
犬の体に、コリコリと触れるしこりを見つけたら、悪いものではないか心配になりますよね。
犬の体にできるしこりは、良性のため無治療で様子を見る場合もあれば、悪性腫瘍(がん)ですぐに治療が必要な場合もあり種類はさまざまです。
見た目だけでは判断が難しいケースが多いため、気になったら早めに病院に相談することをおすすめします。
今回は、犬のしこり・腫瘍について説明したいと思います。
犬のしこり・腫瘍とは?
「しこり」とは、皮膚もしくは皮下組織にできるかたまりのことをいいます。腫瘤(しゅりゅう)とも言われ、炎症によるものや、腫瘍、嚢胞(のうほう・液体の入った袋状のもの)など、原因に関係なく体表にできたかたまりはしこりに含まれます。
「腫瘍」は、細胞のかたまりのことをいいます。無秩序に細胞がどんどん増殖し、周りの正常な組織にしみこむように広がったり(浸潤・しんじゅんといいます)、血液やリンパ管を通ってほかの臓器に広がったりして(転移といいます)、犬に悪影響を及ぼすものを悪性腫瘍(がん)、まわりに転移せず、その部分でゆっくりと大きくなるものを良性腫瘍と分類します。
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どんな病気が考えられる?

犬の体にしこりを見つけた場合、どんな病気が考えられるのでしょうか。
乳頭腫、皮脂腺腫(イボ)
犬の皮膚によく見られ、「イボ」とよばれるものになります。
乳頭腫は、多くはパピローマウイルスが誘因となってできる、白いカリフラワー状の腫瘍です。自然に小さくなることが多いですが、数ヶ月かかることもあります。老齢で発症した場合、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)という悪性腫瘍になる可能性があるため、注意が必要です。必要に応じて抗ウイルス薬の投与や外科切除を行います。まれに、黒い乳頭腫が多発する「色素性乳頭腫症」が起こることがあり、特にパグやミニチュア・シュナウザーは遺伝性の素因があるといわれています。
皮脂腺腫(イボ)は、黄白色で脱毛したドーム状や乳頭状のしこりで、大きさは1㎝以下とされています。皮膚に脂を分泌する腺(皮脂腺)の細胞が異常に増殖することでできる腫瘍です。老齢犬でみられることが多く、イングリッシュ・コッカースパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ダックスフンド、プードル、シー・ズーなどによくみられます。多発することもあります。治療は外科切除を行います。皮脂腺腫は良性腫瘍ですが、ごくまれに、悪性腫瘍に分類される皮脂腺上皮腫や皮脂腺癌の可能性があります。この場合、切除後に再発したり、身体の一部に増殖したりするため注意が必要です。
組織球腫
脱毛を伴う赤いドーム状の見た目が特徴的なしこりで、良性腫瘍に分類されます。できやすい場所は頭部や手足で、急速に大きくなりますが、3cmを超えることはほとんどありません。ほとんどの場合、1~2ヶ月以内に自然に縮まって小さくなります。3歳以下の若齢犬で発生することが多いですが、高齢犬で見られることもあります。
脂肪腫
皮膚の下にできる、やわらかい脂肪のかたまりです。良性の腫瘍で、8歳以上の老齢犬でみられることが多いです。ゆっくりと進行し、数年かけて徐々に大きくなることもあります。
まれに、悪性腫瘍である脂肪肉腫の可能性があり、その場合には局所に広がることがあるため、急速に大きくなる場合は注意が必要です。大きさがほとんど変わらない場合には無治療で様子を見ることが多いですが、急に大きくなったり、できた場所が悪く歩きにくかったりする場合には必要に応じて外科切除を行います。
肥満細胞腫
肥満細胞という、免疫に関与する細胞が増殖してできたしこりです。悪性腫瘍(がん)に分類されます。中高齢での発生が多いですが、若齢で見られることもあります。多くは1ヶ所のみですが、多発することもあります。レトリーバー、ボストン・テリア、パグなどに多く発症します。
見た目は多様で、外観だけで判断することは困難です。例えば脱毛した赤いドーム状のものや表面がジュクジュク出血したもの、脱毛せず皮膚の下にあるやわらかいものなどです。大きくなったり小さくなったりを繰り返す場合、肥満細胞腫の可能性が高くなります。
嘔吐や食欲不振、下痢などの全身症状を引き起こすこともあります。外科手術が基本になりますが、周囲の正常な組織を含めてかなり大きくとる必要があります。取り切れない場合や転移が見られる場合、多発している場合は抗がん剤や放射線治療を行うこともあります。
乳腺腫瘍
乳腺細胞が増殖することで乳腺にしこりができます。犬の乳腺は脇の下から足の付け根まで左右5個ずつあり、1ヶ所もしくは複数個所にしこりがみられます。未避妊の女の子に多い腫瘍で、性ホルモンが関与していると考えられます。中高齢での発生が多く、さまざまな犬種で見られます。
良性と悪性の割合が半々で、見た目での判断が難しいため外科切除を行い病理検査をします。悪性の場合、再発や転移の可能性があるため、抗ガン剤や放射線治療を行います。
リンパ腫
リンパ球という免疫細胞が増殖します。悪性腫瘍に分類され、内臓にできるものなどさまざまなタイプがありますが、体にしこりを作るものとしては「多中心型」と「皮膚型」があります。
多中心型リンパ腫になると、顎、脇の下、内股、ひざの裏などにある体表リンパ節がはれて、しこりとして触れるようになります。複数箇所はれることが多く、食欲や元気の低下などの全身症状が見られることもあります。6歳以上の中高齢で見られることが多いです。抗がん剤による治療が一般的です。
皮膚型リンパ腫は、皮膚に炎症やフケ、色素脱出などを広範囲におこす「上皮向性」が一般的ですが、まれにしこりをつくる「非上皮向性」のものがあります。1ヶ所もしくは複数箇所でき、表面は赤くジュクジュクしていることが多いです。1ヶ所なら外科切除、複数あるなら抗がん剤で治療するのが一般的です。
しこり・腫瘍を見つけたらどうしたらいい?

