笑顔の犬

犬も人と同じようにしゃっくりをします。特に子犬はしゃっくりをすることが多く、なかなか止まらないと心配になりますよね。今回は、犬のしゃっくりの原因や対処法、予防する方法などをご紹介します。

犬のしゃっくりの原因は?

胸部と腹部の間には「横隔膜」という筋肉でできた膜の仕切りがあります。横隔膜の収縮、弛緩によって肺が膨らんだり縮んだりして、私たちは呼吸をしています。横隔膜が自分の意思とは無関係に急速に収縮し、同時に声門が閉まることで起こる反射運動がしゃっくりです。肺に空気が入ろうとするのと同時に声門が閉まるため、「ヒック」という特徴的な音が出ます。

しゃっくりが起こる詳しいメカニズムは、まだはっきり解明されていません。しゃっくりを誘発する何らかの刺激が、横隔膜や、鼻、喉、内臓などに分布している神経を介して脳の中のしゃっくりを起こす中枢に伝えられ、横隔膜が収縮し同時に声門が閉鎖するという反射が起こると考えられています。

人の場合、延髄にあるしゃっくりの中枢は、脳の中の様々な神経伝達物質によって調節されています。その一つであるGABA(γ―アミノ酪酸)という抑制性の伝達物質は、しゃっくり中枢を抑制してしゃっくりが出ないように作用しています。お酒を飲んだ時や、ストレスや脳の疾患などでしゃっくりが出やすくなる理由の一つには、アルコールや疾患の影響で、このGABAによる抑制がうまく働かなくなることが関係していると考えられています。

しゃっくりは、食事や温度変化などの刺激に対する生理現象として見られるものと、病気やストレスなどに関係して起こるものとがあります。

生理現象によるしゃっくり

・食事による刺激
飲食によって喉の奥が刺激されたり、胃が膨らんで横隔膜を刺激したりすることでしゃっくりが出ます。特に慌てて食べたときや、冷たいものや熱いものを食べたとき、急にたくさん食べたときなどに出やすくなります。胃や腸にガスがたまって膨れることもしゃっくりの原因となります。フードをガツガツ勢いよく食べる子は、空気も一緒に飲み込んでしまうため胃にガスがたまりやすくなります。フードが体質に合っていなかったり、お腹の調子が悪いとき、便秘のときなども、ガスがたまってしゃっくりが起こりやすくなります。

・空気の温度変化による刺激
暖房の効いた部屋から外へ出たときなど、空気の温度変化が刺激となってしゃっくりが出ることがあります。

・興奮、不安、緊張、恐怖など感情の変化
ひどく興奮していたり、不安や緊張、恐怖などを感じているときにしゃっくりが出ることもあります。激しく吠えたり呼吸が乱れたりすることもしゃっくりの引き金になります。

病気やストレスによるしゃっくり

生理的な要因だけではなく、病気が原因でしゃっくりが起こることもあります。病気によって、しゃっくりの刺激を伝える神経や脳にあるしゃっくりの中枢が刺激されたり、GABAによる抑制などの調節系がきちんと作動しなくなることが原因と考えられています。しゃっくりの原因となる可能性のある病気には次のようなものがあります。

・脳疾患(脳腫瘍、脳炎、脳梗塞など)
・耳、鼻、喉の疾患(鼻炎、中耳炎、咽頭炎など)
・胸部の疾患(気管支炎、肺炎、喘息、肺腫瘍、胸膜炎、心膜炎など)
・胃腸の疾患(胃拡張、胃捻転、腸閉塞、胃腸炎、腫瘍など )
・代謝異常(糖尿病、腎不全など)

生理的な要因によるしゃっくりは、数分から長くても数時間以内におさまることが多いですが、病気が原因のしゃっくりは長期間にわたって続いたり、頻繁に繰り返す可能性があります。そのような様子が見られたり、しゃっくり以外の症状を伴っているような場合は動物病院を受診しましょう。

また、ストレスによりしゃっくりが起こることがあります。ストレスによる交感神経系の緊張が刺激になること、ストレスで呼吸が乱れること、GABAによる抑制などの調節系がうまく働かなくなることなどがその原因として考えられています。

その他

その他、薬の副作用でしゃっくりが起こりやすくなることもあります。しゃっくりの原因となる可能性のある薬には、ステロイド、気管支拡張剤、降圧剤、睡眠薬、抗がん剤などがあります。可能性があるのはその中の一部の薬ですが、薬を飲み始めてからしゃっくりが増えたというような場合は、動物病院で相談しましょう。

年齢によってしゃっくりの原因・特徴は違う?

