あごを掻く猫

猫のアレルギー性皮膚炎って、どんな病気?

アレルギーは、何らかの刺激に対して、身体が過剰に反応することを指します。アレルギー性皮膚炎は、その過剰反応が、皮膚に強く現れ、かゆみや炎症が引き起こされる病気です。根本的な原因は体質によるものであり、遺伝的な素因があります。そのため、身体の反応を正常に戻すような治療は難しく、またワクチンのような、病気にかかるのを防ぐ方法も、残念ながらありません。いかに上手に刺激のもととなるものを遠ざけ、それでも症状が残る場合は、薬等でかゆみをコントロールしてあげられるか、が重要になります。

猫がアレルギー性皮膚炎になる原因は?

主な原因として考えられるのは3つ 刺激となる主な原因は、以下の3つと考えられています。

①食物性アレルギー

食物中の成分が刺激となり、症状が現れます。季節に関係なく、一年中かゆみが出ることと、猫では2歳未満の、若い年齢で最初に症状が出ることが多いです。原因となる食べ物としては、牛肉がトップにあげられ、次いで乳製品・魚・鶏肉・トウモロコシなどが並びます。これらの食べ物は、ドライフードの成分として多く使われているため、食物アレルギーが疑われる場合は、これらを除外した食事を探すこと(除去食試験)が診断かつ治療になります。顔面や耳、足先や肛門周囲にかゆみや皮膚症状が出やすいです。目立った皮膚表面の変化はなくても、皮膚バリアの低下により、外耳炎や皮膚の細菌感染(膿皮症)を繰り返すこともあります。また、場合によっては下痢などの消化器症状を伴うこともあります。

②ノミアレルギー

ノミが吸血するさいに付着する、ノミの唾液が刺激となり、症状が現れます。ノミ本体を見つけられないくらい少数の寄生でも、発症します。ノミが活発に活動する夏~晩秋にかけて、急にかゆがるようになった場合は要注意です。腰や後ろ足を中心に、ぽつぽつと赤い湿疹が広がり、かゆみのため掻き壊した傷や脱毛が認められます。ひどい場合には、肉芽といって、硬くしこりのような状態になることもあります。ノミの唾液がアレルギーの引き金となるため、過去にノミに刺されたことがある猫の方が、発症しやすくなります。そのため、若い猫より、中~高齢の猫で起こりやすいアレルギーです。

③アトピー性皮膚炎

猫では、正確にはアトピー性皮膚炎という診断は下されず、食事の変更やノミの対策をしても、アレルギー症状が治まらない場合の皮膚炎を指します。多くは、ハウスダスト(ダニ)やカビ、花粉などの環境からの刺激が原因になります。このため、症状は季節によって変化し、原因となる物質が増える時期にかゆみなどの症状が強くでます。

3歳以下の若い年齢で初めて症状が出ることが多いです。皮膚のバリア機能が低下していて、環境からの刺激が容易に体内に入り込んでしまうことが原因になります。そのため、シャンプーや保湿剤を使った身体の手入れも重要になります。アトピー性皮膚炎は、原因となる物質を特定すること、環境から排除することが難しいため、特に根本的な治療が難しく、服薬などによるかゆみのコントロールを、長期的に行うことが必要になります。

どんな症状になる?

どのような原因でも、ぽつぽつとした赤い湿疹(粟粒性皮膚炎)が初期に出ることが多いです。かゆみを伴うため、なめすぎて傷になったり、脱毛を伴うこともあります。特に猫は、舌がザラザラと櫛状になっているため、なめることで皮膚が傷つき、より炎症が進む原因となるため、なめないようにさせることは必須になります。炎症が進むということは、単に皮膚炎の範囲が広がるということだけでなく、皮膚の奥まで傷つき、皮膚が硬くなる肉芽の状態になります。肉芽の状態になると治療も長引くため、猫自身へのストレスも多くなり、より治りにくくなる悪循環に陥ってしまいます。


食物アレルギーやアトピー性皮膚炎では、顔や口・肛門周囲・足先などで皮膚炎やかゆみが出やすく、左右対称に症状が出ることが多いです。

治療法は?治療費は?