見た目だけで良性か悪性かを判断することは困難です。見つけたら早めに病院で相談しましょう。悪性腫瘍の場合、早急に治療しないと、命に関わるリスクがあります。
しこりを触り続けると、刺激されてしまい、炎症を起こしてさらに大きくなってしまうことがあるため、むやみに触らないように気を付けましょう。
以前からあり、大きさがほとんど変わらない場合には良性の可能性が高いですが、早めに動物病院に行って確認してもらうのがおすすめです。
動物病院での検査について

しこりに細い針を刺して、中の細胞を吸引、採取し顕微鏡で観察します。取れる細胞は一部であるため、これだけでは確実な診断ができない場合もあります。その場合には、しこりを一部もしくは全体的に切除し、組織を検査して診断します。悪性腫瘍が疑われる場合には、転移などにより他臓器への影響がないかを確認するため画像検査や血液検査を行います。
治療法や自宅でできるケアについて

先述したように、腫瘍のタイプによって治療法は異なります。無治療で経過観察、外科切除、抗がん剤治療、放射線治療をそれぞれ解説します。
■無治療
良性で大きさがほぼかわらず、犬の生活に支障が出ていない場合や、組織球腫など自然に縮まって小さくなる可能性が高い場合は経過観察になることがあります。家では日々よく確認し、急に大きくなったり、犬が気にしたりしている場合にはすぐに病院に行きましょう。
■外科切除
良性だが犬が気にして出血や炎症を起こしている、場所が悪くて歩きにくい、今後悪性になる可能性があるなどの場合は外科切除を行います。悪性の場合にも、切除が可能なものであれば外科切除が第一選択になります。切除するだけで治療終了になるケースもあります。
■抗がん剤治療
多中心型リンパ腫は抗がん剤が一般的です。他の腫瘍でも行うことがあります。腫瘍の種類によって、薬の種類や投与間隔はさまざまです。抗がん剤は尿や便から排泄されるため、家での排泄物の取り扱いには注意が必要になります。
■放射線治療
手術ができない状態であったり、手術でとりきれなかったりした場合には放射線治療を選択することがあります。ただ、対応できる病院は限られているため、かかりつけの病院で紹介してもらう必要があります。
予防方法は?
しこりは予防が難しいものがほとんどですが、乳腺腫瘍は避妊手術を受けていると予防効果が期待できます。初回の発情がくる前に避妊手術をすることで発症のリスクを0.05%と、かなり減らせることができるといわれています。避妊手術をする時期は、初回発情が起こる少し前の生後6ヶ月ごろが望ましいとされているため、子犬を迎えたら早めに病院で相談しましょう。
また、愛犬の体を日々触って確認し、しこりを早めに見つけてあげることで、悪性であっても早期治療により完治する可能性が高くなります。
まとめ

一言でしこりといっても、さまざまな病気が考えられます。見た目だけで良性か悪性かを見分けることは難しいため、自己判断はせずに気づいたら早めに病院に連れていきましょう。細胞診は基本的にその場で簡単にできる検査なので、それによって良性と分かれば安心できますし、悪性であればすぐに治療に取りかかることができます。愛犬とのコミュニケーションを兼ねて、日頃からスキンシップをとって些細な変化も早めに気付いてあげられるようにしてくださいね。
