猫は人間と同じ言葉を話しませんが、一緒に暮らしていると、その表情や仕草、行動などから気持ちが何となくわかることがありますよね。実は座り方も、その時の気持ちやリラックス度、体調を示す大切なサインのひとつです。この記事では、座り方のパターンから読み取れる猫の気持ちや、体調不良などの時に見られる気を付けた方がよい座り方についてご紹介します。

猫の座り方の種類とその気持ち

スフィンクス座り

足を前に突き出し、お腹を床につけて後ろ足を折りたたんだ座り方で、エジプトのスフィンクスの像を思わせるため「スフィンクス座り」と呼ばれています。この座り方は、犬の「フセ」にも似ています。
スフィンクス座りは、猫がリラックスしているときによく見られますが、その一方で、前足も後ろ足もいざという時にはすぐに立ち上がれる座り方です。つまり、身体や気持ちを休めながらも、わずかに緊張感や警戒心を保っている状態といえるでしょう。特に、香箱座り(後述)のように前足を折って座ることが苦手な猫は、この座り方で休むことが多いようです。

エジプト座り

前足を身体の前に揃え、身体をしっかりと起こした状態でお尻をつける座り方を、「エジプト座り」と呼びます。これは、エジプト神話に登場する猫の女神「バステト」に似ていることから名付けられたものです。これは、犬の「オスワリ」にも似た座り方です。
エジプト座りは、いざという時にすぐに腰を上げて逃げられる座り方で、猫が緊張感や警戒心を持っているときや、周りの状況を確認したり、次の行動を考えたりしているときに見られます。しかし、人によく慣れている猫では、警戒心からではなく、おねだりや要求があるときなどに、人を見上げてこの座り方をすることもよくあります。

しっぽ巻き座り

エジプト座りの姿勢で、しっぽを身体に巻き付けた座り方を「しっぽ巻き座り」と言います。これは、しっぽの先まで力が入っている状態で、エジプト座りよりもさらに緊張しているときや、危険を感じているとき、警戒しているときなどに見られる座り方です。また、しっぽが汚れたり濡れたりするのを防いだり、防寒の目的でしっぽを身体に巻き付ける猫もいると言われています。

横座り

寝転がったまま後ろ足を横に伸ばした座り方を「横座り」と言います。下半身の力を抜いた座り方で、リラックスしているときや眠いときなどに見られます。完全に横向きに寝転がって、前足も力を抜いて投げ出しているときは、かなり安心してリラックスしている状態で、そのまま眠ってしまうこともあります。一方、前足を床につけて後ろ足のみ投げ出しているときは、リラックスしつつもいざという時にはすぐ動けるようにして身体を休めている状態です。

スコ座り

お尻を床につけて後ろ足を前に投げ出し、お腹を見せて座る姿勢です。スコティッシュ・フォールドによく見られるためこの名前がつけられましたが、他の猫種でも見られます。「おじさん座り」とも呼ばれます。猫の急所であるお腹を見せ、さらに後ろ足を投げ出してすぐに動くことが難しいこの姿勢は、警戒心がなく、とてもリラックスしているときに見られます。また、お腹周りの毛づくろいをする際にこの姿勢をとる猫もいます。
一方で、関節や身体のどこかに痛みがあり、他の座り方ができないためにスコ座りをする場合もあります。特にスコティッシュ・フォールドは骨軟骨異形成症という遺伝性の病気によって、成長段階で関節軟骨や骨の構造に異常が生じ、関節部に瘤(骨瘤)ができたり、関節炎を起こしたりすることがあります。この病気は手先や足先に発症しやすく、その痛みを和らげるためにスコ座りをすることが多いと言われています。同じような遺伝的な軟骨形成の異常は、マンチカンやアメリカン・カールなどでも見られることがあります。

