猫ちゃんがトイレに入ってからなかなか出てこない、そしてそのトイレをチェックしてみたらいつもよりおしっこの量が少なかった……そんな経験はありませんか? これは膀胱炎のサインかもしれません。実は、猫にとって膀胱炎は決して珍しい病気ではなく、さまざまな原因でかかってしまうことがあります。今回は、この膀胱炎の原因と治療について見ていきましょう。
「膀胱炎」ってどんな病気? 原因は?
「膀胱」は、腎臓で作られた尿を一時的に貯めておく場所です。貯めている尿の量によって、伸び縮みします。一定の尿が貯まって膀胱が拡張したときに、尿意を感じて排尿します。このように膀胱自体が大きさを変化させて、絶えず排尿をコントロールしています。膀胱炎とは、さまざまな原因によって、膀胱自体に炎症を起こす病気です。では、どのような原因が考えられるでしょうか。
細菌性
本来、膀胱内に細菌は存在していません。そこに細菌が侵入してしまうことによって起こるのが「細菌性膀胱炎」です。細菌は、その多くが尿道口から尿道を通じて膀胱に到達します。細菌が膀胱内で増殖することによって、膀胱粘膜を刺激し細胞にダメージを与えます。膀胱粘膜にダメージが加わると、出血が見られることがあります。
また、「ウレアーゼ産生菌」と呼ばれる細菌が増殖すると、尿中にある尿素を原材料として二酸化炭素とアンモニアを作り出します。これにより、尿のpHが高くなる、つまりアルカリ性の尿になっていきます。この状態になると、リン酸アンモニウムマグネシウム、あるいはストルバイトと呼ばれる結晶が尿中に出現します。顕微鏡でやっと確認できるくらいの小さな結晶ですが、これらが大量に作られると排尿のたびに膀胱の内部を移動し、膀胱粘膜を常に刺激する状態になります。これが膀胱炎の症状を悪化させることにつながります。結晶が寄せ集まり結石となることがあるほか、結石になっていない結晶の状態のままでも尿道に溜まって詰まらせてしまう危険があります。
特発性
細菌性膀胱炎とは別に「特発性膀胱炎」と呼ばれるものがあります。特発性膀胱炎は、発生する原因がはっきりしていないことが特徴とされていますが、いくつかの要因が関係していると考えられています。その一つがストレスの関与です。気軽にトイレで排尿できないような条件、例えばトイレが汚れている、他の猫が同じトイレを共用していて自身のタイミングで排泄ができない、といったことが挙げられます。特発性膀胱炎は、細菌性膀胱炎のように尿検査によって細菌が検出されることはありません。また尿中に結石や結晶といったものも検出されません。この特発性膀胱炎は比較的若い猫で多く見られる傾向があり、性別による差はないとされます。
クセになるって本当?
膀胱炎全般でいえることですが、再発するケースが多く見られます。細菌性膀胱炎のように、膀胱内部に細菌が侵入したことによって引き起こされた膀胱炎であれば、その原因細菌を特定し適切な薬を使って治療することで改善につなげていくことができますが、それでも泌尿器の構造上の要因やトイレ、行動に由来する問題で再び細菌性膀胱炎を発症してしまう場合があります。
また、特発性膀胱炎の場合、そもそもはっきりとした原因がわからないため完璧な対策が取りづらいところがあります。再発を繰り返すような膀胱炎の場合、尿検査だけでなくレントゲン撮影や腹部のエコー検査、細菌培養、腎臓そのものの機能を評価する検査などより精密的に調べていくことがあります。いずれにしても、繰り返す膀胱炎は根気のいる治療が必要となることがほとんどです。したがって、少しでも排尿の様子が違うと感じた場合は様子を見ずにかかりつけの獣医師の診察を受けましょう。
「膀胱炎」はどんな症状になる?
膀胱炎は猫では比較的多くみられる病気のひとつです。その症状をいち早く見つけることができれば、重症化することを防げます。では、その症状にはどのようなものがあるでしょうか?
