またたびは、猫にとって非常に魅力的な植物として昔からよく知られていますが、猫がまたたびに興奮する理由や危険性、適切な与え方等はよく分かっていませんでした。今回は最近の発見も交えながら、猫とまたたびの関係をご紹介します。

そもそもまたたびって何?

またたびはマタタビ科の落葉つる性の植物で、日本各地の山地などに自生しています。6~7月に香りのある白い花が咲き、その後果実ができます。またたびの果実は本来どんぐりのような形をしていますが、果実ができる前にマタタビミタマバエやマタタビアブラムシなどの虫が寄生すると、ぼこぼこした虫こぶ(虫癭果(ちゅうえいか))となります。この虫こぶとなった果実には様々な薬用成分が含まれていて、生薬の木天蓼(もくてんりょう)として、鎮痛、保温、利尿、疲労回復などの目的に利用されています。猫にまたたびを与えると酔ったようになったり元気になったりすることは、かなり昔から知られていました。そのため、またたびは具合の悪い猫に与える薬としても使われてきました。

猫にまたたびを与えると酔ったようになったり元気になったりすることは、かなり昔から知られていました。そのため、またたびは具合の悪い猫に与える薬としても使われてきました。

猫が興奮する理由

猫がまたたびに触れると、喜んで舐めたりかじったり、顔や体をこすりつけたりして、興奮したり酔ったような反応(またたび反応)を示します。この反応は5~10分程度続くことが多いようです。

またたびに含まれる「マタタビラクトン」と呼ばれる成分に猫が反応することが、60年以上前に日本の科学者によって発見されました。近年、岩手大学を中心とした研究では、またたびに含まれる「ネペタラクトール」という成分が特に強い反応を引き起こすことが明らかになっています。また、この成分には蚊を避ける効果があり、猫は体に付着させて蚊から身を守っている可能性が示唆されています。

これまでの研究で、またたびに反応している猫では、β(ベータ)エンドルフィンと呼ばれる神経伝達物質が放出され、気分が高揚し、幸福感を感じることが知られています。

しかし、またたび反応はすべての猫に見られるわけではなく、2~3割の猫は反応が見られないとも言われています。また、ライオンやトラなど他のネコ科動物も同じ反応をすることがわかっていますがその理由はまだ解明されていません。

またたびの効果

食欲増進と飲水量の増加

食欲が落ちているとき、、フードにまたたびの粉末やスプレーなどを少量振りかけてあげると、食欲が増すことがあります。また、尿石症や膀胱炎、腎機能障害などのリスクのある猫には、飲み水に少量のまたたびを加えることで飲水量が増える場合があります。

ストレス発散と運動不足解消

またたびを与えると、猫が走り回ったり活発に動き回ったりして、ストレス発散や運動不足解消につながることがあります。普段あまりおもちゃに興味を示さない猫でも、またたびを含んだおもちゃやスプレーを使うことで、よく遊ぶようになることがあります。

老化防止

またたびの木やおもちゃをかじる行為は、普段、咀嚼をあまりしない猫にとって、脳への刺激につながると言われています。また、適度な運動やおもちゃでの遊びを通じて、脳への刺激や筋力の維持につながり、老化防止や認知症の予防にも効果が期待できます。

またたびの危険性

大量に与えると異常麻痺を起こす…?

通常、利用するような量や頻度であれば、またたびに依存性や毒性はなく、安全性が高いことがわかっていますが、多量に与えたり長期にわたって頻繁に与えたりする場合の安全性については、まだはっきりとわかっていません。従来、またたびを猫に大量に与えると中枢神経の異常麻痺や呼吸困難などを引き起こす危険があると言われてきましたが、そのような中毒症状で動物病院を訪れるケースは稀です。それでも、安全性が完全に証明されていない以上、誤って多量に与えないように気を付ける必要があるでしょう。

興奮しすぎによる事故に注意

またたびの使用で気をつけたいのは、興奮しすぎによる事故です。例えば、我を忘れて走り回って滑って転ぶ、高いところから落下する、ぶつかってケガをするというようなことが考えられます。特に老猫や関節等に問題のある猫は注意が必要です。また、またたびの影響で一時的に性格が荒くなる猫もいるので、同居猫とのけんかや飼い主さんにケガを負わせることもあります。猫によって反応はさまざまなので、飼い主さんの目の届くところで少しずつ与え、様子を見ながら使用することが大切です。

誤飲に注意

飼い主さんが目を離したすきに、またたびの実や枝を丸呑みしてしまうことがあります。場合によっては腸閉塞を引き起こし、開腹手術が必要になることもあるので、十分注意しましょう。特にまたたびが大好きな猫は、においを頼りに探し出して遊んでしまうことも多いので、飼い主さんが見ていられないときや留守のときなどは、猫が取り出せない場所に保管しておきましょう。

またたびの安全な与え方

昨年、岩手大学を中心とした研究で、またたびには依存性や毒性(肝毒性、腎毒性)がなく、安全性が高いことが証明されました。しかし、どんなものでもリスクがないわけではありません。安全に与えるための注意点をご紹介します。

子猫には与えない

成長期の子猫、特に神経系が発達段階にある幼猫には、刺激が強すぎたりパニックを起こしてしまったりする可能性もあると言われています。一般的には、生後6ヶ月~1歳以降になってから与えるのがおすすめです。

老猫や持病のある猫も注意

老猫や疾患を持つ猫には、過度の興奮や運動が体の負担になることがあります。特に、てんかんなどの神経疾患を持つ猫は、病状が悪化する可能性があるため、与える前に獣医師に相談しましょう。

いきなり大量に与えない

猫によってまたたびに対する反応は異なります。少量で強く反応する猫もいれば、多量でもほとんど反応しない猫もいます。製品ごとの説明をよく確認し、少しずつ与え、反応を見ながら適量を見極めた方がよいでしょう。

頻繁に与えない

依存性はないことが示されていますが、頻繁に与えると効果が薄れることがあります。安全性の観点も含めて、どれくらいの頻度で与えるのがよいというデータはないものの、一般的には数週間に1回程度の使用がよいのではと言われています。

まとめ

猫が大好きなまたたびは、猫にとって安全性が高く、運動不足やストレスの解消に役立つなど、猫の生活の質を上げるために利用することができます。事故や誤飲、大量摂取などには十分注意しながら、上手に活用しましょう。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。