
「は…は…はくしょん!!」人でよくみられるくしゃみですが、人間同様に愛犬もくしゃみをする様子を目にしたことがある飼い主さんも多いと思います。犬のくしゃみはどのようなことが原因で生じるのか、さらにそこに病気の存在が疑われる可能性があるのか?これらについてご紹介します。
犬のくしゃみについて
くしゃみは1回あるいは数回息を吸った後、その勢いを押し返すかのように強く息を吐きだす行為を指します。人間同様に犬もくしゃみをします。犬もくしゃみ自体は生理的に正常な体の反応であり、それ自体が病気であるというわけではありません。ただし、くしゃみをした原因、その回数や様子次第では、病気などの可能性も否定できません。
またくしゃみとは少々異なりますが、人では見られず、犬で時折確認される「逆くしゃみ」と呼ばれるものが存在します。逆くしゃみについては後程詳しく紹介しますが、パッと見たところこれを鑑別するのは少々難しいかもしれません。
健康なくしゃみ、病気や体の異常の可能性が考えられるくしゃみ、それからあまり聞きなれない逆くしゃみと呼ばれるものについて説明していきます。
逆くしゃみ

逆くしゃみは、のどの奥の方にある鼻咽頭尾端部と呼ばれる部分の粘膜に刺激が加わったことによって引き起こされるもので、強い吸気を伴う行動とされています。急激な息の引き込みを起こし、くしゃみのような息を思いきり吐き出す動きの逆の行為といえます。似たようなものに、しゃっくりがあります。しゃっくりも「ヒック」という拍子に勢いよく息を吸いますが、こちらは横隔膜のけいれんに由来するところが大きな違いです。
逆くしゃみ自体は局所的な粘膜の刺激によるもので、死に至るような重大な病気に発展することは基本的にありません。とはいえ、勢いよく空気が移動することで気道の粘膜に強い刺激が加わり、鼻出血を生じることが稀にあります。小型犬や短頭種で多くみられる傾向があり、ほとんどの場合は単発的に、長くても1分程度で収束します。その間は、のどの部分を軽くなでるなどして、のど周辺の刺激の緩和をするのが対策として挙げられています。
もし逆くしゃみが続くことで、食欲低下や元気がなくなっている様子が見られる場合は、獣医師の診察を受けましょう。
くしゃみとの違い
逆くしゃみという名の通り、くしゃみは勢いよく息を吐きだすものを指すのに対して、逆くしゃみは強い勢いで息を吸い込んでいます。空気の出入りは真逆ですが、通常のくしゃみと逆くしゃみを鑑別するのは慣れていないと難しいです。
文字で違いを表現すると犬の通常のくしゃみは「ブシュッ」という音がしますが、逆くしゃみは「フガッ」という音を発することがあります。時には豚の鳴き声のようなブーブーあるいはグーグーというような濁った音が加わることもあります。見た目上の違いはが逆くしゃみは呼吸困難に陥ったような苦しそうな様子を見せることがありますが、済んでしまえばケロッとしていることが多く、元気や食欲などに大きな異常がみられないことが多いのも特徴です。息を吸う行動であるため、くしゃみと違って同時に鼻水が生じることもありません。
くしゃみの原因は様々
くしゃみはどのような原因が考えられるのでしょうか?鼻腔で何らかの刺激が加わったことによって、それを肺の方向へ侵入させないようするための反射的な行動です。従って、くしゃみそのものは病的な行為ではありません。そのくしゃみを発生させている原因によって、病気やケガといった体内の異常のサインとなっていることがあります。犬がくしゃみを起こす原因は以下のものがあります。
アレルギー
人と同様に犬でもアレルギーが原因でくしゃみを発することがあります。代表的なアレルゲンとして、ハウスダストをはじめ、スギやイネ科の植物由来のものがあります。アレルギーによるくしゃみの場合、鼻水が同時にみられることも多いです。比較的粘り気のない透明な鼻水を出すことがありますが、鼻腔での感染や炎症があった場合は鼻水の性状が変化します。
ハウスダストであれば1年を通してアレルゲンに触れる可能性があり、植物であれば特定の季節にくしゃみが増えます。
異物の刺激
犬の鼻の穴の大きさはそれほど大きくないものの、時に異物が入ってしまい、その結果くしゃみを発することがあります。くしゃみをすることで異物を体外へ排出させようとしているのです。ただし、中には鼻腔にある異物がなかなか排出されずにくしゃみが止まらない状態に至る可能性もあります。長期間異物が存在すると鼻粘膜で炎症を生じる恐れがあり、鼻血や食欲不振を招くことがあります。動物病院を受診して、非常に細い内視鏡を使って異物を取り除くことができれば症状は改善します。
“わざと”くしゃみをすることも
嬉しくて興奮した時などに、くしゃみをする犬もいます。飼い主が帰ってきて喜んでいる時などに、くしゃみを連発していたら、それは興奮によるものかもしれません。
ちなみに、鼻腔内に入り込む異物には、食べ物のかすや植物の一部など多種多様です。私たちが想いもしないようなものが異物として入り込むことがありますので、犬の生活環境はできるだけきれいにして、予防に努めましょう。
犬のくしゃみから考えられる病気

