犬と氷

夏は楽しいことがたくさんある季節ですが、全身が毛におおわれ、体温調節が苦手な犬にとっては体調管理が難しい時期でもあります。少しでも涼をとらせてあげようと氷をあげている、という飼い主さんも多いのではないでしょうか。今回は、犬に氷をあげても大丈夫なのか、与えるときの注意点、上手な利用の仕方について、ご紹介します。

犬に氷をあげても大丈夫?

犬と氷

氷は水が冷えて固まったものなので、成分的には犬にあげても問題はありません。氷が大好き!という犬は意外と多く、氷をガリガリかじるのが好きだったり、氷を浮かべた冷たい水を飲むのが好きだったり、つるつる滑る氷をおもちゃにして遊ぶのが好きだったり、犬によって反応はさまざまです。暑い時期に身体をクールダウンさせるためには最適な氷ですが、犬に与えるときには気をつけた方がよいことがいくつかあります。

犬に氷を与えるときに気をつけること

犬と氷

体の冷やしすぎに注意

氷を食べたり、氷の入った冷たい水を飲むと、体を冷やすことになります。熱中症対策として、暑いときに適度にクールダウンするために利用するのはよいですが、極端に冷やしすぎたり、長時間にわたって冷えている状態が続くと、体調に影響が出る場合があります。


冷たい氷や水が体内に入ってくると、内臓が冷やされ、消化管の動きや消化酵素の働きが悪くなります。その結果、便秘や下痢、嘔吐などの症状が起こったり、食欲不振に陥ることもあります。


また、腸が冷えると腸内細菌や腸の中の免疫細胞にも影響がおよび、免疫力が低下して感染症にかかるリスクが高くなる可能性も指摘されています。
どの程度の量であれば大丈夫かは個体差も大きく、冷たいものをたくさんとっても問題ないという犬もいれば、少し食べただけでお腹を壊してしまう犬もいます。ごく少量から与えてみて、愛犬の体調や便の状態をよく観察して量を調節しましょう。
一般的には、犬の体の大きさにもよりますが、製氷皿の氷1個から数個程度であれば、問題がないことが多いようです。もし氷を食べて下痢や嘔吐などの消化器症状が見られた場合は、与えるのを中止した方がよいでしょう。お腹の調子が大丈夫そうに見えても、体の冷えは万病のもとです。与えすぎには十分注意しましょう。

喉につまらせないように注意

人間の子どもで、氷を飲み込んで喉につまらせ、窒息してしまう事故が起こることがあります。氷なら溶けるから大丈夫、と思っても、大きさによっては溶けるまで時間がかかり、窒息の原因になります。自分で飲み込むつもりがなくても、口の中の氷はつるつる滑りやすく、何かの拍子に喉に詰まってしまうということも多いようです。犬でも同様の危険があるので、十分注意が必要です。


犬の口の中に入る大きさの塊の氷は、喉に詰まらせてしまう危険があります。口に入らないサイズの大きい氷か、かき氷のように細かく砕いたり削ったりした氷を与える方がよいでしょう。ただし、大きな氷は、溶けたりかじって小さくなった塊を口に入れてしまったり、食べ過ぎてしまわないよう注意が必要です。

舌にはりつくことがあるので注意

冷たい氷が舌に接触したときに、舌の水分が氷で冷やされて凍って、舌に氷がはりついてしまうことがあります。これを無理やりはがそうとすると、舌を傷つけてしまうことも。犬がびっくりしてパニックになり、ケガをすることもあるので、気をつけましょう。

氷がはりつかないようにするためには、氷を直接与えるのではなく水の中に浮かべたり、氷の表面をあらかじめ水で十分ぬらしてから与えるとよいでしょう。

歯を傷つけることがあるので注意

硬い氷をがりがりかじることが好きな犬は多いのですが、歯を折ってしまったり、歯の表面を傷つけてしまったりすることがあります。もともと歯周病などがある犬の場合、歯が抜けたり、痛みを引き起こす原因になる可能性も。硬い氷をかじらせることは控えた方がよいでしょう。

子犬やシニア犬にあげても大丈夫?

犬に氷を与える

子犬は成犬と比べて体温調節機能が未熟なため、氷を与えすぎたり冷たい水を飲み過ぎると体が冷えやすく、嘔吐や下痢などの体調不良を起こしたり、免疫力が低下して病気に対する抵抗力が落ちやすいので注意が必要です。また、かみ砕く力も弱いため、氷を丸呑みして喉に詰まらせてしまう危険もあります。

シニア犬も、体温調節機能が衰えていたり、持病があったりする場合、氷の与えすぎで冷えや体調不良が起こりやすく、歯周病などがある場合は、硬い氷をかじって歯が抜けてしまったり痛みが出たりということもあります。
子犬やシニア犬には氷を与えるのを控えるか、与えるとしても小さくしたり削ったりしたものをごく少量与える程度なのがよいでしょう。

氷の与え方

水に浮かべる

暑い時期のお散歩など、クールダウンさせたいときや、水分摂取量を増やしたいときは、氷そのものを与えるよりも、氷を飲み水に入れてその水を飲ませると効果的です。暑い時期は飲み水の鮮度を保つためにも有効です。ただし、冷えた水を飲み過ぎてしまったり、氷を口に入れて丸呑みしないよう注意しましょう。

かき氷にする

氷を小さく砕いたり削ったりしてかき氷にして与える方法もあります。これなら丸呑みして喉に詰まらせたり、かじって歯を傷つける危険は少なくなります。ヨーグルト(無糖)や、ささみのゆで汁、カツオのだし汁などを使ってかき氷にしてあげても喜ぶかもしれません。人用のかき氷シロップは糖分が多いため避けたほうが安心です。同様に、人用のアイスクリームも脂肪分や糖分が多いため、注意が必要です。

犬用のおもちゃを利用する

中に水を入れて凍らせることのできるゴム製の犬用のおもちゃなどを利用することもできます。いろいろなタイプのものが市販されていますが、このようなおもちゃを利用するときは、愛犬の年齢や大きさにあったものかどうか、安全性に問題がないかどうかをよく確かめたうえで利用しましょう。

与える以外の氷の活用法

犬と氷

ペットボトルで氷枕

ペットボトルに水を入れて凍らせてタオルや厚手の靴下などでくるむと氷枕が作れます。ベッドのそばなどに置いてあげると、あごを乗せたり、枕として使っている犬が多いようです。

ペットシーツでひんやりマット

適当な大きさに折ったペットシーツをフリーザーバッグに入れ、水をたっぷり吸収させて凍らせると、マット状の保冷剤が作れます。タオルなどにくるむとひんやりマットになります。ペットシーツとフリーザーバッグの大きさによっていろいろなサイズのマットが作れます。暑い日のお出かけにキャリーケースの中に入れたり、ベッドの下に敷いたりするのに便利です。ただし、直接触れたり、お腹などを冷やし過ぎないよう十分気をつけてあげて下さい。誤食にも注意しましょう。

氷を利用して扇風機の風を涼しくする

扇風機の前に、氷を入れた容器や、凍らせたペットボトル数本を置いておくと、扇風機の風を多少涼しくすることができます。あまり気温の高くない日やエアコンの補助として試してみてもよいでしょう。ただし、効果は限定的なので、気温の高い日は必ずエアコンを利用して部屋の温度をきちんと管理するようにしましょう。また、犬が扇風機を倒したりいたずらしたりしないように気をつけてあげて下さい。

まとめ

暑い夏を少しでも快適に過ごすために、氷は役に立つアイテムです。体の冷やし過ぎに注意しながら上手に使って、暑い夏を元気に乗り切りましょう!

監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。