ワクチンとは感染症を予防するために病原体を無毒化または弱毒化した薬液です。
ワクチンを身体に接種すると、感染症に対する免疫力をつけることができます。
室内飼育でもワクチンって必要?
室内飼育だからといって安心はできません。飼い主はもちろん、来訪者や、多頭飼育中のどうぶつ、または靴や衣服など、あらゆる経路で感染する可能性があるからです。外出中に感染どうぶつに触れてしまったり、排泄物を踏んでしまったりすることで、家の中に感染源を持ち込んでしまう場合があります。
完全室内飼育でも、予防のためにワクチン接種をすることをおすすめします。
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猫のワクチンってどんなもの?
猫のワクチン接種は、法律で定められているものではありません。しかし、前述のとおり、感染のリスクは室内飼育の場合も十分あるので、定期的なワクチン接種を心がけましょう。
猫のワクチンの種類
2024年現在、7種の感染症に対するワクチンがあります。
① 猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症)
② 猫カリシウイルス感染症
③ 猫汎白血球減少症〈猫伝染性腸炎)
④ 猫クラミジア感染症
⑤ 猫白血病ウイルス(FeLV)感染症
⑥ 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV、猫エイズウイルス)
⑦ 狂犬病
これらは3種ワクチン、5種ワクチンといったように、組み合わさって混在したもの(混合ワクチンと言います)が製剤化されているため、何本も注射を打つ!というものではありません。
3種 | 4種 | 5種 | 単体 | |
① 猫ウイルス性鼻気管炎 | ● | ● | ● | |
② 猫カリシウイルス感染症 | ● | ● | ● | |
③ 猫汎白血球減少症 | ● | ● | ● | |
④ 猫クラミジア感染症 | ● | |||
⑤ 猫白血病ウイルス感染症 | ● | ● | ● | |
⑥ 猫免疫不全ウイルス感染症 | ● |
このうち①②③は、すべての猫に接種することが推奨されており「コアワクチン(3種ワクチンといえば、この3つを指す場合がほとんど)」と呼ばれています。非常に感染力が高いうえ、蔓延している地域も多いため、室内飼育であっても接種しておくことが望まれます。他は「ノンコアワクチン」と呼ばれ、地域やライフスタイルによって、接種するかどうかを個別に考慮します。
一般的には、他の猫と接触する機会がある場合は、3種ワクチン以上の種類を接種することが望ましいと言われています。かかりつけの獣医師と、ご自身と猫の生活環境について相談し、その環境に合ったワクチン接種をしましょう。
なお、⑦の「狂犬病」は、人間を含めてすべてのほ乳類に感染する感染症です。犬のように接種は義務付けられていませんが、海外へ行く場合には、猫も狂犬病ワクチンの接種を検討する必要があります。
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猫のワクチン費用
では、ワクチン接種の費用はどのくらいかかるのでしょうか。
「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査結果」(平成27年6月)(日本獣医師会)によると、平均的な費用としては以下のとおりです。
猫白血病ウイルス感染症(Felv)を含まないもの → 4,474円
FeLVを含むもの → 6,514円
猫白血病ワクチン(Felv)単体:4,063円
猫エイズワクチン(FIV)単体:4,320円
また、3種混合ワクチンは3,000~5,000円、4種・5種混合ワクチンは5,000~7,000円程度が一般的です。ただし動物病院によって価格は異なるので、接種を希望する病院に確認しましょう。
いざ猫のワクチン接種を受けるなら
ワクチン接種を受ける際にはいくつか注意したい点があるので、ご紹介します。
ワクチン接種をしてもいい年齢は?
生まれたばかりの子猫は、母乳(初乳)中に含まれる母猫からの免疫(移行抗体)が、さまざまな病気から守ってくれます。しかし、この移行抗体は日ごとに減少し、生後数ヶ月かけて徐々に消失してしまいます(消失時期には個体差があります)。
そのため、子猫でもしっかりワクチン接種を行う必要がありますが、一方で、移行抗体が残っている時期は、ワクチンを接種しても効果が十分に発揮されないため、何回かの追加接種を行うことで十分な予防効果を得ることができます。
まとめると、子猫時代に接種する初めてのワクチンは、生後2~3ヶ月以降から始め、2~3回のワクチン接種を行うのが一般的です。
接種前に気をつけるべきことは?
