普段、愛犬の排尿の様子を観察していますか?排尿の様子から健康状態を把握し、病気の可能性を探ることができます。ここでは排尿に関するトラブルとの関連が比較的高い膀胱炎について、どんな症状が現れるのか、そしてそれらの原因や対策などについてご紹介します。

犬の膀胱炎とは?どんな病気?

膀胱という器官は、尿を溜めることが重要な役割ですが、溜まった尿を押し出すために収縮する機能も持っています。このため、膀胱は尿が貯まるほど容積が大きくなり、収縮しながら尿を押し出してまた小さくなる特徴を持っています。このように大きさを変えることができるのは「移行上皮」と呼ばれる特殊な上皮細胞(※)が膀胱の壁を作っているからです。

膀胱に一時的に溜められる尿は、腎臓を通った血液から取り除かれた老廃物を含みます。この尿の濃さは、からだの状態、特に血圧や水分摂取量の影響を受けます。からだにとって不要なもの・害となるものが集められることを考えると、濃い尿を長時間膀胱内に貯めておくことが、あまり良くないことだとおわかりになると思います。膀胱にとって良くない刺激が続くことで炎症が引き起こされた状態が、膀胱炎です。

※皮膚など体の表面や、器官の表面を覆っている細胞のこと

どんな症状?

毛布にくるまるボーダーコリー

膀胱で炎症が起こった場合、どのような症状が見られるのでしょうか?膀胱炎が進行するにつれて現れる兆候もあります。膀胱炎になった時の症状を発見しやすくするため、普段の排尿の様子をよく観察しておくことが大事です。ここでは、日常の排尿時にこのような症状が出ていたら膀胱炎かもしれないという変化や行動についてご紹介します。

初期症状

膀胱炎の初期症状で目につくのは、いわゆる「頻尿」と「残尿感」です。膀胱の内部で炎症が生じていると、それが刺激となって常に尿意を感じることとなります。その結果、膀胱に十分な量の尿が溜まる前に排尿をします。このように排尿の回数が増えることを頻尿といい、普段の1回分の尿の量よりも少ないために「少量頻回」の排尿がある、とみなされます。

「残尿感」については、常に尿意を感じているので膀胱がほとんど空の状態でも排尿姿勢をとることで確認できます。排尿が終わったはずなのに排尿姿勢を続けたり、排尿姿勢をとっているのに尿が出ていない、がこれに当てはまります。注意していただきたいのが、尿路(尿の通り道)のどこかに結石などが詰まってしまった場合にも似た行動をするということです。このように結石などで尿路がふさがってしまうことを大まかな分類で「尿路閉塞」と呼びますが、結石が刺激となって膀胱炎になる場合や、重度の膀胱炎が原因で尿路閉塞が引き起こされる場合などがあり、尿路閉塞と膀胱炎が互いに関係していることもあります。治療方法は異なりますが、いずれにせよ早期の治療が必要な状態なので、「残尿感」を疑う姿勢が認められた場合は速やかに受診してください。

症状が進行すると…?

ふせをしているラブラドール・レトリーバー

膀胱炎が細菌感染によるものであれば、重度になると尿の中に炎症の産物である膿(うみ)が検出されます。このような尿を膿尿(のうにょう)といい、尿は濁った見た目になります。臭いがきつくなることもあります。炎症が重度の場合や、膀胱内に結石があると、膀胱の内側が傷ついて尿中に血液が検出されるようになります。出血の程度により、排尿の最後にわずかに血液が確認されることもあれば、尿全体が真っ赤になることもあります。膿尿や血尿がみられるような状態では、たいてい排尿痛を伴います。排尿時に声を上げたり、トイレには行くものの排泄を躊躇したり、陰部を気にしてなめる様子がみられます。このように、膀胱の移行上皮への炎症によるダメージが持続すると、膀胱の本来の伸縮性に影響を及ぼすようになり、痛みも伴うことで、まとまった排尿をすることをさらに難しくします。

