うさぎの緑内障ってどんな病気?

緑内障とは、眼圧が異常に上昇して強い痛みが出たり、視力を亡くしてしまう眼科疾患です。 白内障と類似した病名ですが、病気のしくみも症状もまったく異なります。白内障は、眼球内のレンズである水晶体が変性して白くなり、見えづらくなる病気です。

一方の緑内障は、眼球内の眼房水と呼ばれる液体の流れが何らかの要因で阻害され、眼球内の圧力が高まる病気です。視神経が圧迫されて、激しい疼痛や視野が狭くなったり、視覚喪失が起こります。残念ですが、緑内障で一度失われた視力は元に戻すことはできません。

うさぎの緑内障はどんな症状が出る?

うさぎ

痛みによってまぶたがけいれんしたり、涙の量が増えたりします。結膜や強膜が充血し、白目の部分が赤い状態も見られます。重症になると、目が大きく突出する場合もあります(牛眼症状と呼ばれます)。目に激しい痛みがあるので、元気・食欲の低下や飲水量の低下のほかに動きが減って、さわられるのを嫌がることもあります。

緑内障が進行すると視力喪失が起こりますが、うさぎの場合は視力が落ちていることに気づくのが遅くなることも多いです。うさぎは、本能的に発達した耳を使って音で状況を把握できるので、馴れた環境では見えているかのような行動をとることもあります。そのため、完全に失明していても自宅では気づかない場合もあります。

ケージ内では普通に生活できていても、ケージの外に出て室内散歩をしたときの動きに変わったようすがあれば、視力低下の可能性もあります。念のため動物病院で診察を受けるとよいでしょう。 もし、完全に視力を失ってしまっても、ケージ内など慣れている環境内では、自分でごはんが食べられ、お水を飲むことができれば、家庭内での日常生活は満足に送ることができます。

うさぎの緑内障の原因は?

うさぎと虫眼鏡の画像

生まれつきの遺伝病の場合と、ぶどう膜炎などの眼科疾患に続発する場合があります。遺伝性が見られる品種は珍しく、ほとんどのうさぎは、他の眼科疾患と併発することが多いです。

遺伝性(先天性、生まれつき)

ニュージーランド・ホワイト種(日本のペットショップではあまり流通していない)では、遺伝子が原因で緑内障が起こりやすいことが知られています。

潜性(劣勢)遺伝なので、二対あるうちの片方の染色体(遺伝情報)が健常であれば発症はしませんが、両親が緑内障を引き起こす遺伝因子を持っていると、子どもの発症リスクは高まります。眼球内の眼房水がうまく流れなくなる障害によって眼圧が上昇すると考えられています。

遺伝性の緑内障では、生後3~5ヶ月頃に発症することが多いです。生後2~3週間ごろに発症することもあり、早期に発症した場合は眼球が巨大化する傾向にあります。著しい場合は角膜の白濁や混濁、突出したことによる角膜潰瘍や、眼球破裂が生じる場合もあります。

続発性

他の眼科疾患が原因となって起きる緑内障を続発性緑内障といいます。

具体的にきっかけとなる病気には、

  • ぶどう膜炎
  • 虹彩癒着 (こうさいゆちゃく)
  • エンセファリトゾーン感染(原虫という寄生虫の一種)

などがあります。このうち、慢性的なぶどう膜炎がとくに緑内障を引き起こすことが多いです。

緑内障自体は炎症の病気ではないのですが、眼内になんらかの炎症があると発生しやすくなります。理由は、緑内障の直接の原因となる眼房水の流れにあります。 眼球の内部には眼房水という液体が満たされています。健康な眼球では、眼房水の産生量と流出量のバランスが保たれ、眼圧は一定の範囲に保たれています。

しかし、眼の内部の炎症や癒着などが起こり、流れが妨げられると、眼房水が過剰となり、眼圧の上昇を引き起こします。 そのため、炎症を起こす眼科疾患は、緑内障の続発に注意が必要です。

うさぎの緑内障に関連する病気はある?

先述したぶどう膜炎、虹彩癒着、エンセファリトゾーン感染のほかには、

  • 白内障
  • 不正咬合

が関連します。

白内障

白内障は水晶体(レンズ)が変性して白く濁る病気ですが、進行すると水晶体(レンズ)が脱臼して位置がずれたり、膨張して眼房水の流れを妨げることがあります。また、水晶体が破れてぶどう膜炎などを誘発することがあります。そのため、白内障を原因として緑内障に至ることもあります。

不正咬合

緑内障の重症例では眼球の突出(牛眼症状)が認められることがありますが、目が飛び出した状態は不正咬合が原因でも見られることがあります。

牧草を食べる量が足りず、ペレットのみなどの不適切な食事で臼歯(奥歯)が伸びすぎてしまうと、噛み合わせに異常が起こります。伸びた歯は顎を傷つけ、膿瘍や腫れをつくります。眼窩に膿瘍が形成されると、顔貌が変形し、眼球が突出することがあります。同時に流涙や目やに、食欲不振が見られることもあるので、緑内障の症状と類似します。

眼の変調に気づいて受診する場合でも、眼以外の病気が関わっていることもあります。 診察の際には普段の食事の内容や量なども伝えて、全身的に健康状態をチェックしてもらうとよいでしょう。

緑内障はどうやって診断するの? 視力検査は?