犬のくしゃみが頻繁に発生、あるいはそれに伴って出血や大量の鼻水が出ている、食欲が低下しているといった様子が見られる場合は、病気の可能性も考えられます。例えば1日1回程度のくしゃみであれば病的な要因が強いとは考えにくいのですが、くしゃみの回数が明らかに増えたときは早めの診察が必要です。
また、鼻腔で何か刺激が加わることでくしゃみは発生しますが、その根源は必ずしも鼻に限ったものではありません。ここでは、犬がくしゃみをしている際に考えられる病気についてご紹介します。
歯周病
一見すると歯の問題は関連しないように思えるのですが、犬の場合は歯周病が原因でくしゃみを伴うことが非常に多いです。特に、上顎の犬歯が原因となります。
犬歯は、犬の歯の中で最も大きい歯の一つです。歯自体が大きいと、それを支える歯の根っこ(歯根)が深くなります。歯周病が進んだ結果、その歯根の尖端に細菌感染が達した場合に鼻腔にも炎症が波及することがあります。さらに重度になると、歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)が溶けてしまい、鼻腔との間に穴が開いて口と鼻がつながってしまうことがあります。これを口鼻瘻管(こうびろうかん)と呼び、この管を通じて食べたものや飲んだものが鼻腔に入り込んでしまう状態を作り出します。その結果、鼻腔内で異物による刺激が常態化することとなり、ひいては鼻腔で炎症を起こしてしまうことにつながるのです。
この場合、くしゃみが発生するほか、鼻出血も確認されることが多く見られます。上顎犬歯のほか、比較的歯根の大きい第3および第4前臼歯でも口鼻瘻管を形成することがあります。適切な口腔外科の処置を行い、瘻管を塞ぐ治療を行います。
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鼻腔内の炎症や腫瘍
鼻腔内で炎症を起こすものとして、感染や腫瘍などもあります。
感染を起こす病原体には細菌や真菌、ウイルスなどがあり、クリプトコックスやアスペルギルスという真菌の感染がくしゃみや鼻水を誘発します。また、ワクチン未接種の子犬期にみられるくしゃみには、犬ジステンパーウイルス感染症やケンネルコフがあります。原因に合わせて抗生物質や抗真菌薬などを使用し改善につなげます。
鼻腔にポリープや腫瘍ができた場合もくしゃみが発生することがあります。これらのできものは、抗生物質などのお薬では改善しないケースが多くみられます。なかなかすっきりしないくしゃみが持続したり、鼻水や鼻出血が頻繁に表れる場合は、鼻腔に何かできものがある可能性を考える必要があります。頭部のレントゲンやCT、MRIなどの画像診断を行い腫瘍の有無や大きさを確認します。
ポリープや腫瘍は外科手術によって摘出することが最も効果的です。細い内視鏡を使用した方法が体に大きな負担をかけずに済みます。悪性腫瘍で外科手術による摘出できない場合は、放射線治療を行うこともあります。
慢性突発性鼻炎
鼻汁やくしゃみなどの慢性鼻炎症状があり、異物や細菌感染、真菌感染、腫瘍などが確認できない場合に診断されます。粘り気の強い鼻水を伴うのが特徴で鼻腔から思うように排出できず、鼻詰まりの症状も見られます。鼻詰まりがひどくなると睡眠に影響が出ることがあります。他犬種での報告もありますが特にミニチュアダックスフンドで多く見られる疾患です。抗生物質やステロイドの薬では改善がみられないこともあり、ネブライザーと呼ばれる吸入療法を行うことで鼻詰まりの症状緩和を図ります。
ケンネルコフ
ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)は、特に子犬が気を付けたい咳を主な症状とした呼吸器の感染症です。ケンネルコフにかかると、のどに何かが詰まったようなしつこい咳(短い乾いた咳)やくしゃみが症状として現れます。治療は症状により対症療法 を行います。咳止めや去痰剤の投与、ネブライザーによる治療(吸入治療)を行うほか、二次感染防止のために抗生物質などを投与します。また、飼育環境の改善や食事療法を行い、免疫力を向上させます。
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くしゃみが止まらないときの対処法

くしゃみが数分以上もずっと続いている場合や、毎日数回くしゃみが出るということは日常の生活ではあまり生じることではありません。さきほど説明した通り、くしゃみを生じるものの中には病気が関連している場合もあります。では、どのような場合に病院に連れていくべきなのかをご紹介します。
病院に連れていくべきくしゃみの見分け方
病的あるいは病気の可能性があるくしゃみと、いわゆる生理的なくしゃみがあります。特にこれが該当していたら要注意というポイントをご紹介します。
■食欲が落ちている
まず、くしゃみが生じたことに合わせて食欲が減退している場合があります。くしゃみと同時に鼻詰まりが見られ、それによって嗅覚の低下がみられることで味の感覚も落ちます。そのため食欲が落ちることがあります。粘り気の強い鼻水が鼻腔に存在しているかもしれません。
■鼻水に色がついている、粘り気がある、鼻出血も見られる
鼻水や鼻出血の有無もよく観察しておきましょう。わずかな透明な鼻水がくしゃみと同時に出るのであればさほど問題がありませんが、色の付いた粘り気のある鼻水は鼻腔内に炎症が存在している可能性が考えられます。さらにそこに鼻出血がみられた場合は、その程度がさらに進んでいる場合があります。
また、鼻水や鼻出血が左右非対称で出ている場合は、異物の存在やポリープ、腫瘍などが関係していることがあるので、早めの診察をお勧めします。
犬の風邪は人間に移ることは、基本的にない
ケンネルコフは、犬から犬への感染力は強いものの、人間に移ることは基本的にありません。また、人間の風邪が犬に感染することもありません。
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まとめ

くしゃみそのものは愛らしい仕草ともいえますが、やはり限度というものがあります。人間で1~2回連続するくしゃみをしている人を見かけても病気と思うことがないのと同じように、数回程度であれば単に鼻腔に何か刺激が加わった結果と考えてよいでしょう。くしゃみ以外に変わった様子があるかどうか…これが大きな鑑別ポイントとなります。たかがくしゃみと思っていたら重大な問題が潜んでいたということもない訳ではありません。大量の鼻水や鼻出血、元気や食欲が低下している場合はできるだけ早めに獣医師の診察を受けるようにしましょう。
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