膀胱の炎症は、膀胱とつながっている尿管や腎臓に波及することがあります。尿の通り道と腎臓との境目にあたる「腎盂(じんう)」や、腎臓そのものに炎症がある状態を「腎盂腎炎(じんうじんえん)」といいます。膀胱炎から腎盂腎炎を合併した状態は、かなり広範囲に炎症が及んでいる状態ですので、腹痛、発熱、嘔吐などの急性の症状が認められることがあります。腎臓の機能を損なう可能性のあるかなり危険な状態です。

膀胱結石が存在する場合は、結石が排尿される途中で詰まってしまう危険性もあります。詰まったことによって生じる痛みに加え、前述した排尿姿勢をとるけれど尿が出ない症状に始まり、尿が出て行かずにどんどん貯まってしまうことによる腎障害や、尿中の毒素が全身に影響してしまう尿毒症を引き起こすと、食欲低下・嘔吐・意識障害などの重篤な症状が現れます。

このように、膀胱炎は命の危険を伴う他の合併症にさらされることがあるので、早期発見と早期治療が何より重要です。

原因は?

ふせをしているキャバリア

犬で、膀胱炎を起こす原因として多いのが細菌感染です。

細菌によるもの

膀胱内で細菌が増える原因の1つに、尿道口(尿が出るところ)から侵入した細菌が膀胱に到達してしまうことが挙げられます。通常であれば、定期的に尿が出ることで、侵入してくる細菌は洗い流され、尿路を守る免疫系統も働いていますが、尿がしっかり出ていない時、からだの免疫系が弱くなっている時など、尿道口がたくさんの細菌に長くさらされる環境になると感染が成立してしまいます。この場合、検出される細菌の種類はほとんどの場合、便(腸)の中にいるものです。このような細菌が膀胱で増殖してしまい、炎症反応を引き起こすのです。

膀胱炎と同じくらいよく見かける膀胱のトラブルで、膀胱炎とも強く関係するものに「膀胱結石(広い意味で尿の通り道にできる「尿路結石」のうちの1つ)」があります。この結石は、膀胱内の尿のpH(液体が酸性かアルカリ性かを表す時の単位)や成分など、膀胱内の環境が条件となって作られやすくなります。環境の条件には、食事内容・食事時間や、先ほどの細菌の種類が関わってきます。細菌によっては、尿の性質を大きくアルカリ性に変化させるものがあるためです。結石が作られる条件が持続し、「石」が膀胱内に作られると、膀胱を傷つけるなどして炎症を引き起こします。このように、膀胱炎が結石をできやすくしたり、結石が膀胱炎を助長したりする場合もあるのです。

膀胱炎になりやすい犬種もあるの?

特定の犬種で膀胱炎が多そう、という報告もされていますが、基本的にどの犬種でも膀胱炎になります。ただし、女の子の方が男の子よりもなりやすく、特に高齢の女の子で発生リスクが高いとする報告が多くみられます。女の子で多いのは、男の子よりも尿道口から膀胱までの長さが短いので、細菌感染しやすいという理由が挙げられます。

腫瘍によるもの

犬の膀胱に発生する腫瘍で最も多いのは「移行上皮がん」です。初期症状は、細菌感染などによる膀胱炎の症状とほとんど変わりません。エコー検査で発見することができ、抗生物質を使って細菌を抑えた後も症状が治まらない場合などはこの検査が必要になります。エコー検査で発見される膀胱内の「できもの」には、他に良性の腫瘍や、炎症が長引いてできたポリープがあります。

生殖器のトラブルによるもの

生殖器のトラブルが尿路に及んだ結果、膀胱炎になる場合があります。男の子であれば前立腺に関連した疾患、特に前立腺炎が原因で膀胱炎を発症することがあります。前立腺は膀胱のすぐ近くの尿道につながっているためです。女の子では、子宮に問題があった場合に膀胱に関連した炎症を生じることがあります。子宮からの通り道と膀胱からの通り道の出口同士がそばにあるためです。原因の根本がどこにあるのかを見極める必要があります。

以上のように、膀胱炎を生じる原因はいくつもあります。特に細菌感染は他の原因で発生した膀胱炎でも認められます。適切な治療を行うためにも必要な検査を早期に受け、原因をしっかり特定しましょう。

もしなってしまったら、治療法は?