うさぎの目を検診

緑内障が疑われるような眼の症状がある場合、ほかの眼科疾患についても確認する必要があるため、まずは眼球全体の状態を把握します。眼の表面の角膜や水晶体を観察したり、眼やになどの分泌物を調べたりします。

眼圧測定

緑内障の診断で最も重要な項目です。 眼の表面に機械をそっとあてて、眼圧を測定します。 一般に、30mmHg以上(※1)の高い眼圧が観察された場合、緑内障と診断される目安となります。 (※1……正常な眼圧値は、検査機器によって基準値が多少異なります。また、実際の測定値は検査時の保定状況などの影響も受けるため、無症状の眼圧と比較して診断することもあります。)

視力検査

どうぶつの視力の有無の確認は、眼に物を近づけたときや光を当てたときの反射で観察することが多いのですが、うさぎの場合は犬猫に比べて瞬きの数が少ないため、反射を見ること自体が難しいです。そのため、視力の残存状況は客観的に評価が難しく、家庭内での様子などを聞いて判断することもあります。

眼底鏡検査

虫メガネのような眼科検査用レンズ(眼底鏡)を使って、眼球の奥側にある網膜の血管や神経を観察します。

緑内障が進行していると、眼球の奥の視神経乳頭に大きなへこみが見つかることがあります。この場合は、高い眼圧によって視神経が圧迫され損傷している可能性が高く、失明状態と診断されることもあります。

うさぎの緑内障はどんな治療をするの?

診察されるうさぎ

痛みの緩和や眼圧を下げるための点眼治療が一般的です。外科的治療は困難です。 食欲不振などがある場合は、身体に対する対症療法も行います。 エンセファリトゾーン感染が疑われる場合(神経症状があるときなど)は、有効な抗原虫薬を投薬します。

点眼

目薬を使用します。 治療内容によっては、決まった時間に点眼が必要になることもあります。複数種類を併用することも多いので、点眼の順番やそれぞれの回数は処方を受けた時に確認しておきましょう。

眼圧を下げる点眼薬には、下記のようなものがあります。

  • 炭酸脱水酵素阻害剤(例:ドルゾラミドなど)
  • 交感神経β遮断薬(例:チモロールマレイン酸塩など)

いずれも、眼房水の産生量を抑えることで眼圧が下がります。 眼の痛みをやわらげる点眼薬には、ジクロフェナクナトリウムなどがあります。 角膜の炎症や膿んだ目やにが認められる場合は、細菌感染をコントロールするため、抗生物質の点眼薬を併用することもあります。

※うさぎに人間用の目薬を使っても大丈夫?

どうぶつ用医薬品は種類が限られるので、動物病院では人間用の医薬品を処方することもよくあります。うさぎに使用可能な人間用の点眼薬もたくさんあります。

しかし、うさぎはアトロピン分解酵素という、一部の薬の成分を分解する機能を持っているため、人間で使用可能な薬剤がうさぎには効かない場合があります。人間や犬などの緑内障治療ではアトロピンの点眼薬を使うこともありますが、うさぎの場合は似たしくみの異なる成分の点眼薬が処方されることもあります。

うさぎにはどうぶつ種特有の投薬事情があるので、お薬で不明な点があればかかりつけ医に相談し、動物病院で処方を受けた目薬を使用しましょう。

食欲不振のケア

痛みによって食欲が低下している場合は、痛み止めやおなかの動きを良くする薬、食欲増進剤などを使用します。

うさぎの場合、牧草やペレットを食べる量が減ることで、おなかの動きや腸内細菌のバランスが悪くなると、鼓腸症(うさぎのお腹にガスが溜まっている状態のこと)や腸毒素血症の危険が高まります。

うさぎにとって、おなかの健康は全身の健康のもとですから、チモシーなどの牧草が食べられるように体調を維持することはとても大切です。脱水があるときは点滴も有効となります。 牧草が食べられないときや、うんちの量の減少や粒が小さいときは要注意です。

著しい食欲低下時は流動食の強制給餌が必要なこともあるので、治療中は1日にどれだけの量の食事を食べているかと排泄物の量を観察しましょう。

外科手術

緑内障では視神経が傷害されるため、手術を行っても視力を回復させることは残念ながらできません。 緑内障のどうぶつに手術を行うこともありますが、目的は痛みからの解放による生活の質の向上となり、眼球の摘出が一般的です。

うさぎの場合は、他のどうぶつ種と比べると麻酔の影響や手術の負担に繊細な傾向があるため、手術の実施は慎重に判断されます。 点眼薬を使用しても眼圧が下がらない場合や、内科治療を行っても激しい痛みや食欲不振を改善できない場合は、手術の対象となるかもしれません。

うさぎの眼科手術を行うことができる動物病院は限られますので、かかりつけ医ともよく相談して検討するとよいでしょう。

治療費は?どれくらい通院が必要?

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、緑内障における1回あたりの治療費は9,342円程度、年間通院回数は5.5回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

うさぎの緑内障の予防法は?

結膜炎やぶどう膜炎などを早期に治療することです。

眼は微細な構造が集まってできているので、一か所の異常でも眼球内に広がってしまうことが多く、ほかのさまざまな眼科疾患につながる恐れがあります。 眼の赤みや痛み、涙などの異常が見られた場合は、早めに動物病院で診察を受けましょう。

まとめ

緑内障は視力喪失と眼の痛みを起こす病気です。うさぎは全盲となっても日常生活が送れる子も多いですが、眼の痛みは食欲不振を起こし、全身状態の悪化につながる恐れがあります。 ぶどう膜炎の症状から緑内障へ悪化する可能性もあるので、眼になにか変わったようすがあれば、すぐに動物病院を受診するとよいでしょう。

監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。