
うさぎのエンセファリトゾーン症ってどんな病気?
エンセファリトゾーンという原虫に分類される寄生虫による疾患です。うんちに出てくるぎょう虫などの消化管内寄生虫とは生活スタイルや発病の仕方が異なり、検査での特定が困難という特徴があります。
脳や腎臓や眼などさまざまな臓器の細胞内に寄生して増殖し、体調不良を引き起こします。脳で増殖すれば、斜頸や痙攣、運動失調などの神経症状、眼で増殖すれば白内障や眼球内の膿瘍(のうよう:膿がたまった状態のこと)やブドウ膜炎などがみられます。寄生虫の感染部位によっては、全身のあらゆる臓器にトラブルを起こす可能性も考えられています。
うさぎのエンセファリトゾーン症の感染経路は?

エンセファリトゾーンに感染しているウサギが妊娠している場合、胎盤を通して母ウサギから胎児の子ウサギに感染します。また、感染しているウサギの尿からエンセファリトゾーンの胞子が排出されるため多頭飼育の場合などは給水ボトルやトイレから感染することもあります。
健康なうさぎでも感染歴があることが多く、感染しても無症状ということも多いです。免疫力が下がったときに発症する「日和見感染症」と考えられます。
※日和見(ひよりみ)感染症…日常的にどこにでもいる、低病原性の細菌やカビなどの常在微生物によって体調不良を起こすこと。健康などうぶつでは感染しても問題にならないが、抵抗力が著しく落ちた免疫抑制状態で問題となる。
うさぎのエンセファリトゾーン症はどんな症状が出る?
神経症状と眼症状が代表的です。
神経症状
脳神経の前庭部分に障害が現れ、以下の症状が見られます。
・斜頸
首が傾いたままの状態です。斜頸症状は生涯残ることもありますが、水を飲んだり、食事が取れれば、斜頸があっても寿命を全うすることができます。
・眼振
一方向に流れたように眼が左右に揺れます。眼球自体の病気ではなく、脳神経の問題で眼に症状が現れている状態です。眼振症状が落ち着けば、視覚での認識能力は以前の通りに戻ると考えられています。
・歩行困難、ローリング
平衡感覚を失ってまっすぐ歩けなくなり、のたうち回るように暴れることがあります。斜頸が起こった直後はバランスをとれず、うまく立ち上がりにくくなります。慌てて押さえつけたり力任せに不適切な固定を試みると、腰椎骨折などの重大な事故につながる恐れもあるので、注意が必要です。
眼症状
寄生虫が入っている側の眼に症状が出ます。片眼だけに症状が見られる傾向にあります。次の症状はエンセファリトゾーン症に特有なものではないため、ほかの原因やさまざまな併発疾患も考える必要があります。
・しょぼつき、赤み、流涙
眼を開きづらそうにしたり、白目や眼のふちが赤くなったり、涙が増えたりします。幅広い眼科トラブルで初期のうちからみられやすい症状です。痛みや炎症のサインとなります。
・眼内膿瘍
眼の中に膿が溜まります。肉眼で見てわかることもあります。カスタードクリームのような膿が眼の内部に見つかったり、眼球表面に盛り上がりを作ることがあります。
・白内障
水晶体の一部、または全体が白く濁ります。水晶体は外からの光を屈折させ、網膜に像を映す役割を担っているため、白く濁ることで視力の低下を招きます。
・ぶどう膜炎
眼の内部の血管が豊富な膜組織に炎症が起こり、痛みや散瞳(黒目が大きくなる)などの症状が出ます。
また、進行した白内障やぶどう膜炎の結果で、緑内障が起こることもあります。
うさぎのエンセファリトゾーン症の原因は?
原因の病原体は、Encephalitozoon cuniculiという、細胞内に寄生する微細な胞子型の寄生虫です。出産時に母うさぎから子どもに伝染することが多いようです。
アメリカやヨーロッパの調査結果では約80%のうさぎに感染歴があるともいわれ、感染していてもほとんどの個体は無症状で、問題になるのは免疫力の落ちたうさぎでの日和見感染症と考えられます。
日和見感染症は抵抗力の低下時に発症することから、エンセファリトゾーン症の原因は、寄生虫の感染だけではなく、体力や抵抗力が低下するきっかけも関与します。持病やストレス、不適切な食事や生活環境、免疫抑制剤の使用などが発症のトリガーになると考えられます。
うさぎのエンセファリトゾーン症に関連する病気はある?
鑑別疾患
エンセファリトゾーン症と見分けが必要な病気に、耳の病気があります。
斜頸や眼振などの平衡感覚をつかさどる領域が侵されたことによる、神経症状は、内耳炎や中耳炎でも見られることがあります。中耳炎や内耳炎では外耳(耳翼~耳の入り口)には汚れやただれが見られないこともあるので、外見的には判別が困難なこともあります。
耳の奥の異常の有無はCTやMRIで判断する場合もありますが、高度な画像検査は経済的負担が大きく、実施が難しいこともあるため、試験的に耳の治療を行うこともあるでしょう。
併発しやすい疾患
エンセファリトゾーンによる神経症状がでると、食欲不振・食事困難が起こることがあります。うさぎは絶食や偏食に弱いので、牧草をしっかり食べられていないと、鼓腸症や腸毒素血症などの病気を併発することがあります。水も上手に飲めなくなり、脱水による不調を起こすことがあります。
どうやって診断するの?
エンセファリトゾーンの確定診断は非常に困難です。
これは、寄生する場所が細胞の中であり検出しにくいことと、感染しても無症状が多いという特徴によります。血液検査での抗体検査では過去の感染の有無はわかりますが、感染自体は発症の原因とならないため、血液検査での診断はできません。しかし、抗体価の数値によって、治療を開始するか、経過観察をするか、時期を改めて再度検査するか、など方針を決める参考にはなります。
そのため、神経症状や眼内の膿瘍などの特徴的な症状が見られた場合は、エンセファリトゾーン「かもしれない」という可能性の推測をしながら、治療をしていくことになります。
うさぎのエンセファリトゾーン症はどんな治療をするの?

