犬、猫、私たち人間も含め、どうぶつの体の約50~70%は水分でできています。水分はどうぶつの生命活動にとってとても重要なものであり、体内の水分の15~20%が失われると、生命の危機が生じると言われています。水が体内でどのような働きをしているか、水が足りないとどうなるか、犬が必要とする水の量と上手な飲ませ方について解説します。
犬にとっての水の重要性

水は飲水や食事中の水分として体内に摂取されます。その後、吸収され血液中や細胞内に移動して体液となり、生命活動の維持に重要な働きをします。そして、尿、便、唾液、涙、汗、呼気中の水分として体外に排出されます。
体内で水は次のような働きをしています。
犬の体内で水が担う大切な働き
体内環境の維持
水は様々な物質を溶け込ませ、生命維持に必要な代謝反応の場を提供することで、体内の環境を一定に保つ働きをしています。
運搬
血液やリンパ液として、酸素や栄養素、ホルモンなどを体中に運びます。また、老廃物を回収し体外へ排出します。
体温の調節
水は温まりにくく冷めにくい(比熱が大きい)という性質を持っているので、外気温の変化に対して、体内の急激な温度変化を防ぐことに役立っています。
また、私たち人間は汗腺が発達していて、汗を出すことで体温を一定に保つ働きもしています。犬は人間のように汗腺が発達していないため、パンティング(口を開けてハァハァと速く浅い呼吸をすること)によって唾液と共に熱い呼気を吐き出すことで、体の熱を逃がしています。
犬の1日に必要な水分量

体重別の目安
健康な犬が1日に必要とする水分量の目安は、一般的に体重1kgあたり40~60mLと言われています。
暑い時期や、活動量の多い犬はパンティングなど体温調節により失われる水分が多いため、通常よりも多くの水分が必要になります。
飲水量は、食事に含まれる水分量によって変わってきます。
ドライフード・ウェットフードの違い
ドッグフードの水分含有量はフードのタイプによって大きく違います。
ドライフード | 水分10%程度 |
ソフトドライフード | 10~30%程度 |
セミモイストフード | 25~35%程度 |
ウェットフード | 75%程度 |
そのため、どのようなタイプのフードを食べているかによって食事からの水分摂取量が変わり、飲水量も変わってきます。
例えば、体重5kgの健康な成犬の場合、1日に必要とする水分量の目安は、200~300mLになります。1日の食事がドライフード100gとすると食事からの水分は10mL程度ですが、ウェットフード400gとすると食事から300mL程度の水分が取れていることになります。
一般的には、食事がドライフードの場合は十分に飲水をさせる必要がありますが、ウェットフードがメインの場合には、食事からかなり水分をとれているので、飲水量が少なくても大丈夫ということになります。フードによって給与量や水分含有量は異なるので、愛犬のいつもの食事にどの程度の水分が含まれているかを一度計算してみるとよいでしょう。
食事がドライフードメインにもかかわらず、自分からあまり水を飲まないという犬の場合は、食事をウェットフードに変えてみると、水分摂取量を増やすことができるでしょう。ドライフードを水やぬるま湯でふやかしてから与えたり、スープやおじやなどの水分をたくさんとれる手作り食を併用するという方法もあります。
加齢・持病による変動
加齢によって活動量が減ると、飲水量も少なくなる傾向があります。
また、健康状態によっても、必要な水分量は変わってきます。例えば、下痢や嘔吐などで体内の水分が通常より多く失われたときは、多くの水分摂取を必要とします。また、慢性腎臓病、糖尿病、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、子宮蓄膿症など多尿の症状を引き起こしやすい疾患があるときは、多尿に伴って飲水量が増加し、「多飲多尿」という症状が見られます。
犬が水を飲まない主な理由

