
果物の食べ過ぎや甘いおやつ、パンなどの不適切な食事は腸毒素血症の発症リスクを高めます。うさぎが喜んで食べるものは、必ずしもうさぎの身体に良いものとは限りません。ご褒美のつもりがおなかの調子を崩し、全身状態の悪化を起こす可能性があります。
腸毒素血症は飼育環境や食事が原因でも発症するので、元気なときから予防につとめましょう。
うさぎの腸毒素血症ってどんな病気?
腸内細菌のバランスが崩れ、クロストリジウム属の細菌(Clostridium spiroforme)が過剰に増殖して発症します。増殖したクロストリジウム菌は、エンテロトキシンという毒を作り出し、下痢やショック症状をおこします。
腸毒素血症は、「エンテロトキセミア」「クロストリジウム性腸炎」「腸性自家中毒症」などとも呼ばれます。
クロストリジウム菌は、健康なうさぎの腸内にも存在する細菌ですが、不適切な食事やストレス、うさぎに合わない抗生物質の使用などにより発症します。
うさぎの腸毒素血症はどんな症状が出る?

下痢、腹痛、食欲不振や、脱水、発熱などの症状が代表的です。脱水を引き起こしている場合には、水を飲む量が急激に増えることもあります。重症時には死にいたることもあります。
下痢
水っぽい泥のような下痢のほか、ゼリーのような粘液性の下痢をする場合もあります。症状に波があり、普通のうんちも出るけど、下痢をするときもあるという状態になることも。
下痢をしているうさぎではお尻や足の裏がうんちで汚れることもあるので、身体が汚れていると思ったら、うんちの状態を確認しましょう。
健康なうさぎのうんちは黒真珠のようにコロコロと丸く、大きさが均一です。
うんちのかたちが崩れていたり、丸くてやわらかいうんちがくっついて連なっているとき、大きさがバラバラな時はおなかのトラブルの可能性があります。 (※盲腸便が落ちていることもあります)
泥状、ゼリー状のうんちが出ているときは、すぐに動物病院を受診しましょう。
盲腸便について&下痢との見分け方
健康なうさぎも、コロコロの丸いうんちとは別に、やわらかいうんちを排泄することがあります。「盲腸便」という、栄養豊富な食用のうんちです。
盲腸便は毎日排泄されますが、多くのうさぎは肛門に直接口をつけて食べるので、目にしないことも多いです。丸いうんちと比べるとにおいが濃いこともあり、(ヤギのふれあい農場のようなムワッとしたにおいがします)食べ残しの盲腸便を軟便や下痢と間違えてしまうことがあります。
盲腸便はやわらかく、小さな粒が連なったブドウの房のような形状で、表面はツヤツヤのゼラチン状の粘液で覆われています。
一方、下痢の場合は形がバラバラのうんちが排泄されます。コロコロのうんちではなく、排泄されたうんち全体が水っぽい場合やトロっとしたうんちが出ている場合、お尻が汚れている場合は、下痢の可能性が高くなります。
盲腸便と下痢便の見分けが難しい場合や、たくさんの盲腸便が落ちている場合は、うんちを持参して、念のため動物病院で確認してもらいましょう。
腹痛
背中を丸めた姿勢や、動きたがらない、歯ぎしりをする、耳をたてて呼吸が荒いといったサインは、緊張や警戒のときもありますが、腹痛の症状でもみられます。
ショック症状
毒素の影響で起こります。重度の脱水でぐったりしたり、呼吸が苦しそうに早くなる、重篤な状態になると体温が下がるなどの危機的な状況に陥ることがあります。
これらの症状に対しては緊急で処置が必要なので、夜間や休日でも早急な受診が望ましいです。
うさぎの腸毒素血症の原因は?

不適切な食事
繊維質が少なく炭水化物の多い食事によって、クロストリジウムという細菌が増え、腸毒素血症が起こりやすくなります。
うさぎは嗜好性の高いペレットや果物類を優先して食べる傾向にあるので、飼い主が食事内容を管理することが重要です。
【注意が必要な食事】
- 乾燥チモシーなどの牧草ではなく、ペレット主体の食事をあげている
- カボチャやサツマイモ、ジャガイモのようなでんぷんの多い野菜をあげている
- バナナやマンゴーなどの甘みの強いくだものをあげすぎている
- ハムスター用フードや鳥類用シード(穀物・種子類)、パンやビスケット、クッキーなどのおやつをあげている
うさぎに合わない抗生物質の使用
うさぎは食物繊維をおなかで発酵させて栄養をつくるため、発酵に有用な腸内細菌は生命維持にかかわる大切な存在です。
抗生物質は成分によって効き目の仕組みがさまざまで、薬剤によってはうさぎに有用な細菌ばかりが死んでしまいます。うさぎの場合は、ペニシリンやアンピシリンなどを経口投与すると、腸内細菌の菌交代症が起こりやすいことがわかっています。
ストレス
緊張や恐怖によって交感神経が強く働くと、おなかの動きが悪くなります。消化管の動きが停滞すると、お腹の中で異常発酵が起こりやすく、腸炎や腸毒素血症につながる可能性があります。
離乳期
生後2ヶ月ごろのうさぎは致死的な下痢を起こすことがあります。
子うさぎが母乳を卒業すると、腸内細菌のバランスは草食生活に合わせて形成されていきますが、離乳期はまだ不安定で抵抗力が弱いと考えられます。腸毒素血症の原因菌であるクロストリジウム菌eに対してはとくに弱く、過剰に増殖して発症しやすくなります。
下痢の発症後2~3日ほどで命にかかわることもあるので、入院が必要な場合も多いです。子うさぎにうんちの変化が見られた場合は、早急に動物病院を受診しましょう。
うさぎの腸毒素血症に関連する病気はある?

