犬は運動をした時や暑い時などに、呼吸が速くなったり、口を開けてハッハッと荒い呼吸をしたりすることがよくあります。一時的ですぐに治まるのであれば問題がないケースがほとんどですが、長時間続く、苦しそう、安静にしている時にも呼吸が速い・荒いなどの症状が見られる場合には注意が必要です。
今回は呼吸が速い・荒い場合の原因や対処法、考えられる病気について解説します。

犬の呼吸について

呼吸とは、空気中の酸素を体内に取り入れ、細胞の代謝により生じた二酸化炭素を体外に排出するガス交換のことをいいます。空気中に含まれている酸素は、肺胞から血液中に入り、動脈血として全身にいきわたります。全身の細胞で酸素と二酸化炭素が交換され、静脈血となって肺胞に運ばれ、二酸化炭素が呼気から排出されます。

平均的な呼吸回数は?

胸の上下を1回の呼吸としてカウントします。呼吸数は一般的に1分間の呼吸回数を表します。1分間の回数をそのまま測定することもありますが、15秒で何回呼吸するかをカウントし、その数を4倍にすることもできます。
犬の安静時の呼吸回数は立った状態で1分間に20~34回、睡眠時は1分間に18~25回で、小型犬の方が大型犬より呼吸回数が多い傾向にあります。

犬の呼吸が速まる主な理由

犬の呼吸は、様々な要因で早くなったり、荒くなったりすることがあります。激しい場合には、大きく口を開けてハッハッと非常に早く浅い「パンティング」という呼吸になることもあります。呼吸が速くなる理由としては、以下のようなものが挙げられます。

運動した時

運動をすると、体を動かすのに必要な酸素を筋肉に送るため、血液中に取り入れる酸素量を増やそうとして呼吸が速くなります。

ストレス

ストレスや緊張、不安を感じると、交感神経が優位になることで呼吸が速くなります。病院に連れて行った時や、雷や花火など大きな音がする時などに起こります。

暑さ

犬は、肉球など一部でしか汗をかけないので、人のように全身で汗をかいて体温調整をすることができません。そのため、暑いときにはパンティングによって口から水分を蒸散させて体温を下げようとします。

病気が原因で呼吸が速まることもある

荒い呼吸が長時間続く場合、様々な病気が隠れている可能性があります。

・心臓の病気(僧帽弁閉鎖不全症など):血液の循環が悪くなるため。
・肺の病気(肺水腫、肺炎、胸水、肺腫瘍など):肺胞でのガス交換が障害されるため。
・気管の病気(気管虚脱、気管・気管支内異物、気管腫瘍など):空気の通り道である気管が狭くなることにより呼吸が障害されてしまうため。
・短頭種気道症候群:チワワ、パグ、フレンチ・ブルドッグ、キャバリアなどの短頭種における複合的な呼吸器疾患で、鼻の穴が狭い、軟口蓋が長いなどにより、呼吸がしづらくなってしまうため。
・貧血:酸素を運ぶヘモグロビンが少なくなるため。
・熱中症:体内の熱を下げようとするため。

そのほか、中毒や咽頭麻痺など様々な病気が呼吸に影響を与えます。

病院に連れて行くべき特徴

運動した時や暑い時に呼吸が速くなり、安静にすればすぐに落ち着くのであれば、一時的なものの可能性が高くなります。
しかし、以下の症状がある場合はすぐに病院へ連れていきましょう。命にかかわることがあります。

・速い呼吸が続く
・舌の色が紫や白くなっている(チアノーゼ、貧血)
・ガーガーとアヒルの鳴き声のような音がする
・苦しそう
・ふせをしたり、寝そべったりすることができない
・努力性呼吸(体全体で大きく呼吸をしている)
・上を向いて首を伸ばして呼吸している

呼吸が速いときの対処法

運動した時

呼吸が荒くなったら運動をストップし、休憩して、水分を摂らせましょう。

ストレス

雷や花火などの大きい音が聞こえて怖いのであれば、雨戸を閉めて防音するなどストレスの原因を取り除いてあげましょう。病院に対して恐怖心がある場合には、用事がなくても病院にいっておやつをもらったり遊んでもらったりすると、徐々に慣れていく場合があります。

▽参考記事

暑さ

飼い主が気をつけてあげないと犬は熱中症になるリスクがあります。熱中症は命にかかわります。外であれば日陰に移動する、室内であれば換気をしたりエアコンをつけるなどにより気温や湿度を調節しましょう。犬種や健康状態にもよりますが、犬は人より暑さに弱いため、人が快適な温度よりもやや涼しめな温度・湿度がいいでしょう。温度は26℃、湿度は50%くらいがおすすめです。
日差しの強い日の車の中はすぐに高温になるため、短時間であっても犬を車に置き去りにするのはやめましょう。
暑い時期は早朝や夜など涼しい時間に散歩に行くなどして暑い時間に出歩かないようにし、散歩中も水分をしっかり補給するようにします。短頭種などリスクの高い犬は、散歩の時間を短縮したり、無理に散歩に連れていかないのも選択肢の1つです。

▽参考記事

病気

犬が苦しそうな呼吸をしている場合は、速急に病院に連れていきましょう。抱きかかえて運ぶ際には、呼吸がしやすいように、喉元や胸を圧迫しないよう注意する必要があります。
熱中症が疑われる場合には、首や脇など太い血管がある部分にタオルなどを巻いた保冷剤をあてて冷やす、体に水道水をかけて風をあてるなどで体温を下げる応急処置を行います。また、飲めそうなら水分を補給します。誤嚥の原因になるため、自分から飲まない場合は無理に飲ませてはいけません。

健康への影響はある?

呼吸は、生きていくために重要な機能です。呼吸が速くなった原因によっては、呼吸が落ち着いた後も継続的な治療が必要になることがあります。また、呼吸の機能そのものが低下している場合は、酸素吸入が必要です。運動や嬉しいことがあって呼吸が一時的に速くなるのは生理的な反応なので、健康な子であれば大きな負担にはなりません。

まとめ

呼吸が速い・荒い場合、安静にして落ち着くのであれば一時的なものかもしれませんが、続く場合は緊急性の高い症状であることを忘れないでください。
普段から安静時の呼吸数を把握しておくと、呼吸の速さの異常に早く気が付くことができます。
異常を感じたらすぐに病院を受診しましょう。

監修獣医師

石川美衣

石川美衣

日本獣医生命科学大学卒業。2008年、獣医師免許取得。卒業後は横浜市の動物病院で診察に従事、また東京農工大学で皮膚科研修医をしていました。2016年に日本獣医皮膚科認定医取得。現在は川崎市の動物病院で一次診療に従事。小さいころからずっと犬と生活しており、実家には今もポメラニアンがいて、帰省のたびにお腹の毛をモフモフするのが楽しみ。診察で出会う犬猫やウサギなどの可愛さに日々癒されています。そろそろ我が家にも新しい子を迎えたいと思案中。