食欲は健康のバロメーター。愛猫がごはんを食べないと、具合が悪いのではないかと心配になりますよね。ごはんを食べないとき、体調を確認することはもちろん大事ですが、猫がごはんを食べない理由は体調不良以外にもいろいろあります。今回は、猫がごはんを食べなくなる原因と、ごはんを食べないときの対策についてご案内します。
猫の食事で観察しておきたいポイント
食欲旺盛で出されたごはんはすぐに完食する猫、好きな時に自分のペースで食べる猫、食が細くなかなか食べない猫など、ごはんの食べ方は猫によってさまざまです。どのような食べ方であっても、健康状態がよく、適正体重が維持できているのであれば、ほとんどの場合問題ありません。この「問題のないとき」の食べ方をよく観察して把握しておくことが、「ごはんを食べない!」という事態になったときの対応を選択するうえでとても大事です。
特に重要なポイントは以下の4点です。
・1日トータルで食べた量
・食いつきのよさ
・食べるスピード
・食べているときの様子
1食か2食ごはんを食べなくても、1日トータルで食べられていれば問題ないことがほとんどですが、「問題のないとき」と比べて、極端に食べる量が少ない、食いつきが悪い、食べるスピードが遅い、食べているときの様子が違うという状況が続くときには、体調不良やその他の何らかの原因があって食欲不振に陥っている可能性が高くなります。
猫がごはんを食べない理由

病気が原因の場合
病気が原因でごはんを食べない場合、食欲自体がない場合と、食欲はあるけれども病気に伴う何らかの理由でごはんが食べられないという場合があります。
食欲が落ちてしまう病気
・消化器系の疾患
・腎疾患
・肝疾患
・循環器系の疾患
・呼吸器系の疾患
・神経系の疾患
・代謝病
・腫瘍
・中毒など 食欲不振が出る病気は多岐にわたります。食欲不振以外の症状を伴うことも多いですが、食欲不振以外に目立った症状がないまま進行する病気もあります。食欲不振が続く場合は、このような病気の早期発見のためにも早めに受診するのがよいでしょう。
食欲はあるけれどもごはんが食べられなくなる病気
・口腔内の痛み(歯肉炎、口内炎、口の中の異物など口腔内疾患))
・食事の姿勢の痛み(首や背骨、腰、関節等筋骨格系の疾患など)
・うまく飲み込めない病気(脳疾患や神経疾患、筋疾患などの嚥下障害)
ごはんを眺めたりにおいを嗅いだりするけれどもなかなか食べようとしない、食べるスピードがいつもより遅い、食べる姿勢や食べ方がおかしい、ごはんをぽろぽろ落とすというような様子が見られるときは、このような疾患が原因で食べない可能性があります。この場合、水も飲めなくなってしまうことも多いため、脱水も心配されます。二次的に起こってくる症状を防ぐためにも、食べない状況が続く場合は早めに受診しましょう。
食事に関する原因
・食事内容(フード)の問題
ドライを好む猫、ウエットを好む猫など味の好みもいろいろです。フードを急に変更すると、警戒心から食べなくなる猫も多い一方、同じ味が続くと飽きて食べなくなってしまう猫も多いです。寒い時期は冷たいフードを嫌がって、温めないと食べない猫もいます。また、開封後時間がたったフードは、風味が落ちたり酸化したりして猫が好んで食べなくなることがあります。
新しい食事に興味を示すかどうかには嗅覚が強く関わり、同じ食事を食べ続けてくれるかどうかには、味や触感などが香りよりも強く関係すると言われています。風味や触感、粒の大きさなどの好みをチェックしてみましょう。
・食器の問題
食器の大きさや形状(深さや広さ)、材質(プラスチック、陶器、ステンレス)、においなどにこだわりがあって、好みの食器でないとごはんを食べないという猫もいます。床に置くよりも台の上に置いた方がよいなど、食器を置く高さにも好みがある場合があります。
・食事場所の問題
うるさい場所や人の出入りが多い場所、以前何か怖い思いをした場所などで食事するのを嫌がる猫もいます。また、同居猫や犬との関係で、落ち着いて食事できる場所が限られている場合もあります。
環境の変化が影響するケース
