言葉で体調不良を訴えられない猫。元気や食欲がない時、吐いてしまったりうんちがやわらかかったりしたとき、体温が正常かどうかは体調を把握するひとつの目安となります。猫の健康管理に役立つ体温の測り方や、熱が高いとき、低いときの対処法についてご案内します。
猫の体温調節

猫は人や犬と同じ「恒温動物」で、周囲の環境の温度に関わらず、ほぼ一定の体温を維持することができます。
体温の調節は、脳の視床下部というところにある体温中枢で行われます。ここでは「セットポイント」と呼ばれる体温(平熱)が設定されています。これは、サーモスタットの設定温度のようなもので、これよりも体温が上がったり下がったりすると、体温調節機構のスイッチが入り、平熱に戻すためのさまざまな仕組みが働きます。
体温が下がったときは、筋肉を震わせて熱を産生したり、皮膚の血管を収縮させて熱が失われるのを防ぎます。一方体温が上がったときは、汗をかいたり、パンティング(口を開けてハアハア浅い呼吸をする)によって水分を蒸散させ熱を下げようとします。ただし、全身に汗腺のある人と違って肉球にしか汗腺のない猫は汗をかきにくく、犬と違ってパンティングもかなり高体温にならないと行わないため、猫は体温を下げる調節はあまり得意ではありません。暑いときに猫が冷たい床などに伸びて寝そべっていたり、大の字で四肢を広げて寝ていたり、一生懸命グルーミングをして唾液で毛を濡らしているのは、少しでも体温を下げるための方策です。
猫の平熱は約38℃
一般的に成猫の平熱は直腸温で38℃~39℃です。皮膚の温度はそれより少し下がりますが、それでも人よりも1℃程度高いため、猫を抱っこするとあたたかく感じますね。体温は1日の時間帯によって若干変動し、一般的には早朝が最も低く、夕方にかけて高くなり、夜になると下がってきますが、平熱から大きく変動することはありません。
子猫の体温
生後間もない子猫の体温は成猫よりも低く、生後1週齢で35.5~36℃前後、2週齢で36~36.5℃、3週齢で36.5~37℃、4週齢で37~38℃程度です。
体温を上げるための筋肉の震え反射は生後1週齢前後から始まりますが、自分で体温調節ができるようになってくるのは生後7週齢以降と言われています。それまでの間は母猫に寄り添ったり哺乳することで体温を保っています。母猫とはぐれた子猫を保護したときには、適切に保温してあげなければなりません。
その後成長して活発に動くようになった子猫の平熱は、38℃台後半から39℃台前半と、成猫よりも若干高くなる傾向があります。
シニア猫の平熱
シニア期に入ると、若い頃に比べて若干平熱が低くなる傾向があります。運動量が減って筋肉量が減ることや、基礎代謝が落ちてくることが関係していると考えられます。ただし、若い頃と比べて大きく(1℃以上)体温が下がっている場合には、何らかの疾患の影響が考えられるので注意が必要です。
一方、「甲状腺機能亢進症」という病気がシニア猫ではよく見られますが、この場合は代謝が亢進するため平熱が高くなることがあります。食欲はあるのに食べても痩せてしまう、動きが活発、怒りっぽいなどの症状がある場合は、この病気を疑いましょう。
猫の体温が高いときに考えられる病気
平熱よりも体温が高いとき、「発熱」の場合と「高体温」の場合とがあり、この二つは体温が上がるメカニズムが異なります。猫の場合、一般的に39.5℃を超えると、発熱あるいは高体温の可能性があります。
【発熱】
発熱は、発熱物質(細菌や細菌の出す毒素、感染や炎症のときに生じるサイトカインなど)の影響で体温調節中枢のセットポイントが平熱よりも高くなり、それに対応して体温が高くなった状態です。サーモスタットの設定温度が上がっているため、筋肉の震えや皮膚血管の収縮など体温を上昇させるための仕組みが働いて体温が高くなります。免疫の働きや治療によって発熱物質が消失すると、セットポイントはまた元の温度まで戻り、体温を下げるための仕組みが働いて体温は平熱に戻ります。
発熱の原因として最もよく見られるのは、細菌やウイルスの感染によるものです。また、炎症や腫瘍、自己免疫疾患などで見られる場合もあります。猫でよく見られる発熱の原因となる病気には、次のようなものがあります。
細菌感染 | 膿胸、腎盂腎炎、腹膜炎、膿瘍など |