腸内細菌のバランスが崩れることが原因となるので、毛球症などの消化器疾患が関係する可能性があります。
また、食欲不振は偏食を起こし、腸毒素血症につながりやすいと考えられます。
これらの体調不良のケア中は腸毒素血症に警戒し、食事内容に気をつけてあげましょう。
うさぎの腸毒素血症はどんな治療をするの?
病院での治療
■点滴
下痢によって失われた水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)を補うため、点滴をします。皮下点滴は通院でも可能ですが、静脈点滴の場合は入院が一般的です。
■痛み止め
食欲を回復させるため、強い腹痛が疑われる場合には痛み止めを使用します。
■クロストリジウム菌の抑制
クロストリジウム菌に有効な薬として、メトロニダゾールという薬があります。この薬は苦味が強いので、うさぎが薬を飲むのを嫌がることがあります。
薬をあげるときには体を押さえて飲ませる場合もあるので、バスタオルなどを使って保定したり、投薬器が必要なことも。処方されたときは、上手な投薬の仕方や安全な体の支え方も、獣医師に確認するとよいでしょう。
おうちでのケアのポイント
高繊維なチモシーを与えましょう。
食欲が著しく落ちているときは、小松菜やホウレンソウなどの青菜の生野菜を試してみましょう。キュウリや白菜などの水分が多い野菜より、パセリやダイコンの葉など繊維質が豊富な野菜がおすすめです。
食欲不振の程度がひどいときは、少しでもなにか食べてもらいたくなりますが、炭水化物の多いもの(パンやバナナ、カボチャ、クッキータイプのおやつなど)は原則与えないでください。かえって状態を悪化させることがあります。
牧草や生野菜を全く食べられないときは、極めて危険なサインです。12時間以上絶食状態が続いたら、すぐに動物病院に連絡してください。
うさぎの腸毒素血症の予防法は?
食事で腸内細菌のバランスを保つ
チモシーなどのイネ科牧草を主食にします。食べ放題にしてたっぷり与えましょう。
キューブ、アルファルファなどのマメ科牧草で作られたものは、ペレットと同じ位置づけとして与えます。チモシー代わりとして与えるのは避けましょう。
ペレットは体重の5%程度までを目安にして、量を決めて与えます。成長期や妊娠、授乳中でペレットの割合を増やす場合も、チモシーメインの食事をこころがけましょう。
生野菜や野草はうさぎにとってごちそうですが、牧草の拒食を起こさないように調節してあげるといいですね。
果物やおやつは、あげたらだめ?

うさぎ本来の食性から考えると、果物や甘いおやつを常に与え続けるのは控えましょう。
しかし、おやつ類は家族とうさぎの絆を強めるこころの栄養になります。コミュニケーションのツールや投薬の補助にも使えますし、キャリーケースへの誘導やケアのごほうびなど、ここぞというときに嗜好性の高いおやつは心強いものです。
ブラッシングや爪切り、へやんぽからケージに戻るときなど、状況を限定して与えるなどして、量を調整しましょう。少量のリンゴや生のパイナップル、サラダ菜、ロメインレタスなど、菜食の食材の中から選んであげるといいでしょう。また、添加物のないおやつを選ぶことも重要です。
抗生物質の適正使用
抗生物質の種類によっては、うさぎが安全に使用できる成分もありますし、適切に選択された薬はケガや病気の治療にも役立ちます。すべての抗生物質が危険なわけではないですが、慎重な判断が必要です。
うさぎに与える薬は、獣医師の指示通りに与えるようにしてください。
ストレス対策
うさぎは非常に繊細な動物です。 できる限り精神的な負担になる変化は避けましょう。
猫やフェレットなどの捕食的な動物との接触や来客、子どもによる長時間のふれあいは日ごろから控えたほうが安心です。
多頭飼育や交配を行う場合もかならず馴らし期間を設け、突然の同居はお互いにとってのストレスとなりますから避けてあげましょう。
ケージの設置場所は静かで室温の変化が少ないところを選び、ドアやテレビ、大きな音がする機械の近くは避けてください。

まとめ
うさぎの腸毒素血症は、腸内細菌のバランスの乱れで起こります。不適切な食事で発症することも多いので、毎日の食事内容に気をつけましょう。
近年は動物の腸内細菌についての研究も進められてきています。腸内細菌を測定することで、食生活を評価したり、腸毒素血症の予防に役立つかもしれません。
毎日のごはんとうんちをチェックして、うさぎの健康を守りましょう。