こちらを見つめる猫

猫のトキソプラズマ症は猫がトキソプラズマと呼ばれる病原体に感染して発症する病気です。猫だけでなく私たちヒトにも発症する恐れがあります。猫のトキソプラズマ症とはいったい何なのか、またどのようなことに注意すればよいのかなどについて説明します。

猫のトキソプラズマ症とは

トキソプラズマという原虫に感染することによって生じる感染症です。原虫とは虫という字があてられているものの、皆さんが想像するような節足動物やミミズのような虫とは大きく異なります。原虫は基本的に単細胞生物であり、その中でも他の生物に寄生するものを指します。この原虫が猫に寄生することによって、ある程度の条件が揃うと発症することがあります。詳細は後程説明しますが、トキソプラズマが猫に感染したら必ずトキソプラズマ症の症状を示すわけではありません。

また、このトキソプラズマ症を語るうえで非常に重要となるのは、ヒトへの影響です。トキソプラズマは猫にだけ感染するのではなく、ヒトにも感染することが知られているズーノーシス(人畜共通感染症)です。このトキソプラズマがとりわけ注目されるのはヒトでは免疫疾患等によって自己の免疫力が低下した場合に発症することや、妊娠中の女性が感染すると胎児移行し、流産や生まれた子供に視力障害あるいは脳性麻痺といった重大な神経の症状を起こす点です。そのため、妊娠時検診ではトキソプラズマの抗体価が測定項目に含まれています。

このように、どちらかというと人への影響がクローズアップされがちなトキソプラズマ症ですが、ヒトが感染する経路として考えられるものが二つあります。①猫の糞便から排泄されたトキソプラズマの「オーシスト」と呼ばれるものを口から体内に取り込んでしまう場合、②食肉を生で食べた際にその中にトキソプラズマ原虫が存在していることで感染する場合です。ヒトがトキソプラズマに感染する可能性が高いのは、圧倒的に後者ですが、これまで猫と生活していた方は多少なりとも心配になることがあるかもしれません。それでは、猫におけるトキソプラズマ症の原因や治療などについて詳しく説明していきます。

猫のトキソプラズマ症の原因は?

猫トキソプラズマ症の原因となる病原体は、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)と呼ばれるものです。トキソプラズマ原虫は猫に寄生した際にオーシストと呼ばれる形態となり糞便中に排泄されます。体外に排泄されたオーシストは、外部の環境に耐えうるだけの強い抵抗性を持っています。石けんやそのほかの消毒薬にも耐え、また長期間感染性を保つことが知られています。トキソプラズには熱湯による消毒が行われ、80℃のお湯であれば1分、60℃の際は30分でオーシストは死滅します。

猫以外の動物に寄生した場合にはオーシストに至ることなく筋肉中に「シスト」と呼ばれる状態で存在することとなります。猫がトキソプラズマに感染する機会は大きく2つあり、ネズミや十分に加熱処理されていない生肉の摂取と、猫の糞便から排泄されたオーシストを口から体内に取り込んでしまうことによって成立します。

猫のトキソプラズマ症の症状・治療法は?

ヨコ歩きをしている猫

猫のトキソプラズマ症は、感染した猫の年齢や体力、免疫状態によって症状の程度が異なります。また、猫がトキソプラズマ症と判断された際に行う治療について解説します。

症状

猫のトキソプラズマ症の厄介なところは、多くの猫では感染していても明らかな体調不良を表さない点にあります。つまり見た目上、健康な猫と何ら変わらないということです。ただし、感染初期あるいは免疫力が低下しているような状態では症状が現れることがあります。

まず、初感染時、一度に大量のトキソプラズマが体内に侵入すると「腸管外トキソプラズマ症」と呼ばれる急性症状を生じることがあります。影響が出やすい部位は、神経組織や肝臓、肺です。脳炎や肝臓の腫大、肺炎、リンパ節炎などがみられます。子猫ではその影響が特に強く、トキソプラズマ症によって死に至ることもあります。また、成猫で他の基礎疾患や免疫機能が低下するような状態となっている場合、眼にブドウ膜炎を生じるほか、てんかんのような神経発作、嘔吐や下痢、体重減少、運動機能低下などが見られます。とはいえ、これらの症状はトキソプラズマ症特有のものではないため、鑑別が必要となります。

診断と検査

このようにほぼ無症状、症状が出ていても他の病気や感染症と鑑別がつきにくいため、診断をするためには検査が必要です。

猫では抗体価を測定することで感染の有無を確認する方法がとられています。抗体価とは、トキソプラズマに感染することで猫自身が獲得した抗体がどの程度あるのかを測定する方法です。一般に、ペア血清と呼ばれる抗体価を2回測定する方法が用いられています。検査の間隔をおよそ2週間程度開け、その前後で抗体価がどのように変化したかを調べます。

