
犬に「目が赤く腫れている」「目頭に赤い塊がある」「目やにが出ている」などの異常が現れていませんか?このような症状の時には、チェリーアイが疑われます。
チェリーアイとは、「瞬膜腺(しゅんまくせん)の脱出」や「第3眼瞼腺(だいさんがんけんせん)の脱出」などとも呼ばれ、その名の通り瞬膜腺(第3眼瞼腺)が飛び出てしまった状態のことです。飛び出た瞬膜腺(第3眼瞼腺)は、次第に赤く腫れ、その様子がさくらんぼ(チェリー)のように見えるため”チェリーアイ”と呼ばれています。
特徴的な見た目をしているため、診断はすぐにつきます。瞬膜腺(第3眼瞼腺)が飛び出ていると、炎症や乾燥を起こしやすいため、早めに動物病院を受診する必要がある疾患です。今回は、犬のチェリーアイについてかかりやすい犬種や治療法などを詳しく解説していきます。
犬のチェリーアイとは?どんな病気?
チェリーアイは、瞬膜腺(第3眼瞼腺)が飛び出てしまった状態のことです。瞬膜(第3眼瞼)は、人間にはない、3番目のまぶたです。犬や猫には、上のまぶたと下のまぶたの他に3つ目のまぶたがあるのです。
瞬膜(第3眼瞼)は、通常は目頭に少しだけ見える白っぽいまぶた(膜構造のこと)で、眼球が後ろに下がった時に目頭から目尻に眼の表面を覆うように閉じ、ゴミを取り除きます。瞬膜には、涙の成分を作る腺があり、これを瞬膜腺と呼びます。涙の約30%がこの瞬膜腺で作られます。チェリーアイは、瞬膜がくるりとひっくり返り、この瞬膜腺が瞬膜の縁を超えて眼球の表面に脱出している状態です。
どんな症状?

症状は特徴的で、さくらんぼのように赤く腫れた塊が目頭側にあり、中に引っ込まない状態になります。最初は片目で起きますが、その後反対の目にも起こることも多いです。
初期症状
出っ張った瞬膜腺は炎症を起こし、違和感が出てきます。そのため、犬は目を前足で掻いたり、物に擦り付けたりします。それにより瞬膜腺は傷付き、さらに赤く腫れます。炎症によりネバネバした目ヤニが出てきます。目を掻いた時に、角膜にも傷ができることがあり、白目が赤く充血したり、涙が多くなることがあります。
症状が進行すると…?
瞬膜腺は涙を作っていて、その量は涙全体の30%を占めます。進行したチェリーアイでは、瞬膜腺で涙が作れなくなり、涙の分泌量が減ることでドライアイになります。ドライアイになることと、瞬膜が目を保護できなくなるため角膜が傷つきやすく、角膜炎を起こし、白目が充血したり、涙が多くなることがあります。また、瞬膜に存在する軟骨の形が変形してくるため、簡単に元に戻せなくなっていきます。そのため、症状が進行する前に動物病院を受診する必要があります。
原因は?
チェリーアイを起こす詳しい原因は残念ながら分かっていません。考えられる原因として、瞬膜腺と眼の奥の骨(眼窩骨/がんかこつ)を結んでいる線維性の組織が弱いことが挙げられます。本来、瞬膜腺は目の周りにしっかりと留められていますが、その結合が弱いためにひっくり返って外側に出てしまうのです。チェリーアイになりやすい犬種があることや若い犬で起こることから、遺伝的な関与も疑われています。
かかりやすい犬種・特徴などはある?

チェリーアイは、2歳以下の若い犬、多くは1歳以下で起こります。また、女の子よりも男の子の方が多いともいわれています。
かかりやすい犬種には、アメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ペキニーズ、ビーグル、チワワが挙げられます。しかし、これら以外のどの犬種でも起こります。
診断法は?
特徴的な見た目なので、診断は早いです。目を観察し、瞬膜の縁から瞬膜腺が飛び出ていることと瞬膜が赤く腫れていることを確認します。見た目が似ている病気に瞬膜腺の腫瘍や瞬膜の軟骨の外反(軟骨が外側にひっくり返ること)、瞬膜腺の奇形があります。視診や触診により、これらの病気と鑑別します。
また、眼に傷がついていないかを調べるために角膜を染色する検査をしたり、ドライアイになっていないか涙液量を測る検査を行うことがあります。腫瘍との鑑別のため、高齢犬で見られた場合には、手術で脱出した瞬膜線の一部を取り、病理組織学的検査を行います。
治療法は?

