緑内障は、視力喪失を起こすことの多い眼科疾患です。猫でも緑内障が見られることがあります。眼の赤みや目やになどの非特異的な症状もでますが、とくに瞳孔(黒目)の大きさが左右で違うときは注意が必要です。
猫の緑内障ってどんな病気?
緑内障は、眼圧が異常に上昇して強い痛みや視覚喪失を起こす病気です。
白内障と類似した病名ですが、緑内障と白内障は病気のしくみも症状もまったく異なる病気です。
白内障とはどう違う?
白内障は、眼球内のレンズである水晶体が変性して白くなる病気です。ゆで卵の白身が透明から白色に変化するのと同様に、たんぱく質に不可逆的な(元に戻らない)変性が起こって発症します。
水晶体の置換手術などを行えば視力回復が期待できるケースもあります。
ちなみに重度の白内障が進行すると、本来の位置からずれる「水晶体脱臼」を起こすことがあり、それに続いて緑内障を発症することがあります。
一方の緑内障は、眼球内の「眼房水」と呼ばれる液体の流れが何らかの要因で阻害され、眼球内の圧力が高まる病気です。視神経が圧迫されて、強い痛みや視野の狭窄、視覚喪失が起こります。
一度失われた視力は元に戻すことはできず、視覚喪失後の手術は痛みからの解放を目的とした眼球摘出や義眼の挿入となります。
緑内障は突然の発症や急激な進行を起こすことがあり、早急に治療が必要です。
猫の緑内障の原因は?
猫の緑内障はほとんどの場合、他の眼科疾患がきっかけとなって発症します。具体的には、
・ぶどう膜炎
・水晶体脱臼
・眼の内部の腫瘍(虹彩メラノーマなど)
・前房出血
などがあります。とくに猫では、慢性的なぶどう膜炎が緑内障に関連していることが多いです。
この他、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症といった眼以外の疾患をきっかけとして、全身性高血圧による眼内出血やぶどう膜炎から二次性の緑内障に移行してしまうこともあります。
眼球の内部は、眼房水という液体で満たされています。健康な眼球では、眼房水の産生量と流出量のバランスが保たれ、眼圧はおおよそ10~25mmHg程度(※)となっています。
しかし、眼の内部の炎症や腫瘍、脱臼した水晶体などで房水の流れが妨げられると、眼房水の量が過剰となり、眼圧上昇を引き起こします。猫の緑内障では30mmHg以上の眼圧が観察されることが多いです。40mmHgを超えるような高い眼圧が1~2週間続くと、視神経や網膜が障害され、失明すると考えられています。
(※正常な眼圧値は、検査機器によって基準が異なります。また、実際の測定値は検査時の保定状況などの影響も受けるため、無症状の眼の眼圧と比較して診断することもあります。)
きっかけとなる眼科疾患が、片目だけに発生する場合や左右で症状の程度が違う事例が多いことから、猫の緑内障は片目だけに症状が出る片側性が多いです。しかし、病状によっては両目同時に緑内障が発生することもあります。
また、猫ではまれですが、きっかけとなる眼科疾患がなく両側に発生する「原発性緑内障」や、生まれつきの障害として起こる「先天性緑内障」もあります。
猫の緑内障の症状は?
