家庭内での事故でも起こりやすい火傷(やけど)。人でも応急処置ですぐに冷やす必要がありますが、犬も同様です。火傷の深度や面積によっては全身状態の悪化を起こすため、病院での治療を要する場合もあります。また、応急処置の冷やし方にも注意が必要です。全身が冷えすぎると低体温症を起こす可能性もあります。適切な応急処置の方法や、事故が起こりやすい状況を知って、万が一に備えましょう。

犬の火傷(やけど)とは?

熱が原因で組織が障害される外傷のことです。
化学物質や感電によっておこる「化学的熱傷」「電気的熱傷」を広義のやけど(熱傷※)と呼ぶ場合もあります。
※火傷は医学専門用語では「熱傷」と呼ばれます。

低温火傷(やけど)とは?

あたたかいと感じる程度の熱(約40~50℃)に長時間触れることによっておこる火傷を「低温火傷」と言います。氷雪などにさらされて組織が傷害される「凍傷」とは別物です。

火や電熱器などの高温への接触でしたら、痛みで反射的に熱源を避けるため、火傷の部位は小さく、損傷も表面的ですむことが多いです。
しかし、心地よく感じるあたたかさだと痛みを感じないため、長時間、接触を続けてしまい、深部まで持続的に加温されてしまうことがあります。
そのため、低温火傷では気が付かない間に重症化する事例が多い傾向にあります。

犬の低温火傷は、ペットヒーターや湯たんぽ、こたつや電気毛布、ホットカーペットなどが原因となることが多いです。
長時間同じ姿勢で眠り続けて、低温火傷をしてしまうケースが多いため、ヒーター類を使用する際は注意が必要となります。使用する場合は、目を離さないようにして調整してあげるようにしましょう。

どんなことが原因で起こるの?

火傷の原因は大きく分けると3つあります。

1.熱
火傷の代表的な原因です。火炎や電熱器、ヒーター類、お湯や油、水蒸気、真夏の地面などの熱で起こります。
犬の場合は家庭内、とくにキッチンやリビングでの事故に警戒が必要です。人間の食事のにおいに惹かれて、熱いとわからずに接触する可能性があります。

具体的には、
・熱い飲み物や、食べ物を倒してしまう
・揚げ物の油はねがかかる
・調理中、調理直後の熱を持ったフライパンなどに触れてしまう
・電気ポットを倒す
などです。

2.化学薬品
化学的熱傷の原因です。強い酸やアルカリ、刺激性の物質などで起こります。
家庭内ではトイレの洗剤や塩素系漂白剤(ハイター)、排水溝クリーナーや洗濯槽のカビ取り剤などが該当します。「混ぜるな危険」「手袋使用」「換気」などの注意書きがある製品です。

3.感電
電気的熱傷の原因です。落雷や切れた電線などによる高電圧の事故のほか、家庭内の身近な電気コードでも起こります。
スマホの充電コード、こたつのコード、電気ポットコードを噛んで遊び、接続部などから感電する恐れがあります。
口の粘膜など接触部の局所的な損傷ですむこともありますが、高電圧では心臓や脳へのショックの危険もあります。

火傷(やけど)するとどんな症状?

火傷の深度により、症状の程度が変わります。

・表皮だけが傷害された場合
熱いものに一瞬触れてしまったという程度の火傷でしたらこのケースが多いでしょう。表皮に赤みが出て、少し分厚くなります。皮膚がめくれたり、痛みが出ることもあります。ごく小さな火傷でしたら、家庭内の応急処置が適切にされれば、数日で回復する場合もあります。

・真皮も傷害された場合
お湯や熱い油などの液体をかぶったなど、接触時間が長めになったり、比較的高温のものに触れた場合は真皮まで障害がおよぶこともあります。
火傷部分の皮膚がじゅくじゅくと湿っぽくなったり、強い赤みや水膨れを伴うことがあります。痛みも強く、傷口からの感染や体液喪失が懸念されるため、動物病院での治療が推奨されます。

・皮下組織や筋肉など深層部まで傷害された場合
火災や爆発などの事故に巻き込まれて重度の火傷を負ったときには、皮膚だけではなく筋肉や脂肪などまでダメージがおよぶことがあります。このようなケースでは受傷面積が広くなるので、傷口からの浸出液(「滲出液」という傷を治す成分を含む液のこと)の消耗も激しく、脱水や低タンパク血症、低体温症、感染症による敗血症を起こすこともあります。輸血や皮膚移植、数ヶ月単位の治療期間を要する場合もあり、残念ながら回復困難な致命的な状態に陥る場合もあります。

治療法や自宅でできる応急処置について

火傷をしてしまったとき、自宅でできる応急処置の方法をご紹介します。

応急処置

患部を冷却します。熱い油や刺激性の洗剤をかぶってしまった場合は、まず流水で洗いましょう。保冷剤や氷は直接でなく、タオルやガーゼなどで包んでからあててください。火傷の程度によりますが、30分程度を目安に冷却するとよいでしょう。
小型犬や、冷却が必要な患部面積が広いときは、全身が冷えて低体温症を起こすことがあります。飼い主さんの抱っこや毛布、室温の調節などで、冷えすぎないよう注意しましょう。

