犬の下痢にはいろいろな原因があり、一時的なお腹の不調の場合や、重大な病気の一症状として起こっている場合もあります。愛犬が下痢をしたとき、どのように症状や経過を見たら良いか、どのような対処をしたら良いかを知っておくことはとても大事です。犬の下痢について、考えられる原因や気をつけなければならない症状、お家での対処法などをご案内します。

下痢の症状と種類

便の性状は下痢の原因や重症度を推測するのに役立つので、便の様子をよく観察しましょう。

・便のやわらかさはどれくらい?

軟便形はあるけれども、つまむことができない程度のやわらかさの便
泥状便形を維持することができない泥状の便
水様便 形がほとんどない液状の便

・便の色は?

黒色便食道、胃、小腸など上部の消化管からの出血があると、便に混ざって出てくるまでに血液が黒くなるため、黒っぽい便が出ます。食道、胃、小腸の炎症や潰瘍、腫瘍などの可能性があります。一方で、便秘などで排泄までに時間がかかった場合や、食事の種類、薬の影響などによっても黒っぽい便になることもあります。
血便(鮮血便)便に鮮血が混ざったり表面に付着している場合、直腸や肛門などからの出血が考えられます。直腸や肛門の傷、ポリープ・腫瘍等のできもの、大腸炎などの可能性があります。排便時に肛門が切れたなどの一時的な出血の可能性もあります
白色便うんちに脂肪分が多く含まれていると白っぽく見えます。消化不良や、食物中の脂肪分の消化に関わる膵臓、肝臓、胆道系の病気の可能性があります。

・便に混ざっているものは?

異物異物の誤飲が原因で下痢をしている場合、異物が便に混ざって出てくることがあります。
寄生虫細長いひも状のムシが混ざっている場合は、お腹に回虫、鉤虫、鞭虫などの寄生虫がいる可能性があります。ひらひらしたリボン状のムシが混ざっている場合は、お腹に条虫 がいる可能性があります。便に米粒のようなものが混ざったり付着している場合は、お腹にいる条虫の一部(片節)が出てきている可能性があります。
粘液透明、あるいは半透明のゼリー状のものが便に混ざったり付着している場合、腸の粘膜から分泌される粘液が排泄されている可能性があります。下痢に伴って粘液便が見られる場合は、大腸の炎症などが疑われます。
未消化の食べ物消化に悪いものを食べてしまった場合や、消化吸収がうまくいっていない場合、未消化の食べ物が便に混ざることがあります。

急性下痢と慢性下痢

通常、数日から1週間程度、長くても2週間以内におさまる下痢を「急性下痢」、3週間以上続く下痢を「慢性下痢」と言います。特に治療をしなくても治ってしまう場合や、下痢止めや整腸剤などの対症療法に反応してすぐに症状がおさまるような急性下痢の場合は、必ずしも詳しい検査や継続的な治療が必要ない場合もあります。しかし、対症療法に反応せず3週間以上続くような慢性下痢の場合は、詳しい検査を行い原因に応じた適切な治療を行うことが必要です。

下痢と同時に見られる症状

下痢の症状とあわせて、以下のような症状が見られることがあります。原因を推察したり、詳しい検査や治療を行う必要があるか判断する目安になるので、特に注意して観察しましょう。

  • 元気消失
  • 食欲不振
  • 発熱
  • 吐き気、嘔吐
    犬は吐き気を感じると口の周りをペロペロしたり、あくびやよだれが増えたりします。実際に嘔吐してしまった場合は、食後どれくらいして吐いたか、どのようなものを吐いたか(未消化のものか、消化されたものか、液体か、異物が混ざっていないか)などを把握しておきましょう。
  • 腹痛
    元気がない、そわそわ落ち着かない、背中を丸めた姿勢をとる、じっとしたまま動かない、震える、触られるのを嫌がる、お腹が張っている、お腹を触ると力を入れる、などは腹痛のサインの可能性があります。
  • しぶり(何度もうんちをしたがる様子)
    うんちが少ししか出なかったりほとんど出ないのに何度も排便姿勢をとってうんちをしようとする様子を「しぶり」と言います。下痢に伴ってしぶりの症状が見られる場合、主に炎症によって大腸が刺激されることが原因の場合が多いです。
  • 体重減少、削痩
    食欲不振が続いて食事が十分とれなかったり、下痢によって消化吸収がきちんとできていない場合に体重が減ったり痩せてくる様子が見られます。

小腸性下痢と大腸性下痢

犬の下痢にはいろいろな原因がありますが、大きく分けて、小腸に問題があって起こる下痢(小腸性下痢)と、大腸に問題があって起こる下痢(大腸性下痢)の2つに分類されます。小腸性下痢と大腸性下痢にはそれぞれ次のような特徴があります。