香箱座り

香箱とは、お香などを入れる蓋のついた四角い箱のことです。猫が前足と後ろ足を身体の下に入れて座る姿が上から見ると香箱に似ていることから、この座り方を「香箱座り」と呼んでいます。前足を折りたたんでいるため、急に立ち上がるのは難しく、基本的には猫がリラックスしているときや眠い時などに見られる姿勢です。香箱座りは、後ろ足の肉球が床についているので、いざという時には立ち上がって逃げることができるため、横座りやスコ座りに比べると、多少の緊張感を持ちつつも身体を休めたいときにする姿勢とも言われています。
香箱座りは体勢によっていくつかのパターンがあり、リラックスの度合いが異なるほか、リラックスしているときだけではなく、寒いときや体調が悪いときにも見られることがあります。

●前足を完全に隠した香箱座り
前足も後ろ足も完全に身体の下に折りたたんで見えない状態になっているときは、香箱座りの中でも最もリラックスした状態と言われています。猫が心から安心した環境にいると考えてよいでしょう。ただし、寒いときに冷えやすい前足をしまってなるべく体温を逃がさないためや、体調が悪いときに痛みを和らげたり、腹部を保護する目的でこの座り方をしていることもあります。

●前足や後ろ足が少しだけ見えている香箱座り
前足をクロスさせたり、身体から前足や後ろ足が少しだけはみ出ている香箱座りをする猫もいます。力を抜いた状態で無造作に出ているときは、かなりリラックスしている状態と考えてよいでしょう。猫の体型によっては、きちんと足をしまいきれないためにはみ出してしまうこともあります。また、関節等に痛みがあってそのような座り方になることもあります。歩き方がおかしくないか、触って痛がらないかなどチェックしてあげましょう。

●前足の肉球を床につけている香箱座り
片方の前足は折りたたみ、もう片方の前足の肉球をしっかり床につけた状態で香箱座りをしているときは、若干緊張感が高めです。リラックスしつつも周りの状況を観察し、いつでも立ち上がって動ける準備をしている可能性があります。

愛猫の座り方がおかしいとき、病気の可能性も!

ここまでにあげたような座り方は猫によく見られるものですが、いつもと違う座り方をしていたり、ずっと同じ座り方をしたまま動かないような場合、何らかの病気やケガ、体調不良が関係しているかもしれません。痛いところを庇って不自然な座り方をしていたり、具合が悪いために動きたがらない、ということも考えられます。

こんな座り方をしているときは注意が必要!

●ずっと香箱座りで動かない
香箱座りはリラックスできる座り方で、お腹を隠して丸くなる姿勢のため、痛みがあるときや体調が悪いときに、痛みを和らげたり、急所であるお腹を保護している可能性があると言われています。猫が香箱座りをしたままずっと動かないときは体調不良の可能性があります。他に気になる様子がないかよく見てあげましょう。

●いつもくつろいでいるところと違う場所に座っている
猫は体調が悪いときや痛みがあるとき、人目につかない静かな場所で休むことを好みます。人に触られたりかまわれることを嫌がって、人の入れないところに隠れたり、いつもと違う場所で休むことがあります。

●壁の方を向いて座っている
元気な猫は周りの環境に対して興味関心を示しますが、具合が悪かったり強い痛みがあったりすると、周りの環境に対する関心がなくなり、壁の方を向いて座ったり、暗いところや狭いところに潜り込んだりすることがあります。

●うずくまったまま
具合が悪いときや痛みが強いとき、四肢を床につけて背中を丸め、うずくまった姿勢のまま動かなくなることがあります。痛みや苦しさ等があっていつもの座り方ができない、という理由の他、具合が悪い中でもいざという時にすぐに動けるような姿勢を取っている、とも考えられています。

●犬座姿勢
心臓や呼吸器系に問題があって呼吸が苦しいときは、横になって眠ることができず、犬のオスワリのように座ったまま、前足を広げて胸腔を広げるような姿勢でじっとしていることがあります。呼吸数が多い、体全体で呼吸をしている、口を開けて呼吸している、というような場合は緊急事態です。すぐに受診しましょう。

