犬の耳が急に腫れ、パンパンに膨れていたら「耳血腫(じけっしゅ)」になっている可能性があります。耳介の中に血液や漿液(しょうえき/分泌液のこと)がたまる病気で、さまざまな原因により発症します。

早めに対処しないと、痛みや違和感を覚えたり、チャームポイントのかわいい耳が変形してしまったりするかもしれません。今回は、耳血腫について、症状や治療法、予防法を紹介します。

犬の耳血腫とは?どんな病気?

犬の耳は、ピンと立っていると「立ち耳」、垂れ下がっていると「垂れ耳」と言われます。その外側から見える耳の部分を「耳介」と言います。

耳介は主に皮膚と軟骨(耳介軟骨)でできています。

耳介内の血管が何らかの原因によって破たんすることで、耳介軟骨内や、軟骨とその膜の間に血液や漿液がたまり腫れてくる状態のことを「耳血腫」といいます。

人でも、柔道やラグビーなど繰り返し摩擦や打撲を受けるスポーツ選手で見られ、ギョウザ耳やカリフラワー耳などとも言われています。

どんな症状?

耳血腫になると、どのような症状が見られるのでしょうか。

症状

初期でまだ腫れが少ない状態では、耳を気にして掻く首を振る、耳を触られると嫌がるといった症状が見られます。

症状が進行すると…?

症状が進行すると、耳介の内側が腫れてパンパンに膨れ上がります。立ち耳の場合、片方だけ耳が折れ曲がることもあります。耳が腫れた痛み・違和感や外耳炎の併発により、激しく耳を引っ掻いたり、首を振ったりするといった症状が見られ、それによって耳の皮膚がただれてしまうこともあります。

腫れが部分的・軽度で飼い主さんが気付かず、治療しないまま長時間経過すると、耳が縮れ、変形した状態になります。

原因は?

原因で最も多いのは外耳炎です。

外耳炎は、アレルギーによる炎症、細菌や真菌、耳ダニなどの感染、植物の種などの異物、腫瘍などによって起こり、かゆみを伴います。それによって耳をひっ掻いたり、振ったりするという、耳介に物理的な刺激が加わることで発症します。

まれに中耳炎、内耳炎が原因で耳を気にしているケースもあります。その場合、耳の内視鏡検査やCT検査など麻酔をかけた検査が必要になることがあります。

また、犬同士でのケンカなどによる外傷が原因になることもあります。

しかし、そういった原因がなく耳血腫になることもあり、免疫疾患や血液疾患が要因になっている可能性もあると言われています。

かかりやすい犬種・特徴などはある?

どの犬種でも起こる可能性がありますが、中~大型犬、特にレトリーバー種での発症が多いです。また、中~高齢で多い傾向がみられます。

治療法は?

耳血腫の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。

内科療法

注射器で針を刺して貯留液(ちょりゅうえき)を抜き、ステロイド剤を注入する治療法です。その後、液体がたまりにくくなるように耳をガーゼや包帯で巻いて固定します。

外来で簡単にできる方法ですが、1度だけではすぐに液体がたまってしまうため、何度か行う必要があること、よくなってもすぐに再発する可能性があることが注意点としてあげられます。

外科療法

内科療法を繰り返してもすぐに液体が貯留したり、再発を繰り返したりする場合には、手術を行うこともあります。

耳に穴を複数個所開けて、中の貯留物を除去し、その後皮膚と軟骨を縫い合わせる方法などがあります。手術後はガーゼと包帯で耳を固定し、数日に1回ガーゼ交換をする必要があります。

注意点として、全身麻酔をかけるリスクを伴うことがあげられます。同じ部位の再発のリスクは内科療法に比べて低いですが、手術していない部位や反対の耳に耳血腫ができる可能性はあります。

基礎疾患の治療

他に、耳に関する基礎疾患がある場合、そちらの治療も同時に行うことがとても大切です。基礎疾患を治療しないと、耳血腫の治療に時間がかかる、再発する、反対側の耳に耳血腫ができるなどのリスクがあります。

治療費は?どれくらい通院が必要?

内科療法の場合には1回5,000円~10,000円、外科療法の場合には術前の血液検査なども含めて5万円前後になることが多いです。犬の大きさや病院の方針によって幅があるため、事前にかかりつけの病院で確認することをおすすめします。

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬の耳血腫における1回あたりの治療費は4,968円程度、年間通院回数は3回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

予防法は?

耳の疾患があると、耳血腫になる可能性が高くなります。そのため、耳が臭う、耳をひっ掻いたり振ったりしている、耳垢が多いなどの症状がある場合には早めに治療するようにしましょう。

ただし、特に症状がなく急に耳血腫になることも多く、その場合には予防が難しいです。早期に治療をすることで耳の変形を最小限に抑えられるため、耳の腫れに気が付いたらすぐにかかりつけに相談することが大切です。

まとめ

愛犬の耳介が急に腫れていたら、びっくりしますよね。

耳血腫は、命に関わる病気ではありませんが、痛みや違和感があり愛犬にとってストレスになるため、早めに治療してあげることが大切です。

日ごろから耳の状態を確認して、異常があれば早めに相談するようにしましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。