猫の場合、トキソプラズマのオーシストを排泄するのは最初に感染したときからおよそ10日くらいまでで、それ以降はあまり排泄されないという特徴があります。抗体価が陰性であればこれまでにトキソプラズマに感染していないということになります。2回とも抗体価が高い場合は、すでにトキソプラズマに感染していて、直近で糞便からオーシストが排泄されない可能性が高い、つまりこの猫の糞便をもとにして新たな個体への感染リスクは低いという判断になります。問題となるのが、1回目の抗体価が低く、2回目の抗体価が上昇した場合です。この場合、トキソプラズマに初感染した可能性が高いと考えられ、糞便中からオーシストを排泄する可能性があります。

このように抗体価の推移で糞便からオーシストが排泄されるリスクを想定することで、他の動物あるいはヒトへの影響が及ばないように注意をする必要があるのです。また、PCR検査でトキソプラズマの遺伝子を検出する方法や病理検査で組織中のトキソプラズマを検出することもあります。

治療法

猫のトキソプラズマ症に対する治療として、抗原虫薬や抗生物質を使用します。クリンダマイシンやアジスロマイシン、サルファ剤などがよく用いられます。また、症状や重症度に合わせていわゆる対症療法も並行して行われます。特に子猫のトキソプラズマ症は致死率が高くなりますので、迅速に治療を行う必要があります。

猫のトキソプラズマ症の治療費は?

獣医師に抱かれている猫

猫がトキソプラズマに感染しても実際に発症することは稀です。ただ、トキソプラズマに感染した初期、あるいは猫の免疫力が低下している場合では目に見える形で不調が現れることがあります。検査等によって感染状態が持続しているような場合であればそれに対応した治療を行いますが、症状に対するケア(対症療法)も同時に行います。症状の重症度に合わせて治療期間は左右されますが、長期にわたって治療を行う必要性が生じることは少なく、平均的に通院回数は1回から数回となり、外科手術や長期入院が必要でないため治療にかかる費用は1回につき5,000円~10,000円程度となる傾向にあります。

【関連サイト】
人獣共通感染症(ズーノーシス)|トキソプラズマ症の原因や症状、予防まで解説!

トキソプラズマ症の予防法はある?

猫のトキソプラズマ症は、猫白血病ウイルス感染症や猫カリシウイルス感染症のようにワクチン接種による予防が行われるものではありません。そのため確実な予防方法は、トキソプラズマが体内へ侵入しなにようにすることに尽きます。先ほど説明した通り、トキソプラズマに感染する手段で最も注意が必要となるのが、猫の糞便中に含まれるトキソプラズマのオーシストを摂取しないこと、それから十分に火の通っていない生肉を与えないようにすることです。

猫の場合、免疫力が低下している状態でなければ、その多くが無症状となるため、普段の様子や行動などから猫がトキソプラズマに感染しているかどうかを判断することは極めて困難といえます。そのため、多頭飼育の場合はとりわけ糞便の適切な処理が大切な感染予防となりうるのです。また、例えばトキソプラズマに感染したネズミのような野生動物を食べたりすると、猫に感染することにつながります。そのため、猫を室内で飼育することは感染を予防する手段となります。

まとめ

猫トキソプラズマ症の原因となるトキソプラズマは、猫に甚大な症状を出すことは少ないです。基礎疾患があり、猫自身の免疫力が著しく低下しているような場合に、急性あるいは慢性的に症状を表します。猫の糞便から感染力のあるオーシストと呼ばれる状態で体外に排出されるため、その期間に猫やヒトなど、他の動物が口から体内に取り込んでしまうことで感染してしまいます。

ヒトへのトキソプラズマの感染ルートのひとつとして猫挙げられることが多いのですが、実際は生肉(特に豚肉)を十分に加熱していない状態で摂取するルートの方が圧倒的にリスクが高いことが知られています。猫やヒトへの感染を予防するためには、まず猫のトイレは清潔にして適切に処理することと、豚肉の生食や屋外の動物の捕食を避けることが予防となります。妊娠中の女性が初感染すると胎盤を通じて感染が胎児に移行することが問題となっています。妊婦さんにもリスクがあるものの、より影響が生じやすいのはお腹の中の胎児となります。不安がある場合は、妊娠時検診でトキソプラズマの抗体価を測定することで感染の可能性を推定することができるので、詳細は産婦人科医に相談してみましょう。

猫では、トキソプラズマに感染していてもほぼ無症状であることが多いので、見た目で判断することが難しいのが特徴です。極度に恐れる必要はないものの、トキソプラズマの感染リスク軽減として、食事管理や室内飼育を行うことも重要な予防方法といえるでしょう。

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監修獣医師

増田国充

増田国充

北里大学を卒業し、2001年に獣医師免許取得。愛知県、静岡県内の動物病院勤務を経て、2007年にますだ動物クリニック開業。現在は、コンパニオンアニマルの診療に加え、鍼灸をはじめとした東洋医療科を重点的に行う。専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、国際中獣医学院日本校事務局長、日本ペット中医学研究会学術委員、日本ペットマッサージ協会理事など。趣味は旅行、目標は気象予報ができる獣医師。