抱きかかえられている犬

子犬のしゃっくり

成犬に比べて子犬はしゃっくりが出やすいと言われています。子犬のうちは、横隔膜やしゃっくりに関係している神経系、GABAによる抑制系が未熟であることが原因と考えられています。また、子犬のうちは食事の仕方がまだ上手ではないため、食事のときに空気も飲み込んでしまうこと、寄生虫や悪玉菌が原因でお腹の調子が安定していないために、胃や腸にガスがたまりやすいこと、もしくはストレスが原因である可能性があります。
普通は成長とともにしゃっくりの頻度は減っていきます。食欲や元気があって、短時間で自然におさまるしゃっくりであれば心配ないことがほとんどですが、あまりに頻繁だったり、長時間続くなど心配な場合は動物病院で相談してみて下さい。

成犬のしゃっくり

成犬になっても何らかの生理的な刺激で短時間のしゃっくりが出ることは普通です。ただ、以前と比べて頻度が増えたり、長時間止まらないしゃっくりは病気が関係している可能性があるため注意が必要です。 

しゃっくりが止まらない…これって病気?

寝ているときのしゃっくりは大丈夫?

犬が寝ているときのしゃっくりはよく見られます。犬も夢を見たり寝言を言ったりすることがあり、それに身体が反応してしゃっくりが起こることがあるようです。また、寝ているときに体がピクっピクっと動くのがしゃっくりのように見えることもあります。いずれも、すやすや眠れているのであれば問題ないことがほとんどです。もし息苦しそうな様子があったり、手足をばたつかせるなど動きが激しい場合は、他の疾患や痙攣発作などの可能性もあるので動物病院を受診した方がよいでしょう。

しゃっくりに似た症状

しゃっくりだと思っていたら実は違う病気の症状だった、ということもあります。一見しゃっくりと勘違いしやすい症状があるので、注意深く見てあげましょう。判断に迷うときは、動画で撮影して先生に見てもらうとよいでしょう。

・てんかん、痙攣発作
てんかんや痙攣の発作の初期や軽いものでは、身体がピクッ、ピクッと動くことでしゃっくりのように見えることがあります。意識がない場合やだんだん動きが大きくなり全身性の痙攣につながるような場合はてんかんや痙攣の可能性が高いです。脳神経系の異常の場合もあるので、受診しましょう。

・咳、くしゃみ
犬の咳やくしゃみは、しゃっくりのように見える場合があります。特に子犬では見分けがつきづらいことも多いです。咳やくしゃみのときは息を吐くときに音が出るのに対し、しゃっくりは息を吸うときに音が出ます。痰や鼻水が出たり、食欲不振などの症状を伴うときは咳やくしゃみの可能性が高いので注意しましょう。

・逆くしゃみ
犬でしゃっくりや咳、くしゃみと間違いやすい症状のひとつに逆くしゃみがあります。逆くしゃみは、喉の奥の粘膜が刺激されることが引き金となって、急激に息を吸い込む発作性の呼吸です。急に「ズー、ズー」と音を立てて息を吸う状態が続くためびっくりしてしまいますが、通常は長くても数分で自然におさまります。咳やくしゃみは息を吐き出す動きですが、逆くしゃみはしゃっくりと同じ息を吸う動きです。しゃっくりは横隔膜の収縮と同時に声門が閉まるため「ヒック」という短い音がしますが、逆くしゃみは息を無理に強く吸い込むため「ズー、ズー」というような音がします。長時間続く場合や、中高齢になってから頻度が増えてきたというような場合は、喉や鼻の疾患が原因となっている可能性もあるため注意が必要です。

・吐き気、嘔吐
犬が吐き気を感じたとき、お腹がぱっこぱっこと何度か動き、最後に大きく口を開けて胃の内容物を吐き戻そうとします。この動きがしゃっくりのように見える場合があります。実際に嘔吐物が何も出なくても、よだれが出ている、口をペロペロしている、落ち着きがない、などの様子が見られる場合は、吐き気を感じていることがあるので、注意して見てあげましょう。

受診した方がよいしゃっくりの見分け方

生理現象で起こるしゃっくりは通常短時間で自然におさまり、他の症状を伴うことはないため、特に受診の必要はありません。しかし、しゃっくりの中には、何らかの病気が関連して起こっている場合もあります。次のような場合は、念のため受診したほうがよいでしょう。

・予防対策をしてもしゃっくりが頻繁に起こって改善しない(予防対策は記事後半に記載)
・しゃっくりが長時間続く
・以前と比べてしゃっくりの頻度が増えてきた
・食欲や元気がない
・咳やくしゃみ、呼吸困難などを伴う
・吐き気や嘔吐がある
・頭が傾いている、上手く歩けない、くるくる回る、痙攣発作など神経症状が見られる

しゃっくりの症状で受診する場合は、症状が本当にしゃっくりなのかを確認するためにも、動画を撮影しておくとよいでしょう。また、しゃっくりが起こった時間帯、状況、しゃっくりが続いた時間、他に症状がなかったかどうか、なども記録しておくとよいでしょう。

治療方法はある?

