「食糞」は文字通りうんちを食べる行動ですが、これは犬にとって本来正常な行動です。しかし人間の目線からは良くない行動のように見えます。

食糞をやめさせたくても、健康の問題や精神的な理由が関係していることもあるため、しつけだけではうまくいかない場合もあります。原因によって解決法が異なるので、何が原因か確認したうえで対処しましょう。

犬が食糞する理由は?

ごはんが足りていない

ごはんが足りず、カロリー不足と空腹感から、うんちを食べるパターンです。「フードの袋の記載通りに与えている」という場合も、以下を確認してみましょう。

●フードに記載の「成犬時体重」「現在体重」の勘違い
袋の表の基準体重は、「成犬時体重」になっていないでしょうか?
子犬のめやす食事量は、成犬になったときの予想体重である「成犬時体重」と現在月齢からごはんの量が書かれている場合もあります。目安表の記載が「成犬時体重」なのか「現在体重」なのか、確認しましょう。

●ドライとふやかしでの勘違い
「ごはんは一日200gあげてください」「子犬のうちはふやかしてください」といった説明をお迎え時に聞くこともありますね。しかし、案内されたフードの重さは、ドライのときのものでしょうか?それとも、ふやかした後でしょうか?
ドライの時点で計るべき重量をふやかした後に計ってしまうと、カロリー不足になることもあるので確認しましょう。

空腹感が増す病気

体重や運動量に見合ったごはんを十分に食べていても、空腹で食糞することがあります。寄生虫感染、内分泌疾患(ホルモンバランスの病気)、腸の疾患などがあると、食べていてもおなかが空いてしまいます。
しっかり食べているのに体重が増えなかったり、下痢や軟便があったりするときは、動物病院で診察を受けましょう。

食事内容

消化の問題や食材との相性、フードのにおいなどが理由で、食糞しやすくなることもあります。
未消化のものがうんちに残っていたり、おいしそうなにおいがしたりすると、うんちが魅力的なものになり、食糞しやすくなると考えられます。

精神的な理由

退屈や気を引きたいといった精神的な理由で食糞することもあります。「食糞すると飼い主がかまってくれる」と犬に勘違いさせないように対応していきましょう。

正常な母性行動

妊娠中、授乳中の母犬の食糞行動は正常な行動で、母性行動のひとつと考えられます。これについては、心配はいりません。

子犬の食糞は原因が違う?

子育て中の母犬の行動と同様、子犬では正常な行動として食糞を行います。心配な場合は、念のため食事量の確認とうんちの寄生虫チェックは受けておくとよいでしょう。

子犬の食糞はいつまで続く?

成長期では身体の大きさや体重だけではなく、消化機能や精神面も発達途中です。そのため、成長期は食糞行動が出やすいです。
犬種により成長期の長さは異なりますが、おおむね成犬の体格になるころには、食糞行動も落ち着いてくることが多いでしょう。小型犬だと生後9~10ヶ月、超大型犬種だと生後11~15ヶ月くらいで、ほぼ成熟期の体格に達します。

やめさせたほうがいい?病気のリスクはある?

寄生虫の治療などの事情がなければ、自分のうんちを食べても、特に心配はいりません。

特に気をつけてあげたい年齢や特徴はある?

1歳以下の若い犬の場合、健康な犬でもよく見られる時期なので、大きな心配はいらないことが多いです。
しかし、成犬が急に食糞するようになったときは注意が必要です。何か空腹感が増すような病気があるかもしれません。一度動物病院で相談するとよいでしょう。

一緒に住んでいる他のどうぶつのうんちは?

他のどうぶつ種の排泄物を食べることがあります。特に猫のうんちは対象になりやすいようです。においの強さや食事中のタンパク質含有量などが理由として考えられます。
他のどうぶつのうんちを食べると、感染症が成立する恐れもあるので、あまり他のどうぶつのうんちは食べさせないほうが良いでしょう。もし下痢や軟便があれば診察を受けると安心です。

外にあったうんちを食べてしまったらどうする?

屋外にあるうんちは、同居どうぶつのうんちと比べると、寄生虫や感染症のリスクがより高いです。拾い食いの習慣があるどうぶつの場合は、定期的に駆虫薬を使用することもあります。フィラリアの予防薬の中には、おなかの虫下し成分が一緒に入っている製品もあります。通院して相談するとよいでしょう。

どう対策すればいい?

