ブルセラ症はブルセラ菌という細菌の感染によって起こる病気です。犬の他にもさまざまな家畜や野生動物で見られ、感染すると主に不妊や死流産などの症状を起こします。人にも感染することがある人獣共通感染症の一つです。畜産で問題となる牛、羊、山羊、豚のブルセラ症は、「家畜伝染病予防法」上の家畜伝染病に指定されているので、発生した場合は法律に基づいた処置がとられますが、犬のブルセラ症は対象にはなっていないという違いがあります。今回は犬のブルセラ症についてご紹介します。
犬のブルセラ症とは?どんな病気?
ブルセラ菌にはいくつかの種類があり、それぞれ主に宿主となる動物が異なります。犬のブルセラ症はブルセラ・カニス(Brucella canis)という種類のブルセラ菌の感染によって起こります。ブルセラ・カニスの主な宿主は犬で、まれに人に感染します。日本では、「家畜伝染病予防法」で管理されている家畜のブルセラ症は、ほぼ発生していませんが、犬のブルセラ症は近年においても大規模な繁殖施設などで散発的に集団感染が発生したり、犬から人への感染例が報告されています。
どんな症状?
感染しても明らかな症状が見られないことが多いです。発熱や全身のリンパ節の腫れなどが見られることがありますが、深刻な症状に至ることはほとんどありません。まれに、脊椎炎、髄膜脳炎、ぶどう膜炎、心内膜炎などが起こることが報告されています。
妊娠中の女の子の犬では、妊娠後期(妊娠45日以降)に流産、死産が見られます。生存した状態で生まれた子犬も、出生後間もなく亡くなってしまうことが多いです。母犬自体は元気で、他に臨床症状を示すことはほとんどありません。
男の子の犬では、精巣炎や精巣上体炎が見られます。陰嚢が腫れ、違和感から舐めることが原因で陰嚢周囲の皮膚炎を起こすこともあります。慢性化し不妊につながることもあります。
原因は?
ブルセラ・カニスは、感染している犬の尿や乳汁、死流産した胎児や排出物、精液などに含まれ、それらが感染源となります。汚染された水やフードを介した経口感染、目や鼻の粘膜を介した感染、エアロゾルを吸入することによる感染、交尾時の生殖器粘膜を介した感染などが主な感染経路となります。
かかりやすい犬種・特徴などはある?
特定の犬種がかかりやすいということはありません。男の子、女の子ともに感染する可能性があります。犬同士での感染力が強く、多頭飼育している環境や、多数の犬で繁殖を行っている施設などで集団発生が見られます。
治療法は?

治療は、抗生物質の投与を行います。ブルセラ菌は細胞内に寄生する細菌のため、多剤併用(数種類の抗生剤を同時に使用すること)かつ長期間の投与が必要です。それでも完全に菌を除去しきれないことが多く、再発も多く認められています。現在のところ100%有効な治療法は確立されていません。治療が終了した後も、長期にわたって定期的に経過観察と抗体価の測定を行い、再発の有無を調べる必要があります。
また、菌が増殖しやすい部位を除去し菌の拡散を防ぐ目的で、去勢避妊手術が勧められます。
ブルセラ症の治療は長期間にわたり、また治癒後も定期的な経過観察や検査が必要なため、適切な管理をしていくためには費用も高額になる可能性があります。繁殖を行わない場合、症状は大きな問題にならないこともありますが、犬同士の感染力が強く、きちんとした管理が必要なことや、人獣共通感染症であることも考慮し、どのような治療と管理を行っていくか、主治医の先生とよくご相談いただくとよいでしょう。
治療費は?どれくらい通院が必要?
『みんなのどうぶつ病気大百科』によると、犬のブルセラ症における1回あたりの治療費は5,517円程度、年間通院回数は1回程度です。
病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

人にも感染するの?
ブルセラ菌は人にも感染します。人の感染症法では4類感染症に指定されていて、家畜に見られるブルセラ菌と共に、ブルセラ・カニスもその原因菌に含まれています。ただ、家畜のブルセラ菌に比べて、ブルセラ・カニスの人に対する感染力、病原性は弱いことが知られています。
ブルセラ・カニスの人への感染は、感染した犬の尿や精液、死流産した胎児や排出物に接触したり、エアロゾルを吸入したりすることが原因となります。人から人へ感染することはないと言われています。症状は無症状か、軽い風邪のような症状(発熱、倦怠感など)が多く、感染しても気づかないことも多いと言われています。まれに、39度を超える発熱、肝臓や脾臓の腫大、関節痛や筋肉痛、肝機能障害など、他の家畜のブルセラ菌感染と同じような症状が見られることもあります。治療は、犬と同様に、抗生物質の多剤併用療法が行われます。
予防法は?
ブルセラ・カニスに対するワクチンは、現在のところ犬用、人用ともにありません。感染させないこと、感染を広げないことが重要です。繁殖目的で犬を迎え入れるときは、あらかじめ感染の有無を調べる検査をすることが勧められます。犬同士の感染力が強いので、多頭飼育をしていて、感染が認められた場合には、感染した犬の隔離が必要です。
妊娠中の犬が死流産した場合は、ブルセラ菌に感染している可能性があるので、獣医師の診察を受けましょう。胎児や排出物、尿などが、犬同士および人への感染源となりますので、取り扱いには十分な注意が必要です。手袋やマスクなどを装着し、汚染されている可能性のあるものには直接触れないようにしましょう。汚染されている可能性のあるものは、消毒剤(消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなど)で消毒しましょう。
まとめ

犬のブルセラ症は通常の生活の中で重大な症状を引き起こす病気ではありませんが、犬の繁殖を行うときには重要な病気となってきます。また、人獣共通感染症ですので、犬での感染が疑われる場合は十分に気をつけましょう。