ウイルス性疾患 | 猫伝染性腹膜炎、猫白血病ウイルス感染症、 猫免疫不全ウイルス感染症、猫伝染性鼻気管炎など |
炎症性疾患 | 膵炎、肝炎、黄色脂肪症、肉芽腫など |
腫瘍性疾患 | リンパ腫、白血病、腫瘍の壊死や感染など |
自己免疫疾患 | 全身性エリテマトーデス、多発性関節炎など |
【高体温】
高体温は、セットポイントの温度は正常ですが、体温を下げるための調節機構の能力の限界を超えて体温が上昇してしまった状態です。環境温度の上昇、薬物の影響、内分泌疾患、てんかん発作などが原因で起こります。熱中症はその典型的な例です。
発熱の場合は、体温の調節機能によって通常は設定温度以上に体温が上がってしまうことはありませんが、熱中症などの高体温の場合は、体温の調節機構が正常に作動できないため、41℃以上の高体温になり、全身の臓器に影響が及び、命にかかわる場合があります。
猫の体温が低いときに考えられる病気
一般的に平熱よりも1℃を超えて体温が下がっている場合、注意が必要です。猫が低体温になる原因は、環境温度が低いことの他に、代謝に影響する内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症など)や、低血糖症、尿毒症、敗血症、ショックなどの重篤な疾患が疑われます。
猫の体温、どうやって測る?

体温を測る前に
運動や食事などの後は体温が上がっている可能性があります。また、猫が緊張していたり興奮しているときも、体温を正確に測ることができない可能性があります。猫が落ち着いているときに測るようにしましょう。
猫の耳の温度を確かめる
猫の身体を触って体温をチェックすることは、手軽にできて有用な方法の一つです。毛でおおわれている部位は温度がわかりづらいので、耳や肉球などを触ってみるとよいでしょう。普段からスキンシップをとって身体のあちこちを触ることに慣らしておくとよいですね。普段から触ることで体温の変化にも気づきやすくなります。ただし、耳や肉球が熱いからといって、必ずしも体温自体が上がっているとは限りません。また、耳や肉球が熱くないから体温が上がっていない、ということもできません。あくまでも参考程度にして、他に気になる症状がないかどうかもよく観察しましょう。
体温計を使って肛門で体温を測る
猫の体温を最も正確に測ることができる方法は、肛門から体温計を入れて直腸温を測る方法です。直腸温を測る場合、体温計はできればペット専用の先端のやわらかいものを用意しておきましょう。水銀計は万が一割れてしまったときに危険なので避けましょう。体温計の先端には食用油やワセリンなどを塗って滑りをよくしておきましょう。
肛門で測定する場合、猫が動いてしまうと危険なので、しっかり保定をする必要があります。できれば二人以上で行うとよいでしょう。保定する人は猫を伏せの状態で座らせて前に進まないように頭の方から肩と胴体を押さえ、測定する人はしっぽの付け根を持ち上げて肛門に2㎝程度体温計を挿入します。猫が嫌がって動いてしまったときしっぽを引っ張らないように気をつけましょう。嫌がったり動いたりしてしまう猫の場合は、動物病院では猫を横向きに寝かせて手足の付け根を抑えたり、バスタオルなどで手足が出ないようにきっちり巻いたりして保定します。
自宅でそのような方法で測定することも可能ですが、猫によっては大きなストレスをかけることになります。猫に大きなストレスをかけたり、人がけがをするリスクを負ってまで無理に体温を測るメリットはないので、難しい場合は無理をせず、他の方法にしたり、病院で測定してもらうことを検討した方がよいでしょう。
体温計を使って耳で体温を測る
耳用の体温計を使って耳で体温を測る方法もあります。肛門で測ることに比べると猫にストレスをかけずに測定できるというメリットがあります。正確さについては直腸温に比べて劣る場合もありますが、何度か測定し安定した数値が出ることを確認しましょう。
体温計を使って脇の下や腿の付け根で体温を測る
脇の下や腿の付け根などに体温計をあてて測ってみる方法もあります。猫を抱っこしたり、猫がくつろいでいるときに、猫をなでたりリラックスさせながら測るとよいでしょう。皮膚の温度は直腸温よりも若干低くなりますが、元気な時の平熱を測っておいて比較することで熱があるかどうかを知ることができます。
