新しく女の子の犬を迎えた際に、確認しておきたいことのひとつに犬の生理があります。犬と人では、生理の周期や出血期間にかなり違いがあります。正しく知らないと、散歩中などに他の犬とトラブルになってしまうかもしれません。今回は、犬の生理についてお話しします。

犬の生理(ヒート)とは

犬の生理は、人とは周期や出血期間にかなり違いがあります。人では生理痛がある人などもいますが、犬の場合はどうなのでしょうか。違いを説明します。

人の生理との違い

人の生理は月経ともいわれ、ほぼ1ヶ月周期で起こり、数日で止まる子宮内膜からの周期的な出血のことをいいます。妊娠が成立しないと女性ホルモンであるプロゲステロンの分泌が低下し、約2週間で子宮内膜が剥がれ落ち、血液とともに体外に排泄されます。出血期間は個人差がありますが、1週間ほどです。
子宮内膜がはがれる際に、プロスタグランジンというホルモンが分泌され、子宮が収縮する際に痛みを感じます。これがいわゆる生理痛です。

それに対して、犬の生理は、発情出血ともいわれます。犬の発情周期(発情から次の発情までの周期)は、5~10ヶ月と長いのが特徴で、①発情前期②発情期③発情休止期④無発情期の4つに区分されます。

発情出血は、発情周期の中で発情前期から発情期にみられる陰部からの出血のことをいいます。

はじめは赤褐色でややドロッとしていますが、次第に量が増えて赤く水っぽくなります。

発情前期の後半から発情期の前半にかけて赤ピンク~ピンク色になり、その後徐々に量が減って淡いピンク色になります。子宮内膜が充血することによる出血なので、痛みは特に感じないと言われています。

犬の発情周期について

前述した犬の発情周期について、それぞれ解説します。

  • 発情前期

発情出血が始まってから、雄犬に交尾を許容するまでの期間のことをいいます。持続日数は個体差がありますがだいたい7~10日間です。

卵胞からエストロゲンの分泌がおこり、外陰部の明らかな腫脹・充血や、子宮内膜からの出血による陰部からの血様粘液の漏出(発情出血)など、さまざまな発情徴候が始まります。

エストロゲンは発情期に向かって分泌量が増えるため、それとともに外陰部の腫れや発情出血もだんだん強くなっていきます。

膣分泌中の性ホルモンによって雄犬をひきつけますが、まだ交尾は許容しません。

  • 発情期

雄犬に交尾を許容する時期で、持続日数はだいたい7~10日ですが個体によって大きな幅があります。

排卵は発情期開始後3日で起こり、その後は卵胞が黄体に変わってエストロゲンの分泌量が減少します。

そのため、外陰部の腫れは発情期の4~5日をピークに退縮します。発情出血も発情期の中ごろから減少し、色も赤色から淡いピンク色に徐々に薄くなっていきます。

  • 発情休止期

発情出血が止まり、雄を許容しなくなる発情期の終了から、黄体が退行するまでの約2ヶ月のことをいいます。

黄体からプロゲステロンが分泌されますが、妊娠の有無にかかわらず分泌状況が同じです。

このホルモンの影響で、妊娠した時と同じように乳腺が発達し、乳汁がわずかに分泌されるようになります。これを生理的偽妊娠といいます。

  • 無発情期

発情休止期から次の発情前期までの4~8ヶ月のことをいいます。

卵巣は機能的な卵胞も黄体も存在しない休止状態にあります。この期間の長さは個体差が大きく、それによって発情周期の長さが決まると考えられています。

生理はいつから始まるもの?

生理はいつから始まるもの?

性成熟を迎える時期に起こります。一般的には6~10ヶ月齢ですが、小型犬では5ヶ月齢くらいで迎えることもあります。大型犬では10~16ヶ月齢くらいです。

生理の期間(出血期間)はどれくらい?

生理周期の中で、発情前期と発情期に出血が認められます。

発情前期と発情期はどちらもだいたい7~10日ずつですが、個体によって幅があります。

量も個体によって差があり、少なかったり犬が自分でなめとっていたりすると、飼い主が気付かないこともあります。

また、高齢になると発情周期が不規則になり、出血量が少なくなる傾向にあります。

生理前や生理中、生理後の症状について

生理前や生理中、生理後にはどのような症状が見られるのでしょうか。

生理前

発情前期の開始1.5ヶ月前くらいから、外陰部がわずかに腫大し、発情開始の準備が始まります。

生理中

発情前期に入り、外陰部が腫大して発情出血が始まると、落ち着きがなくなり、頻尿などの症状が見られるようになります。元気や食欲が普段よりも落ちて、お散歩を嫌がることもあります。

外陰部を気にして舐めるなどの症状が見られることもあります。

生理後

生理出血が終わり発情休止期になると、先述したように妊娠している・いないに関わらず同じようにプロゲステロンというホルモンが分泌され、排卵後15~25日をピークに徐々に減少します。

