猫が高齢になると発症しやすい病気のひとつに、「甲状腺機能亢進症」があります。初期の症状として、行動が活発になったり、食欲が増すが痩せていくといった一見病気のサインとは考えにくい症状が現れる病気です。そのため、見過ごされてしまうことも多いのですが、10歳以上(報告によっては7歳以上)の猫を調べると10%以上はこの病気を持っているという報告もあります。
そのため、シニア期の健康診断では、この病気の診断ができる血液検査を勧められることも多いです。今回はこの甲状腺機能亢進症についてご説明します。
猫の甲状腺機能亢進症とは
甲状腺機能亢進症は、その名のとおり「甲状腺」の機能が、「亢進」つまり活発化してしまう病気です。甲状腺は、身体の代謝を活発にするホルモンを分泌していて、甲状腺機能亢進症になるとこの甲状腺ホルモンの分泌が増加します。そのため、体の組織の代謝が亢進し、さまざまな症状が引き起こされます。
猫の甲状腺機能亢進症はどんな症状?鳴き声は?
甲状腺は、頸のあたりの甲状軟骨(ヒトでは「のどぼとけ」といわれます。)のすぐ下にある小さな組織で左右1対あります。甲状腺機能亢進症は、片側または両側の甲状腺組織の過形成や腫瘍化などによって甲状腺が大きくなり、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。そのため、活発になる、落ち着きがなくなる、食欲が増進する、痩せていく、などの症状がみられます。興奮しやすくなることから、目もパッチリ開いていることが多く、よく鳴くようになり、鳴き声も大きな声で叫ぶような鳴き方で、夜鳴きもみられることがあります。
【主な症状】
・行動が非常に活発になり、落ち着きがなくなる
・攻撃的になることがある
・多飲多尿(飲水量が増え、尿量が増す状態)
・食欲は異常に増加するが、痩せてくる(基礎代謝が増加するため)
・脱毛、毛づやが悪くなる
・頻脈、心雑音、心肥大
・呼吸が速くなる
・嘔吐、下痢
甲状腺機能亢進症が進むとどんな症状になる?
前述のとおり、甲状腺機能亢進症になると、代謝が活発化するため、見かけは元気なので、すぐには病気だと気づけないことが多くあります。病気が進行すると、体力が低下し、食欲も落ち、痩せて、嘔吐や下痢を繰り返します。
猫の甲状腺機能亢進症の原因は?
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の細胞が異常に数を増やしてしまうことで起こります。甲状腺の腫瘍化がわかりやすい例ですが、多くは良性で、悪性のものは2%未満といわれています。異常に大きくなった甲状腺は、首の皮膚の上からでも触ってわかることがあります。
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猫の甲状腺機能亢進症診断に必要な検査は?
シニア期の健康診断や、何か疑わしい症状がある場合には、甲状腺機能亢進症が隠れていないかしっかり調べることが大切です。甲状腺機能亢進症かどうかは、血液検査で甲状腺ホルモンの数値を調べることで診断できます。なお、甲状腺機能亢進症を発症している猫では、肥大型心筋症などの心疾患や腎不全を併発していることも多いといわれているので、全身の臓器の状態を総合的に診察・検査することが大切です。
血液検査をする
甲状腺機能亢進症の確定診断にはホルモン検査が必要です。血液検査で調べることができます。甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があり、猫では一般的に血液中のT4濃度を測定します。
T4が明らかな高値の場合、甲状腺機能亢進症と診断されます。
ただし、軽度もしくは早期の甲状腺機能亢進症であったり、慢性腎臓病など他の病気があったりすると、T4の数値が高くならないことがあります。疑わしい症状があるのに、基準の濃度に対して明らかな低値または基準範囲内である場合は、検査の値はグレーゾーンと考え、再測定や血液検査項目の追加などを検討する必要があります。また、甲状腺機能亢進症の治療をすることでもともと持っていた慢性腎臓病などを顕在化させてしまうこともあります。
隠れた甲状腺機能亢進症を見つけ出すためや、治療によって影響を受ける疾患に備えるため、他の検査も勧められることがありますので、獣医師とよく相談しましょう。
血液中のT4は、病気の診断時の他、治療開始後も治療の効果を見る参考値として測定していきます。動物病院内の血液検査機器で測定できる場合もありますが、血液を検査センターへ送って調べることも多いです。
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猫の甲状腺機能亢進症の治療法は?
甲状腺機能亢進症の治療は、甲状腺ホルモンの分泌を抑えることと、その他の併発疾患を併せて治療していくことになります。症状や状態、飼い主さんの希望などによっても治療法は異なりますが、甲状腺ホルモンの分泌を抑えるには、一般的には、内服薬や食事による内科的治療と、甲状腺を摘出する手術を行う外科的治療があります。
投薬治療の場合、どんな薬を与える?
甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬の内服を行ないます。一般的に一生にわたっての投薬が必要となります。投薬にあたっては、まず必要量を確認するために、投薬前後の血液検査で甲状腺ホルモン濃度の測定を行ないます。投与開始後は、副作用の有無や、腎数値に気を付けながら、症状や甲状腺ホルモン濃度などを確認し、必要に応じて投与量を調整します。投与量が多い場合には甲状腺機能低下症を引き起こしてしまう可能性があるため、投与量が決まった後も、定期的に血液検査を行うなど注意が必要となります。
また、副作用として、食欲不振、嘔吐、下痢、痒みなどの皮膚炎、血小板減少、肝毒性などが見られることがあるため、投薬開始後に体調等で気になることがある場合は、すぐに動物病院に相談するようにしましょう。
薬の投与量や回数などは、個々の症状や甲状腺ホルモン濃度により異なるため、定期的な検査を含め、しっかり通院を継続していくことが大切です。
※経皮メチマゾール(チアマゾール)投与
耳の内側にメチマゾール(チアマゾール)の外用薬を塗布する方法があります。海外薬で、日本では一般的ではありませんが、お薬を口から投与するのが難しい場合の選択肢のひとつです。
手術をするのはどんなとき?
甲状腺機能亢進症を起こしている原因が甲状腺の悪性腫瘍である場合や、投薬や食事療法といった内科治療の継続が困難な場合、内科治療で効果が見られない場合などに外科手術が検討されます。なお、年齢や体調など麻酔に対するリスクの高さや、他の疾患の有無なども手術を行うか否かの判断材料となります。
甲状腺を摘出する手術となりますが、両側の甲状腺を摘出した場合には、甲状腺ホルモンを分泌することができなくなるため、甲状腺ホルモン薬の投与を生涯行っていくことが必要となります。なお、取り出した甲状腺が片側だけの場合には甲状腺ホルモン薬の投与を行う必要はありません。症状や状態などによって、適応時期や手術方法が異なります。
外科的治療を行う場合は、麻酔や手術後の合併症のリスク、手術後のケアなどについても、動物病院と十分に相談するようにしましょう。
食事療法はできる?
甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素を抑えた専用の療法食を摂ることで、甲状腺ホルモンの産生が減り、ホルモン濃度が下がって症状を抑えることができる場合もあります。療法食を猫が食べてくれるかどうか、また療法食以外のフードやおやつをしっかり制限できるかどうかということが大切なポイントです。
甲状腺機能亢進症は腎不全を併発することが多い?
甲状腺機能亢進症を発症している場合、心疾患や慢性腎臓病など他の疾患を併発しているケースが多いといわれています。そのため、高齢猫で甲状腺機能亢進症の発症が疑われる場合には、併せて他の臓器の状態も検査することが大切です。
どちらもシニアに多く発症する病気
高齢の猫に多く発症する病気としては、甲状腺機能亢進症の他にも、慢性腎臓病が挙げられます。甲状腺機能亢進症の場合には、甲状腺ホルモンの作用によって腎臓の循環血流量が増えることから慢性腎臓病を隠してしまうことが多く、甲状腺の治療を行った結果、症状が表面化することがあります。
外科手術による甲状腺の治療を行う前に、治療によって腎臓の状態にどの程度の影響が現れるかをシミュレーションする必要があるため、原則としては、外科手術を行う前に内科治療を行って、腎不全が顕在化しないかなどを確認することが望ましいとされています。
愛猫が高齢になってから、何らかの病気を発症して治療が必要となったとき、飼い主としては心置きなく治療を受けさせてあげたいものです。しかし、自由診療の動物病院は、思った以上に治療費がかかることもあります。そんなときのために、早いうちからペット保険を検討してみてはいかがでしょうか。いざというときに、強い味方になってくれるかもしれません。
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甲状腺機能亢進症になると鳴き声が大きくなる?
先述のとおり、甲状腺機能亢進症になると活動的になり、興奮しやすくなるため、怒りっぽくなった、大きな声で鳴くようになったということがあります。必ずしも、発症したすべての猫で起こる症状ではありませんが、夜鳴きがみられることもあります。年齢とともに大きな声で夜鳴きをするようになったという場合には甲状腺機能亢進症や、慢性腎臓病、膀胱炎などの泌尿器疾患や関節疾患などによる痛みも疑われますので、早めに動物病院に相談するようにしましょう。
合併症がなく、治療により甲状腺ホルモンの数値が安定している限りは、健康な猫と同じような生活を送ることも可能です。
鳴き声や興奮、甘えなど行動の変化の他、過剰な食欲や体重減少、飲水量や尿量の増加など、気になる症状がある場合は、一見元気そうであっても早めに受診するようにしましょう。
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