初期症状
緑内障の初期症状は非特異的なものが多く、ほかの眼の病気でも見られるような症状が生じます。
・眼を痛そうにする(まぶたのけいれん、まばたきを繰り返す、目をこする、目が半開き)
・結膜が充血して、白目が赤く見える
・目やにが増える
・眼の表面が濁って見える(角膜浮腫)
これらの症状は、結膜炎や角膜の傷などでも見られることがあります。
また、眼圧上昇によって、
・強い痛み(顔を触らせない、怒る、暴れる、元気や食欲がなくなる)
・瞳孔が散大する(黒目が大きく広がる)※
という症状もあります。こちらは、緑内障の疑いが強いサインです。
※瞳孔散大について
瞳孔は、光が入る量を調節する絞りの役目を担っています。健康な猫では、瞳孔の大きさは左右均等で、明暗に応じて大きさが調節されます。興奮時には交感神経の働きで、明るい場所でも瞳孔が開きます。
しかし、安静時の明るい場所でも瞳孔が開いたままになっていたり、左右で瞳孔の大きさが違ったりするときは、病的な瞳孔散大が疑われます。
両目に同時に病的な瞳孔散大が見られる疾患もありますし、片目の瞳孔が開けなくなるパターンの眼科疾患もありますが、猫の緑内障ではほかの眼科疾患から続発して起こる片側性のものが多いので、「片方の目の瞳孔がいつも大きい」「左右で瞳孔の大きさが違う」という症状が多いです。
緑内障が進行すると…?
眼圧の異常高値が続くと、数日~数週間以内に視力を喪失するおそれがあります。視神経や網膜が障害されるため、一度失われた視力の回復は望めないのが現状です。
慢性的に眼圧が上がることで、眼球全体が拡張して突出したり、角膜が透明性を失ったりすることがあります。また、白内障や水晶体の脱臼などを起こすこともあります。
どんな治療をする?治療費は?
視力の維持にも疼痛の緩和にも、眼圧を適切な範囲まで下げることが最重要となります。点眼薬が中心ですが、眼科の高度な外科手術が行われることもあります。
さまざまな治療を行っても眼圧が下がらず、視覚を喪失し、痛みがコントロールできない場合は、眼球摘出で痛みからの解放を行います。
点眼
点眼薬を使用します。眼圧を下げる効果のある成分には、しくみが違う薬剤が複数あるので、眼の状況(水晶体脱臼やぶどう膜炎の有無など)にあわせて適切な点眼薬を選択します。
視力が残っている急性期では速やかに眼圧を下げる必要があるため、頻回点眼が行われることがあります。10~30分おきの確実な頻回点眼や眼圧モニタリングなどを目的に、入院することもあります。
視力がすでに失われている場合は、緑内障の治療目的は痛みを抑える緩和ケアが中心となります。この場合も眼圧を下げる点眼薬を使用します。
眼圧を下げる点眼薬には、下記のようなものがあります。
・炭酸脱水酵素阻害剤(例:ドルゾラミドなど)
・プロスタグランジン関連薬(例:ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストンなど)
・交感神経β遮断薬(例:チモロールマレイン酸塩など)
・副交感神経刺激薬(例:ピロカルピンなど)
眼房水の流出を促したり産生量を抑えたりすることで、眼圧が下がります。併用することで効き目が増す組み合わせもあります。
上記のような眼圧下降の点眼のほかに、抗炎症薬の点眼や角膜保護剤を併用する場合もあり、3~4種類以上の点眼薬が必要になることもあります。
正常な眼圧まで下がった後や急性期を脱した後も、継続的に毎日の点眼治療が必要になることが多いです。
外科的な治療法
視力が残っているものの、点眼などの内科治療だけでは眼圧が正常まで下がらない場合、レーザー等を使用した眼内手術が適応となる場合があります。しかし、どうぶつの眼科手術には専門機器や高度な技術が必要なため、対応できる動物病院は限られます。外科治療を希望する場合は、治療中の動物病院に相談し、必要に応じ専門的な病院の紹介を受けましょう。
外科手術を行っても点眼不要になるわけではないので、術後も内科治療の継続が必要です。
完全に失明し、点眼しても疼痛が抑えきれない場合は、眼球摘出も治療法のひとつになります。猫は痛みで食欲不振や活動性の低下を起こすことも多く、生活の質が大きく低下します。眼球摘出によって痛みから解放されますし、毎日の点眼も不要になります。眼瞼縫合を行えば、特別なケアもいりません。
ただ、顔つきが大きく変わりますので、美容的な観点から義眼を挿入する方法もあります。強膜内への挿入術では、眼球の内容物を除去した後、眼内にシリコンボールを挿入します。水まんじゅうのあんこを取り除いて、中にボールを埋め込むような手術です。眼の構造の内部に埋め込まれるので、眼窩から飛び出す心配はありません。
治療費は?