チェリーアイは自然に良くなることはないため、治療が必要です。治療には、内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療
軽度な場合は、まずは内科的な治療を行うことが多いでしょう。眼科用のピンセットを用い、ひっくり返った瞬膜を掴み、元に戻します。ステロイドなどの消炎効果のある点眼を行い、炎症を取りのぞくことで、元に戻ることもあります。
しかし、もともと瞬膜をつなぎとめている組織が弱いため、内科的な治療では、再発してしまうことが多いです。再発する場合やチェリーアイになってから時間が経ってしまった場合、他の目の病気を併発している場合は、外科的治療を行う必要があります。
外科的治療
目の手術となると抵抗感を持たれるご家族もいらっしゃいますが、時間が経ってチェリーアイが進行すると、ひどい角膜炎やドライアイを引き起こしてしまうため、外科的治療を避けることはできません。
チェリーアイの手術法にはいくつかの方法があります。手術を行う際は、どの手術法で行われるのか、どんなメリット・デメリットがあるのか獣医師に聞いてみると良いでしょう。
・瞬膜腺の切除:飛び出た瞬膜腺を切り取る方法です。過去には、この手術法が多く行われていました。しかし、瞬膜腺を切除すると、涙の分泌量が減ってドライアイが生じるため、現在は推奨されていません。
ドライアイは、一度なってしまうと生涯にわたって点眼治療が必要となり、角膜に傷や穴を作りやすくし、失明する可能性もある疾患です。瞬膜腺の腫瘍の場合は、瞬膜腺の切除が必要になるため、この手術法を提示された場合は、理由も主治医に聞いてみると良いでしょう。
・ポケット法(埋没法):瞬膜に、飛び出た瞬膜腺を埋め込むポケットを作って、瞬膜腺を中に入れて縫合する方法です。近年はこの方法が主流となっています。成功率は95%ともいわれていますが、5%程度は術後に再び飛び出してしまう可能性があります。また、縫合糸による角膜潰瘍などの合併症が発生する可能性もあります。
・アンカー法:瞬膜腺を周囲の筋肉などに縫い付けて、瞬膜腺が再び飛び出さないように固定する(アンカー)方法です。瞬膜の動きを制限してしまうというデメリットがありますが、再発の可能性はより低くなります。瞬膜腺が広く飛び出ている場合や、慢性的に飛び出ている場合、ポケット法の術後に再び飛び出た場合にアンカー法が行われます。
ポケット法やアンカー法であっても、術後に約10%の症例で涙の量の減少が見られるため、ドライアイには注意をする必要があります。また、慢性経過で瞬膜の軟骨が変形している場合は、変形した軟骨を切除することもあります。
術後は、一時的に瞬膜の腫れや赤みが出ることがありますが、消炎剤の点眼をすることで徐々に治ってきます。犬が目を擦らないように、エリザベスカラーを装着し、注意して観察する必要があります。1~2週間は抗生剤の点眼薬などのケアも必要となるでしょう。
治療費の目安は?
アニコム損保の調査によると犬のチェリーアイの通院一回あたりの平均単価は3,240円で、平均通院回数は2回でした。内科的治療では、それほど費用はかからずに治療を行うことができるでしょう。しかし、外科的治療では、全身麻酔、高度な手術技量、術後の入院管理が必要となるため、より治療費は高額になると考えられます。
予防法は?
チェリーアイは、瞬膜腺と眼の奥の骨(眼窩骨)を結んでいる線維性の組織が弱いことが原因として疑われますが、これは生まれ持った体質です。そのため、予防することは難しいです。
発症してから時間がたったチェリーアイは、結膜炎や角膜炎、瞬膜腺の軟骨の変性を引き起こし、治りが悪くなるため、早めに治療を行うことが大切です。早くチェリーアイに気づけるように、日頃から愛犬の目を観察し、早期発見・早期治療が行えるようにすると良いでしょう。チェリーアイになりやすい犬種は特に気を付けてあげましょう。
【参考】
・結膜炎 <犬>|どうぶつ病気大百科
早期発見、早期治療を

チェリーアイは、若くして発症する疾患で、再発する可能性やもう片方の目にも発症する可能性があります。早期の治療で速やかに治せるよう、日頃から犬をよく観察し、目やにや涙が多くないか、白目が赤くないか、目頭に赤い塊がないかなどチェックしましょう。異常が見られた場合は、早めに動物病院を受診し、治療法をよく相談しましょう。
