人間の生活習慣病のひとつに「糖尿病」があります。厚生労働省の2016年の調査によると日本の糖尿病患者の人数は約1,000 万人、予備軍も約1,000万人と推計されています(※)。この糖尿病、決して人間だけの病気ではありません。犬でも糖尿病を発症することがあります。人と共通する点や異なる点がありますが、犬も適切な治療を行わなければ、さまざまな不調をきたしてしまう恐れがあります。病態に合わせたケアや対策を行うことが大切です。ここでは犬に生じる糖尿病について解説します。

厚生労働省の2016年「国民健康・栄養調査」

犬の糖尿病とは?

ミニチュア・シュナウザー

糖尿病とは尿に糖が出ること、また血糖値が上昇する病気です。

血糖値をコントロールするために大きな働きを担っているのが膵臓です。膵臓の内部には、島の形状をしている「ランゲルハンス島」と呼ばれる細胞群があります。そこから分泌されるインスリンというホルモンは、血糖値を低下させる働きを持ちますが、そのインスリンが何らかの理由で機能しなくなり、血液中のグルコース(ブドウ糖)濃度が高い状態となるのが糖尿病です。

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「Ⅰ型糖尿病」と「Ⅱ型糖尿病」

糖尿病にはいくつかの型が存在し、Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病に大別されます。このうち、犬ではⅠ型糖尿病が占める割合が非常に高いことが知られています。Ⅰ型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞からインスリンが正常に分泌されなくなることによって高血糖の状態となります。一方、Ⅱ型糖尿病は犬では稀で、インスリンの分泌機能は著しく低下していないものの、インスリンに対する反応が乏しいことによって期待される作用が発揮されないものを指します。

他の疾患との合併症も

そのほかの要因として、他の疾患から糖尿病に至ることがあります。例えば、ホルモンバランスの異常や、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の合併症として発症することもあります。いずれにしても、異常な高血糖状態が続くことによって、体のあらゆる部位に機能障害を起こすリスクを持っているのが糖尿病なのです。

高血糖状態になると?

では、高血糖であることは体にどのような問題を引き起こすのでしょうか?細胞が必要とするエネルギーのひとつが糖分です。血液中の糖分は、細胞へ栄養を供給することで生命活動を行うことに寄与します。この際、インスリンは血液中の糖分を細胞に取り込みやすくする作用を担います。つまり、糖尿病における高血糖状態は、血糖値が高いこと自体よりも、十分な糖分が血液中にあるにもかかわらず必要とされる細胞にきちんと供給されないことに問題がある、といえるのです。

糖尿病にかかりやすい犬種や特徴・年齢は?

犬が4頭並んでいる様子

犬の糖尿病は、中高齢で発症することが多い病気です。おおよそ7歳を超えると糖尿病を発症するリスクが高くなっていきます。特徴的なのは、発症リスクとして性別差があるということです。実は、男の子より女の子の方がおよそ2~3倍程度糖尿病になりやすいといわれています。これは女性ホルモンの一つであるエストロゲンがインスリンの作用を減弱させる働きを持つことが関与しています。そのため、未避妊の女の子が最も糖尿病にかかりやすい条件となります。

糖尿病にかかりやすい犬種は?

糖尿病にかかりやすい犬種として、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、ジャックラッセル・テリアなどが挙げられます。ただし、これらの犬種以外でも発症する可能性はもちろんあるので、注意が必要です。

犬の糖尿病の症状

元気がない犬

糖尿病の代表的な症状には、水を飲む量が増加し、排尿量も増えることが挙げられます。また、食欲が増加する様子も見られます。その一方で、食べているにも関わらず、徐々に体重減少がみられるようになります。

前述した通り、そもそも糖尿病は細胞に十分な栄養、グルコース(ブドウ糖)が取り込まれないことが原因で、高血糖状態となります。体の細胞は、栄養供給が満足にされないため、常に飢餓状態となり、栄養を取り込もうと食欲が増進されます。ところがインスリンの分泌不足、あるいはインスリンの作用が十分に発揮されないために細胞は飢餓状態が続きます。また、血液中のグルコースが高い状態にあると、摂取した糖分は尿として排泄され体外へ出ていきます。これが長期間続くと、体内に蓄えているたんぱく質や脂肪といった他の栄養素を切り崩して生命維持に充てるため、脂肪や筋肉の量が徐々に減少し、痩せていってしまうのです。

水を飲む量はどれくらい増える?

水を飲む量はどのくらい増えるのでしょうか?高血糖状態では、血管内の水分量が多くなります。本来は細胞内にいなければならない水分までも血管内に引き出してしまうため、水分量が増え、腎臓は血管内に増加した水分を尿として排泄しようとします。そうすると、水分が体の外に排泄されてしまうため、体はますます水を欲しがるようになり、多飲症状が出てしまいます。 多飲症状の目安として体重10kgの犬が1日に1ℓ以上飲んでいる場合は、多飲状態になっていると考えられます。

症状が進行すると?