水分が足りている場合
普段の生活の中であまり水を飲まないように見えても、散歩のときなど決まった時間にちゃんと水を飲んでいたり、ウェットフードや手作り食など水分の多い食事やおやつを食べている場合は、水分が足りているために水を飲まない、ということがあります。
水の鮮度や、温度、容器の問題
飲み水を容器に入れたまま長時間放置すると鮮度が落ち、犬が水を飲みたがらなくなることがあります。鮮度の落ちた水は衛生的にもよくないので、飲み水は頻繁に取り換えましょう。冬場でも1日に1~2回、夏場はもっと頻繁に交換するようにしましょう。
飲み水の温度は犬によって好みがあり、氷が入ったような冷たい水は苦手、ぬるくなった温かい水は苦手など、好き嫌いで飲まなくなることがあります。愛犬がどのような温度の水を好んでよく飲むか、観察しましょう。
飲み水を入れる容器の好みによっても、水を飲まなくなることがあります。飲み水の容器の素材には陶器、プラスチック、ステンレスなどいろいろあり、形や大きさもいろいろありますので、愛犬が好むものを見つけてあげましょう。
環境要因(気温、給水器の位置など)
冬場など気温が下がる時期は一般的に飲水量が減ります。気温が低いと体温調節で失われる水分が減るので水分の必要量も減ります。寒さや冷えから冷たい水を飲みたがらなくなったり、水を飲む場所が寒いため飲みに行きたくない、という理由で飲まなくなることもあります。
また、飲み水を置いてあるのが苦手な場所だったり、落ち着かない場所だったりという理由で飲まなくなることもあります。愛犬が安心してゆっくり飲める場所に設置されているかどうか確認しましょう。
過去の経験から
水を飲んでいるときに何かびっくりするようなことがあった、怒られた、痛い思いをした、というような経験があると水を飲まなくなることがあります。
病気や老化による影響
体調が原因で水を飲まなくなることもあります。次のような原因が考えらえます。
- 食欲不振や吐き気があり飲みたくない
- 痛みやだるさがあり水の置いている場所まで動きたくない
- 首や腰、関節など体の痛みがあり、水を飲む姿勢をとるのがつらい
- 歯肉炎、口内炎など口の痛みがあり飲むのがつらい
- 嚥下障害を起こすような疾患があり飲み込めない
どのような原因であっても、水分摂取量が極端に減ると、脱水症状を起こしたり、さらに体調が悪化する可能性があります。愛犬がどの程度の水を飲んでいるかをきちんと把握し、飲水量が少ない様子が見られるときは動物病院で相談しましょう。
水分不足が引き起こす可能性のある病気

熱中症
暑いときに水分をとることは体温を下げるのに役立ちます。汗腺が発達していない犬ではパンティングによって唾液と共に熱い呼気を吐き出すことで体温を下げますが、水分が十分に摂れない状況下では効率的に体温を下げることができなくなります。また、水分不足は体内のミネラルバランスを崩すため、熱中症のリスクが高くなります。
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尿石症や膀胱炎
水分摂取量が減ると尿が濃くなり、尿の中に含まれる結石の原因物質の濃度も濃くなるため、結晶化しやすくなり、尿石症を発症しやすくなります。また、尿量が減って排尿回数も減るために、膀胱炎のリスクも高くなります。
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腎臓病や尿毒症
腎臓は血液中の老廃物や毒素をろ過して尿として排出する働きをしています。体の水分が不足すると血液が濃縮されて腎臓の負担が大きくなります。また、腎臓へ流れる血液量が減ることで酸素や栄養分が不足して腎臓の組織がダメージを受け、腎臓の機能が低下してしまいます。腎機能が低下すると尿を濃縮することができなくなり、水分が余計に失われさらに水分不足になるという悪循環に陥ります。この状況が悪化すると、体の中の老廃物や毒素、余分な水分などを体外に排泄することができなくなり、尿毒症を発症します。
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便秘
水分不足になると便が硬くなり、便秘を引き起こしやすくなります。老犬や持病のある犬は、腸の動きが悪くなって便秘になりやすく、腹痛やガスがたまって鼓張の原因にもなるため、注意が必要です。
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愛犬に水を飲ませるための工夫

