血液中の糖分は、生命維持をするうえで非常に重要な栄養素の一つです。これがさまざまな理由で減少してしまうことがあります。一般に低血糖症と呼ばれる状態の原因、症状、治療方法や予防方法について紹介します。

犬の低血糖症とは?どんな病気?

血液は酸素や糖分、タンパク質など、一つ一つの細胞が生きていくために必要な成分を運搬しています。特に糖分は重要なエネルギー源(カロリー)で脳神経系への栄養となります。血液中の糖分が、何らかの理由で減少したことにより生じる不調のことを低血糖症と呼びます。低血糖になると、明らかに行動や見た目に異常をきたします。

また、適切に改善に導かないと生命維持にも影響を及ぼしかねないので、普段から低血糖症でないか犬の様子をよく観察しておくことが重要です。後述しますが、特に幼齢の犬は低血糖状態に至りやすいことがわかっています。

どんな症状?

犬の低血糖症の症状

では、低血糖状態になるとどのような変化が起こるのでしょうか?症状を知って、早い段階で低血糖か否かを見極めることが望ましいでしょう。

初期症状

低血糖症の初期症状は、他の疾患と区別がつきにくいことが多いです。元気がなくなったり、食欲が低下したりといった変化が現れます。また、歩き方がおぼつかなくなることがあります。消化器の動きに影響がおよぶと、下痢や嘔吐といった症状が見られることがあります。

進行するとこんな症状が

低血糖状態がさらに進んだ場合、特に神経系に関連した症状が目立つようになります。具体的には、低血糖性のけいれんがあります。また脱力が進んで昏睡状態に至ることもあります。このような状態になった場合は、一刻も早い対応が必要なので、早急に動物病院にて適切な処置を受けるようにしましょう。

原因は?

血液中の糖分が不足する原因には、体への糖分の吸収が減少する「供給不足」と、大量に糖分を消費することで起こる「消費過多」があります。もしくはその両方が関連している場合もあります。また、犬の低血糖症は幼齢期に発症することが多いのですが、成犬には縁のないものとは断定できません。ここでは、おおまかに幼犬と成犬に分けて説明します。

幼犬に多い原因

幼犬ならではの原因として、食事の間隔が関連していることがあります。幼犬の時期は成長に必要な栄養をしっかりと摂らなくてはいけませんが、体が小さいので一度に摂れる食餌量はそれほど多くありません。そのため、成犬に比べて食餌回数を増やして対応しますが、食餌の間隔があいてしまうと低血糖になりやすくなります。

また、幼犬は、寒冷や移動のストレスも受けやすいという特徴があり、ストレス状態になると、糖の消費が促進されます。

さらに、幼犬は消化器の吸収機能が発展途上であるため、消化管に寄生虫が存在するなど、感染症によって消化器で栄養をとりこめなくなる恐れがあります。これも低血糖を起こす要因の一つです。

幼犬は成犬と比べて栄養のたくわえが少ないことも理由のひとつです。肝臓に貯蔵されたグリコーゲンは、血液中の糖分が低下すると、「糖新生」と呼ばれる過程を経て血糖値の安定を図りますが、幼犬ではこれらの機能を発揮しづらいのです。

成犬に多い原因

幼犬ほどではないにせよ、成犬でも低血糖症が発生することがあります。成犬の場合は、さまざまな疾患の合併症として現れます。

代表的なものに、すい臓の腫瘍である「インスリノーマ」があります。インスリンは血糖値を低下させるホルモンですが、インスリノーマではこのホルモンが過剰に分泌されることによって強い低血糖状態を引き起こします。

また、糖尿病の治療にインスリンを用いますが、何らかの理由で想定以上にインスリンが作用してしまった場合も低血糖症を起こすことがあります。この場合には、健康な犬の血糖値より数値が高くても発症することがあるので注意が必要です。

そのほか、インスリノーマ以外の悪性腫瘍、副腎皮質機能低下症、肝臓の機能不全も原因となることがあります。

また、中毒によって低血糖を生じることがあり、代表的なものとしてキシリトールが挙げられます。ガムをはじめとした食品に添加される人工甘味料ですが、犬にとっては毒性が強く、急激な低血糖状態を起こすことがあります。

かかりやすい犬種はある?

低血糖症にかかりやすい犬種として、チワワやトイ・プードルといった超小型犬・小型犬が挙げられます。体が小さいほど体表からの熱放散が大きいこともあり、体温維持のために多くのエネルギーが必要です。そのため、複数回に分けて必要な栄養をとりこまなくてはならず、血糖値が低下しやすいリスクを持っています。もちろん、中・大型の幼犬であっても低血糖が生じる可能性があるため、あわせて注意しましょう。

もし低血糖になってしまったら、治療法は?

犬の低血糖症の治療法

愛犬が低血糖になった場合、どのような対応が必要でしょうか?まずは適正な血糖値に補正する必要があります。明らかに低血糖の症状があれば、糖液を飲ませることで改善につながることがあります。ただし、意識が混濁しているような場合は、むやみに飲ませようとすると、誤嚥性肺炎を誘発することがあるので注意が必要です。糖液を飲ませることが困難な場合は、血管から点滴を行う必要があります。

愛犬が低血糖か否か、十分に判断できない場合はなるべく早く状況を獣医師に相談して指示に従いましょう。成犬の低血糖症の場合も、基本的には血糖値の補正を必要としますが、並行して原因となっている疾患の治療も行います。

予防方法は?

幼犬の、低血糖症に対する予防法をいくつかご紹介します。成長著しい幼犬では、食餌の回数を十分に確保して、空腹の時間を持続させないようにします。とりわけ超小型犬の場合は低血糖症に至りやすいため、栄養価の高いフードをしっかり与えましょう。また住環境を整え、極度の寒冷やストレスが常時かかるような環境をさけるように努めましょう。一方で寄生虫や感染症など、体力の消耗から低血糖を引き超すこともあるので、駆虫やワクチン接種を適切なタイミングで実施しましょう。

成犬の低血糖症は、多くが腫瘍や重度の感染症、肝疾患といった激しい体力低下に由来するので、これらの疾患にならないよう、定期健診を受けるなどして、病気の早期発見と早期治療につなげていくことが、結果として低血糖予防につながります。

まとめ

犬の低血糖症に注意を

血液中の糖分は生命を維持するために絶対的に必要な成分の一つです。これが枯渇することは、命に直結するような重大な危険性があります。幼犬の場合によく見られ、空腹や他の体調不良から引き起こされることがあります。とりわけ食餌については、食べ方や食べる量などをよく観察し、適切な栄養状態を維持しましょう。

また、成犬であっても低血糖状態にならないわけではありません。特に基礎疾患があり、治療を行っている場合は獣医師から指示のあった治療を行い、食餌をしっかり摂ることができているかよく観察しましょう。

監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。