メラノーマは歯肉に確認されることの多い腫瘍の一つです。メラノーマは非常に悪性度が高く、さらに転移を起こしやすい性質を持っているため、治療にあたって苦慮することが多くみられます。そのため、早期に発見し治療につなげていくことが重要となります。今回はメラノーマについて解説していきます。

犬のメラノーマとは?どんな病気?

ボストンテリア

メラノーマとはメラノサイトと呼ばれるメラニン色素を作り出す細胞が由来となった腫瘍です。このメラノサイトという細胞は、皮膚の表層や真皮といわれる層に多く分布をしています。犬のメラノーマは黒色腫(こくしょくしゅ)といわれる腫瘍の一つです。

黒色腫には良性の「メラノサイトーマ(別名:良性メラノーマ)」と悪性の「メラノーマ」とがあります。腫瘍は細胞の形態や増殖度、周辺の組織への浸潤(正常な細胞の間に入り込みやすい性質かどうか)や転移のしやすさによって、良性か悪性かが変わります。犬では悪性黒色腫のことをメラノーマと呼ぶのが一般的です。

どこにできる?

悪性度の強い腫瘍は、発生部位にいくらか特徴があります。皮膚と粘膜の境界にあたる場所、あるいは口の中の粘膜に発生する頻度が高くなります。ほかには、眼球や指先の爪の付け根付近に発生することもあります。

メラノーマのうち、被毛の生えている部分では頭部や陰部周辺に発生しますが、その割合は1割程度とわずかです。特筆すべき点として、口唇や歯肉に発生した腫瘍の多くが悪性であることが挙げられます。一方、対照的に、皮膚に生じるものの多くは良性であることが知られています。

発症しやすい年齢・犬種は?

ミニチュア・シュナウザー

皮膚のメラノサイトーマは中高齢から発症がみられるようになります。発症しやすい犬種は、シュナウザー、ゴールデン・レトリバー、ドーベルマン・ピンシャー、などとなっています。一方、悪性腫瘍であるメラノーマはどうかというと、発症年齢は3~15歳、そのうち発症ピークとなるのはおよそ10歳前後で、かかりやすい犬種は皮膚のメラノサイトーマと同様です。

どんな症状?

おすわりする犬

黒色腫にはメラノーマとメラノサイトーマが存在しますが、肉眼上での違いにはどのようなものがあるのでしょうか?とりわけ悪性腫瘍であるメラノーマはどのような特徴的な症状があり、また進行の状況によって腫瘍あるいはその周辺ではどのような変化が生じうるのでしょうか。

初期症状

■メラノサイトーマの場合
被毛の豊富な皮膚に発生する黒色腫は、一見ほくろのような小さい黒い斑点のようなものから発見されます。

■メラノーマの場合
悪性腫瘍とされるメラノーマも皮膚に発生し、メラノサイトーマと同じようにほくろのような黒い斑点を形成することがあります。しかし、必ずしも黒であるとは限りません。黒色腫はどれも、症状が似ているため、良性と悪性の鑑別はつきにくいです。

犬のメラノーマで最も注意が必要なのは、口腔内に発生したものです。メラノーマは、歯肉(歯茎)、口唇、舌、硬口蓋(こうこうがい)など口の中の粘膜のあらゆる箇所に発生する可能性があります。初期の肉眼的な変化は、正常な口腔内の粘膜と比べてやや表面が不整であったり、小さなポリープ状のものが形成されていたりするところから始まります。しかし、初期の段階でメラノーマを発見することは非常に難しく、多くの場合はある程度症状が進行した段階で異変に気付きます。

メラノーマの症状が進行すると…?

口腔内や粘膜部に発生したメラノーマは悪性度が高く、急速な拡大をみせます。拡大する際に腫瘍の一部に潰瘍(かいよう/表皮が欠損して穴が開いた状態)ができやすくなります。そうなると、出血や細菌感染を生じます。口腔内のメラノーマが拡大するにつれて、口臭の悪化やよだれの増加、食べづらい様子が見られます。さらに、腫瘍の周囲組織のほか全身への影響も大きく現れます。例えば顎の骨融解やリンパ節の腫大のほか、肺などにも転移が生じる傾向にあります。

メラノーマは、増殖能力が高いため、栄養が腫瘍の増殖で消費されてしまい、正常な組織に必要な栄養供給が行われなくなることがあります。さらに食欲不振や体重減少といった“がん性悪液質”を引き起こし、衰弱を招いて死に至ることもあります。

特に腫瘍のサイズが2センチ以上の場合は、転移を起こしている可能性があります。

原因は?

犬のメラノーマが発生する原因ははっきりとわかっていません。人の皮膚に生じるメラノーマの場合は紫外線による影響が示唆されていますが、犬や猫に関してはこれらが大きな原因になっているとは考えられていません。とはいえ、高齢になると発症の可能性が高くなるのでシニア期になった犬は定期的な健康診断がとても大切です。

治療法は?

獣医さんに抱っこされる犬

犬のメラノーマで行われる治療は、外科手術が第一に挙げられます。前述した通り、非常に悪性度が高く、転移をしやすい点、また正常な組織に深く根を張るような浸潤性も持ち合わせているため、小さいメラノーマであっても外科的に十分な余裕を確保して広範囲で切除、摘出をすることになります。

外科手術を行うにあたって全身への影響がどの程度生じているのかを確認しておく必要があります。外科治療のほか、化学療法(抗がん剤)を併用することがあります。代表的なものには白金製剤(プラチナ製剤)の全身投与が挙げられます。また腫瘍の部位によって放射治療が行われることがあります。

一方、近年メラノーマに対する治療のアプローチとして注目されているのが免疫療法です。人のメラノーマの治療では医薬品が認可されていますが、犬ではまだ正式に認可された薬剤はありません。現在、山口大学や北海道大学でこの治療方法に関する研究が進められています。細胞レベルでの免疫療法は近年急速に発展していますので、近い将来、確立された治療法としてメラノーマで悩む犬に対し有効な手立てとなることが期待されています。

口腔内に発生したメラノーマは悪性度が非常に高く、無治療だった場合の生存期間の中央値は2.2ヶ月と報告されています。外科治療に放射線や化学療法を併用した治療方法をもってしても、年単位で生存する確率が他の腫瘍に比べて低いといわれています。

腫瘍はその大きさや進行度合いによってステージⅠからⅣに分類されます。特にメラノーマはステージの進行が生存期間に大きく影響します。以上のことから治療も早期のタイミングで実施されることが生存期間に直結するということになります。

治療費は?どれくらい通院が必要?

みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬のメラノーマにおける1回あたりの治療費は8,000円程度、年間通院回数は3回程度です。

病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

予防法は?

現在、犬のメラノーマに対して明確な予防方法は確立されていません。そのため、日頃から皮膚や粘膜、口の中といったメラノーマが発生しやすい部位に変化が起こっていないかをチェックし早期発見することが重要となります。毎日の歯磨きやコミュニケーションの時間を大切にして、些細な変化にも気づけるようにしましょう。

早期発見と早期治療が大切

なでられるゴールデン・レトリーバー

犬のメラノーマは、腫瘍の中でもとりわけ悪性度が高く遠隔転移が生じやすく、他の腫瘍に比べて化学療法(抗がん剤)に対する反応が見込めません。現在の獣医療で根治を目指すことが難しい疾患の一つですので、早期発見と早期治療によって生活の質をできるだけ維持できるように努めましょう。

監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。