しつけが有効なこともありますが、留守番中など、人間が見ていないときの食糞にはしつけのアプローチが困難です。そのため、食糞しやすくなる背景からも対策できるとよいでしょう。

食事量の確認

ごはんが不足している場合は量を増やしましょう。不足していた場合でも、急な増量は消化器に負担をかけるので、まずは1~2割増やし、様子を見るようにしましょう。
カロリーを十分にとっていても食糞する場合や肥満傾向の場合は、低カロリーなダイエット系フードを使うのもよいでしょう。

体調の確認

まずは、動物病院でうんちの寄生虫の確認をしてもらいましょう。できるかぎり新鮮な便を持参してください。
成犬の場合は、健診をかねて基本的な血液検査を受けるのもよいですね。内臓の異常や内分泌疾患の兆候などを早期発見できる場合もあります。

発散不足の解消

退屈からうんちを食べてしまうこともあります。ノーズワークマットや、フードを詰め込んで使える知育おもちゃなどは、室内遊びを充実させることができます。お散歩デビューが済んでいる子は、屋外での運動量を増やすのもよいでしょう。

フードを変えてみる

食事内容によって便質や便臭が変わることもあります。食物繊維の多い食事にしたり、違うメーカーや異なる食材のフードにすることで、うんちへの興味が減る可能性もあります。

ヨーグルトは有効?

便臭は腸内細菌の影響を受けるので、ヨーグルトや乳酸菌のサプリメントは、うんちの質を変えるひとつの要素になりえます。しかし、食糞行動は複合的な原因が関わっていることもあり、ヨーグルト単独での食糞行動の改善は難しいかもしれません。
乳酸菌製剤は犬の下痢の治療にも使用することがあるので、乳酸菌には犬の健康改善の効果も期待できます。ヨーグルトを与える場合は無糖の生乳ヨーグルトがおすすめです。アレルギーなどの持病がある場合は事前にかかりつけ医への相談をおすすめします。

食糞をしないようにしつける方法は?

子犬の食糞は成長とともに落ち着くことがほとんどですが、食糞がおもしろい、食糞するとかまってもらえるなどと学習すると、習慣化してこじらせてしまうことがあります。
そのため、食糞したときには接し方に注意が必要です。

まずは、食糞しても叱らない、反応しないことです。
食糞しているのを見つけて、思わず叫んだり、リアクションを取ってしまうと、飼い主さんの関心をひくために食糞しやすくなることがあります。

苦味がつくスプレー、食糞しつけシロップ

しつけグッズとして、犬が舐めても安全な素材で作られた苦味用品が販売されています。うんちに不快な味をつけることで、食べたときに「うんち=おいしくないもの」と学習してもらい、以降の食糞行動を減らす効果が期待できます。
難点は、排便した後、食糞するまでの短い時間に、味をつけなくてはいけないこと。すぐに食べてしまう子や、飼い主さんが近づくと焦ってうんちに向かっていってしまう子では、しつけグッズをふりかける間がないこともあります。また、苦味に鈍感で、平気で食べてしまう子もいます。他の対策とも併用するとよいでしょう。

排便後に興味をそらす

排便後にうんちを食べる行動ではなく、違う行動をとるように変えていく方法です。
うんちをしたらおやつやおもちゃを使って呼び寄せる「オイデ」のコマンドがやりやすいです。

食糞などの望ましくない行動があったとき、その行動を止めようと教育を試みても、なかなかうまくいかないこともあります。犬は、NG行動をダメだと叱られても、代わりにどうするのが正解か、自分で考えることが難しいためです。

問題行動の代わりにしてほしい行動(例:うんちをしたら飼い主の所へ行く)を教えることによって、困った行動をしないように行動修正することができます。
「オイデ」ができない子なら、「おすわり」でも「ふせ」でも「ハウス」でもよいでしょう。
食糞以外のコマンドができたら、たくさん褒めてご褒美を与え、犬がうんちから離れているうちにサッとうんちを片付けましょう。

やってはいけないしつけの方法は?

食糞をしたときに叱ったり、罰やショックを与えたりする方法はおすすめできません。
恐怖心を刺激してしまうと、飼い主さんとの信頼関係が悪化したり、排便自体に恐怖を抱いたりするようになってしまい、トイレ以外で隠れて排便するなどの問題行動が出る可能性もあります。
また、前述の通り、犬はNG行動を叱られるだけでは、どうしたらよいのかわかりません。
OK行動を教えて褒めるほうが、犬との絆も深まります。

まとめ

食糞は人間目線だと、あまり気持ちが良い行動ではないので、すぐにやめさせたいと思うかもしれません。子犬の場合、自然と落ち着くことがほとんどです。食事や健康面を確認しながら、習慣化させない接し方に気をつけて、見守ってあげるといいですね。

監修獣医師

中道瑞葉

中道瑞葉

2013年、酪農学園大学獣医学科卒。動物介在教育・療法学会、日本獣医動物行動研究会所属。卒後は都内動物病院で犬、猫のほか、ハムスターやチンチラなどのエキゾチックアニマルも診療。現在は、アニコム損保のどうぶつホットライン等で健康相談業務を行っている。一緒に暮らしていたうさぎを斜頸・過長歯にさせてしまった幼い時の苦い経験から、病気の予防を目標に活動中。モットーは「家庭内でいますぐできる、ささやかでも具体的なケア」。愛亀は暴れん坊のカブトニオイガメ。