頻尿や血尿など
膀胱炎の主な症状として頻尿がみられます。膀胱や尿道に絶えず炎症による刺激が加わることによって、おしっこをしたいと感じること、つまり尿意が頻繁に起こります。そのためトイレに通う回数が大幅に増えることがあります。また、同時に残尿感が現れおしっこの切れが悪くなるため、排尿の姿勢をしている時間が長くなります。その割に、おしっこの量が少ないと感じることもあるかもしれません。これは、膀胱に十分な量の尿がたまる前にトイレに向かってしまうことが理由として挙げられます。
また、尿の色調が変化することがあります。例えば血尿です。膀胱や尿道で生じた出血の程度によって、尿の色調が変わります。重度の細菌性膀胱炎の場合、尿の中に膿が混じることがあります。これを膿尿(のうにょう)といい、どろっとした性状の尿となるほか、尿の濁りや膿のような尿となることがあります。
男の子の場合、尿道閉塞になる危険が…
性別による泌尿器の構造が、症状の重症度に大きく関わる場合があります。男の子の場合、女の子の尿道と比べて尿道が長く、さらに尿道口に進むにしたがって先細りをしていきます。また、所々で尿道が大きくカーブを描いているため、尿の中に存在する結晶や血液細胞、膀胱の細胞が詰まりやすいのです。いったん結晶あるいは細胞が尿道で引っかかってしまうと、それをきっかけに次々と溜まっていってしまいます。これによって引き起こされるのが「尿道閉塞」といわれる状態です。
ここで注意しなければいけない点があります。尿道が閉塞してしまっている場合、膀胱炎と同じようにトイレに頻繁に行きます。ただし、排尿ができない状態となっているため、膀胱には多量の尿が溜まったままとなっています。トイレに行ってもおしっこが出ていないということから、見た目で区別をつけるのが難しいのです。尿道が閉塞したままだと、「急性腎障害」といって腎臓の機能に大きな影響を及ぼすことがあり、最悪の場合、死に至ることもあります。排尿がスムーズに行えないこと以外に、食欲の低下や激しい吐き気、おなかを触られると強い痛みを感じるような場合は、尿道が閉塞している可能性があると考えておくとよいでしょう。
「膀胱炎」の原因は?
前述のとおり、膀胱炎には大きく分けて「細菌性膀胱炎」、「特発性膀胱炎」、「尿石による膀胱炎」があります。
「細菌性膀胱炎」の場合は、何らかの理由で膀胱内に細菌が入りこむことによって発症します。「特発性膀胱炎」の場合は、原因がはっきりとわかりませんが、いくつか考えられる原因の中では「ストレス」があげられます。「濃縮した尿が膀胱粘膜を刺激している」ことが要因である可能性もあります。
そもそも猫は、犬や人間と比べて飲水量が少なく、尿が濃くなる傾向があります。それによって尿中に含まれる老廃物などによる刺激が強くなります。ある程度尿中に含まれる物質に対し刺激を許容できる構造となっていますが、排尿回数が少ないことによって長時間膀胱に尿を溜めておくと膀胱炎を誘発することがあります。
「尿石による膀胱炎」は、尿中に含まれるミネラルをはじめとした成分が析出(せきしゅつ=固体以外の状態にある物質が固体として現れる現象)して発生した「尿石」が原因となるものです。猫ではリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)やシュウ酸によるものが多数を占めます。猫では大きな石の塊になることは犬に比べると少ないのですが、顕微鏡で観察される程度の大きさの結晶のまま膀胱に存在することが多いのです。排尿したときに、この結晶が膀胱内を移動し、膀胱粘膜を常に刺激します。これによって炎症が発生し、出血が見られることもあります。
尿石のうち、ストルバイトは尿がアルカリ性になると発生し、シュウ酸は逆に酸性になると発生する性質を持ちます。適正な酸・アルカリを保つことが重要です。
「膀胱炎」かどうか見分けるポイントは?
膀胱炎は一度発症すると再発するリスクが高いので、日常生活の中で、早めにその兆候に気付いてあげることが大事です。特に重要なのはトイレでの様子や排泄物のチェック。膀胱炎が疑われる場合に見られる状態・症状を以下に紹介します。
・陰部を舐める、気にする
陰部を常に気にして舐めているというときは、痛みや気持ち悪さがあると考えられます。なんとなくそわそわして落ち着きがない様子も見られます。
・頻繁にトイレに行くが尿が出ない
トイレに行って排泄の構えをするけれど尿が出ない、というのは注意したい状態です。落ち着きなく歩き回っているだけで、半日以上、排尿をしないときは、すぐに病院へ連れて行ったほうがいいでしょう。
・色やにおいがいつもと違う
主な症状としても説明しましたが、トイレ掃除をする際、おしっこの色をよく観察しましょう。おしっこの色が白く濁っていたり、血が混ざっているように赤っぽかったりする場合は、様子を見るまでもなく、動物病院で診察を受けることをおすすめします。おしっこのにおいがいつもよりきつく感じた場合も、放っておかずに動物病院で診てもらうようにしましょう。
・排尿しているときに鳴く
尿石による膀胱炎にかかってしまった場合、排尿時に石の結晶が膀胱粘液を刺激するため、痛みを感じて鳴くことがあります。排尿のタイミングで鳴いていたら、おしっこが出たかどうかも確認して、早めに動物病院へ連れて行きましょう。
どんな治療をする?薬は?