通院治療の場合は、眼科検査、眼圧測定、点眼の処方料が主な費用になります。
1回の通院当たりの治療費は平均すると7,600円程度というデータがありますが、治療を開始したばかりの時期は必要な検査も多く、目薬の種類も量も多いので、平均よりも高額になると考えられます。
また、自宅で点眼できない場合や頻回点眼が必要なときは、入院費も必要となります。
外科的治療を行う場合、手術費は高額になると見込まれます。とくに、視力が残っている場合で行う緑内障の手術は非常に緻密で専門的な設備も必要になるため、十万円単位での治療費がかかることも考えられます。
手術を希望される場合は、あらかじめ費用についても確認しておくとよいでしょう。
【関連サイト】
緑内障 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科
猫の緑内障は完治する?
緑内障の原因にもよりますが、一度発症した緑内障の完治は困難なことが多いです。
視力を維持したまま治療不要の状態に落ち着くことは難しく、眼圧降下剤や抗炎症剤などの点眼を続ける場合もあります。
残念ながら緑内障では視力を失うことも多いので、痛みを和らげることが治療のゴールとなる場合もあります。現実的な着地点としては、点眼で眼圧が正常範囲内に下がって痛みがおさまるか、眼球摘出等で痛みから解放されるかのどちらかになるでしょう。
予防方法はある?
確実な緑内障の予防は難しいですが、関連する眼科疾患を早期に治療することで、継発リスクを減らせます。継発性緑内障は、水晶体脱臼やぶどう膜炎などが原因で発症することがあります。
水晶体脱臼は症状が進み過ぎた白内障があると起こりやすいです。進行した白内障や、水晶体の脱臼がある場合は、水晶体の外科的な除去も推奨されます。眼の赤みや痛みなどの症状があれば早めに通院し、適切な治療を受けましょう。
緑内障による失明を防ぐためには、発症当日から遅くとも翌日までに眼圧を下げるのが望ましいです。眼に変わった様子があれば、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。初期の点眼治療であれば眼科専門ではないホームドクターでも対応可能なことがほとんどです。まずは早急な受診を優先するとよいでしょう。
点眼のコツは?
目薬を持った手を猫の顔や頭に添えるようにすると逃げられにくいです。猫が顔を動かしたときに同時に手も動くので、照準がぶれにくくなります。エリザベスカラーをつけ、カラーのふちに手が触れるような持ち方もいいでしょう。
緑内障治療の点眼は毎日複数回、長期におよぶことが多いですから、目薬を嫌いにならないのが望ましいです。真正面から点眼しようとすると怖がったり嫌がることが多いので、横あるいは後ろから点眼するようにすると良いでしょう。また、強い力で押さえつけたり叱りながら点眼すると嫌なものだと学習してしまい、目薬を準備した気配で逃げて隠れてしまうことも考えられます。
ペーストタイプのおやつを舐めさせている間に横や後ろから点眼する、膝にのせて頭を撫でながら点眼するなど、ごほうびとセットでしてあげるといいでしょう。
まとめ
緑内障の症状はほかの眼科疾患と共通しているものが多く、赤みやしょぼつき、目やになどが見られることがあります。早急な治療を行わなければ失明することもあるため、眼に何らかの症状が出た場合はすぐに通院するのがおすすめです。
また、もうすでに眼科トラブルが出ている場合は緑内障などほかの眼科疾患を継発することもありますから、慢性的な場合でも治療をあきらめず、継続してケアを行いましょう。
病気になる前に…
病気はいつわが子の身にふりかかるかわかりません。万が一、病気になってしまっても、納得のいく治療をしてあげるために、ペット保険への加入を検討してみるのもよいかもしれません。