小腸性大腸性
便の量増えるあまり変わらない
排便回数あまり変わらない(1日数回)増える(1日3回以上)
しぶりないことが多いしばしばある
腹痛ないことが多い場合によってある
粘液便ないことが多い粘液便、粘血便を伴うことが多い
血便黒色便(タール便)が見られることがある鮮血便が見られることがある
脂肪便あることが多いない
未消化物あることが多いない
嘔吐あることが多いまれにある
体重減少と削痩あることが多いまれにある

小腸性の下痢か、大腸性の下痢かは、原因となる疾患を推測したり、食事療法を選択するときに大事なポイントになるので、症状をよく観察することが大切です。

子犬の下痢

子犬では、免疫力が低いことと腸内細菌叢のバランスがしっかりしていないことから、ウイルスや細菌性の下痢が多く見られます。寄生虫感染が原因の下痢も多いです。ブリーダーやペットショップから新しいお家へ移るなど、環境変化のストレスによる下痢や、食事の変更に伴う下痢もよく見られます。

子犬の下痢は嘔吐や食欲不振を伴うことも多く、急激に悪化して低血糖症などを起こしてぐったりしてしまうこともあります。子犬が下痢をしている場合は、食欲や元気があり軟便程度であっても、経過をよく観察して念のため早めに受診した方が良いでしょう。

※低血糖症は血液中のブドウ糖の量が極端に少なくなることによって起こる症状です。脳の細胞は血糖値の影響を受けやすく、低血糖症になると神経症状や意識障害などの症状が起こり、命に関わることもあります。子犬のうちは体の中に糖分を蓄えておく仕組みがきちんとできていないため、食欲不振や下痢や嘔吐などが続くと低血糖症を起こしやすくなります。

老犬の下痢

老犬の場合は、一時的な急性の下痢に加えて、腫瘍や炎症性腸疾患、その他の疾患に伴う下痢が多く見られます。老犬で下痢の症状が続く場合は、下痢の原因となる疾患がないか、きちんと調べて対処する必要があります。

原因は食事や病原体

食事

フードの急な変更や食べ過ぎ、脂肪分の取り過ぎなどが原因で消化吸収不良を起こし、下痢が見られることがあります。傷んだ食べ物や汚染された食べ物の誤食による食中毒が原因となる場合もあります。食物不耐性(特定の食物を適切に消化できないために起こる症状)や食物アレルギー(特定の食物に対する異常な免疫反応により起こる症状)が原因で下痢が見られる場合もあります。

ウイルス・細菌・寄生虫などの病原体

犬に下痢を引き起こす病原体には次のようなものがあります。

ウイルスシステンパー、パルボ、コロナなど
細菌大腸菌、サルモネラ菌、クロストリジウム、カンピロバクターなど
寄生虫(原虫 )ジアルジア、トリコモナス、コクシジウムなど
寄生虫回虫、鉤虫、鞭虫、糞線虫、瓜実条虫など

これらの病原体の多くは急性の下痢を引き起こしますが、特に原虫などが原因の場合は検査ではわかりづらく慢性の経過をたどるものもあります。

・薬剤・毒物

細菌感染の治療で使われる抗生物質は、腸内細菌叢に影響を与え下痢を引き起こすことがあります。また、悪性腫瘍の治療で使われる抗癌剤は、腸粘膜の細胞に影響を与えて下痢を引き起こすことがあります。

農薬や殺虫剤などの毒物の誤飲で下痢が起こることもあります。

・異物

おもちゃやペットシーツなど食べ物以外のものを誤飲したときに下痢が起こることもあります。また、玉ねぎやチョコレート、アボカドなど、人間の食べ物の中には犬に中毒を引き起こすものもあり、そのような食品の誤食による中毒症状の一つとして下痢が起こることもあります。

・ストレス

ストレスが原因の下痢は犬では比較的よく見られます。引越しなど環境の変化や家族構成の変化、長時間の留守番、ペットホテル、工事や花火、雷の音など、さまざまなことが原因となります。

・腸の疾患に伴う下痢

下痢を起こす腸の疾患としては、炎症性腸疾患、腸リンパ管拡張症、腫瘍(リンパ腫、肥満細胞腫、腺腫、腺癌など)、腸閉塞(異物、狭窄、腸重積など)などがあります。

・腸以外の疾患に伴う下痢

肝疾患(肝不全、胆道閉塞など)、膵臓疾患(膵外分泌不全、膵炎など)、腎疾患(ネフローゼ症候群、尿毒症など)、内分泌疾患(副腎皮質機能低下症など)、肛門周囲の疾患(会陰ヘルニア、肛門嚢炎など)、敗血症、子宮内膜症などに伴って下痢の症状が見られることもあります。

