私たち人間と同じように、犬でも年齢や生活様式によって活動量や代謝量が変化します。また、成長期や妊娠期など、普段よりも栄養が必要になるライフステージもあります。栄養は身体を健全に保つための源であり、各ライフステージで栄養の種類・量・バランスが適切なものを与える必要があります。

幼齢期(哺乳期・離乳期)

生まれてすぐの子犬は、母犬の初乳を飲むことが非常に重要です。初乳というのは子犬が生まれた直後の母乳のことで、感染症などから身体を守る免疫因子、いわゆる「抗体」が多く含まれています。母乳に含まれる抗体の量は時間が経つにつれて減っていきます。まだ自分の身体で免疫体制を整えられない子犬にとって、初乳は命綱となります。分娩に立ち会った時は、生まれた全ての子犬が初乳を飲めるようにしてあげてください。

哺乳期

生まれてから離乳食を食べ始めるまでの期間である哺乳期(生後3週齢くらいまで)では、子犬は必要な栄養を母乳から摂取します。母犬がいない場合は、代用乳を与えてください。これには、エネルギー源だけでなく、身体の基礎作りに必要な各種ビタミン・ミネラル、免疫力を高めるために必要な成分などが含まれます。
生後2週齢までは3~4時間おき、それ以降は5~6時間おきの哺乳が必要です。成長に必要なエネルギーに対して胃袋が小さく、一度にたくさんの量に対応できないため、回数で補う必要があるからです。

離乳期

離乳期は、一般的なごはんに身体を慣れさせ、乳離れをするための期間です。一般的には、乳歯が生え始める20日齢くらいから7~8週齢くらいまでの期間に当たります。身体そのものを大きくするだけでなく、臓器を発達させてしっかり機能させるのにも栄養が使われる時期です。消化機能を補うために消化性の高い、高カロリー食が必要となります。身体をつくりあげるためのたんぱく質も豊富に必要です。これらに対応することを目的としたのが、「子犬用」と表記されるフードです。切り替え時はそれまでの母乳または代用乳も一緒に与え、さらに代用乳やお湯でフードをふやかすことで消化器の負担を減らすことができます。

成長期

この期間は小型犬では8~10ヶ月齢まで、大型になるほど長くなり18ヶ月~2歳頃までとされています。身体の急速な成長に必要なエネルギー源となる脂質、筋肉などを発達させるためのたんぱく質、骨格の形成に必要なカルシウムとリンが多めに必要な時期です。
一般的には離乳期に切り替えた子犬用のフードを引き続き与えます。ただし、成長期の後半になるにつれて身体づくりを終えていくので、必要なカロリーは少しずつ減っていきます。また、避妊・去勢手術後はホルモンバランスが大きく変化し、食欲が増したり代謝が落ちたりします。そのため、カロリーを抑えた避妊去勢済みの犬用のフードもあります。体重の変化や、ウエストや媚のくびれ、肋骨部の肉付きなど体形の変化にも注意し、成長期の高カロリー食を続けるべきかどうか、かかりつけの獣医師に相談して、肥満を予防してください。

成犬期(維持期)

成長期と高齢期の間の期間です。栄養バランスがとれた ごはんを適量与えます。身体の成長はほぼないため、主に活動量によって必要なエネルギー量に個体差が生じます。1日に必要なエネルギーは、「安静時必要エネルギー量(RER)」を基に計算されます。フードのパッケージ等に記載されている給餌量を目安に、体型を見ながら調整してください。
疾患の発症に伴い、獣医師が指定する療法食が必要になる場合があります。目的によって、特定の成分が追加されていたり、減らされていたりします。万一、療法食を与えながらおやつや他のフードなどを併用したい場合は、必ず獣医師に相談してください。また、同じ目的の療法食でもいくつかの種類から選べる場合があります。サンプルなども用いながら、愛犬が好んで食べるものを見つけてあげてください。
お母さんになる予定の犬は、栄養状態に特に注意してください。栄養状態が悪いと、着床するためのエネルギーを補えず、妊娠しにくくなります。肥満の場合でも着床の確率は下がり、また、妊娠できたとしても難産や分娩時の子犬の低酸素症のリスクが高くなるとされています。

