
近年、人間において腸内細菌の多様性が、健康と大きく関わっていることがよく知られるようになりました。一方で、犬などのどうぶつにおいては、人間ほど研究が進んでおらず、まだわかっていないことも多く残っています。今回は、犬の腸内細菌の多様性と健康との関わりについて解説します。
腸内細菌の多様性って?
人間の腸内にはおよそ100兆とも言われる非常に多くの細菌が住んでいることが知られていますが、人間と同様に犬の腸内にも多くの細菌が存在します。これらの細菌は互いに密接な関係を持ち、バランスを取りながら生きています。腸内細菌の種類と量はそれぞれ異なりますが、食生活や生活習慣、年齢、ストレスなどの影響を受けるとされています。このバランスが崩れてしまうと、健康にも小さくない影響を与えることがわかっています。
腸内細菌にはどんな種類があるの?
腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見(ひよりみ)菌」と、大きく3つのグループに分けられます。ここでは、それぞれの特徴について解説します。
善玉菌
善玉菌は、健康の維持や老化防止に効果があると考えられている細菌で、糖分や食物繊維を発酵させて乳酸や酢酸を作り出し、腸内を弱酸性に保ちます。人にとっての代表的な善玉菌は「ビフィズス菌」や「乳酸菌」がよく知られています。
犬にとっての善玉菌は「プレボテラ(バクテロイデス門プレボテラ科)」があります。アニコムの分析によると、プレボテラ科の細菌を持っている※犬は、持っていない犬に比べ傷病の発症率が0.9倍に下がり、健康に影響を及ぼしていることがわかりました。

※プレボテラを「持っていない」状態:腸内フローラにおけるプレボテラの占有率が「0%」
※プレボテラを「持っている」状態:腸内フローラにおけるプレボテラの占有率が「0%より大きい」
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バクテロイデス門の細菌「パラプレボテラ」について
悪玉菌
善玉菌とは対照的に、健康に悪影響を及ぼすとされているのが悪玉菌です。「大腸菌(有毒株)」や「ブドウ球菌」「ウェルシュ菌」が人にとっての代表的な悪玉菌として知られています。人間では加齢にともない悪玉菌の割合が増加し、高脂肪の食生活やストレス、便秘などによって増加するとされています。
アニコムの分析の結果、犬のすべての年齢において「エンテロバクター(プロテオバクテリア門エンテロバクター科の細菌)」が多い方が、ほとんどすべての傷病(誤飲・骨折を除く)の発症率を引き上げていることがわかりました。また、エンテロバクターが「増殖している」犬は、「寄せつけていない」犬と比較し、傷病の発症率が1.2倍も上昇する※ことがわかりました。

※エンテロバクターが「増殖している」状態:腸内フローラにおけるエンテロバクターの占有率が「10%以上」
※エンテロバクターを「寄せつけていない」状態:腸内フローラにおけるエンテロバクターの占有率が「0%」
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「プロテオバクテリア門の細菌(エンテロバクター)」について
日和見菌
名前の通り、身体の状態によって、善玉菌と悪玉菌の優勢な方に味方する菌です。3つの分類の内、最も数が多いとされています。
これらの善玉菌、悪玉菌、日和見菌がバランスよく腸内に住んでいることが理想ですが、このバランスが崩れると、腸内だけでなく体全体の健康に影響が出るとされています。
犬の腸内環境の多様性と健康の関係
犬の健康にとって理想的な腸内環境は、豊富な種類の腸内細菌がバランス良く住んでいる状態です。アニコムの分析では、「犬の腸内環境の多様性※1が高いほど健康度※2が高い」ことがわかっています。
※1 腸内環境の多様性:「Shannon Index」という指標を用いて表現した腸内細菌の多様性をいいます。
※2 健康度:本稿では、対象となる保険契約のうち保険金請求のなかった契約の割合を「健康度」と表しています。個々のどうぶつと疾病との関係を示すものではありません。(集計対象契約:対象期間中にペット保険の付帯サービスである『どうぶつ健活(腸内フローラ測定)』を実施した0~3歳のどうぶつを対象とし、特定の傷病(骨折、誤飲)による保険金請求があったどうぶつは除外しています。)

(N=76,540/対象期間:2019年7月~2022年4月)
「腸内環境の多様性が高ければ健康度も高い」という結果は、犬種や年齢ごとに分けても同様でした。つまり、どんな犬種や年齢でも腸内細菌の多様性と健康には関係があることを示しています。
犬の腸内細菌の多様性は変えられる?
犬の腸内にどんな細菌菌がどんなバランスで住んでいるかは、生まれつきそれぞれ異なります。それでは、もしわが子の腸内細菌の多様性が生まれつき低かった場合、それを変えることはできないのでしょうか?
0歳時の犬を腸内環境の多様性により4つのグループに分け、それぞれのグループの加齢による腸内環境の変化を見るため、0歳・1歳・2歳の時点における腸内環境を分析した結果、例え0歳の時には多様性が低くても、1歳、2歳と年を重ねるにつれ多様性が上がったり下がったり変化することがわかりました。つまり、犬の腸内細菌の多様性は、犬種や遺伝などといった「先天的な要素」のみで決まるわけではなく、フードや環境、生活習慣などの「後天的な要素」によっても変化することを示しています。

※N=166,137
アニコムの「お腹健康度」
アニコムでは、ご契約いただいているの犬の腸内に「どんな善玉菌・悪玉菌がどのような比率で存在するか」を保険金支払データと照らし合わせて分析し、「お腹健康度」としてお伝えしています。判定結果を見ていただくことで、健康に重要な役割を果たすと考えられる細菌たちが、愛犬の腸内にどれくらい住んでいるかを確認することも可能で、この結果に基づき、愛犬の健康度アップを目指していただけます。

▲「お腹健康度」の判定イメージ
多様な食で心と体の健康を
私たち人間は、体調や気分にあわせて、あるいは旬の食材から元気をもらうため、日々様々なものを口にしています。多様な食を通じて体にとっての”良い友だち”を取り入れて、腸内環境の多様性を高め、心と体の健康をデザインしているのです。こうした食の大切さは、人間と暮らすどうぶつたちも同じです。
大事なわが子に、腸内環境の多様性を高め、ずっと健康でいてもらうために、たとえば季節のものを少しずつ加えるなど、昨日とちょっとだけ違うごはんを与えてみるのも良いかもしれません。
まとめ
犬の腸内環境と健康との関係については、まだわかっていないことも少なくありませんが、少しずつ研究が進んでいます。アニコムでも、腸内環境を改善することでペットの病気を予防し、より健康に暮らし続けられるよう、今後さらに研究を進めてまいります。