治療法は対症療法と原因療法

下痢の治療には、症状を抑えるための対症療法と、下痢の原因疾患に対する原因療法があります。

対症療法としては、腸の善玉菌を増やして悪玉菌を抑え、腸内細菌叢を整える整腸剤、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を抑えたり腸粘膜の刺激を緩和したり炎症を抑えたりすることで下痢をとめる止瀉薬(ししゃやく)、下痢や嘔吐による脱水症状を改善するための輸液療法などがあります。

原因療法は、感染による下痢に対する抗生物質や駆虫薬、炎症に対する抗炎症剤、アレルギーに対する抗アレルギー剤、その他基礎疾患に対する治療など多岐にわたります。

治療費は10,000円程度

原因にもよりますが、便検査や薬の処方などでおおよそ10,000円程度かかることもあります。

下痢のときの食事や水分の与え方

・食事の与え方

下痢をしているときにどのような食事が適しているかは、原因によって異なります。一般的に小腸性の下痢のときは脂肪分を控えた消化に良い食事、大腸性下痢のときは繊維質の多い食事、食物アレルギーが疑われるときは低アレルゲンの食事などが勧められますが、原因となっている疾患によっても変わります。

一時的な軽症の下痢の場合には普段と同じ食事を少量頻回で与える(消化に悪そうなものは避けてください)ことで良いですが、症状が重い場合や繰り返す下痢の場合は、動物病院を受診して原因をつきとめ、療法食等、病態に合わせた適切な食事を与えた方が良いでしょう。

水分の与え方

下痢をしているときは腸が炎症を起こしていたり、過敏になっていることがあるため、一時的に飲水や食事をストップして、腸を休めてあげると良い場合があります(子犬や基礎疾患のある犬の場合、状態によっては絶食絶水をすると低血糖症につながることがあるので、必ず先生に相談しましょう)。半日程度、絶食絶水をして様子を見てみましょう。

その間にも何度も下痢を繰り返したり、嘔吐したりする場合は受診が必要です。ある程度元気があり下痢も止まっているようであれば、少量の水を少しずつ与えて様子をみましょう。一度に大量の水を飲ませてしまうと、下痢がひどくなったり吐いてしまうことがあるので必ず少量ずつ、何度かに分けて与えます。水を飲ませた後に下痢をしたり吐いたりしてしまったときは、動物病院を受診しましょう。

何度か水を飲ませてみて、下痢をしたり吐いたりしないようであれば、消化に良いフードを少量ずつ与えます。食欲も元気もあり下痢を繰り返さないようであれば、しばらくフードを少量ずつ頻回で与えて様子をみましょう。ただし、動物病院の先生から水や食事の与え方について指示があった場合は、それに従ってください。

下痢をしている時の対処方法

それでは、愛犬が下痢をしてしまったときは、どうしたら良いでしょうか。

便の状態、他に症状がないかよく観察する

特に基礎疾患のない成犬の場合は、多少軟便であっても、元気と食欲があって他に症状が見られない場合はお家で様子をみても大丈夫なケースが多いです。ただ、次のような場合は早めに動物病院を受診しましょう。

  • 血便(黒色便・鮮血便)、粘液便、水様便が出ている
  • 1日に何度も下痢を繰り返している
  • 長期間下痢が続いている
  • 元気がなくぐったりしている
  • 食欲がなく水も飲まない
  • 嘔吐を伴っている
  • 熱がある
    *体温計(人用の電子体温計で大丈夫)をももの付け根にはさんで測ります。一般的に39度以上の場合発熱の可能性があります。個体差があるので、元気なときに何回か測ってみて平熱を調べておきましょう。
  • 強い腹痛があったりお腹が張っている ・6か月未満の子犬や基礎疾患のある犬

市販の下痢止め・薬は与えて良い?