ワクチン接種は、体調の良い状態で受けることが大事です。なぜなら、ワクチン接種がもたらす身体への負担は、小さくありません。状態によって、期待する免疫がつかなかったり、体調が悪化する場合も珍しくありません。
家でもしっかり観察して、元気のある状態のときに病院に連れて行きましょう。
また、治療中の病気や服用中の薬などがある場合は、ワクチン接種についてかかりつけの先生によく相談をしましょう。
接種後に気をつけるべきことは?
どんなに体調が良くても、ワクチン接種後に、熱が出たりぐったりするといった副反応が起きる場合があります。ワクチン接種は、なるべく午前中に予約し、午後も家で見ていられるようにしてあげてください。夜中に急に体調が悪くなってしまった時のために、夜間病院を調べておくとより安心です。
副反応は、接種から数十分~数時間後に見られることが多いです。接種後に様子がおかしいと感じたら、躊躇せず動物病院に電話するようにしてください。
猫のワクチン接種の頻度は?
ワクチンは、一度接種したら終了、というものではなく、継続的に接種することが推奨されています。日本でのコアワクチンの接種は「1年に1回」が一般的ですが、海外でのガイドライン(※)では、3年に1回で十分という考え方もあります。その猫の生活環境や、獣医師の考え方によっても違うので、接種の頻度は、かかりつけの獣医師とも相談してみてください。
※AAFP(全米猫獣医協会)およびWSAVA(世界小動物獣医協会)では、コアワクチンの接種は3年に1回を推奨しています。
猫のワクチンの接種方法は?
2~3ccの小さな注射器を使ってワクチンを打ちます。場所は、背中の中心に接種することが多いですが、ワクチン種によっては、稀に「しこり」ができる場合もあり、腹部や足のあたりに接種することもあります。
ワクチンの副作用?接種後に気をつけたいこと
ワクチン接種後は、猫の身体にどんな変化が現れるかわからないので、家に帰ってからもゆっくり過ごさせてあげましょう。
ワクチン接種した当日の過ごし方
ワクチンを接種した日は猫の様子をよく見てあげられるよう、飼い主の時間的余裕がある日に行うことが重要です。
猫によっては「副反応」が出ることがあります。
副反応は接種後24 時間以内に現れることが多いので、特にこの時間帯は注意深く猫の様子をみてあげる必要があります。
接種後、1週間程度はストレスをかけず、安静にして猫の様子を注意深く見てあげましょう。
遊びで興奮させることも避け、運動も避けるようにしてください。また接種後 1 週間ほどはシャンプーをしないようにしましょう。
※接種後、猫の身体に免疫が作られるまでには2~3週間かかる場合があります。接種後、2~3週間は他の猫との接触を避け、感染のおそれがあるところには連れて行かないようにしましょう。
ワクチンを打った場所にしこり?
前述しましたが、稀に、ワクチンを打った部位に「しこり」ができることがあります。原因は、はっきりとはわかっていませんが、ワクチン等の注射製剤と関連があると考えられています。最近では、ワクチンの改良も進み、発生頻度は減っているようですが、接種部位に「しこり」が現れたら、獣医師に相談してください。
こんな症状が出たら、ワクチンの副反応?
接種後、猫の身体に異常を発見した場合は早急に動物病院へ連れて行って獣医師に相談をしましょう。
現れる副反応として次のような症状があります。
・顔面の腫脹
・皮膚の痒み、じんましん
・嘔吐、下痢
・発熱、元気消失
・呼吸困難、虚脱
・注射部位に「しこり(肉腫)」の発生
なお、即時型アレルギー反応のひとつにアナフィラキシーショックがあります。稀ではあるものの、反応は非常に重度であり、体内に抗原物質が取りこまれてから数分~数十分以内にじんましん呼吸困難、チアノーゼ、嘔吐、血圧低下などが見られて、ショック状態に陥ることもあります。
命にかかわるケースもあるため、迅速な処置が必要です。早急に動物病院へ連れて行きましょう。
気になる体調の変化があったら病院へ
ワクチン接種は少なからず猫の身体に負担をかけます。
上記以外にも「いつもと違う」と感じたら、動物病院へ連れて行って獣医師に相談しましょう。
猫のワクチン接種、しないとどうなるの?
