
おならというと、私たち人間の場合ちょっと恥ずかしいものという認識があります。このおならですが、犬でもすることがあり、実は犬の健康状態を反映している側面があります。その回数やにおいなどから病気の可能性が疑われることもあります。今回は、そんな犬のおならについてご紹介していきます。
犬のおならの基礎知識

まず、そもそもおならとは何なのか?というところからご紹介します。おならは消化管の中に入り込んだ、あるいは発生したガスが肛門から放出されたものをさします。消化器の中から体外にガスが排出されるのは口かあるいは肛門からしかありません。消化器の中でも、お尻に近い部分のガスがおならとして出されることとなるのです。
犬はおならをするの?
「犬もおならをするのか?」と、時々飼い主さんから質問されることがあります。結論はどうかといいますと、YESです。人間と犬では、食べているものが多少異なりますが、消化器の構造に大きな違いがあるわけではありません。したがっておならが発生する可能性は同様にあるといえます。
筆者が診療している際にも、犬が緊張や興奮をしたことでおならが出てしまっている光景にしばしば遭遇します。おならが発生する理由や回数、さらにはにおいなどを通じて、体の健康に影響するものなのか、あるいは病気の存在が疑われるものなのかを判断する指標にできるのです。
犬のおならの音は?
人前でおならが出てしまい、そこに音が発せられたら恥ずかしくなってしまいますね。犬のおならには、人間と同じように音が出る場合と、そうでない場合の両方存在します。音が大きく出てしまうおならは、1回の放屁に排出されるガス量が比較的多く、しかも勢いよく出された時に多く見られます。
音の出ない場合は、少々においが強めで、おなかの調子がすっきりしない場合に多く見られる傾向があります。人間でも音の出ないおならのにおいが強めであるのと共通している部分があります。
犬のおならのにおいは?
強い臭気を伴うおならは、消化器の働きがいつもと異なる可能性があるかもしれません。例えば、消化器そのものの働きが低下している場合や、口にしたものに問題があった時などが挙げられます。原材料の異なるフードに替えてみたところ、おならのにおいの強さや質が変わったということは珍しくはありません。主原料の肉やそのほかの食材が、おならのにおいに影響することがあるからです。
犬がおならをするポーズは?
犬がおならをする時の姿勢は、どのような時におならが出てしまうのかという条件に影響されます。例えば、強い興奮状態でおなかに力みが加わった時は、特定の姿勢をしているわけではありません。吠える際、あるいは勢いよくジャンプしたときに出てしまった…ということもあります。排便の姿勢を取った時に排便と同時におならが出ることもあります。
前者は興奮した際や運動している最中に、開口呼吸した時に飲み込んでしまった空気の一部がおならとして排出されるケースで多く見かけます。後者は消化器の不調が関連していることが考えられます。特に排便と同じタイミングで出るおならは消化機能に何か問題がある可能性があります。
犬のおならに関係する病気や原因