食事・おやつに水分を加える
普段の食事がドライフードの場合は、水やぬるま湯などでふやかして与えることで水分摂取量を増やすことができます。ウェットフードに変更したり、スープ、おじやなど水分たっぷりの手作り食を併用するのもよいでしょう。おやつに野菜やフルーツなど水分の多いものを与えるのも一つの方法ですが、おやつのあげすぎには注意しましょう。
水の温度や種類を変えてみる
飲み水の温度は犬によって好みがあります。いろいろな温度の水を与えてみて、愛犬の好みを探してあげましょう。夏場だと氷を浮かべた水を喜んで飲む犬は多いですが、体の冷やし過ぎには気をつけましょう。
普通のお水をなかなか飲んでくれない場合には、脂身の少ない鶏肉やお魚などを煮出し、脂を取り除いて作ったスープや野菜を煮出して作ったスープ、犬用ミルクやウェットフード、ドライフードなどを少量加えて溶かした状態の水などを試してみるのも一つの方法です。
散歩のときに飲ませる
家の中よりも、散歩のときに外で水をよく飲むという犬も多いです。散歩時には水を持参し、休憩を兼ねてこまめに水を飲む時間を作ってみましょう。
給水器の種類や配置を工夫する
飲み水を入れる器は材質(プラスチック、陶器、ステンレス)、形(高さ、深さ、幅)などいろいろなものが市販されています。愛犬の体格と好みにあったものを選んであげましょう。
器の置き場所も重要です。静かな所、家族の近く、窓の近くの外が見える場所など好みはさまざまなので、いろいろな場所に置いてみましょう。夏場に暑くなったり、冬に寒くなる場所は避けましょう。飲み水は1ヶ所だけでなく数ヶ所に置いた方が、飲水量が増えるというデータもあります。
器を置く高さも、愛犬の体格に合わせて調節してあげましょう。床に置くと飲みにくそうなときは、スタンドのあるものや、少し高さのある台などにのせてあげるとよいでしょう。特に老犬や首や腰、関節などに疾患のある犬には、負担のかからない高さに調節してあげることが大事です。
※ケージに取り付けて使用するノズル付きの給水ボトルは、子犬の時はよいのですが、大きくなってくると十分な量飲めなくなるためすすめられません。
水の飲み過ぎにも注意
水中毒
水中毒は、水を短時間で大量に飲むことで体の中の塩分濃度のバランスが崩れ、低ナトリウム血症となってしまう状態です。犬ではプールや川など水の中で遊びながら水を大量に飲んでしまって発症することがあります。低ナトリウム血症になると、神経や筋肉などが正常に働かなくなり、運動失調や流涎、嘔吐、重度になると虚脱や呼吸困難、意識低下や昏睡などを起こし命に関わることもあります。
水分摂取に注意が必要な病気
水分を取りすぎることが症状を悪化させるような病気もあります。同じ病気でも進行状態によって水分を積極的に摂った方がよいか、制限した方がよいかは変わってくるので、主治医の先生の指示に従うことが大事です。
進行した腎臓病
腎臓病が進行して尿量が減っている場合、水分を取りすぎるとむくみや呼吸困難、血圧上昇の原因になります。
心臓病
体の水分量が増えることで血液量も増えて、心不全の症状が悪化することがあります。
肝硬変
肝硬変になると体に必要なたんぱく質が作れなくなり、水分を身体にため込むようになって腹水やむくみが起こります。
その他気を付けたい病気
犬が水を必要以上にたくさん飲む場合、多飲と言って何らかの病気の症状である可能性があります。多くの場合、多尿(尿量の増加)に伴って多飲の症状が起こるため、おしっこの回数が多くなった、量が多い、という状況で水を飲む量も増えた場合には、注意が必要です。
飲水量は個体差が大きく、運動量や気温、環境、食事内容によっても変わってきます。たくさん飲むから病気とは限りませんが、一般的に1日に体重1kgあたり90mL以上の水を飲んでいる場合、念のため病的な多飲の可能性も疑った方がよいと言われています。おしっこの量や飲水量が多いと感じる場合は、一度愛犬が1日にどのくらいの量の水を飲んでいるかを測り、動物病院に相談すると安心です。
腎臓病
多飲多尿の症状は腎臓病の初期の段階から見られる症状です。腎臓病を早期に見つけて対処するためにも、おしっこの量や回数が増えて水を飲む量も増えたと感じる場合は早めに動物病院で相談しましょう。
糖尿病
血液中の過剰な糖分を体外に出すために尿量が増え、水分不足になることで多飲になります。
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副腎皮質機能亢進症
副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰になることで起こる病気です。コルチゾールは代謝や免疫機能などを調節する重要なホルモンですが、過剰になると体内のミネラルや水分バランスの調節に影響し、多飲多尿の症状が見られるようになります。他にも、腹囲膨満、脱毛、免疫力の低下など、様々な症状が見られます。
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子宮蓄膿症
子宮内に細菌感染が起こり、膿がたまってしまう病気で、未避妊の中高齢の犬に多く発生します。この細菌の出す毒素の影響で腎臓での水分量の調節がうまくいかなくなるため、多尿に続いて多飲の症状が起こります。
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尿崩症
水分を体内に保つ働きをする抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌の低下(中枢性尿崩症)、あるいは、バソプレシンに対する反応性の低下(腎性尿崩症)により、多尿とそれに続いて多飲の症状が起こります。
心因性多飲
ストレスなどが原因の心因性の多飲が比較的若い犬で見られることがあります。
まとめ

どうぶつの生命活動にとって水は欠かすことのできないものです。適切な水分摂取ができるような環境を整え、愛犬の健康を守ってあげましょう。また、飲水量の減少や増加が重要な病気のサインの場合もあるので、普段から水の飲み方、飲む量に注意しておくようにしましょう。