冷却後は痛みがでて、気にして患部を舐めることがあります。細菌感染を起こす可能性もあるため、できる限り舐めないよう対処しましょう。エリザベスカラーがある場合は装着しておくと舐め防止になります。おやつやおもちゃで気を引くのもよいでしょう。

動物病院での治療

火傷が数センチ以上の範囲におよんだり、皮膚の表面が赤くただれる、冷やした後も痛そうに気にしているときは、通院治療が必要です。

皮膚の表面がめくれて内部組織が露出すると、バリア機能が失われ、感染を起こしやすくなります。そのため、壊死した組織を洗浄・除去して、軟膏などで傷口を保護しながら、衛生的に管理します。傷の状態が安定するまでは、1日1回以上のケアが推奨されます。痛み止めや抗生物質を使用することもあります。

体表の広い範囲が火傷を起こすような大きな事故に巻き込まれた場合は、皮膚の局所的な問題にとどまらず、全身状態が悪化することがあります。
水分喪失や電解質異常、体温調節異常、血液の凝固系のトラブルが起こることがあります。点滴や輸血が必要になる場合には、入院での管理が行われます。

通院後のケアのポイント

火傷の傷口は、日に日に状態が変わるので、毎日の観察が必要です。新しい皮膚ができるまでは、感染を起こさないこと、死んだ組織をこまめに取り除くことが大切です。
ガーゼ、包帯等を使って傷を衛生的に管理する場合もありますが、犬はガーゼ類を誤食することもあるため注意が必要です。エリザベスカラーを装着したり、散歩時や食事中などのカラーを外している間はそばに付き添うなどして、誤飲事故対策を行いましょう。

また、肉球や足先に火傷を負った場合は、汚れが付着しやすく感染を起こしやすいです。トイレは常に清潔にする、雨の日の散歩は控えるなど注意してあげるといいでしょう。

治療費は?どれくらい通院が必要?

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬の火傷における1回あたりの治療費は3,240円程度、年間通院回数は1回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

予防法は?

火傷の事故は日常生活の中で起こることが多いので、飼い主さんが事故防止を心がけましょう。

肉球の火傷対策

日差しで熱されたアスファルトやマンホールなどの金属部分で火傷が起こりやすいです。足を上げて、いつもと違うような仕草がみられたら、熱さを感じたサインかもしれません。お散歩時には手のひらで地面を触って温度を確かめるようにして、歩く時間やお散歩場所には気をつけましょう。
夏のお散歩は早朝や日が暮れてからの時間帯がおすすめです。

キッチンでの事故対策

調理中のお湯や油がはねる、電気ポットを倒すといった事故が多いです。 実際に私が診療した症例では、抱っこしながら調理していた飼い主さんの腕と犬の背中が同時に火傷を負ったケースがあります。

前述しましたが、わずかな油はねや蒸気でも、犬の眼球に直撃するなど、大きな事故につながる恐れもあります。犬の体高の3倍程度は容易に手が届くものと想定して、愛犬の届く範囲に事故につながるようなものを置かないことを徹底するなど、家族全員で対策しましょう。キッチンには愛犬が入れないように柵などで仕切るのもおすすめです。

また、電気ポットはコードを引っ掛けて倒してしまうことも多いので、配線の位置にも注意しましょう。

化学薬品などの対策

トイレの洗剤や塩素系漂白剤(ハイター)、排水溝クリーナーなどの化学薬品は愛犬が届く範囲には置かないように、保管場所にはくれぐれも気をつけましょう。

コード類の感電対策

こたつのコードやスマートフォンの充電ケーブルなどは遊びのターゲットになりやすく、感電の原因になることがあります。犬の届かないところで使用しましょう。コードや電化製品への噛み防止の苦味スプレーは漏電・感電リスクを高めるため、使用は避けましょう。

愛犬の届く範囲にコードがないようにしたり、難しい場合はコードカバーをしたりするなど、事故が起きないような工夫をしましょう。

ペットヒーターの低温火傷対策

ヒーターの上で眠ってしまうと低温火傷を起こす可能性が高まります。自力歩行が困難な要介護犬や子犬は寒さに弱いので、ヒーター類は心強い味方となりますが、低温火傷予防が必要です。同じ部位が温めつづけられないように、2~3時間おきに寝返りをさせるとよいでしょう。

お留守番でそばにいてあげられないときは、ヒーターは利用せずに、エアコンを使用して空間ごと温めたり、毛布類での保温を行うなどがおすすめです。

愛犬のために対策を

火傷は家庭内で起こることの多い事故です。あらかじめ事故が多いケースを想定して、工夫することで危険を減らせます。
重症時には入院が必要になることもありますから、家族全員でおうちの中を点検し、十分に対策をしておきましょう。

監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。