誰しも一度は耳にしたことはある、「貧血」という言葉。
一言で貧血と言ってもその種類はさまざまで、血液検査の結果によって分類されます。
今回のテーマである「再生不良性貧血(AA)」は、血液中のすべての細胞が減少してしまう病気です。
遭遇する機会は多くはありませんが、発症すると治療後の経過あるいはその見通しが良くないケースもあり、注意が必要です。
今回は、犬の再生不良性貧血について、原因、症状、治療法などを説明したいと思います。

犬の再生不良性貧血(AA)とは

血液の中には、赤血球、白血球、血小板という細胞が存在し、さまざまな役割を担っています。それらの細胞は、骨髄(こつずい)にある造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)から作られています。
再生不良性貧血(Aplastic anemia、AAと略します)は、その造血幹細胞が何らかの原因により減少することで、赤血球、白血球、血小板のすべての血液中の細胞が減少する病気です。

すべての血液細胞が減少する状態を汎血球減少症(はんけっきゅうげんしょうしょう)といいます。ただ、汎血球減少症の原因が、腫瘍の骨髄内転移や骨髄内異形成症候群(MDS)によるものは再生不良性貧血(AA)には含みません。

原因

犬の再生不良性貧血(AA)はどのような原因で起こるのでしょうか。

■特発性
先天性・後天性に、原因を特定できない状態で起こるものです。
犬のAAで最も多いのが、後天性の特発性AAです。免役を抑制する薬が効くことがあるため、自己免疫機序(自分の免疫細胞が自分の造血幹細胞を攻撃してしまうこと)の関与が考えられています。

■続発性
よく見られるのは、抗がん剤治療によるものです。抗がん剤は、骨髄抑制(骨髄の造血幹細胞にダメージをもたらすこと)を起こすことがあります。その他には、分子標的薬(病気の原因となっている特定の分子にだけ作用するように設計された治療薬のこと)や放射線治療なども骨髄抑制を起こす可能性があります。
他には、エストロゲンというホルモンが過剰になることで起こるケースもあります。エストロゲンは卵胞ホルモンとも言われ、男の子の精巣腫瘍の一つであるセルトリ細胞腫や、女の子が卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)、卵巣腫瘍の一つである顆粒膜細胞腫(かりゅうまくさいぼうしゅよう)といった病気になると過剰に産生されます。また、尿失禁の治療でエストロゲンを投与されている場合にも過剰になることがあります。
その他にも、マダニにより媒介されるエールリヒア感染症などが原因になることもあります。

再生不良性貧血(AA)にかかりやすい犬種・年齢・特徴は?

再生不良性貧血(AA)は、かかりやすい犬種や年齢の報告はいまのところありません。
ただ、原因のひとつになる精子の形成を支持する細胞であるセルトリ細胞が腫瘍化したセルトリ細胞腫は、停留精巣(潜在精巣や陰睾ともいいます)がある犬で発症のリスクが高くなります。停留精巣とは、精巣が陰嚢(精巣が入る袋)に降下せず、お腹の中や太ももとお腹の境の部分である鼠径(そけい)にとどまっている状態のことを言います。
停留精巣は、トイ・プードル、ポメラニアン、ミニチュア・ダックスフントなどさまざまな犬種でみられます。生後6ヶ月までに精巣が陰嚢に下降していない場合、高齢になってから精巣腫瘍が発生する可能性が高くなるため、早めに去勢手術を行うことが勧められています。

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症状

赤血球、白血球、血小板それぞれに役割があり、それらが減少することでさまざまな症状が現れます。重度になると、貧血や感染症などで命を落としてしまうこともあります。

■赤血球減少(貧血)
赤血球は酸素を全身に運ぶ働きをしています。減少すると、元気や食欲の低下、疲れやすい、ふらつく、口腔内の粘膜が白くなるなどの症状が見られます。

■白血球減少
白血球は細菌やウイルスなどの異物を細胞内に取り込んで無害化する働きがあります。そのため、減少するとさまざまな感染症にかかりやすくなり、発熱や肺炎、膀胱炎などを起こします。

■血小板減少
血小板は血液を凝固する働きがあります。減少すると、出血しやすい、血が止まりにくい、青あざ(紫斑)や点状の出血が体表に認められる、口や鼻からの出血、血尿、血便などの症状がみられます。

診断

血液検査を行い、汎血球減少症が見られた場合には再生不良性貧血(AA)が疑われます。
確定診断には、骨髄の組織を検査することで行います。再生不良性貧血(AA)の場合、骨髄組織がほとんど脂肪に置き換わっています。

治療

再生不良性貧血(AA)は、どのような治療法があるのでしょうか。

原因の除去、治療

投薬している薬剤が原因と考えられる場合には、投与を中止します。放射線治療中であれば中断します。
精巣や卵巣に問題がある場合には、原因を取り除くために去勢・避妊手術を行いますが、出血しやすくリスクが高いため、輸血をしながら細心の注意をはらって手術を行う必要があります。
特発性の場合、免疫の関与を疑ってステロイドやシクロスポリンといった免疫抑制剤を投与します。

造血の促進

G-CSFやエリスロポエチンといった造血を促す働きがある薬剤を投与することで、一時的に血液の細胞数が増加する可能性があります。

支持療法

輸血を行い、血液成分を補います。感染症がある場合には、抗生剤を投与します。

ただし、造血幹細胞のダメージが重度の場合、治療に反応せず治療後の経過あるいはその見通しが良くないケースになる可能性があります。
また、反応しても骨髄の回復には長時間かかるため、長期的な治療が必要になることが多いです。

予防法は?

特発性の場合、予防法はありません。ただ、定期的な血液検査を受けることで重症化する前にこの病気の可能性を発見することができるかもしれません。
また、精巣や卵巣の病気によるAAの発生を防ぐために、若くて健康なうちに去勢・避妊手術を受けることが予防につながります。

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犬の去勢手術はいつすればいい?メリットやデメリットは?

抗がん剤治療や放射線治療など、骨髄抑制を起こす可能性のある治療を行っている場合には、こまめに血液検査を行うようにしましょう。AAを早期に発見した場合、治療を中止するだけでも回復する可能性があります。

さいごに

犬の再生不良性貧血(AA)はまれな病気ですが、体にとって大切な働きを担っている血液細胞が減ってしまうことでさまざまな症状を引き起こし、時には命に関わることもある怖い病気です。
早期発見により回復する可能性が高くなるため、定期的に血液検査を受けることが大切です。
また、避妊・去勢手術は予防の一つになります。手術には適切な時期があるため、犬を迎えたら早めにかかりつけ医で相談しましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。