糖尿病が進行し、後期から末期になると「糖尿病性ケトアシドーシス」と呼ばれる重篤な状態に陥ることがあります。

「糖尿病性ケトアシドーシス」とは

細胞に糖分が供給されない状態が続き、脂肪をエネルギー源として使用すると、その代わりに「ケトン」という物質が生成されます。このケトンによって体内が酸性化することによって、発症します。具体的には強い脱水、嘔吐、下痢、独特の口臭、さらに進行すると昏睡状態になり死に至ることもあります。そのため、「糖尿病性ケトアシドーシス」となった場合は迅速かつ確実な治療を行わなくてはなりません。

合併症を生じるリスクも

糖尿病は他の合併症を生じるリスクも持ち合わせています。糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性白内障に加え、腎臓や肝臓の機能にも影響を及ぼします。また細菌などに対する抵抗性が落ちることで感染症に罹りやすくなります。

このように糖尿病は進行するほど重症度が増していくほか、他の疾患の発生を引き起こしやすくなるため何もしないで放置することは非常に危険であるといえます。

犬の糖尿病の治療法

診察台の上のジャックラッセルテリア

犬の糖尿病で目に見える初期症状としては、多飲多食や、尿量増加、体重増加などがみられます。病院では尿検査や血液検査を行い、尿糖や高血糖となっていた場合に糖尿病の可能性を考えます。

症状や検査結果をもとに糖尿病と診断しますが、実際に糖尿病となった場合に、どのような治療が行われるのでしょうか?

インスリン治療

前述したように、犬の糖尿病はⅠ型糖尿病が多くを占めます。すなわち体内でインスリンを正常に分泌できないため、インスリン注射することが前提となります。インスリンにはいくつかの種類がありますが、個体に合わせて適切な種類を選択したうえで、投与量を設定し、定期的に血糖値の変動が安定しているかをチェックします。

インスリンは、原則1日2回注射することが最も多いケースとなります。また、インスリンを投与する時間帯はできるだけ固定することが望ましいです。毎日注射が必要なので、飼い主さん自身が注射を行うことが多くなります。注射の方法や器具の取り扱い、定期的な検診など、かかりつけの獣医師と相談しながら安全確実に行っていく必要があります。

注意したいこと

インスリン投与治療を行ったときに注意したいのは、インスリンによって低血糖の症状が生じる場合があるということです。インスリンを投与した場合、理想的な血糖値は糖尿病でない犬の値より高めを維持することがほとんどです。個々に適した安定した血糖値を見出して維持することが基本となります。

症状として、元気がなくなるほか、体温低下や、けいれんといった変化がみられた場合はインスリン投与による低血糖の可能性があります。かかりつけの獣医師の指示のもと適切な対応をしていきましょう。

輸液治療

糖尿病によって高血糖状態が続くと腎臓の浸透圧利尿作用によって尿量が増加します。本来、体内でとどめておかなくてはならない水分が余分に排泄されることとなるので、必要に応じて輸液による治療を行うことがあります。とりわけ、糖尿病性ケトアシドーシスの状態に至っている場合には、厳重なインスリン管理と輸液の投与によって体内の水分や電解質のバランスを改善させなくてはなりません。こちらも必要とされる輸液量は症状や脱水の程度によって決めていきます。

食事療法

人間の糖尿病の治療ではカロリーや糖質摂取量の制限がなされますが、犬の場合は糖尿病の際に使用する療法食があります。これらは繊維質を多く含み、食事後に急激に血糖値が上昇しないような配慮がされています。食事の時間や量はできるだけ統一するように心がけましょう。糖尿病が進行すると徐々に体重減少が現れてきますので、フードの量は適宜主治医と相談していきましょう。

犬の糖尿病の予防法

Ⅰ型糖尿病を完全に予防することは難しいですが、普段の食生活に配慮しながら適度な運動を心がけることが望まれます。肥満にならないように注意しながら、ストレスをできるだけ与えないように過ごすことも重要です。また、糖尿病は他の合併症を誘発しやすいため、日頃より体調の変化がないかよく観察しておくことも必要です。

女の子の場合

女の子で未避妊の場合は、女性ホルモンがインスリンの作用を減弱させることがあるため、避妊手術を行うことも、ある意味予防となります。実際に、糖尿病と診断された未避妊の女の子の場合は早期に避妊手術を行うことも効果的な治療を行ううえで重要となります。

さいごに

ハイタッチする犬と飼い主

糖尿病になると、その治療は一生涯続くことが多いのが実情です。進行すると、糖尿病性ケトアシドーシスという状態に至ることもあり、重篤な症状となる可能性もあります。最近やたら水を多く飲みおしっこが多い、あるいは食欲が異常なほどあるといった場合は、糖尿病の可能性があるかどうかを早めに動物病院で診てもらいましょう。糖尿病になった場合、食事管理やインスリン治療といったケアが必要となることが多いですが、できるだけ規則正しい生活をして上手に養生していきましょう。

監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。