猫の検温は2週間~1カ月に1回

猫の平熱を把握しておくことが大事
猫の平熱は個体差があります。どの部位で測るか、方法によっても体温は異なってきます。普段から定期的に検温して、平熱を把握しておきましょう。元気や食欲がない、吐いたり下痢をしてしまった、など体調が不安なときに検温してみて、平熱と比べて高かったり低かったりする場合は病気の可能性もあるので、受診する目安になります。ただし、体温が平熱であっても病気を否定できるわけではないので、他の症状と合わせて判断するようにしましょう。
猫の体温を下げるには
【発熱の場合】
発熱は病気に対する身体の防御反応として起こりますので、熱を下げるためには、原因となっている病気を治さなければいけません。特に感染が原因の場合、発熱は病原体の増殖を抑えたり、白血球などの免疫細胞が活性化して病原体と戦うために必要な反応です。無理に熱だけ下げることは、病気を治そうとする力を弱めてしまう可能性もあります。とは言っても、発熱のせいで食事や水分がとれなかったり、しっかり眠れないなどの影響があると、体力を消耗して病気に勝てなくなってしまいます。このようなときは、一時的に薬で熱を下げることも選択肢のひとつとなります。
解熱剤は、上がってしまった体温中枢のセットポイントを下げることによって体温を下げる薬です。解熱剤にはいろいろなものがありますが、人用の解熱剤には猫に中毒を起こすものもあり、猫用の解熱剤であっても猫の状態によって使用しないほうがよい場合もあるので、自己判断で与えることはやめましょう。猫が発熱している場合は、動物病院を受診して、原因疾患を調べて治療すると同時に、必要に応じて解熱剤を処方していただくようにしましょう。
【高体温の場合】
熱中症やてんかん発作などによる高体温の場合には、体温中枢のセットポイントを下げる解熱剤は効果がありません。熱を下げるためには、身体を冷やしたり、熱を発散させるための処置が必要です。症状や状況から熱中症などによる高体温が疑われる場合には、応急処置として、身体を水で濡らして風をあてる、タオルなどで包んだ保冷剤を首周りや四肢の付け根など太い血管の通る場所にあてて冷やす、などの方法が推奨されます。このとき、冷たすぎると皮膚の血管が収縮して放熱効果が弱くなってしまうので気をつけて下さい。また、急激に体温を下げるのも危険なため、体温計で測定しながら少しずつ下げていくようにしましょう。このような処置をしながら、なるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。
猫の体温を上げるには
寒い環境に長時間いたために体温が下がっていることが疑われる場合には、暖房などで部屋の温度をあげる、身体が濡れている場合はしっかり拭いて乾燥させる、毛布などでくるんで温める、タオルで包んだ湯たんぽを近くに置く(低温やけどに注意しましょう)、などの方法で温めてあげましょう。ぐったりしていたり様子がおかしい場合は温めながらすぐに受診しましょう。
何らかの疾患に伴って低体温になっていることが疑われる場合は、原因となっている疾患の治療が必要です。温める処置を行った上で受診しましょう。
おかしいなと思ったら病院に連れて行こう
体温の変化とともに他の症状が見られる場合や、元気であっても平熱と比べて体温の変化が大きい場合は、何らかの病気が関係している可能性があります。特に熱中症や低体温が疑われる場合は、命に関わる場合があるので、体温を回復させる処置を行いながらすぐに受診するようにしましょう。
受診する際は、余裕があれば次のようなポイントを確認しておくと、診断の助けになります。
・食欲や元気があるかどうか
・咳や鼻水、くしゃみなどがあるかどうか
・呼吸が早かったり息苦しそうな様子はないか
・嘔吐や下痢はないか
・おしっこはちゃんと出ているか
・歩き方は問題ないか
・けがをしたり、痛がっている場所、気にしてかじったりなめている場所はないか
まとめ
平熱を知っておくことは、言葉で体調不良を訴えられない猫の体調を把握するためにとても役に立ちます。体温を測ることを習慣化して、いざという時に役立てられるようにしておきましょう。