皮膚炎の原因を取り除くことが、第一の治療になります。またどの場合でも、なめることが症状を進行させるため、なめないように、エリザベスカラーの着用が必要です。猫は、飼い主さんに隠れてなめることもあるので、エリザベスカラーは、基本的には自宅では外さないようにしましょう。

エリザベスカラーをしている猫

①食物性アレルギー

原因と思われる食べ物を見つけ出し、取り除く検査を行います(除去食試験)。前述のように、アレルギーを引き起こしやすい食べ物はいくつか存在します。今まで食べてきたフードなどと異なる食べ物を選んで、かゆみが出ないか試していきます。身体に合う食べ物が見つかると、比較的症状は出にくく、管理は難しくありません。ただし、食事が合うか否かの反応を見るには、最低でも6週間は同じ食事を続ける必要があります。また、血液の検査は3万円前後と高額になります。

②ノミアレルギー

ノミの駆除が主な治療です。前述のように、少数の寄生でも症状が出るため、ノミ本体を見つけられなくても、ノミアレルギーが疑わしい場合は、駆除薬を使用しましょう。かゆみが強い場合は、短期間でステロイドが使用されることが多いです。ノミ駆除薬は、単剤のもので2千円前後、マダニやお腹の寄生虫を駆除できる複合剤のものでも3千円前後になります。

③アトピー性皮膚炎

原因と思われる環境からの刺激を見つけ出し、なるべく刺激にさらされない環境を整えてあげることが治療になります。原因を調べるには、除去食試験をして症状が鎮静化するのを確認して、原因を特定します。投薬でのかゆみのコントロールが必要なことが多いため、ステロイドが使用されることがほとんどです。ただし、副作用が出やすいため、服用が長期間にわたる場合は、免疫抑制剤や抗ヒスタミン剤が使用されます。ただし、犬と比べて猫では効果が弱いという報告もあります。また、根本的な治療としては減感作療法がありますが、治療法が複雑なため、行うことができる病院が限られます。

【関連サイト】
アレルギー性皮膚炎 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科

猫がアレルギー性皮膚炎になりやすい環境は?予防法と合わせてご紹介

食物性アレルギー以外は、環境からの刺激でアレルギーが引き起こされます。したがって、刺激を減らすことを心がけましょう。まずは、ノミの駆除および予防を行うようにしてください。ノミはノミアレルギーを引き起こすほかに、食物性アレルギーやアトピー性皮膚炎においても、症状の悪化の要因になります。たとえ完全室内飼いでも、ノミの予防薬の使用は必要です。なぜなら、家の敷地に出入りする野良猫が、ノミの卵を玄関や庭先など、ペットの行動範囲に持ち込んだり、飼い主さんのズボンのすそに、たまたま飛びついていたノミが家の中に持ち込まれ、ペットに寄生することがあるからです。また、ノミは一度家に持ち込まれると、卵やさなぎがカーペットやクッションに入り込み、忘れたころに再度大繁殖する、ということがままあります。ペットにノミの寄生が見られた場合は、室内の徹底的な掃除を行ってください。

首もとを掻いている猫

次に、アトピー性皮膚炎はハウスダストやカビ・花粉が原因となるため、こまめな掃除と、換気を心がけてください。エアコンのフィルターも忘れずに掃除してください。空気清浄機の使用も効果的です。湿度が高いと、皮膚表面の雑菌なども繁殖しやすくなるため、換気は皮膚炎の悪化の予防にもなります。
最後に、猫は、完全室内飼いを徹底してください。それだけでも、刺激から守ってあげることができます。

まとめ

アレルギー性皮膚炎は、刺激に対して身体が過剰に反応して、皮膚の炎症やかゆみが引き起こされる病気です。原因は主に食事・ノミ・環境の3つで、それぞれの原因になる刺激を取り除いてあげることが、治療および症状を悪化させないことにつながります。どの原因でも、飼い主さんによる環境の管理が大事になります。まずはノミの予防を心がけ、そして室内飼いを徹底するようにしましょう。

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病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。

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監修獣医師

箱崎加奈子

箱崎加奈子

アニマルクリニックまりも病院長。ピリカメディカルグループ企画開発部執行役員。(一社)女性獣医師ネットワーク代表理事。 18歳でトリマーとなり、以来ずっとペットの仕事をしています。 ペットとその家族のサポートをしたい、的確なアドバイスをしたいという思いから、トリマーとして働きながら獣医師、ドッグトレーナーになりました。 病気の予防、未病ケアに力を入れ、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護師、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療の提案をしています。