犬が人間の足や他の犬、クッションなどにしがみついて腰を振ることを「マウンティング」といいます。
性行動のイメージが強いしぐさなので、戸惑ったり、驚いたりすることもあるかもしれません。不愉快さや気まずさを感じる飼い主も少なくないでしょう。
しかし犬のマウンティングは、必ずしも性的な動機が理由とは限りません。飼い主への悪気はないこともあります。
原因に合わせた対策を取る事で、犬とのハッピーな関係を目指しましょう!

犬の「マウンティング」って?

両前足で対象物にしがみつき、腰を繰り返し振る行為をマウンティングといいます。若い男の子に多いですが、女の子でもマウンティングをすることがあります。

マウンティングの理由は?

状況により、マウンティングの理由はさまざまです。
・性本能による行動
・自分の優位性を示したい
・遊びの誘い
・遊んでいるうちに興奮した
・葛藤での転位行動
などが考えられます。

わが子のマウンティングの理由を理解するには、どんなときに、何をきっかけとして、何に対して行っていたかを観察するとよいでしょう。

「人間より偉い」と思っている?

「自分のほうが上だぞ」とアピールするような行動を、優位性を示す行動といいます。状況や人間の態度によっては、犬が優位性を示してくることもあるかもしれません。そのため、マウンティングされた方の中には、「犬に見下された」と感じてしまう方もいるかもしれませんね。

しかし、人間に対して犬がマウンティングをする理由は、必ずしも優位性の誇示とは限りません。遊びの誘いや興奮が理由の場合もあります。

従来、犬のしつけについては、人間が犬よりも偉いと認識させることが大切だという解釈をされることもありました。もちろん、人間がリーダーシップを取り、犬に望ましい生活態度をとるようにトレーニングすることは大切です。しかし、犬のマウンティングには本能が関わっていたり、優位性以外の理由が複合的にかかわっていることもあります。マウンティングを、「犬に見下された」「バカにされている」とばかり受け止めてしまったり、犬との主従関係を徹底させようと思ったりすると、かえって信頼関係の構築が難しくなることもあるかもしれません。

マウンティングの状況を見きわめて、動機に合わせた対応をしてあげるのもいいですね。

葛藤行動としてのマウンティングって?

動物行動学で使われる言葉に、「葛藤(かっとう)行動」というものがあります。
マウンティングの理由のうち、性本能や遊びと違って、葛藤は少しわかりにくい理由かもしれません。

葛藤の具体例をあげると、「お客さんが来た。知らない人は怖い。けれどそのお客さんが、ボクにおやつを差し出してきた。おやつを食べたいが、知らない人は怖い。だから食べられない。でも食べたい」というような矛盾する欲求で、どうすればいいかわからなくなってしまうような状況です。

このような葛藤状態に陥ると、目的達成のための行動(上記の場合、おやつを食べる、あるいは知らない人から逃げるなど)とは全く違う行動をみせることがあります。グルグル回ったり、ぺろぺろ舌なめずりしたり、あくびをしたり、身体を掻いたりといった行動です。転位行動(葛藤状態になった時に取る無関係な行動)としてのカーミングシグナル(ストレスや不安を感じた時に取る自分を落ち着かせる行動)とも言われます。

もしも犬がマウンティングをしたときに、犬が葛藤状況にあるようでしたら、葛藤行動としての転位行動として起きたものかもしれません。

マウンティングの対象による目的や動機の違い

飼い主や他の人

一緒に遊ぼう!と誘っていたり興奮からすることが考えられます。
マウンティング対象になりやすい人の傾向もあります。マウンティング行動に対して声をあげて反応したり、かまうようになると、関心を求める行動としてマウンティングをしやすくなると考えられます。

同性の犬

男の子が女の子に対して乗りたがる場合は、性本能によるものということもあります。同性の犬の場合は、性行動以外が理由と考えられます。
遊びの誘い、あるいは遊び中に興奮して上に乗るようになるということや、優位性の誇示などといった動機が考えられます。

ぬいぐるみ

ひとり遊びや退屈な気持ちの発散として行っていることも考えられます。特定のぬいぐるみやクッションにだけということでしたら、お気に入りということもあるかもしれません。

発情との関係について

男の子は、女の子の発情中に出すにおいに反応してマウンティング行動をしやすくなります。
犬の嗅覚は優れているので、姿が見えなくても、遠くの女の子のにおいに反応することもあると言われています。
男の子には発情期という限定的な期間はないので、発情中の女の子にはいつでも反応しやすいです。
去勢によって、マウンティングのきっかけにもなる性衝動を抑えることができます。交配を計画していなければ、去勢手術を検討するのもよいでしょう。満たされない性衝動から解放してあげることで、ストレスも減ると考えられます。

マウンティングしやすい子の特徴は?

遊び好きで陽気な、社交的な性格の犬に多い印象です。遊びの誘いとして行うという理由が関係しているかもしれません。

犬種

トイ・プードル、チワワ、柴犬などの犬種が、マウンティングをしやすいと言われています。

年齢

若い犬に多く、11歳以上の高齢では少ないようです。

性別

去勢手術を受けていない男の子に多く見られます。去勢済みの男の子でも見られることがあるため、去勢手術を受ければマウンティングがゼロになるということではありません。
男の子と比較すると女の子では少ないですが、女の子でもすることがあります。

続けさせても大丈夫? 犬への影響は?