高齢期

小型犬では約12歳、大型犬で約8歳からが、いわゆる高齢期と呼ばれます。代謝量と内臓機能が低下するため、成犬期よりも脂質の割合を抑え、消化性の高い良質なたんぱく質を与えます。また、免疫系や代謝をサポートするためのビタミンも重要です。神経系をサポートするための不飽和脂肪酸、関節をサポートするためのグルコサミンなど、多様な成分に注目したフードがあります。また、歯の状態や顎の力が弱くなっていることを考慮して、ウエットフードやセミドライの柔らかいフードも高齢期用のフードとしてあります。
一般的にカロリーを抑えた食事内容となりますが、食欲や食べられる量が減っている場合、少量の高カロリー食を与えるケースもあります。また、特定の内臓の機能低下がある場合は、その機能を補ったり、悪化を防いだりするための療法食が必要となります。定期的な健康診断と合わせ、獣医師と相談の上で最適な食事内容への切り替えを検討してください。

妊娠期・授乳期

成長していく胎仔と出産後の授乳、そして妊娠・出産・授乳に耐えるためのエネルギーが必要となる期間です。胎仔の成長に合わせて多くのエネルギー量が必要となるのは妊娠5週目以降で、この時期、計算上は1日に必要なエネルギー量が分娩前の安静時エネルギー要求量の約1.6倍にもなります。子宮が大きくなることで圧迫される消化管に負担をかけないよう、消化性の高い食事が推奨されます。ビタミンなどのバランスが取れた食事が求められるのは言うまでもありませんが、母乳のためのカルシウムと、その調節に必要なリンが特に重要です。注意点としては、カルシウムは多すぎても問題を引き起こすことです。フードへのカルシウム剤の添加が必要かどうかは、獣医師と相談してください。
授乳期の1日で必要なエネルギー量は、分娩前の安静時エネルギー要求量の約2~4倍と言われます。食事の量も増えるため、回数も増やしながらフードを与えてください。

切り替えの時期はどう判断すれば良い?

離乳期~成長期

哺乳期から離乳期への食事の切り替えは、乳歯で判断できます。乳歯があると哺乳時に母犬が痛みで嫌がることがあるため、乳歯が生えてきたタイミングで離乳食への切り替えを検討してください。初期はフードを水やお湯でふやかしやわらかくする(お湯でふやかすと匂いも出るため、お湯でふやかす方がおすすめです)ことで、食べて消化する力が弱いのを補助してあげられます。少しずつ慣らしながら成長期用フードへと切り替えていきましょう。

成犬期

成長期から成犬期へのフードの切り替えのタイミングは、成犬の体格になった時や、避妊・去勢手術(肥満予防のため)などいくつかあります。さらに一般的な成長期の期間(小型犬で8~10ヶ月まで、大型犬で18ヶ月~2歳まで)も目安になります。ただし活動量にも影響され個体差もあるため、あまり神経質にならずに、肥満にならないことを目標にして、お気に入りのフードで最終的な目標カロリーを目指しましょう。体型の判断方法や目標カロリーが愛犬に最適であるかどうか、こまめに獣医師に診てもらうこともお勧めです。

高齢期

高齢期の食事への切り変えは、特に持病などがなければ、活動量の減少に伴う肥満を予防するためカロリーを減らすタイミングや、消化器・関節などへの負担を減らすことを重視して行うのもよいかもしれません。持病がある場合はそれに特化した療法食を獣医師に指定される場合があるので、食事内容の変更を希望する場合も必ず病院で相談してください。

出産後

出産後の母犬は、離乳期に合わせて妊娠前のフードに戻していきます。切り替えにかける期間は体格を見ながら、消耗して痩せていないか、エネルギー過剰で肥満になっていないか、様子を見ながら判断してください。

切り替えのポイントは?

どのライフステージにおいても、食事内容の急な切り替えは消化管に負担をかけてしまいます。元の食事と新しい食事を混ぜたものを、約1週間かけて、徐々に新しい食事の割合を増やしながら与えていきましょう。食欲をなくさず、お腹もこわさなければ切り替え完了です。
様子がおかしい場合はすぐに病院に相談してください。また、身体に触った際の肋骨の感触などでおおまかな体型を判断する方法があります。獣医師にコツを教わり、体重変化と合わせて、食事内容の変更後は特に注意してあげてください 。

まとめ

犬の状況に適した栄養バランスのとれた食事内容は、健康の維持や、活動的な行動につながります。栄養は何かが足りなくても、多すぎても問題を引き起こすことがあります。ポイントは、必要な栄養が網羅的に含まれていること、それらの栄養の比率が適切であること、そして食事量が適量であることです。ライフステージをよく理解して日常的に体重の増減、体形の変化に気を付けて、身体をサポートできるようにしましょう。

【関連記事】

監修獣医師

岸田滋史

岸田滋史

博士(獣医学)。大学院卒業後、2018年にアニコム損害保険株式会社に入社。ペットの健康寿命を延ばすことを目標に、フード開発などアニコム パフェ株式会社の新規事業に携わる。犬1頭と猫2頭の飼い主。