うんちの表面に白くて細い寄生虫が認められることがあります。何匹も付着していることもあるので、びっくりするかもしれません。病原性は低いので無症状で共存することも多いのですが、大量寄生時には下痢などの症状が認められることもあります。

うさぎの蟯虫症ってどんな病気?

ウサギ盲腸蟯虫(ギョウチュウ。Passalurus ambiguous)という寄生虫が消化管内に寄生して起こる病気です。蟯虫は、ピンワーム(pinworms)とも呼ばれます。

寄生虫には、体表に寄生して皮膚のかゆみや脱毛を起こす「外部寄生虫」と、消化管などの中に寄生して下痢や食欲不振を起こす「内部寄生虫」があります。
うさぎで問題になる外部寄生虫にはノミやズツキダニ、ツメダニ、ヒゼンダニ(カイセン)、シラミなどがあります。内部寄生虫には、先述の蟯虫のほか、コクシジウムやジアルジアなどの原虫があります。蟯虫は肉眼で観察が可能な、ひも状の虫ですが、コクシジウムやジアルジアは顕微鏡を使用しないと観察できません。

ひと口に寄生虫と総称しても、生物としては大きな違いがあるので、それぞれ違う治療薬が必要なこともあります。
どの寄生虫も、他のどうぶつや汚染された環境から感染するため、なにかひとつ寄生虫が見つかったときは、他の寄生虫にも感染していないか警戒が必要です。

うさぎの蟯虫症はどんな症状が出る?

うんちに虫がみつかる

うんちの表面に虫が見つかることがあります。
白く細い形態をしていて、長さは数mmから1cmほどです。
産卵後の死んだ成虫がうんちの表面に付着することが多いので、発見した虫は動かないこともあります。

下痢と発育不良

ウサギ盲腸蟯虫は病原性が低く、寄生していても無症状のうさぎも多いです。
しかし、不適切な食生活やストレスが重なって腸内環境が乱れると、寄生虫の増加が認められ、下痢や発育不良などの症状が現れることもあります。
大量に寄生した蟯虫が下痢の直接的な原因なのか、下痢を起こすような腸内環境の乱れがあると蟯虫が大量増殖するのか、下痢との因果関係についてはさまざまな考察がされています。

うさぎは食事内容の変更や細菌感染、コクシジウムなどのほかの寄生虫によって下痢や食欲不振を起こすことも多いので、症状が認められる場合は、蟯虫以外の原因が隠れていないかにも警戒が必要です。
たとえ体調不良時に蟯虫がみつかっても、蟯虫だけが原因だと自己判断はせずに、動物病院を受診し、他の要因がないかも確認した方が良いでしょう。

お尻のなめ壊し

ウサギ盲腸蟯虫は肛門付近に卵を生みつけるため、うさぎがお尻を気にして肛門付近を舐め壊してしまうことがあります。

盲腸便を食べるときや正常なグルーミング行動でもお尻に口をつけたり舐めることがありますが、お尻付近がただれたり、はげたりしている場合は舐性皮膚炎(しせいひふえん)を起こしている可能性があります。気になった場合は、まずはうんちに白い虫がついていないかおうちでも観察してみましょう。

うさぎの蟯虫症の原因は?

ウサギ盲腸蟯虫の寄生です。うさぎの糞便内や肛門に生みつけられた卵が周囲に散らばり、経口感染によってほかの個体に広まります。
共存状態で蟯虫を持っているうさぎもいるため、母子間や集団での接触などで感染すると考えられます。また、野草や有機野菜なども感染源となる場合があります。
健康を害さないケースも多々あることから、積極的な治療を必要とせず、おうちに来る前から持っているということもあります。

うさぎの蟯虫症に関連する病気はある?

他の寄生虫の感染

コクシジウムやジアルジアなどの他の寄生虫に同時に感染していることがあります。ウサギ盲腸蟯虫とは異なり、原虫と呼ばれる小さな寄生虫なので、肉眼では観察することができず、顕微鏡で調べる必要があります。
これらの寄生虫はウサギ盲腸蟯虫と比べると病原性がやや強く、とくに成長期の幼いうさぎでは重篤な下痢や食欲不振を起こすことがあります。

若いうさぎに下痢や軟便、食欲不振が認められたときは、さまざまな種類の寄生虫感染に警戒する必要がありますので、うんちを持参して動物病院で検便を受けるとよいでしょう。

不適切な食事

ウサギ盲腸蟯虫は腸内で共存関係を保っていることも多いのですが、食事の影響で腸内環境のバランスが崩れると、過剰に増殖する可能性があります。
健康なうさぎの理想的な食事は、たっぷりのチモシーを主食に、体重の5%程度までの量のペレット、それに副食として少量の生野菜を追加したメニューです。
チモシーの採食量の減少はうさぎのさまざまな体調不良の原因となるので、おやつ類は控えるようにし、普段から食生活に気をつけておきましょう。

うさぎの蟯虫症はどんな治療をするの?

