用いて行う治療法です。方法は以下のとおり、とてもシンプルです。

この治療法は、本来、身体が持っている「修復機能」や「自己治癒力」を利用して、病気を治していくものです。手術などに比べると身体への負担が少ないことも大きな特徴です。

アトピー性皮膚炎に対する再生医療は現在まだ臨床研究段階ですが、あきらめないで済む日がくるかもしれません。ご興味のある方は、かかりつけの動物病院の先生に相談してみてください。

まとめ

なでられるゴールデン・レトリーバー

アトピー性皮膚炎は体質による、ハウスダストや花粉など環境からの刺激に過剰に反応して、体がかゆくなる病気です。アトピー性皮膚炎と診断された場合は、皮膚を清潔に保ち、なるべく環境からの刺激を受けないように気を付けてあげましょう。また、治療はステロイドなどの投薬によるかゆみのコントロールが主ですが、新しい治療として、再生医療という選択肢もあります。愛犬のかゆみが気になる場合は、一度かかりつけの動物病院に相談してみると良いですね。

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監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーに。病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。