ワクチンの接種は法律で義務付けられているわけではありません。しかし、これらの感染症は感染力が強く、いつ感染・発症しても不思議ではないのです。ご自身の大切な愛猫のためにも、また、ほかの猫たちに感染させないためにも、定期的なワクチン接種を心がけましょう。また、動物病院やペットホテルに預ける場合、ワクチン接種証明書の提示を求められることも多くあります。
一方で、人のインフルエンザワクチンなどとも同様に、ワクチン接種をしたからといって「絶対に感染しない」と断言できないのも事実です。その代わり、症状の程度や治るまでの期間は軽減される場合が多いです。
感染症にかかったらどうなるのか?
たとえば、①猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症)や、②猫カリシウイルス感染症、④猫クラミジア感染症は、カゼのような症状(くしゃみ、鼻水、目やに、結膜炎、発熱等)といった症状を起こしますが、致死的な状態になることはそれほど多くありません。ただし、抵抗力の弱い子猫や高齢猫が罹患すると症状が重篤になり、肺炎になってしまうケースも稀にあります。また、妊娠している猫では、流産してしまうこともあります。これらのウイルスは、単独ではなく、他のウイルスや細菌との混合感染となるケースが多いです。治療としては、抗ウイルス薬を使用することもありますが、抗生剤やサプリメントなどによる対症療法やネブライザーを使った吸入を動物病院で行います。
一方、③猫汎白血球減少症〈猫伝染性腸炎)は、完治する可能性はあるものの、死亡することもある感染症です。猫同士のグルーミングや、感染している猫とトイレや食器を共用することでで、他の猫にうつります。主な症状としては、発熱や元気喪失、食欲不振から始まり、下痢や嘔吐などの症状があらわれます。免疫力の弱い子猫では、このタイミングで死亡してしまうことも少なくありません。なお、猫自身の免疫がしっかりと働いた場合には回復をすることが多いです。万が一、ウイルスが免疫によって駆逐できなかった場合には、全身でウイルスが増えてしまい、下痢や血便、脱水などの消化器症状や、リンパ組織への作用によるリンパ球減少(白血球減少)や骨髄への作用による貧血や血小板減少などが引き起こされます。
白血病、エイズは、外出する猫には特に危険な感染症
猫白血病ウイルス(FeLV)感染症、猫免疫不全ウイルス感染症(FIV、猫エイズウイルス)は、完治は見込めず、やがて亡くなってしまう恐ろしい感染症です。同居猫に感染している猫がいない限り、家の中で生活している分には感染しませんが、外出する猫(基本的には、事故や感染症のリスクが高いため、お勧めしません)は、要注意です。FeLV、FIVとも、感染猫との接触やケンカによって感染します。特に、FeLVでは母猫から子猫への胎盤を介した感染も起こります。
FeLV、FIVによる症状については、どちらも初期には、発熱や元気喪失、食欲不振などの症状がみられます。病態の進行とともに、貧血や口内炎などがみられ始めます。さらに進行すると、FeLVではリンパ腫や白血病などの悪性腫瘍、FIVでは免疫力の低下による各種症状(重度口内炎や治りにくい感染症など)が認められ、死亡してしまうことがほとんどです。
愛するペットと末永く健やかに暮らしたい
わが子にはできるだけ元気で、健康でいてほしい…。それが家族の一番の願いではないでしょうか。ただ、どんなに強く願っていても、いつ何が起きるかは誰にもわかりません。万が一、何かがあったとき、守ってくれるお守りのようなものがあったら安心ですよね。それが「保険」です。「もしも」を防ぎ、「もしも」に備える「予防型ペット保険」をご存じですか。愛するわが子のために、検討してみてはいかがでしょうか。詳しくはこちらをご覧ください。

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