犬の認知症(高齢性認知機能不全)は、老化に関連して認知機能が徐々に低下し、その結果いくつかの特徴的な行動障害がみられる病態の総称です。具体的には、飼い主さんや友達の犬がわからなくなるような認知レベルの変化、大きな音に反応しなくなるなどの刺激に対する反応の低下、トイレの失敗などの学習と記憶の喪失、昼夜逆転や夜鳴きなどの、日常生活に支障をきたすようになった病態を指します。

どんな症状?

犬における認知症の症状は、5つの特徴が挙げられます。

①見当識障害

周囲の環境や自分の居場所(空間認識)が、把握できなくなることを指します。

初期症状としては、なじみのある人や動物を認識できなくなる、狭いところに入りこみたがる、障害物が避けられない、こぼしたフードを見つけられない、などが挙げられます。症状が進むと、飼い主さんを認識できない、壁の前でぼんやり立ち尽くす、直角の角も曲がれない、などの行動に変わります。

②社会的交流の変化

人や他の動物に対する接し方の変化や、反応の低下を指します。飼い主さんを帰宅時に迎えに行かなくなる、なでられたり褒められたりしても喜ばなくなる、子どもや同居の動物に対して攻撃的になる、などが挙げられます。初期にはこれらが「なんとなく反応が鈍い」という程度ですが、最終的には、飼い主さんに対しても反応しないようになります。

③睡眠サイクルの変化

昼夜逆転を指します。昼間の睡眠時間が増え、夜鳴きも含め、夜間に起きている時間が長くなります。はじめは、飼い主さんが昼も夜も寝ていることが多い、と感じる程度です。が、症状が進むと、昼はほとんど寝ていて、夜中から明け方にかけて覚醒し、飼い主さんの静止が効かない状態になります。

④不適切な排泄

トイレの場所を忘れてしまったり、コマンドがわからなくなってしまうことを指します。粗相が多くなっていくことから始まり、失禁や、寝たきりによる垂れ流しにまで進むこともあります。

⑤活動性の変化

活動に無関心・無気力になる、あるいは無目的な行動が増えることを指します。初期は、落ち着きがなくなる、あるいは寝てばかりになる、という日々の行動の変化が見られます。症状が進むと、目的なく家の中をうろうろ歩き回ったり、自分を中心に円を描くように歩き続けるようになります(旋回)。

これらの症状は、年月をかけて少しずつ進みます。

病気の診断としてはこれらの症状を点数化し、点数が低ければ高齢犬の特徴、点数が高ければ認知症の症状あり、と考えます。

気を付けるべきは、認知症でない病気でも同じ症状が出ること

認知症の症状、治療法は?

特にトイレの失敗は、膀胱炎や糖尿病、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、未去勢の男の子では前立腺肥大、未避妊の女の子ではホルモン疾患による尿もれなどでも起こります。足腰が痛くて、物理的にトイレが間に合わない、という場合もあります。

また、脳腫瘍や神経疾患でも、不安感やせん妄症状から、夜鳴きや徘徊が起こることもあります。

この他、加齢で耳が遠くなることでも、自分の声が聞こえず、吠える声は大きくなりますし、視覚聴覚が鈍ると、気配も感じにくくなり、反応が鈍くなったり不安感が強くなったりします。

このように、認知症の症状は他の病気の症状の場合もあります。まずは全身の検査で特徴的な症状の確認と、他の病気の除外が必要です。

原因は?かかりやすい犬種はある?

認知症は、脳の萎縮や、特定のタンパク質の蓄積が原因と考えられていますが、犬においては、詳細はまだ解明されていません。

また、世界的には犬種の差異はないですが、日本では認知症と診断される犬のうち、83%が日本犬(柴犬など)であったという報告があり、遺伝的な関与があるのではないか、と考えられています。

もしなってしまったら…治療法は?

認知症は、脳の老化であり、これを止めることはできません。治療は、老化の進行を遅らせ、いかに飼い主さんと愛犬が、共に快適に暮らせるかを目指すことに重きがおかれます。高齢の愛犬が失敗しづらく、生活しやすい環境を整えることがまず一つ。次に適度に刺激を与え、体と心を活性化することが治療につながります。

環境の整備としては、たとえば、生活範囲は狭く、トイレや食事の場所はなるべくまとめるようにしましょう。排泄の失敗を減らすために、トイレまでの段差をなくしたり、いつもいる場所からトイレまでジョイントマットを敷いて、足の感触でトイレまでの道のりを誘導するのも効果的です。

徘徊や旋回にはサークルを使用して、動ける範囲を制限すると良いです。これにより、はまって鳴くことも減り、飼い主さんが駆け付けたり、様子を見る手間や負担が減ります。

昼夜逆転や夜鳴きには、昼間に刺激を与えましょう。散歩による外気浴が効果的です。日光で体内時計を整えるだけでなく、匂いや音など、家にない刺激もあります。足腰が弱くなっていて自力で歩くことが難しければ、カートに乗せてでも、いわゆる気疲れにつながるので効果があります。これらのような対処を行っても、愛犬との生活がうまくいかない場合は、認知症治療薬や抗不安薬が使用されます。ただし、これらの治療薬も、認知症を根本的に治すものではなく、老化の進行を遅らせることが目的になります。

予防方法は?

認知症にならないようにすることはできません。けれども、高齢期に適度な刺激を与えることは、脳の老化を緩やかにし、認知症の予防につながります。まずは規則正しい生活と、適度な外気浴を心がけてください。知育玩具で遊んだりすることも良いでしょう。

DHAやEPA、ビタミンEなどの、抗酸化作用や抗炎症作用のある成分が含まれたサプリメントも、脳の老化を穏やかにするといわれていて、認知症の予防につながる可能性があります。

まとめ

認知症に注意を

認知症は、脳の老化によりこれまでの生活習慣や活動が崩れ、日常生活に支障をきたすようになった状態です。脳の老化をできるだけ緩やかにし、飼い主さんと愛犬の双方が、快適に暮らせるように環境を整えることが、認知症の予防であり治療になります。それには症状の初期から専門家の介入があることが望ましいです。愛犬が年を取ったと感じることがあったら、ぜひかかりつけの動物病院に相談してください。

監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーに。病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。