多くのうさぎは対症療法を行ってしばらくすると回復します。
・点滴
脱水症状を緩和します。皮下点滴であれば、入院ではなく通院で実施可能なこともあります。
・食事の介助
口元に食事をもっていって食べさせます。 食欲が著しく落ちているときは葉野菜を与えます。
自力で食べることが困難な場合は食物繊維が豊富な流動食や、ペレットを水で溶いたもの、野菜のスムージーなどをシリンジで与えることもあります。
・点眼薬
ぶどう膜炎などの眼の炎症が見られる場合は、抗炎症作用のある点眼薬を使用します。
・発作止め、抗けいれん薬
ローリング症状やバタつき、発作が酷い場合は、発作を抑える薬を使用することもあります。
・駆虫薬
駆虫薬の長期投与を行うことがあります。
人間でいう消化管内寄生虫の駆虫とは異なり、エンセファリトゾーンの場合は体内の寄生虫を完全に駆除することは難しいです。エンセファリトゾーンに有効な薬は、寄生虫の胞子生成を抑制する作用にとどまります。
そのため、投薬だけによって劇的な改善を期待することは難しく、回復は本人の体力が主体となります。投薬期間は1~2ヶ月と長くなる場合もあります。
治療費は?どれくらい通院が必要?
『みんなのどうぶつ病気大百科』によると、エンセファリトゾーンにおける1回あたりの治療費は6,944円程度、年間通院回数は2回程度です。
病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

斜頸症状が出た場合のおうちでの看護は?

斜頸症状が出はじめのころは平衡感覚を失い、歩行も姿勢保持が困難なことがあります。しばらくして神経症状が落ち着き、本人も傾いた視野に慣れれば、斜頸症状があったままでも家庭内で日常生活を送ることができます。
エンセファリトゾーン症が疑われる神経疾患の治療中や、斜頸が残った場合の病後は、次のような飼育環境を作ってあげるといいでしょう。
・水入れはお皿タイプに
斜頸があると、ボトルタイプからの飲水は難しいです。お皿タイプの水入れも用意してあげましょう。ワンちゃん用のステンレス製や陶器製の重くて大きめのものがおすすめです。
・牧草も食器に入れて
牧草フィーダーから引っ張って食べる行動は難しくなります。牧草もペレット類と同様に、食器に入れて与えるといいでしょう。治療開始直後の食欲が落ちている時期は、葉野菜類を口元に持っていって与えるのもよいでしょう。
・トイレは段差がないもので
うさぎさん用のトイレには、ジャンプして乗ることが前提の高さがある製品も多くあります。角に設置するものだと、ジャンプして乗った後に体の方向転換も必要です。
首が傾いた状態に慣れるまでは使用が難しいので、しばらくは段差がないものが理想的です。トイレシーツを敷く方法もよいですが、シーツをかじって食べてしまう場合は撤去しましょう。排尿で床や体が汚れてしまう場合は、敷きわらを入れてあげるのもよいでしょう。
・激突のケガから守る
転倒やローリングでケージに激突することがあります。段ボールや、ベビーベッド用のパッドなどを活用して、ケージの内側を覆って保護しましょう。
転倒やローリングが重度な場合は小さめのケージに入ってもらうのもよいでしょう。食事や水も倒してしまうほどの場合は、食器や水入れも撤去して、1日4回以上を目安に食事、飲水介助もしてあげてください。
うさぎのエンセファリトゾーン症の予防法は?

エンセファリトゾーンへは出生時に母うさぎからうつることも多いので、感染自体を予防することは難しいです。
発症のトリガーとなる免疫力の低下を防ぐことが大切です。
・適切な食事
チモシーなどの牧草を主体とした高食物繊維の食習慣を守ります。甘いおやつの食べ過ぎや、ペレット中心の食事は胃腸の病気や肥満を起こすこともあるので注意しましょう。
・ストレスの回避
うさぎは繊細な性格の子が多いので、環境変化による精神的な負担を避けます。犬や猫との接触、慣れていない人や子どもからの一方的な触れ合いも控えるとよいでしょう。
・温度と湿度の管理
寒さや暑さ、じめじめした環境は体力を消耗する原因となります。
空調を使用し、室温は18℃~24℃程度、湿度は30~50%程度を目安に保ちましょう。子うさぎの場合は少し暖かめにするとよいですね。
・ケージの清掃
不衛生なケージはストレスをはじめ万病のもとです。こまめに清掃し、新鮮な食事ときれいなお水を毎日与えましょう。

まとめ
エンセファリトゾーン症は確定診断が困難な病気ですが、中耳炎などとの鑑別が必要なため、斜頸や眼振があった場合は早急に受診しましょう。
治療で徐々に回復することが多い病気ですが、食欲不振が出ている場合は、胃腸の不調を併発し、全身の状態が悪化することもあります。
エンセファリトゾーン症の症状の出方や重症度は個別の状況により異なるので、早めに診察を受け、うさぎさんに必要なケアをなるべく早く行いましょう。