不安や恐怖、興奮、ストレスなどが原因でごはんを食べなくなることもあります。特に猫は環境の変化に敏感で、気候、天気、騒音、引っ越し、留守番、ペットホテル、家族構成や同居猫の変化など、猫を取り巻くさまざまな状況の変化が食欲不振につながることがあります。
年齢と食欲の関係
子猫は胃の容量が小さいため、一度にたくさんのごはんをあげても食べきることができません。少量の食事を何回にも分けて食べさせ、成長に必要なカロリーと栄養を取る必要があります。
老猫になると、寝ていることが多くなって消費カロリーが減るだけでなく、消化機能も衰えてくるため、ごはんを食べる量が減ってくる猫もいます。嗅覚が衰えてフードのにおいがわかりづらくなるために食欲が落ちる猫もいます。また、老齢になると口内炎や関節炎、慢性腎臓病などの病気にかかる猫も多く、そのような病気が原因で食欲が落ちることもあります。 1ヶ月に体重の5%以上が減少する場合は、なんらかの病気による食欲低下も疑われます。歳だから、と様子を見ているうちに病気が進行してしまうことも多いので、老猫で食欲不振や体重減少が見られるときは早めに受診しましょう。病気が原因の食欲不振は、治療で改善できることもあります。なお、老猫でも食欲旺盛で、よく食べてよく動いて太らないという場合、甲状腺機能亢進症という病気のこともあるので注意が必要です。
ごはんを食べないときどうする?

どのくらい様子を見ていて大丈夫?
猫がごはんを食べない時、様子をみていても大丈夫な期間は、猫の年齢や健康状態によって異なります。一般的には、生後5~6ヶ月までの子猫の場合は半日、成猫であれば1日程度までは、元気があって他に気になる症状がないようであれば様子を見てもよいでしょう。ただ、ごはんを食べない以外に、次のような症状が見られる場合は早めに受診しましょう。特に子猫で食欲がなく次のような症状が見られる場合はすぐに受診しましょう。
・元気がない
・下痢をしている
・吐き気(口をぺちゃぺちゃしたりよだれがでている)や嘔吐がある
・低体温あるいは高体温
・咳やくしゃみ、涙目
・呼吸がおかしい
・痙攣している
・ぐったりしている
特に気になる症状がなく元気そうに見えても、全くごはんを口にしない状態が続く場合は注意が必要です。子猫の場合、半日~1日以上絶食が続くと低血糖になる危険があります。成猫では、36時間以上絶食が続くと、脂肪肝(肝リピドーシス)になる危険があります。ただの好き嫌い、ストレスのせい、環境が変わったせい、歳を取ったせいと様子を見ているうちに体調が悪化することもありますし、隠れた病気が進行してしまうこともあります。食べないことが続くときには早めに受診しましょう。
こんなときはどうする?
・食べてはいるけれど、いつもより食べる量が減っている
一時的に食べる量が減るということはありますが、そのような状態が3日以上続く場合は、体調不良が原因となっている可能性もあるので受診した方がよいでしょう。特に子猫や老猫は体力や余力が少ないため、早めの対処が必要です。
・ごはんは食べないがおやつは食べる
フードよりもおいしいおやつを好んで好き嫌いしている可能性があります。単なる好き嫌いのこともありますが、体調不良などで食欲がいつもより落ちると、そのような好き嫌いが出やすくなるので注意が必要です。単なる好き嫌いと決めつけず、続く場合は受診した方がよいでしょう。
また、おやつでお腹がいっぱいになってしまってフードを食べないという可能性もあります。フードを食べたあとにおやつをあげるなど、与え方と量を調節しましょう。主食以外のおやつやトッピングなどは、1日の摂取カロリーの10%程度までに抑えるようにしましょう。
・ごはんは食べないが水は飲む
食欲がなくても具合が悪くても喉は乾くので水を飲む、という猫は多いです。特に、猫に多い慢性腎臓病では、多飲多尿の症状が多く見られます。食べないけれど水は飲んでいるから大丈夫と安心せず、食欲不振が続く場合は受診しましょう。
猫がごはんを食べない時の注意点
・人の食べ物、味の濃いものを与えることは控えましょう