人間の足にしがみつくスタイルのマウンティングをするときは、後足で立ち上がるような姿勢になることもあります。
椎間板ヘルニアや膝蓋骨脱臼、股関節脱臼、関節炎などの病気のリスクがある犬の場合は、負荷を避けたほうがいいため、マウンティングはさせないほうが安心です。
とくに男の子で、おもちゃや家具などに何度も繰り返し激しくマウンティングをする場合は、ペニスや包皮が傷つくリスクもあるため、長く続けさせないほうが良いでしょう。

やめさせるにはどうすればいい?

お散歩やドッグランは、他の人や犬と出会う機会が多いです。
マウンティングを気分の良いものではないと感じる方もいます。

マウンティングが習慣化していると、一緒に暮らしている他の犬にもマウンティングが見られやすくなります。人間社会の中で共同生活をするマナーとして、マウンティングはあまりさせないようにするというのもよいと思います。

もともとは犬の正常な行動のひとつなので、マウンティングをゼロにするということは難しいですが、習慣化させない接し方を心がけるとよいですね。

他の犬に対してマウンティングするなら「オイデ」

ドッグランや散歩中に、他の犬にマウンティングをする状況はよくあります。
遊びの誘いや興奮した流れということもあれば、優位性を示したいなど、犬同士での交流ではマウンティングは自然に見られることです。
しかし、お互いの飼い主が近くにいるときには、気まずい空気が流れたり、相手の去勢の実施状況などが気になるかもしれません。

他のワンちゃんに向かっていっていくときは、「オイデ」と声をかけて、呼び戻すようにするとよいですね。このとき、おやつやおもちゃなど、ごほうびになるものの使用は避けましょう。
ごほうびを使った「オイデ」のトレーニングは、マウンティングをしていない、落ち着いたときに練習しておきましょう。

人間に対してマウンティングするなら「無視」または「おすわり」

人間に対してマウンティングするときは、遊んでほしい、かまってほしいという目的ですることもあります。このときに声をあげて反応したり、声をかけたりすると、かまってもらえる目的が達成したと学習して、余計にマウンティングをしてしまうこともあります。

反応しないで無視をしてそっと離れるとよいでしょう。また、「おすわり」や「ふせ」などのコマンドができる子でしたら、マウンティング以外の動作をさせて落ち着かせるのもよいでしょう。

激しく興奮してしまって落ち着かないときは、ケージに入ってもらってクールダウンする方法もあります。

興奮状態が激しいときは、安全確保のためにケージに入ってもらう場合もありますが、毎回閉じ込めるように押し込んでいると、ケージが「おしおき用の場所」になり、ケージ嫌いになってしまうことも。
普段から「ハウス」のコマンドで自分から入れるのが理想的です。

マウンティングをやめさせるためにケージやクレートに誘導するときには、おやつやおもちゃなどを使うことは避けましょう。ごほうびを使ったハウストレーニングは、マウンティングをしていない落ち着いているときがいいですね。

去勢手術を行う

マウンティングが癖になる前に去勢手術を行うことで、行動が緩和される場合があります。一度癖になってしまうと、去勢手術を行っても改善は難しいです。

ぬいぐるみやクッションにマウンティングする

ぬいぐるみやクッションにマウンティングする場合は、対象物の撤去や、長時間遊べる別のおもちゃを用意する、散歩などで犬と一緒に遊ぶ時間を増やすことなどで改善する場合があります。

おやつやおもちゃでごまかすのはNG!

マウンティングをやめさせようとして、おやつやおもちゃを使ってしまうと、マウンティングをするとごほうびがもらえると学習させてしまうことになります。その場しのぎにはなるかもしれませんが、継続的なしつけの観点では逆効果です。
望ましくない行動をやめさせたい場合は、おやつやおもちゃ、かまってあげるなどの犬が喜ぶ対応は控えましょう。

叱った方がいい?叱らない方がいい?

人間に対してマウンティングしてきたときは、受け入れない態度をすることが大切です。毅然として無視するのも良いでしょう。

叱る、説教をするという対応には注意が必要です。裏目に出ることがあります。

「も~、○○ちゃんたら~、ダメよ~」などと優しい声掛けをしながら、やめさせるために抱っこするなどの対応をすると、マウンティングを受け入れてほめているようにも思わせてしまいます。ダメよという単語を伝えていても、ダメなように聞こえていなければ、犬には言葉の意味は伝わりません。「いけない」「ダメ」と伝える場合は、低い声で、短く、一言で伝えるとよいですね。

激しい声で怯えさせるような叱り方や、長々とした説教も、避けたほうが良いでしょう。犬は何を叱られたのか理解できず、代わりにどのような行動をするのが正しいのかを自分で考えることができないからです。
代わりにどうする行動が正解なのかは、具体的に「おすわり」「ふせ」「ハウス」などの指示を出してあげましょう。

まとめ

マウンティングは犬本来の本能的な行動ではありますが、人間にとっては、見ていて少し気まずいこともある行動です。楽しい交流のためにも、マウンティングを習慣化させない接し方を心がけるといいですね。

監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。