おならから健康状態を評価することができます。別の言い方をすれば、「良いおなら」と「不調なおなら」とが存在する、ということになるのですが、おならの回数や出方、においなどから病気の可能性が考えられる場合もあるのです。ここではおならと病気の関係、そしてその原因について紹介していきます。
イレウス(腸閉塞)
イレウスとは、別名「腸閉塞(ちょうへいそく)」と呼ばれる病気です。消化器のなかでも、小腸は最も細く、長いのが特徴です。胃は拡張すればかなり広い空間を生み出すことができますが、そこから先で内容物がうまく通過できずに、どこかで身動きが取れなくなってしまうと、イレウスを生じます。
犬の場合、食べ物ではないものを口にして、そのまま飲み込んでしまう事故が時折見られます。小さいものではボタンや梅干しの種、大きいものでは手袋といったものまで私たちが想像しないようなものを誤って飲み込んでしまうことがあります。腸のどこかで異物が詰まってしまい栓をするような形となり、食べたものがお尻の方向に進んでいかなくなります。そのため排便がない、あるいはあってもごくわずかしか出ない場合もあります。
また、腸内で発生したガスがおならとして排出される症状があります。その他にも、強い吐き気を生じ、同時に激しいおなかの痛みも現れます。異物が詰まってしまうことによるイレウスは「機械的閉塞」と呼ばれます。もう一つ、消化管の働きの低下が原因の「機能的閉塞」と呼ばれるイレウスもあります。
イレウスは原因を取り除くための外科手術が基本となり、緊急を要することが多くあります。迅速かつ適切な処置が行われれば回復につながります。
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腸閉塞 <犬>|みんなのどうぶつ病気大百科
慢性小腸性下痢
下痢は便に水分が多く含まれている状態のことを指します。この下痢を大きく2つに分類すると「小腸性下痢」と「大腸性下痢」に分けられます。
小腸は主に食べ物に含まれる栄養素を吸収するのが役目であるのに対し、大腸は水分を体内に吸収することを主に行います。後者の大腸性下痢は、本来大腸で行われるべき水分を吸収する機能が低下したことで便に水分が多く残った状態になります。排便の回数がかなり多く、時折、出血が混じったり粘液が排泄されるときは大腸性の下痢である可能性を考えます。
一方、小腸性下痢の場合、食べ物から栄養をうまく吸収することができないため消化不良となります。その影響で、においの強い下痢便とおならを排出します。場合によっては口臭が強くなることもあります。おなかの中でガスが発生するため、おなかが張った感じや腸からゴロゴロした音が聞こえることもあります。
この小腸性下痢の原因には、腐ったものを食べたなどの食あたりをはじめ、寄生虫やウイルス感染、食物アレルギーなどが関連していることがあります。おならの回数が多く、軟便や下痢を伴う場合は小腸の機能に何らかの問題がある可能性があります。
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犬のうんちがいつもと違うとき|みんなのどうぶつ病気大百科
膵外分泌不全症(すいがいぶんぴふぜんしょう)
膵臓は、食べたものを消化するために必要な酵素を分泌している臓器です。この膵臓から本来分泌される消化酵素が十分でないことによって慢性的に消化不良を起こすものが、膵外分泌不全症(すいがいぶんぴふぜんしょう)と呼ばれます。
比較的若い犬で発生する傾向があります。消化管で小腸による栄養吸収ができないことで、下痢やガスの発生がみられます。また便のにおいも強めとなります。食事と一緒に消化酵素剤を与えると、小腸で栄養を効率よく吸収でき、改善が期待できます。
ストレス
一口にストレスといっても、体に及ぼす影響はさまざまです。消化管の働きは精神的な緊張で変化します。長時間ストレスのかかった状態が続くと、交感神経という自律神経が優位に働きます。交感神経は消化器に対して機能を抑えるように作用するので、その結果、食欲が上がらない、消化機能が停滞するという変化が現れます。
ペットホテルに預けるなど慣れない環境であれば排泄を我慢することも考えられ、さらにその条件が悪化することがあります。緊張で息を飲み込むことが増える場合もあり、これもストレスによるおならの増加につながります。
犬のおならの改善方法

おならの中には、おなかの調子が悪いことによって発生するものがあります。おならの原因が判明できれば、それに合わせた対策を行うことでおならの回数や質の改善につなげることができます。
食事内容の見直し
食事内容の見直しは、小腸での消化や栄養の吸収機能に大きな影響を与えます。消化に負担の生じる方法を見直すことが改善につながる場合があります。具体的には、フードを与える回数を増やしたり、1回に与える量を減らしたりするといいでしょう。消化不良によって不要なガスの発生を抑えることが期待できるからです。
水分を多く取る
勢いよくフードを食べるタイプの犬は、まるで掃除機のように空気も一緒に飲み込んでいきます。この時、消化器に入っていった空気がおならの発生につながることがあります。また、フードの水分バランスも重要な要素です。飲水量が少ない場合、消化に負担がかかってしまい、腸内でガスが発生することが増える可能性があります。適度な水分をとり、おなかにも十分な潤いを与えて、おならが発生しにくい腸内環境にしましょう。
ウェットフードにする
ドライフードをウェットフードに替えると、おならの発生が抑えられる場合があります。食べ物と水分のバランスを適正に維持することが余分な腸内ガスの発生を抑えることにつながっていると考えられます。愛犬にはどんなフードが適しているか、かかりつけの獣医師にご相談されるとよいでしょう。
犬のおならで注意するポイント

おならの中には、病気の存在が疑われるものもあります。注意しておきたいポイントをご紹介します。
おならの回数
おならの回数が急速に増えている場合は、消化器の働きに問題がある可能性があります。1時間に数度、おならをするのは、何らかの異常があることが考えられます。それに合わせて排便の状態に変化がないかも確認するとよいでしょう。
おなかが張っている場合
腸閉塞や重度の腸炎では、おなかの痛みを生じ、おなかに触れられることを嫌います。犬自身も苦しい状態であると考えられるので、この場合も様子を見ることはせず、早めに動物病院を受診することが望まれます。
さいごに

おならは、おなかの中の状態を色濃く反映する一種のサインです。ただ、健康な犬であってもおならをするので、回数やにおいなどに変化が現れても、見過ごされていることが多いのも事実です。おなかの働きが良好であれば、おならの回数は1日数度ほどで、においも鼻をつくほど強烈ではありません。
普段からおならのにおいをかぎ分けることまではしなくてもよいと思いますが、明らかに回数が増えている、においが強い、それに加えて食欲や排便の様子にも変化が現れているようなときは要注意です。個々に合った食事を選択して、腸内の健康にも気を配ってあげましょう。