膀胱炎の症状は、猫にとってもつらいものです。この症状を取り除くにはどのような治療をすることが望ましいのでしょうか?治療の重要なポイントは、膀胱炎を起こしている原因を特定して、適切な治療を進めることです。
細菌性の場合
尿検査を行って細菌が検出された場合、その細菌に効果がある抗菌剤を使用します。そのために尿を細菌検査に出します。有効と判断された抗菌剤を、注射や飲み薬といった方法で使用します。使用にあたっては、獣医師から指示が合った通りの用法・用量を守ることが重要です。症状が改善されても膀胱内に細菌が残っているということがありますので、自己判断で投薬を中断するなどはせず、確実に細菌を排除するまで粘り強く治療に臨みましょう。また、細菌性膀胱炎によって尿中に結晶があらわれた場合、それに対応した療法食を使用することがあります。
特発性の場合
特発性膀胱炎の場合、まず尿検査によって他の膀胱炎との鑑別を行っていきます。一部の例では無治療であってもおよそ1週間程度で膀胱炎の症状が改善することがあります。ただ、原因がはっきりしない点があったり再発することが多かったりと、その対応に苦慮することがあります。特発性膀胱炎の治療として専用の療法食を使用することがあります。後述する膀胱炎の予防を行って再発しないように注意します。
膀胱炎の診療費の例
病院で膀胱炎の治療を受けた場合、1頭あたりの年間平均診療費は45,741円(アニコム家庭どうぶつ白書2019)となっています。膀胱炎の原因によって治療方法が異なるので、どんな治療をして、どの程度の費用がかかるのか、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
予防法はある?
膀胱炎にはできればなりたくないものです。また、一度発症した猫の場合、再発するリスクが十分にあるので、予防の重要性がより高まります。それでは膀胱炎の予防にはどのようなものがあるのでしょうか?
できるだけストレスを与えない
猫はきれい好きでデリケートな動物といわれています。どれくらいかというと、普段使っているトイレが汚れていることが理由で排泄をためらってしまうことがある程です。猫が安心して排泄できるトイレ環境を整えてあげましょう。トイレの場所や数、トイレシーツや砂など、それぞれこだわりを持っていることがあります。できればお気に入りの環境を変更せずに維持してあげるのがよいですね。排尿健康維持に役立つという側面を持っているといっても過言ではありません。
家に何頭も猫がいる場合、それぞれが安心できる場所を提供することでストレス軽減につなげることができます。お気に入りの場所や遊び道具などを用意してみましょう。また、治療のところでも述べましたが、個々に合った適切な食事を選んで与えてあげてください。泌尿器に関連した食餌療法はまさに「医食同源」です。
飲む水の量を増やす
飲む水の量を増やして排尿の回数が多くなるようにしましょう。頻繁に排尿することで、尿が膀胱内に溜まる時間が短くなるので、膀胱炎の予防につながります。
ウォーターボウルを少し多めに設置するなどして、いつでも新鮮な水が飲めるようにしてあげましょう。水をあまり飲みたがらない猫の場合は、ドライフードだけでなくウェット(缶詰)と合わせてあげたり、ドライフードをお湯でふやかしてあげるなどして、水分を摂れるようにしてあげるとよいでしょう。
食事を見なおす
膀胱炎のきっかけともなる猫の尿路結石の原因の多くは、尿がアルカリ性に傾くことでできやすい「ストルバイト」と「シュウ酸カルシウム」です。尿の中にマグネシウム、リン、カルシウムなどのミネラル成分が増えると、そのリスクが高まるので、こうした成分が少ないフードを与えるようにしましょう。
まとめ
猫が膀胱炎を起こす原因は、実にさまざまです。その原因に合わせて対策も講じていかなくてはなりません。排尿という行動はよく目にするものですが、普段からその様子を観察しておくことで、ほんのわずかな変化にいち早く気付くことができます。排尿に関するトラブルは、場合によっては死に至ることがあります。尿の回数や、量、色、においなど、毎日観察してみましょう。
【関連サイト】
膀胱炎 <猫>|みんなのどうぶつ病気大百科
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