女の子の犬を迎えたときに、避妊手術を受けさせるかどうか悩む飼い主さんも多いのではないでしょうか。
避妊手術には、病気の予防や他の犬とのトラブルを回避するといったメリットがありますが、麻酔のリスクなどのデメリットもあるため、正しい知識を持って手術するかどうかを判断する必要があります。
今回は、犬の避妊手術について解説します。

犬の避妊手術とは

フレブルの子犬

犬において卵巣と子宮を摘出する卵巣子宮摘出術や、卵巣のみを摘出する卵巣摘出手術を行うことを、「犬の避妊手術」といいます。

そもそも「避妊」とは、母体の安全や繁殖の調節を目的として、何らかの方法を用いて妊娠を避けることです。

犬は、生後6~10ヶ月ごろに性成熟を迎え、初めての発情が見られます。その後、5ヶ10か月の周期で発情が認められ、発情期間は妊娠・出産が可能になります。

避妊手術を行うことで発情がなくなり、妊娠することができなくなります。

どんなメリットや効果があるの?

うれしそうなポメラニアン

病気を防ぐことができる!

卵巣や子宮を摘出することで、将来起こる可能性のある病気を予防することができます。

また、卵巣からは性ホルモンやステロイドホルモンなどさまざまなホルモンが分泌されているので、それに関連した病気の予防や治療の目的としても避妊手術が適応になります。

  • 卵巣の病気
    卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)や顆粒膜細胞腫(かりゅうまくさいぼうしゅよう)など
  • 子宮の病気
    子宮水症、子宮粘液症、子宮蓄膿症など
  • ステロイドホルモンが悪影響を与える病気
    クッシング症候群、糖尿病など

特に「乳腺腫瘍」は初回発情前に手術することで、発症のリスクを0.05%とかなり低くすることができると言われています。

生理トラブルがなくなる!

犬の生理(発情出血)は、生後6~10ヶ月ごろから約半年に1回見られます。

その期間は、1~2週間ほど陰部から出血が認められるため、汚れないようにマナーパンツなどをする必要があります。

生理中は他の雄犬を刺激してしまうことがあり、犬同士のケンカなどのトラブルが起こりやすくなります。また、目を離した隙に交配し、望まない妊娠につながってしまう恐れもあるため、散歩はなるべく犬のいない時間帯・場所を選ぶ、ドッグランやカフェには行かないようにするなど、トラブルを避ける行動をとる必要があります。

ストレスが減る!

生理中は、食欲や元気が減少したり、落ち着きがなくなったりする様子がよく見られます。

また、生理後には、ホルモンの影響で妊娠していなくても妊娠したときと同じように体が変化することがあります(生理的偽妊娠)。偽妊娠になると、わずかに乳汁が分泌したり、ぬいぐるみやおもちゃなどを抱えてケージに持ち込み、まるで子育てをしているようにふるまったりするといった行動の変化が見られます。こうした状態になると、神経質になりストレスを感じやすくなります。

避妊手術のデメリットは?

コッカ―の子犬

避妊手術をするデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

手術のリスク

避妊手術は全身麻酔をかけて行いますが、全身麻酔には一定のリスクがあります。

また、避妊手術はよく行われている手術ではありますが、卵巣や子宮の血管をしっかり結ばないと出血を起こし、危険な状態になる可能性があります。特に肥満の犬などでは内臓に脂肪がつくことで血管を結ぶことが難しいケースがあり、出血するリスクが増加します。

肥満のリスク

避妊手術後は、ホルモンの影響で食欲の増進や代謝カロリー量の減少が見られ、肥満になることがあります。

手術後、体重の増加が見られる場合には、フードの量を調整したり、フード自体を低カロリーでダイエット用タイプに切り変えたりするといいでしょう。

妊娠できなくなる

避妊手術をすると妊娠、出産ができなくなるため、繁殖させたい場合には手術を受けさせないという選択をとることもあります。

避妊手術の流れは?

獣医とウエストハイランドホワイトテリア

手術前

身体検査や血液検査、レントゲン検査などを行い、麻酔をかけられる状態か確認します。

手術当日

朝ごはんは抜いて、絶食の状態で病院へ行きます。全身麻酔をかけると嘔吐を起こすことがあり、それによる窒息や誤嚥性肺炎を防ぐためです。

注射やガスの麻酔薬を用いて全身麻酔をかけ、お腹の毛をそり、消毒をします。腹部を切開し、卵巣のみもしくは卵巣と子宮を出血しないように血管をしばって血行をとめながら摘出します。腹部の切開部を縫い合わせて終了です。手術時間は30分~1時間ぐらいです。

近年、開腹せずに腹腔鏡(ふくくうきょう)で避妊手術を行う病院も増えています。お腹に小さな穴を3ヶ所ほど開けて行うので、開腹手術より傷口が小さく済む点がメリットです。しかし、専用の器具や技術も必要となるため高額になったり、手術時間も長くなるなどのデメリットもあります。

希望があれば、かかりつけ医に相談し、腹腔鏡手術を行っている病院を紹介してもらうといいでしょう。

手術後

開腹手術では体の負担が大きいため、1泊入院になることが多いです。

腹腔鏡手術では日帰りが可能なケースもあります。
食欲や呼吸状態、排尿の有無などを確認し、退院となります。

その後、抜糸するまでの1~2週間は、傷をなめないように術後服やエリザベスカラーを装着します。

手術費用はどれくらい?

費用は、病院の値段設定や入院日数、犬の大きさにより幅がありますが、30,000~80,000円程度が一般的と考えられます。手術を受けようとしている動物病院に確認してみましょう。

手術はいつからできるもの?

ラブラドール・レトリーバーの子犬

避妊手術は、早すぎると手術に耐えられる体力がついていなかったり、臓器が小さいことで手術の難易度が上がったりするためリスクが高くなります。また、手術後に発育不良が起こる可能性があります。

発情が起こった後だと乳腺腫瘍のリスクが高くなることや、高齢になるほど脂肪が臓器に多くついてしまうことで手術がしにくくなったり、さまざまな内臓に問題が出てきたりするため麻酔や手術のリスクが高まります。そのため、初回発情が起こる少し前の生後6ヶ月ごろが望ましいとされています。

ただし、発情がいつ来るかは個体差があり、手術直前に発情が来てしまう可能性があります。その場合、発情中は通常時よりも組織が充血していて出血しやすくなるため、手術を1ヶ月ほど延期することが多いです。

飼い主として正しく理解を

抱っこされるトイ・プードル

犬の避妊手術はさまざまなメリットがあり、獣医学的には受けたほうがいいと言われていますが、デメリットもあるため、飼い主さんが納得して手術するか決める必要があります。

また、手術を行うのに適した時期があるので、女の子の犬を新しく迎えた際には、早めに病院で相談するようにしましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。