聴診器を銜える犬

人では持続性や難治性のしゃっくりに対して、様々な治療法が試みられています。一つはしゃっくりの原因となる刺激を伝える神経に別の刺激を与えて反射を止める方法で、舌を引っ張る、外耳道を圧迫するなどの方法があります。薬物治療としては、抗精神病薬や漢方薬、しゃっくりの抑制に関与するGABAと同様の作用をする薬剤などが使われます。
一方、犬ではしゃっくり自体を止める治療は一般的ではありません。しゃっくりが長期間続く場合は、原因となっている疾患がないかどうかを検査でしっかり見極め、原因疾患に対する治療を行います。

自宅でできる対処法は?

私たちはしゃっくりを止めたいとき、深く息を吸って止めてみたり、水や氷を飲んでみたり、他の人に驚かせてもらったり、いろいろな方法を試してみると思います。愛犬のしゃっくりが続いていると、同じような方法で止めてあげたくなりますが、犬のしゃっくりを安全に確実に止める方法はわかっていません。無理に犬の呼吸を止めようとして鼻や口を押えたり、驚かしたりする行為は犬が嫌がったりして、飼い主さんとの関係が悪くなる可能性があります。しゃっくりの最中に何かを飲ませたり食べさせたりするのは誤嚥の危険もあります。生理的なしゃっくりは無理に止めなくてもしばらくすると自然におさまるので、慌てずに様子を観察しながら見守ってあげましょう。飼い主さんが不安な様子を見せると、犬も不安を感じてしゃっくりが止まりにくくなるので、気にしなくて大丈夫、という雰囲気を作って安心させてあげましょう。抱っこしたり身体を優しくなでて落ち着かせてあげてもよいでしょう。
自然におさまらず長時間続くしゃっくりは、病気が原因の可能性があります。受診して原因をはっきりさせ、きちんと治療を行いましょう。

しゃっくりは予防できる?

私たちと同じで、犬もしゃっくりに不快を感じている可能性があるので、できれば防いであげたいですよね。犬の場合は無理に止めようとするよりも、以下のような方法で予防してあげることが大切です。

・食事を落ち着いてゆっくり食べる
食事を急いでガツガツ食べると、喉の奥が刺激されたり、空気を一緒に飲み込んで胃が膨れることでしゃっくりが出やすくなります。手で少しずつ与えたり、早食いを防止するための食器やおもちゃなどを利用して少しずつ食べられるようにしてみましょう。ドライフードの場合はぬるま湯でふやかしたり、ウェットフードや手作り食に変えてみるのも一つの方法です。1回の食事量が多いと胃が急に膨れてしゃっくりが出やすいので、1回の量を減らして食事回数を増やして与えるのもよいでしょう。

・お腹の調子を整える
フードが体質に合わない場合や、お腹の調子が悪いとき、便秘のときなども、胃や腸にガスがたまりやすくなり、しゃっくりが起こりやすくなります。フードが体質にあっていない場合は、フードの変更を検討してみましょう。軟便や便秘などお腹の調子がよくない状態が続くときは、受診して主治医の先生に相談してみましょう。

・フードや水の温度に気をつける
冷たいものや熱いものが刺激となってしゃっくりが起こることがあるので、フードや水の温度に気をつけましょう。

・温度変化に気をつける
暖かい室内から寒い屋外に出たときなどに、温度差が原因でしゃっくりが出ることがあります。玄関など温度差が大きくない場所でいったん慣らしてから外に出るなど工夫してあげましょう。

・安心して心穏やかに過ごせる環境を整える
興奮して激しく吠えたり、不安や緊張、恐怖、ストレスを感じているとしゃっくりが出やすくなります。愛犬が安心して過ごせる生活環境を整えてあげましょう。愛犬が興奮したり緊張したりしているときは、飼い主は逆に落ち着いて、愛犬を安心させてあげるようにしましょう。子犬の頃からの社会化のトレーニングで、人や他の動物、天候の変化や大きな音などいろいろな状況に慣れさせ、いざというとき不安を感じすぎないようにしておくことも大切です。日頃から過度に興奮しやすかったり、不安を感じやすい犬の場合は、行動治療専門の先生に相談してみるとよいかもしれません。

まとめ

笑顔の犬2

犬のしゃっくりはほとんど生理的なものなので心配しすぎる必要はありませんが、しゃっくりは不快感を伴うので、なるべく出ないよう予防してあげましょう。長時間続くしゃっくりや頻繁なしゃっくりは何らかの病気が関係している可能性があるので、病院を受診してきちんと原因を調べ治療するようにしましょう。

監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。