●トイレで座ったまま
尿路結石があっておしっこが出づらい、膀胱炎で残尿感がある、などの理由で、トイレで座ったまま動かなくなる猫もいます。特に尿路に結石が詰まって尿が出なくなる(尿閉)のは、命に関わる危険な状態です。何度も排尿姿勢をとる、尿がほとんど出ていない、尿に血液が混ざっている、お腹を触ると痛がる、などの様子が見られるときはすぐに受診しましょう。特に体調に問題がなくても、猫砂の感触が好き、冷たいところで眠りたい、などの理由からトイレで座り続ける猫も中にはいるようです。

●ずっと同じ方向に頭を傾けている
猫が目の前の何かをじっと集中して見つめていたり、首をかしげて座っていることがあります。一時的に傾いていても、すぐに元に戻って普通に歩ける場合は問題ありません。ずっと一方向に頭が傾いたまま座っている、まっすぐ歩けない、目が小刻みに動いている(眼振)などの症状がある場合は、耳の中の異常(外耳炎、中耳炎、内耳炎など)や、身体の平衡感覚を保つ働きをする前庭器官の異常、脳神経系の異常などが考えられます。

●お尻を床にこすりつける
肛門腺がたまっていたり、肛門嚢炎を起こして肛門に違和感や痒み、痛みなどを感じている猫は、お尻を床にこすりつけたような姿勢をとることがあります。そのままずりずりと移動したり、肛門を気にして頻繁に舐めるような仕草が見られることもあります。ひどくなると肛門嚢が化膿し破裂してしまうこともあるので、そのような仕草が見られたら早めに受診しましょう。

座り方がおかしいときに疑われる病気

猫の座り方に影響することが多い症状と、疑われる代表的な病気には次のようなものがあります。

呼吸が苦しい ウイルス性呼吸器感染症 心筋症 喘息 膿胸 横隔膜ヘルニア など
吐き気がある 肝臓病 腎臓病 糖尿病 膵炎 胃腸炎 異物誤飲 中毒 など
お腹が痛い 膵炎 胃腸炎 異物誤飲 内臓腫瘍 巨大結腸症 尿石症 膀胱炎 など
背骨や腰が痛い 椎間板ヘルニア 変形性脊椎症 など
関節が痛い 骨軟骨異形成症 変形性関節症 骨折 脱臼 など
姿勢が保てない 前庭疾患 脳炎 脳腫瘍 など

このように、座り方がおかしいときに疑われる病気は、内臓疾患、感染症、神経系・筋骨格系の疾患、外傷など、多岐にわたります。原因を早く見つけてあげるためには、座り方の変化以外の症状も手掛かりとなります。歩き方や動き方に問題はないか、身体を触って痛がるところはないか、元気や食欲はあるか、呼吸が早かったり苦しそうな様子はないか、排便排尿に問題はないかなどをよく観察し、いつもと違う様子があれば、動物病院を受診しましょう。

まとめ

猫の座り方や姿勢から読み取れる気持ちや体調についてまとめました。人間と同じ言葉をしゃべらない猫でも、体でいろいろと表現していることがあります。愛猫の様子を日頃からよく観察して、どんな気持ちでいるのか、体調に問題がないか、気付いてあげられるようになるとよいですね。

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監修獣医師

岸田絵里子

岸田絵里子

2000年北海道大学獣医学部卒。卒業後、札幌と千葉の動物病院で小動物臨床に携わり、2011年よりアニコムの電話健康相談業務、「どうぶつ病気大百科」の原稿執筆を担当してきました。電話相談でたくさんの飼い主さんとお話させていただく中で、病気を予防すること、治すこと、だけではなく、「病気と上手につきあっていくこと」の大切さを実感しました。病気を抱えるペットをケアする飼い主さんの心の支えになれる獣医師を目指して日々勉強中です。