子犬をおうちに迎えた際に気を付けたい病気のひとつに、犬の回虫症があります。

犬の回虫症は、犬に回虫という寄生虫が感染する病気で、消化器症状や発育不良を起こしたり、虫が組織に迷い込むことでさまざまな症状を起こしたりする可能性があります。また、人にも感染する人獣共通感染症として注意が必要です。今回は、犬の回虫症について解説します。

犬の回虫症とは?どんな病気?

犬の回虫症

犬の回虫症は、犬回虫(Toxocara canis)が感染することで起こる寄生虫症です。成虫は長さ5~20cmぐらいで、黄白色の糸状です。小腸に寄生し、雌はたくさんの卵を産みます。

便とともに卵が排泄されますが、とても小さいため肉眼では確認できません。そのため便を顕微鏡で観察し、卵を確認することで診断します。

便の中に出た卵は未熟な状態で感染力はありませんが、その後、環境下で成熟し卵の中に幼虫がいる状態になると感染力が備わります。成熟までの期間は20日程度です。成熟した卵は環境中での抵抗性が強く、長期間生存して感染の機会を待っています。

幼犬が感染すると、孵化した幼虫が十二指腸に入り込み、血液やリンパにのって肝臓、さらに肺へと移行します。その後、気管から喉を通って食道に入り込み、胃から小腸に到着し、成虫になり、卵を産みます。

成犬では、幼虫は成長することなく肺から血液にのって全身の組織へ移行し、幼虫のままとどまります。

げっ歯類などが成熟した卵を食べると、幼虫がさまざまな組織に移行しとどまります(待機宿主といいます)。

どんな症状?

ほとんどが無症状です。

ただ、幼犬に多数の成虫が寄生した場合には、下痢や嘔吐などの消化器症状や、お腹の異常な膨れ(太鼓腹)、発育不良、元気や食欲の低下が見られます。腸閉塞や胃や腸に穴が開くといった症状が出ることもあります。

また、全身の臓器に幼虫が迷い込むこともあり、中枢神経に迷い込んだ場合はけいれん発作が、眼へ迷い込んだ場合は、ブドウ膜炎や視力障害などが現れることがあります。

原因は?

犬の回虫症の原因

犬はどのようにして回虫に感染するのでしょうか?感染には主に3つの経路があります。

母子感染

最も一般的で重要な感染ルートです。

犬回虫は、成犬に感染すると幼虫が筋組織などで休眠していますが、妊娠すると胎盤を介して胎児に感染します(胎盤感染)。出産後に母乳を介して感染することもあります(経乳感染)。

回虫卵

便の中に出た未熟な卵が砂場などの環境下で成熟し卵の中に幼虫がいる状態になり、その状態の卵を犬が口にすることで感染します。

待機宿主

組織に幼虫を持っているネズミなどの待機宿主を犬が食べることにより感染します。

治療法は?

母子感染をした場合には、生後3週目から便に虫卵が排泄されるため、便の虫卵を顕微鏡で観察して診断します。1度では診断できない可能性があるため、繰り返し行う必要があります。

回虫症と診断されたら、駆虫薬を投与します。駆虫薬には飲み薬や背中に垂らすスポット剤など、さまざまなものがあります。病院で相談し、処方してもらいましょう。

ただし、駆虫薬は虫卵には効果がないため、3週間あけて2回以上駆虫する必要があります。

駆虫薬を使用すると、便に白い糸状の虫が出てきて驚くかと思いますが、これは薬の効果で小腸にいた成虫が排泄されたものなので安心してください。

下痢や嘔吐などの症状があれば、そちらに対しての治療を一緒に行います。

治療費はどれくらい?

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬の回虫症における1回あたりの治療費は2,480円程度、年間通院回数は1回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

予防法は?

犬の回虫症の予防法

幼犬の場合、母子感染の可能性があるため、可能ならワクチンを打ち始めるころまでに駆虫剤の投与をした方がいいとされています。

また、環境中の虫卵から感染しないように、多くの犬が排便した可能性がある公園の砂場などには近づかないようにしましょう。

野ネズミとの接触を避けるため、放し飼いや散歩中の拾い食いをさせないようにすることも予防につながります。

定期的に糞便検査を行い、駆虫薬を適切に投与することも大切です。

犬の回虫症は人にも感染する?

犬の回虫症は人に感染する可能性がある人獣共通感染症として重要な病気です。特に子どもは公園の砂場などから感染することがあるため、注意が必要です。また、鶏肉のレバーの生食などから感染することもあります。

人にも感染するので要注意!

人に感染した場合には、幼虫がいろいろな臓器を移行することで幼虫移行症を引き起こすことがあります。

肝炎や肺炎、脳であればてんかん発作、眼であれば失明など、重篤な症状が現れます。

犬の便の中の回虫卵が感染力を持つまでには一定の時間がかかるため、便を排泄したらすぐに処理するようにすると感染のリスクは低くなります。

また、人が砂場で遊んだ後や、庭で土を触った後にはしっかり手を洗い、レバーの生食などは避けましょう。

まとめ

犬の回虫症は、子犬で非常によく見られる寄生虫症ですが、無症状で気が付かず、人に感染してしまう可能性があるため注意が必要です。

子犬を迎えた際には、早めに便の検査や駆虫剤の投与を行い、安心して愛犬との生活を送りましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。