そのホルモンの影響により、排卵後40日ごろから乳腺が発達し、犬の妊娠期間が終了し出産を迎える60日ごろには、妊娠していなくてもしぼるとわずかに乳汁が分泌したり、ぬいぐるみやおもちゃなどを抱えてケージに持ち込み、まるで子育てをしているようにふるまったりするなど、偽妊娠の症状が見られることがあります。

また、この時期は子宮に膿がたまる「子宮蓄膿症」という病気が起こりやすいため、注意が必要です。

出血とうまく付き合うために

ミニチュア・シュナウザー

生理中は、外陰部から出血が認められます。どのように対処したらいいでしょうか。

おむつやマナーパンツの利用について

おむつかぶれが起こることもあるため、つけっぱなしにしないで外す時間を作ってあげて、陰部を清潔に保つようにしましょう。また、陰部周りの毛を短くして汚れが付きにくくするのもいいでしょう。

出血量は個体差がありますが、特に小型犬は出血量が少なく自分でなめとってきれいにする子が多いため、おむつやマナーパンツが必要ない場合もあります。出血が多く、カーペットなどを汚してしまう場合にはしてあげるといいでしょう。

陰部をふいてあげるのは必要?

基本的には、自分でなめてきれいにするのであれば拭いてあげる必要はありません。もし、出血量が多くて固まったり、うんちやおしっこによって陰部や周りの皮膚がよごれていたりする場合には拭いてあげるといいでしょう。ゴシゴシ強くこすると、陰部や周りの皮膚が荒れてしまうため、濡れたコットンや犬用のウェットティッシュなどで優しく拭くようにしましょう。必要に応じて、ぬるま湯で洗い流すとよいでしょう。また、長毛の子はどうしても汚れが付きやすいため、汚れやすい部分の毛をカットしておくのもよいでしょう。

気を付けてあげたいこと

その他に気を付けることはあるのでしょうか。

お家の中でのこと

お家の中で

生理中は、ソファやカーペットなどを汚してしまうことがあります。オムツをはかせる、洗い替えのできるタオルをいつもいる場所に敷いてあげるなどによって防ぐことができます。

生理後、偽妊娠になり、ケージにぬいぐるみなどを持ち込んで子育てをしているかのような行動をとっている場合には、警戒心が強くなっているため、取り上げようとすると噛みつこうとしたりする可能性があります。そっと見守ってあげるようにしましょう。

同居犬がいる場合は、いつもより犬たちを気にかけてあげましょう。普段は仲良しな犬同士でも発情期になるとケンカなどトラブルが起こってしまうことがあります。また、望まない妊娠を避けるために未去勢の雄犬がいる場合は部屋を完全に分けるなどの対策をしましょう。

ごはんのこと

生理中は、食欲が落ちてしまう子がいますが、多少であれば様子をみてもいいでしょう。ごはんを温めてあげたり、缶詰めを混ぜてあげたりすると、においにつられて食欲が増すかもしれません。

普段の半分以下の食欲が数日続く場合には、病院に相談しましょう。

お散歩のこと

生理中は、性ホルモンの影響で雄犬をひきつけます。そのため、散歩中に雄犬に出会うと、興奮した雄犬に飛びつかれたりするなどのトラブルが起こる危険性があります。

他の犬に遭遇しにくい時間や場所を散歩するようにしてあげましょう。

また、生理中はあまり散歩に行きたがらない子もいます。その場合には、無理に散歩に行く必要はありません。

ドッグランやカフェなどお出かけのこと

ドッグランやカフェは、雄犬が興奮してトラブルになる可能性が非常に高いです。特にドッグランは、リードを外している状態の犬がたくさんいるので、去勢していない雄犬と交尾し、妊娠してしまうかもしれません。生理中は他の犬との接触を避けるため、ドッグランを含む犬がいる場所へのお出かけは控えるようにしましょう。

こんな場合は病院へ

生理の出血はだいたい2週間くらいでおさまります。長期間出血している場合には、膣の炎症や卵巣の機能不全などの可能性があるため、病院に行くことをおすすめします。

子宮の病気で1番気を付けたいものが「子宮蓄膿症」です。子宮蓄膿症は、陰部から血まじりの膿が出て生理と間違えることがあるため注意が必要です。子宮蓄膿症の場合には、発熱、食欲や元気の低下、多飲多尿、嘔吐、お腹の張りなどの症状が同時にみられることが多いです。緊急で手術が必要になることもある病気のため、気になる症状があれば早めに病院に相談しましょう。

正しい知識を持ち、楽しい愛犬ライフを

犬の生理は、年に1~2回と少ないですが、生理中は他の犬とのトラブルや妊娠のリスクがあるため注意が必要です。正しい知識を持ち、楽しい愛犬ライフを過ごせるようにしてあげましょう。

生理中のトラブル回避や、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、卵巣腫瘍などの病気のリスク低下を目的として、避妊手術をすることもあります。その場合には、高齢になると麻酔のリスクが高くなるため、若くて健康な時期に手術をすることをおすすめします。

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監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。