ごはんを食べない時に、食べられるものを探してあげるのはよいことですが、人の食べ物や味の濃いものは注意が必要です。人の食べ物で猫が食べて大丈夫なものはたくさんありますが、味の濃いものやおいしいものに慣れてしまうと、猫用のフードを食べなくなってしまう可能性もあります。また、体調不良の原因によっては食事制限が必要な場合もあり、人の食べ物が病気を悪化させてしまう可能性もあります。食欲不振の原因を病院で診てもらって、主治医に相談してから与える方が安心です。
・無理やり口に入れて食べさせるのは控えましょう
ごはんを食べない時、口の中にごはんを入れてあげるとそれがきっかけとなって食べるようになる猫もいます。しかし、嫌がる猫に無理やり食べさせると、ごはんを食べるということ自体が嫌になり、余計に食べなくなってしまうことがあります。痛みや吐き気があるときに無理に食べさせるのは病気を悪化させる可能性もあります。動物病院では治療の一環として強制給餌を行うこともありますが、猫の病気の状況や性格などを見極めて行います。食べない原因がわからない段階で無理やり食べさせることはやめましょう。
猫の「食」環境を整えよう

猫の嗜好に合ったフード選び
食欲旺盛でどんなフードでもよく食べる、という猫がいる一方、味のこだわりが強く、好き嫌いが激しいという猫も多いです。食事は毎日のことなので、できればおいしく、楽しく食べさせてあげたいですよね。ライフステージ別にいろいろなタイプ、いろいろな味のフードが市販されているので、猫の好みに合わせて選んであげましょう。療法食もさまざまなメーカーから異なったタイプや味のものが出ている場合もあるので主治医に相談してみましょう。
フードの与え方の工夫
フードの種類を変えなくても、フードを人肌程度に温める、ドライフードをふやかしてみる、缶詰やふりかけ、ペースト状のおやつをトッピングするなどの工夫で猫が好んで食べるようになることもあるので、試してみるとよいでしょう。
フードを置きっぱなしにしておくと、いつでも食べられるため、すぐに食べない猫も多く、食いつき具合や食べる様子で体調を判断するのが難しくなることがあります。フードが乾燥したり酸化して風味が落ちてしまったり、傷んでしまうこともあります。猫の好みや飼い主さんの都合にもよりますが、可能であれば少量ずつ回数を分けて出し、食べないときは10分くらいで片づけるのを繰り返し、ごはんは出されたときにすぐに食べるという習慣をつけておくことがおすすめです。 また、少量包装のものを選ぶ、開封後小分けにして密閉して保管するなど、いつでもおいしい状態で食べられるように工夫してあげましょう。
安心して食べられる環境作り
食事環境が猫の食欲に影響することも多いです。猫が安心して食べられる環境を作ってあげましょう。一般的には、猫は静かで落ち着いた場所で食事をすることを好みます。騒々しい場所や人の動きが多い場所などは避けましょう。猫が好む場所がわからない場合は、複数個所に食事を置いてみて、猫がどの場所で食事をすることを好むか観察してみるとよいでしょう。また、同居猫や同居犬がいて落ち着いて食事ができない様子が見られる場合は、食事の時だけ部屋を分ける、同居猫や犬をケージに入れるなど工夫してあげましょう。
興味を引くおもちゃやまたたびの活用
もともと猫は狩りをして獲物を仕留めて食べる動物です。ただフードをお皿に入れて与えるよりも、猫自身が何かアクションをした結果、報酬としてフードが得られるようにしてあげると、食欲増進につながることがあります。転がすと中から少しずつドライフードが出てくるおもちゃや、前肢や鼻先を使ってフードを探すおもちゃなどが市販されているので、利用してみるとよいでしょう。
また、猫が大好きなまたたびには、食欲増進効果があることが知られています。ごはんを食べない時にまたたびの粉を少量ふりかけてあげると食べるようになることがあります。またたびのおもちゃで一緒に遊んで運動を促してあげることも、食欲アップにつながる可能性があります。
まとめ
猫がごはんを食べないときに考えられる原因と対処法についてご紹介しました。猫が大好きなごはんを安心しておいしく食べられるよう、環境を整えてあげましょう。猫がごはんを食べないことが続くときには、原因となっている病気を早く発見するためにも、食べないことで起こってくる二次的な病気を防ぐためにも、早めに受診するようにしましょう。