診察されるブルドッグ

膀胱炎は細菌感染や結石の存在、あるいは腫瘍の可能性など原因が多岐にわたります。最も重要なのは、原因を的確につきとめ、それに合った治療を行うことです。

細菌感染の場合

細菌感染が疑われる場合は、感染源となっている細菌を特定し、有効な抗生物質を選択しなくてはなりません。抗生物質は、耐性菌の問題がいわれていますが、耐性菌を生み出さないためにも、抗生物質を服用する場合は症状が改善しても自己判断で投薬を中止せず、必ず獣医師の指示に倣うようにしましょう。同時に結石が認められる場合は、外科的に取り出すことや、食事療法が必要になります。

腫瘍の場合

膀胱に悪性の腫瘍が形成された場合は、可能な限り摘出手術を行うことが望まれます。膀胱の中でも大事な部位に腫瘍ができると、外科手術を行うことが困難な場合があります。その場合は、放射線や抗がん剤の使用が選択肢として提案されるかもしれません。膀胱を全部摘出する方法もあり、この場合は尿を貯めておくことができなくなるので、おむつをつけるなど生活に工夫を取り入れてください。

早期発見・早期治療が大切

獣医とウェストハイランドホワイトテリア

膀胱炎は時間経過が長くなるほど改善するまでに時間がかかったり、原因によっては再発しやすくなったり命に関わったりします。「ちょっと様子を見よう」というのは避け、早めに獣医師の診察を受けることが重要です。

治療費はどのくらい?

まず、原因の特定を行うための検査に費用がかかります。尿検査は尿の状態から膀胱の中の状態を推測するのに必須です。試験紙を使ったり、顕微鏡で観察したりします。

細菌感染がある場合は、細菌培養検査や感受性試験といわれる、適切な抗生物質を使用するための検査が行われます。その他、膀胱の形や粘膜の様子をはじめ、関連する臓器などを観察するための腹部エコー検査やX線撮影を行うこともあります。膀胱炎の背後にある疾患を探るために血液検査が必要な場合もあります。このように、状況によってさまざまな検査が行われることになるため、一概に膀胱炎の検査費用と言っても数千円から2~3万円(またはそれ以上)とかなり幅があるのが現状です。

膀胱腫瘍に対して外科手術を行う場合は、手術や一定期間の入院が必要となるので20~30万円(犬のからだの大きさによっても差がでます)ほどかかることもあります。

膀胱炎の原因となっている膀胱結石の治療や予防の一環で療法食に切り替える場合、食べる量によっても差が出ますが、3kgのフードで、6,000円程度です。

予防方法は?

ミニチュア・シュナウザー

原因として一番多い細菌性膀胱炎に対しては、膀胱に細菌が侵入するリスクをできるだけ減らすことが対策の一つとして挙げられます。もともと外陰部やペニス周囲の皮膚は排泄による汚れが付着しやすく、それによって皮膚炎を起こしやすい部位です。清潔に保つことが、結果として膀胱炎の予防対策につながります。

また、トイレを長時間我慢させることも控えましょう。このために、排泄しやすいトイレ環境の整備を心がけることが重要です。お散歩時の排泄だけでなく、家の中でも排泄する習慣を身に着けておくと雨の日なども安心です。

膀胱炎には、どうしても予防しきれない原因もあります。この場合、異常を早く発見してあげることが鍵となるため、冒頭でお話しした排尿の様子の観察を是非実行してください。

まとめ

犬の膀胱炎は、一見軽度なものも多いように感じますが、再発や慢性化が問題視されている疾患でもあります。また、なかなか症状が改善しない場合はその裏に別の問題が潜んでいることもあります。愛犬の異変に気付いたら、早い段階で診察を受け、それに合わせた治療をきちんと行うことが不可欠です。

【関連リンク】
膀胱炎 <犬>|みんなのどうぶつ病気大百科

監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。