糞便検査と診断

排泄された虫が確認されたり、検便で卵が見つかることで診断できます。お尻を過剰に舐めたり、うんちに虫が見つかったりしときは、うんちを持参して動物病院に連れて行きましょう。うんちの写真も診療の参考になりますが、正確に蟯虫感染を診断し、ほかの内部寄生虫との重複感染がないかを判断するためには、うんちの現物が必要です。
食欲不振が酷くうんちがひと粒も採れない時は、すぐに通院が必要な状態なので、排便を待たずに動物病院を受診しましょう。

駆虫(くちゅう)

無症状の場合は駆虫(寄生虫や害虫を駆除すること)しないこともあります。
寄生虫というと必ず駆除しなくてはいけないイメージがあるかもしれませんが、下痢や発育不良などの症状がなければ、ウサギ盲腸蟯虫は駆虫不要と判断されることもあります。
全身の健康状態や下痢の程度などとあわせて治療を決定しますが、蟯虫と思われるものが見つかったときはまずは動物病院で診察を受けましょう。

下痢や軟便、食欲不振、お尻のなめ壊し、毛並みの悪化などの症状が見られる場合は、駆虫が検討されます。また、これらの症状がない場合でも、寄生虫の大量感染による将来的な発症が懸念される場合や、見た目の不快感などから飼い主の希望があった場合は、駆虫を行うことがあります。

駆虫は、アルベンダゾールなどの駆虫薬で行います。
うさぎは自分が排泄した盲腸糞を食べて栄養を摂取するので、自分が持っている寄生虫に再感染しやすいです。複数回の治療や長期の投薬が必要になる場合もあります。
うんちに虫が見えなくなったからと油断して投薬をやめてしまうと、駆除が不完全となり、再発することもあります。体調に変化がなければ、指示通りに薬は使用しましょう。

おうちでのケアのポイント

自分が出したうんちの中の卵から再感染する可能性があります。駆虫治療中はケージの清掃を徹底しましょう。1日2~3回以上の掃除がおすすめです。卵は熱や乾燥に弱いので、汚染の恐れのある飼育用品は熱湯を使って消毒したり、日光に当ててしっかり乾かすとよいでしょう。

うさぎの蟯虫症の予防法は?

蟯虫に感染しているうさぎの糞便に含まれる虫の卵を食べることで感染が成立します。卵は目に見えないほど小さいので、うんちが片づけられていても、床や牧草、食器類などに付着していると、そこから感染する恐れがあります。
蟯虫の感染がわかっているうさぎがいるときは、そのうさぎや使用中の飼育用品とは接触させないようにしましょう。

多頭飼育を行うときは、新しく迎えたうさぎの体調をチェックするため、隔離して生活する検疫期間を設けましょう。とくに体調が変わりなくても、対面させる前に双方の検便を済ませ、お互いの健康を守りましょう。
万が一感染がわかった場合は、駆虫治療が完了して獣医師の許可が出るまでは隔離飼育を行い、お世話の前後は手洗いを心がけましょう。

うさぎの蟯虫は人間に感染する?

うさぎの蟯虫は人間には感染しないと考えられています。
幼いころに肛門にテープを貼って蟯虫検査をした思い出のある方もいるかもしれません。人間にも蟯虫症がありますが、うさぎの蟯虫と人間の蟯虫は種類が異なります。
うさぎのうんちについた寄生虫は気持ち悪くショックかもしれませんが、人間への伝染は心配しなくてもよいでしょう。
ただ、どうぶつから人間に感染が成立するジアルジアなどの病原体もあるので、蟯虫の有無とは関係なく、うさぎとの接触の後には石鹸で手を洗いましょう。

うさぎの蟯虫はほかのどうぶつに感染する?

蟯虫類には寄生するどうぶつ種によってさまざまな種類があり、馬蟯虫、ネズミ大腸蟯虫、ハムスター蟯虫などがいます。リクガメや小型のトカゲ類などの爬虫類にも蟯虫感染が多いことが知られています。

蟯虫類は、その種類によって感染するどうぶつ種が限定されている傾向(「宿主特異性が高い」といいます)が知られていて、どうぶつの蟯虫が人間に感染する恐れはほとんどないと言われています。しかし、スナネズミやハムスターでは、マウスやラットの蟯虫が感染する事例が報告されています。

このことから、犬や猫など、うさぎとは食性が大きく異なるどうぶつ種には感染する可能性は低いと推測されますが、うさぎに近縁のどうぶつ種にはウサギ盲腸蟯虫が感染する恐れも考えられます。

うさぎはうさぎ目のどうぶつですが、チンチラ、デグー、モルモット、ジリスやプレーリードッグはネズミ目(げっ歯目)に分類されています。これらのどうぶつは分類学上の観点ではうさぎとそれほど近縁な種ではないですが、蟯虫の感染成立に交差性があるかについては、明確な情報が不足しているのが実情です。

エキゾチックアニマルと呼ばれる多くの小動物は、近年になって飼育されるようになったという背景もあり、感染症についてわかっていないことも多いです。
蟯虫以外の感染症の懸念もあるので、念のため手洗いや飼育用品の共有を避けるなどして、対策をとっておくと安心でしょう。

まとめ

ウサギ盲腸蟯虫は自宅で発見可能な寄生虫症です。
治療が不要なこともありますが、ほかの寄生虫との重複感染や発育不良などに警戒する必要があるので、うんちの表面に白いものが見つかったときは、まずは動物病院で確認してもらいましょう。

監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。