下痢止めを使用して止めて良い下痢と、止めないほうが良い下痢とがあります。原因がわからない段階で、自己判断で市販の下痢止め・薬を使用することは危険です。人用の下痢止めも、犬に対する安全性がわかっていないものがあるので、自己判断で飲ませるのはやめましょう。

乳酸菌製剤などの整腸剤は飲んでも問題ないものが多いですが、人用の整腸剤の場合、犬に効果的な量がわかっていない場合もあります。基本的に薬を飲ませる場合は、動物病院を受診して適切な薬を処方してもらいましょう。

下痢をしているときのお世話の注意点

泥状便や水様便などを何度も繰り返していたり、便がおしりのまわりに付いたままの状態になっていると、皮膚が炎症を起こして赤くなったりただれたりしてしまうことがあります。排便後は良くチェックして、汚れたり濡れている場合はぬるま湯等でやさしく洗ってよく乾かしてあげましょう。赤くなっている場合はひどくならないうちに主治医の先生に診てもらいましょう。

感染性の下痢など、原因によっては人間のご家族や同居の犬、猫などにうつってしまう可能性があります。便や嘔吐をしたらすぐに片づける、汚れたものはすぐに洗う、掃除の後はよく手を洗い消毒するなど、いつも以上に衛生面に気をつけてください。病原体によっては特別な消毒が必要な場合もあるので、先生の指示に従ってください。

元気があれば散歩にいっても通常は問題ありませんが、疲れさせすぎない程度にしましょう。水分や食事を制限しているときは、誤飲や拾い食いにも注意が必要です。動物病院を受診した場合は、散歩について先生に確認しておくと良いでしょう。

動物病院を受診するときの注意点

いつから下痢をしているのか、食欲・元気があるか、嘔吐・発熱はどうか、下痢の回数や色、やわらかさ、便に混ざっているものがないか、しぶりの症状があるかどうか、などがわかっていると、原因を特定して適切な治療法を決める手がかりになります。症状を記録し、動物病院を受診するとき持参すると良いでしょう。

また、便や嘔吐物を持参すると、診断の助けになります。難しい場合は携帯電話で写真を撮っておきましょう。

予防方法

一時的な下痢の原因は食べすぎや拾い食い、フードの急な変更など、気をつけることで防ぐことができるものが多いです。食事の量や与えるものなどを普段から決めて管理すると良いでしょう。初めてのものやいつもと違うものを与えるときは、急にたくさん与えるのではなく、少しずつ様子を見ながら与えましょう。

ジステンパー、パルボウイルス、コロナウイルスによる下痢は、ワクチンで予防できます。寄生虫については、定期的に検便を行い、必要に応じて駆虫薬を与えることで防げます。

食物アレルギーについては、アレルゲンとなりやすい食材を長期間与え続けることを避け、フードや食材のローテーションを行うことで予防できる場合もあると言われています。

下痢を伴う様々な疾患の中には、原因がわかっていなかったり、予防することが難しいものもありますが、早期に発見し治療を開始することで、重症化を防いだり進行を遅らせたりできる場合もあります。日頃からの健康チェックと、定期的な健康診断を心がけましょう。

気をつけたい犬種や季節

気をつけたい犬種

下痢は犬によく見られる症状で、特に犬種によって大きな差はありません。下にあげるような下痢を引き起こす疾患にかかりやすい傾向のある犬種は特に注意が必要ですが、これらの病気はその他の犬種でも起こり得ます。どんな犬種であっても、下痢が長引いたり繰り返すときには気をつけましょう。

下痢を起こす疾患かかりやすい犬種
食物アレルギーアメリカン・コッカー・スパニエル、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・ダックスフンドなど
炎症性腸疾患ジャーマン・シェパード・ドッグ
腸リンパ管拡張症ヨークシャー・テリア、マルチーズ
大腸炎症性ポリープミニチュア・ダックスフンド
膵炎ミニチュア・シュナウザー、プードル、ヨークシャー・テリア、コッカー・スパニエル、コリー、ボクサーなど
膵外分泌不全ジャーマン・シェパード・ドッグ、ウェルシュ・コーギー、コリーなど
会陰ヘルニアウェルシュ・コーギー、ミニチュア・ダックスフンドなど

気をつけたい季節

季節の変わり目など、寒暖の差が大きい時期は体調不良から下痢を起こしやすいので気をつけましょう。

夏場は、冷たい水の飲み過ぎや冷房による冷えが原因と思われる下痢が見られます。冷たい床におなかをペタッとくっつけて寝て、お腹を冷やしてしまうこともあります。暑さに弱い犬は、夏バテで体調を崩して下痢を起こすこともあります。お腹を冷やさないようにし、室内の温度管理に気をつけましょう。 冬場は寒さによって免疫力が低下して感染性の腸炎などが増える時期です。また、お正月やクリスマスなどのイベントで普段食べ慣れないものを食べて下痢をしてしまう犬も多く見られます。

まとめ

下痢はよく見られる消化器疾患の一つで、犬の飼い主であればまず間違いなく一度は遭遇するでしょう。心配ない一時的な下痢の場合も多いですが、中には危険な状態につながることもあります。愛犬が下痢をしたときは、うんちの状態や他の症状をよく観察し、危険な症状に早く気づいて適切な対処をしてあげられるようにしましょう。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。